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THE BACK HORN、ストリングスを従えた壮大な“KYO-MEI”ツアー最終日。

THE BACK HORN | 2016.12.22

 ストリングスを伴う全国5ヵ所のツアー“THE BACK HORN「KYO-MEIホールツアー」~月影のシンフォニー~”の最終日となった東京・中野サンプラザで、THE BACK HORNは厚みも懐の深さも増したライブでオーディエンスを圧倒した。

 照明が落ちた会場に流れた荘厳なインストゥルメンタルは、岡峰光舟(Ba)によるもの。抑制の効いた打ち込みの曲は、これから見るものへの期待に沿うように高揚感をくすぐった。そしてステージにメンバ-4人と、このツアーに同道したキーボードの曽我淳一、めかるストリングス(Vn1,:銘苅麻野、Vn2:雨宮麻未子、Va:須原杏、Vc:松尾佳奈)が揃ったオープニングナンバーは「トロイメライ」。落ち着いて歌い出した山田将司(Vo)の声に柔らかな弦カルテットの音が重なり、そこに松田晋二(Dr)のドラムがビートを打ち込む。柔らかな皮膚の下に骨格が浮き上がるように立体感のある音像が、THE BACK HORNの曲に新鮮な息吹を与えた。

 前回彼らがキーボード・ストリングスと共演したのは、昨年4月に渋谷公会堂で行った“『KYO-MEI SPECIAL LIVE』~人間楽団大幻想会~”だった。その模様は最新シングル「With You」に音源と映像(初回限定盤DVD)が収録されているが、そのときの1回限りの緊張感や初々しさとは違った親和性がある演奏に、この日は変わっていた。ほぼ同じメンバーでツアーを回ったこともあるだろうが、自分たちを開放していく。

 その模様は、最新シングル「With You」に音源と映像(初回限定盤DVD)が収録されているが、1 回限りの緊張感や初々しさとは違った親和性がある演奏に、この日は変わっていた。ほぼ同じメンバーでツアーを回ったこともあるだろうが、自分たちを開放していく。  THE BACK HORNの柔軟性が発露しているからでもあるだろう。落ち着きながらも高揚感のある幕開けだったが、それがすべてではないというように前半は「サニー」「声」など初期の曲で彼ら本来のアグレッシブな熱を発散。歌いながら山田は「サンプラザ!」と呼びかけ、総立ちのオーディエンスは腕を上げて応えた。

 「ライブハウスと違った音のホールの雰囲気、演奏をたっぷり楽しんで。席があるからといって後ろの人も油断してるといろいろ大変なことになると思いますので。席はあるけど皆様一人ひとりの心に届けていきます」

 MCで松田はこの日のライブへの自信をチラつかせながらこう言った。その言葉どおり、メジャーデビュー作『人間プログラム』からの「雨」やその前のインディーズ盤『何処へ行く』からの「カラス」と、久しく演奏していなかった曲にストリングスと鍵盤が入るという意外な曲が飛び出した。初期の自分たちを決定付けたと言ってもいい曲を新装したことで、その骨格がいっそうクリアに見えると同時に、それを柔軟に変化させることができる現在の彼らの懐の深さといったものを感じさせた。ストリングスなどが入ると綺麗に整いそうな気がするが、むしろこれらの曲が持つ不安定さや混沌とした気持ちを増幅するようなアンサンブルが、初期の彼らを蘇らせてもいた。そしてこれらの曲が最新作『運命開花』を代表する「悪人」へとスムーズにつながったのは、彼らの内なる歴史を現在のサウンドで俯瞰させているようだった。

 曲の印象を変えたのは、そのあとに続いた「パッパラ」だろう。オルガンとギターでグルービーなテイストを加え、4人のソロパートも入った「白夜」は面白いアレンジで引き付けた。この曲ではステージ上方に設置された白いバルーンが月のように輝いていた。菅波栄純(Gu)が美しいメロディをギターで奏でてから始めた「美しい名前」は、ストリングスが最も効果的な瞬間を生み出した。流麗なストリングスと鋭角的なギターがひとつになり、感情を揺さぶるこの曲のポテンシャルをさらに大きくしていた。続いた「コオロギのバイオリン」は、詩集「生と死と詞 」付属シングルの曲で滅多に演奏したことがないのだが、この夜はタイトルに沿うようにストリングスが鳴るドラマチックな曲となって、空気を震わせた。皆が心に染み込んだ曲を噛みしめていると松田が再びマイクを持った。

「THE BACK HORNは18年、いろいろな曲を作ることで続いてきた。音楽でしか感じられないものがあるんじゃないかと曲にして歩んできた。ライブハウスでのグチャグチャなライブも大好きですけどホールでのこの感じも好きで、久しぶりに東京でもやれてうれしいです」

