レビュー
THE BACK HORN | 2016.10.14
THE BACK HORNの24枚目になるシングル「With You」は、静かに、そして確実に、彼らの新しい一歩を示している。
簡潔なピアノの音から始まるのがまず意外ではあるが、ピアノだけで山田将司が優しく歌い出す。1コーラスを歌ったところで菅波栄純のギターがザクリと入り、一拍置いて岡峰光舟のベースと松田晋二のドラムが加わって、安定感のあるバンド・サウンドとなる。これでTHE BACK HORNだと油断する間も無く、柔らかなストリングスが重なって、今までTHE BACK HORNが見せたことのない音像が広がってくる。最初は控えめに近付き合うそれぞれの音が次第に一つの大きな波となり、歌とともに大河の如く力強く進んで行く。
ただ一緒にいることで、共に歩んでゆくのだと信じさせてくれる抱擁力を描いたこの曲は、この1作前のシングル「悪人/その先へ」と対照的だ。「悪人」は、人間の本質は善か悪かといったところまで掘り下げた曲で、アルバム『運命開花』もそのテーマに通じる作品だった。徹底的に人間の内面に向き合った先に彼らが見出したのが、「With You」で歌う無垢な抱擁力なのだろう。”心がほどけていく”という一節と共に全ての音が高揚していき、信頼の暖かさが溢れ出す。そして至福の時を過ごすと、歩いてゆく二人の姿が遠ざかっていくように、楽器が少しずつ離れてゆき、影を見送るようにピアノの音が最後に残る。
このドラマティックな構成は亀田誠治とバンドによるものだが、ストリングスを入れる布石になったのは3曲目に収録の「世界中に花束を Live at 渋谷公会堂」だ。’15年4月に渋谷公会堂で行った「KYO-MEI SPECIAL LIVE」で、ストリングスとコーラスを加えて演奏したもので、12月に行う『THE BACK HORN「KYO-MEIホールツアー」~月影のシンフォニー~』で再びストリングスと共演することが告知されている。そこで披露される「With You」が待ち遠しい。
2曲目「言葉にできなくて」は、対照的に軽やかなドロップ・ビートで始まる骨太なバンド・サウンドを生かした曲だが、ジャジーな大サビを入れて緩急を効かせた構成が心地よい。「With You」で“たくさんの言葉なんて今は必要ない”と歌っているが、ここでは“言葉にできなくて”とこみ上げる思いを綴る。2曲とも菅波の作だが、言葉を超えて感情や気持ちを伝える音楽の強さを、デビュー以来15年にわたって体現してきたTHE BACK HORNならではの曲と言えるだろう。そんな彼らが示した新しい曲の力を、このシングルで感じたい。
【文:今井智子】
リリース情報
With You
発売日: 2016年10月19日
価格: ¥ 1,200(本体)+税
レーベル: ビクターエンタテインメント
収録曲
1. With You
2.言葉にできなくて
3.世界中に花束を Live at 渋谷公会堂