椎名慶治、ソロ活動5周年を迎えて行った全国ツアー「MY LIFE IS MY LIFE」ファイナル公演をレポート
椎名慶治 | 2016.04.13
昨年、ソロ活動5周年にして40歳の誕生日を迎えた椎名慶治。キャリアに裏打ちされたアーティストとしての強さと、自然とにじみ出る人間としての優しさとが相まって、最近ますますその魅力を増しているように思える。この1月には、そんな自身の心境を余すところなくポップ・ミュージックに昇華させた3rdフル・アルバム『MY LIFE IS MY LIFE』をリリース。全国12カ所のツアーを行った。4月2日のTSUTAYA O-EASTはそのファイナル。
なんとここは、2010年、ソロとなった椎名が、まだ持ち歌も数えるほどしかないまま、無謀にも初ライブを敢行した場所だ。そのステージの去り際、彼は自分の行く末への決意を示すように、「やっぱ俺は俺だよ!」と叫んだ。おそらくそこからの5年は、「俺は俺だ」の「俺」とは何か? を、ある意味自問自答する旅ではなかっただろうか。そして、その答えが、最新アルバム『MY LIFE IS MY LIFE』であるなら、同じ場所に立って歌うことは、他の誰より椎名本人にとって意味のあることだっただろう。
ふと会場を見渡せば、男性ファンが3、4割。男限定のライブを継続してきた結果が如実に現れているようだ。椎名と同世代はもちろん、20代と思しき女性ファンも多い。ひょっとしたら、「キングオブコント2015」でSURFACEの「さぁ」をネタにして優勝したコロチキ効果もあったのかも。それもまた椎名自身のアーティスト・パワーに、今、スゴい伝播力がある証拠だ。
客電が落ち始まったのは『MY LIFE~』の1曲目「HIGH & HIGH」。手拍子と「キャーッ」という声に迎えられて飛び跳ねるように登場した椎名は、珍しくサングラス姿。星をあしらったシャツ、腰にはスカーフというちょっとキュートな出で立ちで、熱狂の渦となった会場を仁王立ちで眺める。椎名に近づきたくて手を差し伸べる観客。「人生スパイス-go for broke-」では、その手が拳となって天を突き、「パーッパシュビドゥパッパッパー」の大合唱となった。「オマエらアホだな~」というジェスチャーをしつつ、照れくさそうな笑顔を浮かべる椎名。立て続けにハイパーな4曲。ノド全開のパワフルな歌声に魂のほとばしりを感じて鳥肌が立った。元serial TV dramaのギター新井弘毅を筆頭に、テクニックと無謀さを兼ね備えた若きバンドのぶっちぎり感もいい。
「ようこそ、東京! ファイナルです」といつになくフォーマルなMC。と思ったら、「じゃ、また会いましょう」と帰る振りで、「エーッ!!」というツッコミを誘ってからのカジュアルモードに。「楽しいなぁ」というやけにしみじみとした言葉にグッとくる。そして、「しぼり出して作った」という今作『MY LIFE IS MY LIFE』を「余すところなくすべてやります」と確約するや、せつないミディアム曲「言いたくて言えなかった」、ユーモアあふれるロマンチック・ナンバー「ボクのアトラクション」と、アラフォー男子の懐の深さを垣間見せてくれた。
「フラストレーションNo.5」からの中盤セクションは、椎名の音楽的リーダーシップの下、バンド・メンバーが思いっきり自由に暴れるコーナーでもあった。本能剥き出しで吠えるように速弾きしまくる新井。その予想不可能なアクションを受け止めて、アクションで応える椎名。ベースの櫻井陸来も負けじと指板の上の方に指を走らせ、グイグイくるフレーズをハジく。高速リズムでドライブする坂本曉良のドラムもキレキレ。椎名のシャウトもどんどん熱を増していった。有無を言わさぬ勢いで畳み掛けられるド迫力ロックの応酬に、観客は心底圧倒され、爆音に身を委ねた。
バンドの見せ場の次は、俺の見せ場だと言わんばかりに続いたのは、「俺は俺だ」と言った自分の心理と向き合ったタイトル曲「MY LIFE IS MY LIFE」だった。16ビートの哀愁のあるコード感で紡ぎ出されるシビれるようなメロディは、椎名の十八番。「自分の中で 産まれた残像と刺し違えても明日を睨め」という歌詞は、「俺は俺だ」を究めていくための覚悟を語るものだろう。究極のバラード「絵空事に」では、繊細な歌のアプローチに魅了され、気づけば心の奥底の声と対話している自分がいた。その浮遊する思考を村原康介のやわらかなピアノが引き取って、ドラマチックな「ささくれ」に。この流れはアルバムの曲順通り。あえて緊張感を保って会場を酔わせるいいシーンだった。
闘い終えたチャンピオンのように手を上げる椎名。が、ただひとつ、「MY LIFE?」で歌詞を落としてしまったことが本当に悔しそう。そんな椎名を励ますように、「Yeah!」のコール&レスポンスを請われた観客は精一杯の声で応え、「いざ尋常に」からのラストスパートを盛り上げた。コロチキ効果にちゃんと乗っかって、SURFACEの「さぁ」も惜しみなく。このへんもサービス精神旺盛な椎名らしい。そういえば、ソロの1stステージではSURFACEの曲もいっぱいやってたっけと懐かしく思い出す。それが今回は「さぁ」1曲だけ。もはや「元SURFACE」という肩書きはいらないのではないか。5年という歳月を経て、椎名慶治というソロ・アーティストはそういう領域に達したのだ、と、ラスト「シャクシャク」を歌い終わり、まるでドリフのコントのように、ジャンプしそうでしないというおキマリのエンディング儀式を、感慨深く眺めた。
アンコール、誰よりも先に出てきた椎名は、ファンからの寄せ書きのかかれた横断幕を肩にかけられ、「こういうことされると迷惑なんだけど」と感極まった。卯年男である椎名のテーマ曲「RABBIT-MAN」でひと騒ぎしたあと、ふと見れば会場は光の輪でいっぱいに。「何、何?」とビックリする椎名。なんとこのサイリウム腕輪、ファイナルのオーラスを盛り上げようと、スタッフが観客にプレゼントしたものだった。その光が揺れる中、「何があっても心だけは快晴でいきましょう!」と、私も個人的に大好きな「ウェザーリポート」。噛みしめるように歌う椎名の姿を見ていたら、なんだか心にひだまりをもらった気持ちになった。たぶんそれが、椎名慶治というアーティストなのだ。椎名自身も、きっと「俺は俺だ」の答え合わせができた夜だったのではないだろうか。
終演後、椎名の口から、JET SET BOYSというバンドを組み、6月にはアルバムを出すという発表も。メンバーは、元BOØWYの高橋まこと、LÄ-PPISCHのtatsu、元AUTO-MOD,REBECCAの友森昭一。そんな課外活動ができるのも、ソロとして帰れる確固たる港が築けたからだろう。
【取材・文:藤井美保】
【撮影:石黒淳二】
リリース情報
お知らせ
JET SET BOYS LIVE TOUR 2016「JET SET BOYS」
2016/06/04(土)東京・新宿LOFT
2016/06/11(土)福島・Iwaki PIT
2016/06/17(金)大阪・梅田CLUB QUATTRO
2016/06/18(土)愛知・名古屋アポロベース
2016/07/03(日)東京・ EX THEATER ROPPONGI
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。