tricot「KABUKU TOUR 2016」ファイナル公演 赤坂BLITZをレポ
tricot | 2016.06.29
“またしても、かぶかれた!” そんな一夜であった。
【傾く(かぶく)】とは、「常識はずれ」や「奇抜な行為」の意味を持つ、歌舞伎の語源にもなっている古来の言葉。それを「KABUKU」と表し、そこに自身のアイデンティティとオリジナリティを交え、4月発売のニューEP「KABUKU EP」や、この「KABUKU TOUR 2016」を通し、唯一無二のオリジナリティとして啓示してきたtricot。
振り返ると初見以来、彼女たちには常に「かぶかれ」っぱなしであった。そして、この日のツアーファイナルのワンマンライブは、その極み。次から次へと現われる「かぶき」に、満場の会場も気持ち良く「かぶかれて」いった。
この日は場内に入るなり、いきなり「かぶかれた」。ステージに、緑、黒、橙の縦縞の定式幕(歌舞伎の舞台幕)が張られていたのだ。
現われた黒子により拍子木が鳴らされ、パーッと幕が開かれる。バックライト越しに既にプレイ体制に入っている4人のシルエットが。ドラム後方には、これまた歌舞伎の舞台を彷彿とさせる大きな松が描かれた金屏風の幕が張られ、さながら歌舞伎座の体を魅せている。
1曲目は「ポークジンジャー」だった。しっとりと妖艶さを感じる部分とマスロックの融合という彼女たちならではのフォームから入りながらも、中盤からはいきなり急変。出現したストレート部に会場中が起爆を起こす。短いインストを挟み、「POOL」に入ると、曲に誘発され会場中からOiコールが起こる。同曲のサビのラテンポップ部では、会場全体がバウンス。頭の盛り上がりが作られていく。続く、ヒロミ・ヒロヒロによる3拍子のベースイントロから「おもてなし」に入ると、会場中の熱量もグッとアップ。ことさらフロアの火に油が注がれていく。
頭は一気に4曲。しかも今日はどの曲も激しく、どれもが鋭角に飛び込んできたのが印象的であった。
ボーカル&ギターの中嶋イッキュウがMC。「今回の「KABUKU EP」は各曲に思い入れが強すぎて、結果、回を重ねる毎にどんどんライブの尺が長くなってる。今日もどれぐらいになることやら...」と続け、「私が死ぬか、そっちが先に死ぬか、覚悟はいいですか」の問いに、満場が「覚悟は万全!!」との力強い呼応をステージに返す。
山口美代子のドラムフィルから入った「Noradrenaline」からの数曲は、歌心や彼女たちのハーモニーの際立ちや美しさが楽しめた。勢いと3声のハーモニーの交互性を楽しませてくれた「Noradrenaline」、♪神戸ナンバー~♪の部分を、♪赤坂ナンバー~♪に変え、スペシャル感を交え歌われた「神戸ナンバー」、ハーモニーの絡みが甘美さを誘った「おちゃせんすぅす」の3曲が、彼女たちの音楽性の本質にある<歌>と<鉄壁のハーモニー>が、難解なサウンドを掲げながらも曲全体はとても親しみやすいという彼女たちならではの特有性を浮き彫りにしていく。
現われた黒子によりもう一台ドラムが用意され、「KABUKU EP」でも叩いていたAkiyuki Kitagawaが、山口の変わりにドラムを叩く。ニューEPにも入っていた「あーあ」だ。Kitagawaのトリッキーで手数の多いドラミングは、作品同様楽曲にベストマッチ。山口とはまた違った技巧さを楽曲に加えていく。この日は、この曲を始め、オーディションドラマー4人全員が勢ぞろい。「プラスチック」ではYUUMI(FLiP)が、「青い癖」ではYusuke Yoshidaが、「節約家」ではYuma Abeが、それぞれが参加した楽曲毎に、各々個性たっぷりなドラミングで独特のアクセントを付加していく。”ドラムによって、こんなにも楽曲の質感が変わっていくもんなんだなぁ..”と、逆にtricotの音楽性のフレキシブルさにも、改めて気づかれされた。
