甘美なカオスバンド・ヒステリックパニック、リキッドルームで叶えた夢
ヒステリックパニック | 2016.11.02
開演前BGMにSMAPの曲が流れ、ステージ背面のバックドロップには米フロリダ発のデスメタルバンド・OBITUARY風のバンドロゴを掲げ、会場内は彼らの出番を今か今かと待ち受けている。ヒステリックパニックのワンマンツアー「秋の竹城」が開催され、恵比寿リキッドルーム公演を観てきた。 このツアーは7月に出た2ndアルバム『ノイジー・マイノリティー』に伴うもので、その最新作の内容も素晴らしかった。彼らは異例のトリプル・ヴォーカル編成により、エクストリーム・ミュージック、メロコア、Jポップなど両極端なジャンルを取り込んだ異端のミクスチャー・サウンドを鳴らす。音楽的な情報量はマックスに、ヘヴィかつポップに振り切れた音像で聴き手の脳をぐちゃぐちゃに掻き回す。最新作はその難度の高いハードルに挑戦し、それを見事に飛び越えた傑作だった。 Tack朗(G/Vo)、$EIGO(G/Cho)、おかっち(B)、やっち(Dr)のメンバー4人がハンドクラップで場内を煽り、最後にとも(Vo)が登場。冒頭曲「Adrenaline」から目まぐるしい曲展開で、早くもクラウドサーファーが出る盛り上がり。それから最新作の中でもブッ飛んだ極悪ナンバー「エクストリームおっぱいダイナマイト8000」を早くもプレイ。ブルータルな漆黒の攻撃力で迫りながら、サビはキャッチーに突き抜け、観客をジャンプ大会に誘う。続く「Brain Dead」においても会場をタオル回しのお祭りフィーバーに導き、序盤からフロアをガンガン焚き付けていく。
夏フェス・モード並みの高揚感を作り上げた後は、再び地獄の谷底に叩き落とすかのごとく「憂&哀」へ。グロウル/ガテラル・ボイスを操るともに加え、ヘヴィなリフとスラップベースが追い打ちをかけ、ヘドバンの嵐と化す暴風雨サウンドを浴びせる。かと思えば、ともが左手に猫ハンドを付けて披露した「ねこマフィア」ではSEIGOのポップな歌声を解き放ち、サークル・モッシュが勃発する騒ぎっぷり。その熱気にトドメを刺したのはMVにもなった「ライジングさん」だ。イントロから鼓膜を捉えるギターフレーズで、キャッチーな魅力を前面に押し出した曲調に会場も大沸騰! 都内のワンマンとしては最大キャパになる恵比寿リキッドルームは、バンドとして「立ちたかった場所」だったようで、今日のワンマンに挑む彼らの意気込みは半端じゃない。「俺たちはひらすら曲を作って、ライヴで伝えるだけ。命賭けてる!」とともは言っていたが、その言葉にウソ偽りはない。全身全霊で体当たりするパフォーマンスに圧倒されるばかりだ。 ポップでノリやすい「しぐなる」を挟んだ後は、「なんてったってラウドル」、「般若」と縦横に激しく揺さぶる曲調を続けて披露し、「みんなニャンニャンしたいだろ?」と呼びかけ、「ねこ地獄」へと突入。図太いビートにラップ調のヴォーカルが乗り、カオティックな熱気を生み出し、本編ラストは「おわかれかい」で締め括る。ノスタルジックな感情を刺激する童謡風ロディを振り撒き、大合唱を作り出した。
全17曲を一気に走破すると、観客は「もっと!」と言わんばかりにアンコールを求め、再度ステージにバンドは登場した。すると、「今日夢が叶った。まだ20倍、30倍やりたいことがある!」と熱く語りかける場面もあり、来年1月4日にはZepp Nagoya公演を行うことも発表。これからさらなる夢に向って突き進む彼らにとって、今日は重要なライヴになったことは間違いない。「今日はみんな味方、愛しかない! 胸が"とぅいんくる☆とぅいんくる"してくる」と歌詞に引っ掛けたMCを入れ、「シンデレラ・シンドローム」を披露。乙女心を切り取ったスウィートな歌詞に、ポップかつヘヴィに振り切れた演奏も切れ味抜群だ。ライトハンドを使った煌びやかなギターフレーズ、ブンブンうねるベースソロも織り交ぜ、会場一体となるパーティー感を見せつけた。最後の「人生ゲーム」で肩車した観客が続出し、ステージが見えないほどの大盛況ぶりで幕を閉じた。
冒頭でも触れたが、魅惑のハイトーンを持つTack朗、極悪スクリームが武器のとも、歌メロのセンスが光るSEIGOと、キャラの立ったトリプル・ヴォーカルが1曲の中で見事な掛け合いを見せ、曲調的にもジェットコースターのごとく上へ下へ、左へ右へと突き進み、急カーブを描くスリリングな演奏に興奮しっぱなしだった。もしかすると、天国と地獄を地続きにしたような音の波状攻撃ぶりに面食らう人もいるかもしれない。しかし、そこにこそ甘美なカオスがあり、彼らでしか味わえない音世界が待っている。「売れかけている甘美なカオスバンド」と少々自嘲気味にメンバーは口にしていたけれど、一つの場所に安住せず、どこに行っても勝負できる音楽性で新規リスナーをどんどん開拓している。ゆえに次にリリースされる音源や、今後の展開がさらに楽しみになってきた。ヒステリックパニックという名は体を表す愛くるしい過激さを信条に、ますますオーバーグラウンドに向って強烈なカウンター・パンチをかましてほしい。とにかく、あっという間に過ぎ去った濃密すぎるワンマン・ライヴだった。
【取材・文:荒金良介】
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リリース情報
ノイジー・マイノリティー
2016年07月20日
ビクターエンタテインメント
2.シンデレラ・シンドローム
3.Blood Ocean
4.エクストリームおっぱいダイナマイト8000
5.Brain Dead
6.Adrenaline
7.しぐなる
8.〜Sprout〜
9.ハナウタ
10.世界の尾張
11.なんてったってラウドル
12.Holograph
13.おわかれかい
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お知らせ
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