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豪華客演に囲まれて行われた、安藤裕子Live 2016 「頂き物」 東京公演をレポート

安藤裕子 | 2016.05.31

 安藤裕子にとっては、自分自身を見つめるライブになったのではないかと思う。

 彼女はデビューからの13年間、基本的には全てのオリジナル曲の作詞と作曲を自ら手がけてきた。楽器を弾かない彼女が歌うアカペラのデモを基に、主にディレクターの安藤雄司と鍵盤奏者でバンマスでもある山本隆二の3人でアレンジを詰めていく。他アーティストへの楽曲提供を始めたり、歌手としてフィーチャリングで参加することに積極的になった時期もあったが、自身のオリジナル曲においては、このトロイカ体制はデビュー前から現在まで変わっていない。安藤裕子の楽曲の世界観を具現化するのにこれ以上ない、固い信頼関係に結ばれたチームだったのは間違いないが、1つのチームによる制作がこれほど長い期間続く例は、あまり他に類を見ない。そんな彼女たちが初めて他アーティストに楽曲提供を依頼したのが、最新アルバム『頂き物』であり、同ツアーには、アルバムに楽曲を提供したアーティストが客演として参加した。さらに、バンドメンバーに、元チュールの酒井由里絵(key)とあらきゆうこ(ds)が新たに加わっていたことは、彼女にとって大きな冒険であり、挑戦であり、心境の変化でもあるだろう。

 客演の一番手は、DJみそしるとMCごはん(おみそはん)。美しい白い馬のようなタテガミを揺らした安藤がシルクロードをロマンチックに駆け抜けると、客席の前方におみそはんが登場。観客を煽りながらステージに上がり、C-C-B「ないものねだりのI Want You」のヒップホップナンバーと「霜降り紅白歌合戦」の2曲を満面の笑顔でラップ。その楽しさは客席にまで伝わってくるほどだった。
 安藤が「基本、人見知りが激しいけど、ステージ上では仲良しだよね~」と言いながら、おみそはんの肩を寄せて抱き合った後、客席の両端でスタッフジャンパーを着て、映像用のカメラを撮影していたスキマスイッチが呼び込まれると、観客からは驚きの声が上がった。彼らが提供した「360°(ぜんほうい)サラウンド」に続いて、大橋が「2人で歌ったら楽しいだろうなと思って」とリクエストした「世界をかえるつもりはない」をエモーショナルに歌い、全力のまま声を合わせ、熱量を一気に引き上げた。普段のライブであれば、最後の歌詞が変わることもあるのだが、この日は、相手に合わせて、変えることはなかった。また、大橋卓弥の歌声には大きな広がりと内から湧き上がるポップネスさがあり、常田真太郎も弾むピアノの上手さに加えて、最後列の人にもわかるような腕を大きく使ったパフォーマンスも見せていた。安藤は「やっぱゲストがいると派手だな~」と言いながら、同期デビューのスキマをハグし、2人を見送った。
 東京公演が行われた会場の近所に住んでいるという峯田和伸は、家からそのまま歩いてきたテンションのままで、いつの間にかステージに上がっており、客席から和やかな笑いが起きた。用意された椅子に座った二人は、まず、峯田が安藤の娘をイメージして書いたという「骨」を高らかにシャウト。歌い終えた安藤が「なんかいいよね。こんなに音楽を楽しく歌わせてもらうことはないと思う」と語ると、真面目な面持ちになった峯田が「例えば、ファルセットとか、ビブラートとか。最初は、誰かが人前で歌った時に、その時の覚悟とか自分の弱いとことか、臆病なところとか、そういう気持ちから偶然に出た震えが、のちに記号として楽譜に書かれるようになったと思うんですね。安藤さんの歌は、楽譜に記号が書いてあるから震わせるのではなく、もっと大昔の楽譜になる前、初めの人が作ったようなところで歌ってるから好きなんだよね」と褒められ、「……なんか、ありがとうございます。嬉しいな」と照れながらお礼を述べた。客席からも同意の拍手がわき起こるなか、「のうぜんかつら(リプライズ)」を2人で激唱。峯田が初めて安藤の声に触れたという思い出の曲だが、彼女の娘の曲から祖母と祖父の思い出を綴った曲へとバトンが渡されたのは偶然なのだろうか。

