現役女子高生シンガー井上苑子、JK完結! 卒業記念スペシャルワンマンライブをレポート
井上苑子 | 2016.04.06
“制服”とは不思議なものだ。学校内では校則に縛られ、画一化されていることに嫌悪感を覚えるが、そのままクラスメイトと街に出れば、大人や社会の攻撃から身を守る最強の防具のようにも感じる。やがて、学校を卒業する時期がやってくる。やっと自由になれたと開放感を感じる人もいれば、もう二度と制服を着れないことに寂しさを感じる人もいるだろう。これから始まる広い世界に対する恐れや戸惑い、期待や夢を抱きながら制服を脱ぎ、私たちは少しずつ大人へとなっていく――。
この春に高校を卒業した井上苑子が、「卒業。~私たちのJK完結!~」と冠した卒業記念スペシャルワンマンライブを開催した。当初は、恵比寿リキッドルームで1日だけの開催を予定していたが、一般発売がなんと30秒で即完売し、急遽、渋谷クラブクアトロで前夜祭を開催することが決定。両日ともに、会場は彼女と同世代である10代の若者を中心に超満員の観客の熱気とエネルギーで溢れかえっていた。
前夜祭が開かれたクラブクアトロの会場は、フロアへと続く階段にピンクや赤の小さな風船が飾られ、ステージ上にはハート型の風船が揺れていた。おなじみの制服姿で井上苑子が登場すると悲鳴にも似た歓声が上がり、観客全員が彼女に向かって大きく手を振った。アコギを抱えて正面を向いた彼女が笑顔で手を振り返し、「みなさんこんばんは、井上苑子です!盛り上がっていきましょう!」と呼びかけ、ライブはスタート。現在の彼女の音楽性につながるインディーズ時代の代表曲「線香花火」やメジャーデビューシングルで、女子高生から絶大な支持を得た「だいすき。」など、1stフルアルバム『Hello』に収録された、ボーナストラックを含む全13曲のみで構成されたセットリスト。夏から冬、そして、卒業を迎える春が訪れる季節の流れを感じさせる曲順で、好きな想いが爆発するラブソング「ふたり」では会場中の合唱が巻き起こり、冬の失恋ソング「雪」はピアノ、ウッドベース、ドラムの編成でしっとりと聴かせ、「グッディ」や「右足」などのアップナンバーはダイナミックなロックサウンドをエモーショナルに響かせた。また、中盤では、高1で上京してからはじめたツイキャスでのリクエストコーナーを再現。会場内に設置されていたリクエストボックスから歌ってほしい曲が書かれた紙をその場で引いて、「小6の時にギターを持って初めて練習した曲ですよ。覚えてるわ。懐かしい」という雨音薫(沢尻エリカ)の「タイヨウのうた」やテイラー・スウィフト「We Are Never Ever Getting Back Together」など5曲を弾き語りで披露。最後に、友達への感謝の気持ちを綴った卒業ソング「君に出会えてよかった」で本編の幕は閉じたが、彼女は終始落ち着いた様子で、観客一人一人と目を合わせ、心を通わせようとする姿勢を感じた。
アンコールの声に応え、ヘアスタイルをお団子にして再登場した彼女は、ミラーボールが回る中で「大切な君へ」を歌い、続く「Say My Name」では全員で<Oh Oh Oh>の大合唱となった。数量限定のデラックス盤にのみボーナストラックとして収録されていたライブの定番曲には<♪君が笑えばいい>というフレーズがあるが、これこそが彼女が歌う理由であり、最も大切にしていることでもあるだろう。この日のMCでも彼女は「みんなに楽しんでいただければいいなという思いだけで歌ってます。みんなで笑って楽しむ空間がつくれたらいいな」と語っていた。この日の前夜祭は、彼女の卒業を祝うというよりも、“わたしの歌”ではなく、“私たちの歌”なんだという、彼女のこれからに向けた信念がひしひしと伝わってくるステージとなっていた。
「今日で私の制服は最後。見納めです。卒業パーティーみたいな感じで盛り上がっていけたらいいなと思います」という挨拶で始まった恵比寿リキッドルーム。ステージ上には桜の木々が設置され、照明も前日より凝っており、セットリストにはインディーズ時代の「青とオレンジ」「ハレトケ」の2曲が追加された。特筆すべきは、やはり彼女の涙だろう。前日に続き、この日もリクエストコーナーが設けられ、2日連続となるmiwa「めぐろ川」を始め、YUIの「Good-bye days」、森山直太朗「さくら(独唱)」、レミオメン「3月9日」など、偶然にも春の別れの歌ばかりをカバーした。ここで彼女は、小6から中3までやっていた原点である路上ライブから、高校進学を機に上京した思い出、変化を求めて始めたツイキャスの生放送などを振り返った。そして、バラードナンバー「雪」を歌い終えたところで、サポートギターの山形知也(I HATE MONDAYS)をステージに迎えた。インディーズ時代、観客が10人に満たない頃からステージを共にしてきた知也に「お前、すげーな。頑張ったな。心の底から尊敬してる」と言われると、「ヤバい、ヤバい、泣いちゃう」と涙腺が決壊。満員の観客全員から「卒業おめでとう!」とコールされると、「今日、絶対に泣かないわって思ってたのに。めっちゃ感動する」と大粒の涙を流した。
