レビュー

tricot | 2016.04.27

連載 第119週
tricot「KABUKU EP」


内臓をわしづかみするようなtricotの最新作

 中嶋イッキュウ(vo&g)、キダ モティフォ(g&cho)、ヒロミ・ヒロヒロ(b&cho)の3人が、オーディションで選んだドラマー4人と5曲を作った。ドラム入りの4曲に、メンバー3人の声をメインにした「Nichijo_Seikatsu」の合わせて5曲とは、潔いバンド“tricot”にふさわしい内容だ。

 どの曲においても、tricotのアグレッシヴな姿勢は変わらない。変則的なリズムも、どこか空中に浮かんでいるようなメロディも、どれも聴いていて安心させてくれるようなサービスはひとつもない。特に『KABUKU EP』では、内臓をわしづかみするようなリリックがとても刺激的だ。

 「節約家」の♪あんたなんぞに費やす燃料は勿体無い~無駄なエネルギーは全て 私を照らす光へ変われ♪というフレーズには驚かされた。波乱万丈のバンドの歴史の中で、体験的に学んだ生き方がそのままリリックになっている。そのシャープな物言いも面白いが、それを指して「節約家」というタイトルを付けるセンスにイッキュウの凄まじい気迫を感じる。この気迫を届けるには、変則的なビートが似合う。いや、この曲の場合、変則ビートがユーモアの代わりになって、尖った歌詞を和らげている。これがtricotというバンドの真骨頂だ。実際、彼女たちのライブを観ていると、歌できついことを言われているにも関わらず、クスクス笑い出したくなる瞬間がある。ちなみに、「節約家」でドラムを叩いているのはAbeだ。

 僕はAkiyuki Kitagawaがドラムの「あーあ」に、いちばんやられた。ウソの寿退社で会社を辞める主人公の日常の中で、「はいはいはいはい」と繰り返される虚しい返事が歌詞になっている。その単純な言葉の歌い方がとてもやるせない。この“リアル”にやられてしまった。

 そうしたtricotの、歌のカッコいい投げ捨て方のタイトルに、『KABUKU EP』とは言い得て妙。かぶく=傾くとは、自由奔放に生きること、あるいは異様な格好をして街をのし歩くことを指す。真正面から自分と向き合い、ベストの表現方法を探すことを止めない妥協なき音楽の探究者“tricot”の最新作は、明らかに進化している。

【文:平山雄一】

tag一覧 アルバム 女性ボーカル tricot

リリース情報

KABUKU EP

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KABUKU EP

発売日: 2016年04月27日

価格: ¥ 1,300(本体)+税

レーベル: BAKURETSU RECORDS

収録曲

1. Nichijo_Seikatsu
2. 節約家
3. あーあ
4. プラスチック
5. 青い癖

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