 さらに、出産後、初のシングルで、自らの手で輝かしき日々を手に入れ、自らの足で明日へ向かって歩を進めると誓った「輝かしき日々」、生まれ変わりの過程を描いた「再生」を経て、デビュー前に「隣人に光が差す時」をデモ音源のまま、自身の映画「2LDK」の主題歌に使ってくれた恩人・堤監督との再会の曲で、映画『自虐の詩』の主題歌として制作された「海原の月」へ。安藤裕子が歩んできた道筋を少しずつ遡っていき、ついに原点へとたどり着いた。

 デビュー時の所属事務所の先輩であるCharaとは、ラジオでの対談の経験はあるが、ステージ上では初共演となる。Charaによる提供曲「やさしいだけじゃ聴こえない」ではストロングに歌う安藤にCharaが、ウィスパーで声を重ねていった。歌い終えた安藤は、「自分が音楽を始めたきっかけの人と一緒にステージに立てて感慨深いです」と珍しく涙を流し、安藤がオーディションで歌い、現在に至る契機となった「Break These Chain」を2人で歌った。お互いに言葉にならない感情をぶつけ合っているようで、息をするのを忘れて見入ってしまうほどの吸引力があった。
 この後、終盤4曲のダイナミックさといったらなかった。静かなバラッドであっても、そこにはまぎれもない命の燃焼が感じられた。Charaが「すごく動くんだね」と語っていたように、体は激しく、自由自在に波をうっていた。ラストナンバー「聖者の行進」はいつでも勇気をくれる楽曲ではあるが、この日ほど、まばゆい光を感じたことはなかった。

 アンコールで、再び客演陣を呼び込み、客電をつけたままで、観客も含めた全員で「問うてる」を大合唱した。珍しくスキマスイッチ・常田が歌うシーンもあり、大阪公演に出演した大塚 愛が花束を持って登場するサプライズもあった。「アメリカンリバー」では、突如カチャーシーを踊りだしていた安藤は、最後に「今日は私にばっかり贅沢な祭りに付き合ってくれてありがとう」と微笑みながら語り、秋にアコースティックライブを開催することを発表した。

 彼女はこの日、他人が歌う自分の曲を聴いて、他人から語られる安藤像を知って、結果的には、安藤裕子というシンガーソングライターを再確認したはずだ。頂き物によって再生がなされた彼女の未来が楽しみでならない。

【取材・文:永堀 アツオ】
【撮影:Banri / Tetsuya Yamakawa】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル 安藤裕子 DJみそしるとMCごはん

リリース情報

頂き物

頂き物

2016年03月02日

cutting edge

DISC-1 (CD)
01 Silk Road (小谷美紗子 提供曲)
02 骨 (峯田和伸 提供曲)
03 霜降り紅白歌合戦 (DJみそしるとMCごはん 共作曲)
04 360°(ルビ:ぜんほうい)サラウンド (スキマスイッチ 提供曲)
05 夢告げで人 (堀込泰行 提供曲)
06 やさしいだけじゃ聴こえない (Chara 提供曲)
07 溢れているよ (sebuhiroko 提供曲)
08 Touch me when the world ends (大塚 愛 提供曲)
09 Last Eye (TK from 凛として時雨 提供曲)
10 アメリカンリバー (安藤裕子 新曲)

DISC-2 (DVD)
●LIVEDVD
・安藤裕子 LIVE 2015「あなたが寝てる間に」追加公演 6.16(火) 東京・LIQUIDROOM
01 森のくまさん
02 大人計画
03 RARA-RO
04 Live And Let Die
05 うしろゆびさされ組 (うしろゆびさされ組 カバー)
06 ロマンチック
07 360°(ぜんほうい)サラウンド
08 飛翔
09 レガート
10 73%の恋人
11 海原の月
12 世界をかえるつもりはない
13 聖者の行進
14 鬼
15 都会の空を烏が舞う

●Music Video
360°(ぜんほうい)サラウンド

初回仕様:豪華紐結び仕様スペシャルパッケージ

お知らせ

■ライブ情報

Sounds like a Melody 2016
2016/06/04(土) 渋谷WWW

Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016
2016/07/31(日) 石巻港雲雀野埠頭

安藤裕子 2016 ACOUSTIC LIVE
2016/09/19(月祝) 神奈川県立音楽堂
2016/09/22(木祝) 岩見沢市民文化センター 中ホール
2016/09/24(土) 北海道旭川市・島田音楽堂
2016/10/15(土) 戦災復興記念館 記念ホール
2016/10/16(日) 福島・いわきPit
2016/11/03(木祝) まつもと市民芸術館 小ホール
2016/11/06(日) 東京国際フォーラム ホールC
2016/11/12(土) 神戸朝日ホール

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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