さらに彼女は、最後のMCで、初めて立った恵比寿リキッドルームへの思いを語り始めた。少し長いが引用しておこう。
「今日のライブはですね、実は3年前から、高校3年生の卒業のタイミングでここでしようって決めてました。高校に入学する時に上京してきて。路上ライブの井上苑子や今の井上苑子しか知らないという人は想像つかないと思うんですけど、ギターを持たずに歌っていた時期がありました。いろんな試行錯誤をしながら、自分に合う音楽を探してたんですよ。その時に、全然お客さんがいなくて。ほんまに、普通で2人、多くて10人だったんですけど、どうしてもお客さんに来てもらいたくていろんなことに挑戦してた時に、今のマネージャーさんと“現状と今後どうなりたいか”を話してたんですけど、それが恵比寿駅からここまでくる途中にあるモスカフェだったのね。自分がどうしたらいいのかわからなくて、カフェの中で泣きまくってて。とりあえず目標を決めようっていう話になって、その場所から一番近いリキッドルームでワンマンをやるって決めて」
と、ここまで話したところで感極まり、涙をこらえながら「……今日、ここに立てて、即完という形で実現できて本当に嬉しく思います。ありがとうございます」と続け、会場からの大きな拍手に対して、深々とお辞儀をして感謝した。
メジャーデビュー前に感じていたプレッシャーや不安、悩みを克服するために、自分に向けて書いた応援ソング「右足」、卒業を終わりではなく、「スタートだと思って書いた」という「君に出会えてよかった」。この2曲、そして、アルバムを『Goodbye』でなく、『Hello』と名付けた彼女の視線は、まっすぐに前を見据えている。
ポニーテールにしたアンコールでは、全国ワンマンツアーの開催と6月にニューシングルを発売することを発表。さらに、この日はダブルアンコールが実現し、初めて制服を脱ぎ、ノースリーヴにスカートというスタイルで登場。英語歌詞メインのスカパンクナンバー「Stay with Me」を桜付きのマイクで熱唱し、「来年、苑子、JDになりますので、よろしく!」と叫び、ステージを後にした。 “現役女子高生シンガー”が“現役女子大生シンガー”になった瞬間を目撃し、彼女の本当の快進撃はここから始まることを確信した。
【取材・文:永堀アツオ】
【撮影:キセキ】
リリース情報
Hello(数量限定デラックス盤)
2016年03月16日
ユニバーサル ミュージック
2.線香花火
3.「君に出会えてよかった」
4.おんなのこ
5.ふたり
6.だいすき。
7.Walk Through Again
8.赤いマフラー
9.サヨナラバイバイ
10.雪
11.右足
12.グッデイ (Hello ver.)
13.Say My Name(ボーナストラック)
≪豪華4大封入特典≫
・井上苑子 × WEGO "オリジナル Hello ポーチ"
・オリジナルICカード用ステッカー
・ボーナストラックとしてライブ定番曲「Say My Name」を収録。
・応募抽選特典:100名様に"井上苑子から直筆お手紙が届く!" 応募用紙封入
セットリスト
「卒業。~私たちのJK完結 前夜祭~」
2016.3.25@渋谷CLUB QUATTRO
- 線香花火
- だいすき。
- サヨナラバイバイ
- ふたり
- グッデイ(Hello ver.)
- Walk Through Again
- おんなのこ
- 雪
- 赤いマフラー
- 右足
- 「君に出会えてよかった」
- 大切な君へ
- Say My Name
「卒業。 ~私たちのJK完結!~」
2016.3.26@恵比寿LIQUID ROOM
- 線香花火
- だいすき。
- 青とオレンジ
- サヨナラバイバイ
- ふたり
- グッデイ(Hello ver.)
- Walk Through Again
- おんなのこ
リクエストコーナー
「Good-bye days/YUI」
「女の子は泣かない/片平里奈」
「さくら/森山直太朗」
「目黒川/miwa」
「3月9日/レミオロメン」 - 雪
- ハレトケ
- 赤いマフラー
- 右足
- 「君に出会えてよかった」
- 大切な君へ
- Say My Name
- Stay with Me
お知らせ
井上苑子 1st SUMMER TOUR 2016 ~みんなおまたせ!~
2016/06/19(日)大阪 umeda AKASO
2016/06/24(金)名古屋 CLUB QUATTRO
2016/06/26(日)福岡 DRUM Be-1
2016/07/02(土)札幌 ペニーレーン24
2016/07/02(土)札幌 ペニーレーン24
2016/07/08(金)広島 CLUB QUATTRO
2016/07/15(金)仙台 CLUB JUNK BOX
2016/07/22(金)東京 赤坂BLITZ
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。