中盤では、これまた彼女たちが得意とする乙女心が観る者をキュンとさせる楽曲たちが、ダイナミズムたっぷりに連発された。「CGPP」ではダイナミズムを、「食卓」では、その内包した美しさを会場中に広げていく。また、そのうねりにゆるやかに呑み込まれていくような錯覚を覚えた「アナメイン」、はたまた「artsick」では、秘めた激しさようなものが感じ取れた。
「ここからはしんどいゾーン。みなさん覚悟はいいですか?」と中嶋が話し、入ったラストスパートの5曲はどれも凄く、そして激しかった。
「行けるか赤坂~!!」のキダ モティフォ(G.)のシャウト気味の煽りから入った新曲「節約家」。既にアンセム化している「爆裂パニエさん」では、曲の大半の歌を会場に預け、サマーパーティーチューン「スーパーサマー」では、サビの部分が会場に大合唱を生んでいく。そして、ライシングサン感溢れる長めのイントロから入った「99.974℃」では、会場も大沸騰。ヒロミもベースごと客席に飛び込み、中嶋の「かかってこいや~!!」とのいつものシャウトと共に、会場がこの日の最高沸点を記録する。本編ラストは会場もステージも阿鼻叫喚状態に陥らせた「MATSURI」。シュートチューンながら、もの凄くインパクトを持った楽曲が、この日の一区切りを締めた。
第一回目のアンコールでも、やはり我々は「かぶかれた」。
再び5人のドラマーが勢ぞろいし、5ドラム体制で楽曲を盛り立てたからだ。アンコール1曲目の「庭」に入るMCの最中に現れた、山口を除く4人。一様に歌舞伎のメイクを施している。この「庭」が、とにかく今までにも増して楽しかった。恒例のサンバダンスタイムでは、改めての各ドラマー紹介と、各人のドラムソロが披露される。そして極めつけは、5人一斉のドラミングであった。いやー、ウネったウネった。そして、ニューEPからの「Nichijo_Seikatsu」では、中嶋のギターの弾き語りで女心をしみじみと会場中に染み渡らせるも、中盤から各楽器と5人のドラムが絡み楽曲を昇華。これもまた見事に「かぶかれた」。
ダブルアンコールにも応えてくれた彼女たち。一旦幕が引かれ、再び開いたステージには元の4人体制のセッティングが。プレイの前に中嶋が、「今日は色々なことが起こり、沢山興奮してくれたと思うので、寝る時に今日のことや、この楽曲のことを想い出して欲しい。今日のライブの余韻を出来るだけ長く残せるように次の曲を...」と、最後は再び4人だけで「Break」がプレイされた。ジワジワ、しんみりと、この日あった色々な「かぶき」を思い返しながら、会場全体が一緒に歌っていたのが特に印象深かった。
これまで以上にtricotにかぶかれ、と同時に彼女たちの多面性や多様性、フレキシブルさに改めて気づかされた、この日。彼女たちはまだまだ高いポテンシャルを擁している。今後も、その一つ一つが現われる度に、我々は爽快に、「かぶかれて」いくことだろう。と、帰り道、ニヤニヤしながら今後の彼女たちを想像してみた。
【撮影:Ohagi】
【取材・文:池田スカオ和宏】
リリース情報
KABUKU EP
2016年04月27日
BAKURETSU RECORDS
2. 節約家
3. あーあ
4. プラスチック
5. 青い癖
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セットリスト
tricot
KABUKU TOUR 2016
FINAL 2016.6.18@赤坂 BLITZ
- 1.ポークジンジャー
- 2.POOL
- 3.おもてなし
- 4.おやすみ
- 5.Noradrenaline
- 6.神戸ナンバー
- 7.おちゃんせんすぅす
- 8.あーあ
- 9.E
- 10.ぱい〜ん
- 11.CGPP
- 12.食卓
- 13.プラスチック
- 14.アナメイン
- 15.artsick
- 16.青い癖
- 17.節約家
- 18.爆裂パニエさん
- 19.スーパーサマー
- 20.99.974℃
- 21.MATSURI
- En-1.庭
- En-2.Nichijo_Seikatsu
- W-En. Break
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