 4人が楽屋での雑談のような会話を始めて和ませたあと、山田がストリングスとキーボードを紹介し、「そしてみんな!」とオーディエンスを指した。会場の空気が締まったところで始まった「シンメトリー」は場内の照明も明るくなり、希望とともに歩き続ける曲をひとつになって歌い上げた。そして力強くストリングスがイントロのフレーズを奏でた「戦う君よ」「ブラックホールバースデイ」と、THE BACK HORNのアグレッシブな面を代表する曲でストリングスと一体化した演奏は見事だった。ギターのフレーズをストリングスに渡すことでリフが印象を一新し、ギターがザクザクと曲を切り裂くときの鋭さが増す。高音のストリングスと対をなすようにリズム隊のボトムが強調され、曲が大きく広がっていくようだった。山田がマイクを差し出すと会場を包み込む演奏と共にオーディエンスも大声で歌い、菅波が激しく動きながらギターを弾けば岡峰も大きく体を揺らす。「シンフォニア」は本来バンドがシンフォニックに響き合う曲だが、ここではリアルなシンフォニックロックとなってダイナミックに響いた。オーディエンスの手拍子とベースソロが絡み、ストリングスがギターと競い合う。バンドとストリングスが互いを刺激しあい高め合うダイナミズムは圧巻だ。最後のMCは山田。

 「18年やってて、ずっと音楽をやってて、よくわからない気持ちになるときもある。人間あるがままのかたちというか、憎しみとか悲しみとか、そんなものは一緒に連れていきたくはねえんだけど、そんなものはないほうが人生は明るくていいんだろうけど、俺はその気持ちと一緒になって生き抜いてやると決めてるから。体が続く限りはやり続けるから、まだまだみんなも楽しませていきたいから。これからもTHE BACK HORNをよろしくお願いします」

 綺麗なことは歌うが綺麗事は歌わない。そんなTHE BACK HORNのスタンスを伝える最新シングル曲「With You」が本編最後を飾った。優しいピアノで始まる飾り気のないラブソングを山田はていねいに歌い、もう一度ストリングスとキーボードを紹介して歌い終え、松田が渾身のドラムで曲を締めた。  アンコールはバンドだけで、「With You」のカップリング曲「言葉にできなくて」を。この2曲の立ち位置がわかるような流れだ。軽やかなドロップビートとストレートなパンクビートが入れ替わりながら進むこの曲もまた、そっけなさが逆に心に響くラブソング。18年やってきたからこそ歌えるシンプルさだ。そして山田の「また生きて会おうぜ!」という雄叫びに熱気が上がった「コバルトブルー」は、バンド本来のエネルギーが一気に噴き出した。椅子席であることを忘れて立ち上がり体を揺らし腕を突き出すオーディエンスにバンドも全力で応えた。そして「最後はオールキャストでお届けするよ!」と山田がストリングス隊とキーボードの蘇我を呼び込み演奏したのは「刃」。ベスト盤にしか収録されていない曲ながら彼らのアンセムのひとつとなっているこの曲で、ストリングスと菅波のギターが掛け合い、オーディエンスもひとつになったコーラスで迎えた大団円。アンコールという枠を超えた、素晴らしい物語の最後のようだった。THE BACK HORNというバンドが持つ豪胆さと繊細さをストリングスとキーボードが裏打ちし、一回り大きなサウンドスケープを作り出した見事なライブだった。

【取材・文:今井智子】
【撮影:Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)】

tag一覧 THE BACK HORN ライブ 男性ボーカル

リリース情報

With You

With You

2016年10月19日

ビクターエンタテインメント

1. With You
2.言葉にできなくて
3.世界中に花束を Live at 渋谷公会堂

セットリスト

「KYO-MEIホールツアー」~月影のシンフォニー~
2016.12.8@中野サンプラザ

  1. 01.トロイメライ
  2. 02.サニー
  3. 03.声
  4. 04.閉ざされた世界
  5. 05.ジョーカー
  6. 06.雨
  7. 07.カラス
  8. 08.悪人
  9. 09.パッパラ
  10. 10.白夜
  11. 11.美しい名前
  12. 12.コオロギのバイオリン
  13. 13.シンメトリー
  14. 14.戦う君よ
  15. 15.ブラックホールバースデイ
  16. 16.シンフォニア
  17. 17.With You
  18. ENCORE
  19. 18.言葉にできなくて
  20. 19.コバルトブルー
  21. 20.刃

お知らせ

■ライブ情報

rockin’on presents COUNTDOWN JAPAN 16/17
2016/12/28(水) 幕張メッセ国際展示場1~11ホール・イベントホール
2016/12/29(木) 幕張メッセ国際展示場1~11ホール・イベントホール
2016/12/30(金) 幕張メッセ国際展示場1~11ホール・イベントホール

Long Tail Children presents 対バンライブだよ!全員集合!
~東京編 GUEST THE BACK HORN~

2017/01/14(土) 渋谷CLUB QUATTRO

霞ム東京ノ銀色
2017/01/17(火) TSUTAYA O-EAST

THE TOUGHER
2017/01/27(金) 代官山LOOP

ACIDMAN 20th Anniversary 2man tour
2017/03/11(土) いわき市文化センター

HAPPY JACK 2017
2017/03/17(土) 熊本B.9V1・V2・V3 / Django / ぺいあのPLUS’
2017/03/18(日) 熊本B.9V1・V2・V3 / Django / ぺいあのPLUS’

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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