Ivy to Fraudulent Game 声を嗄らし満身創痍で完遂した、ミニアルバム『継ぐ』リリースツアー・ファイナル
Ivy to Fraudulent Game | 2017.07.28
こんなメジャー発表は初めて見た。ライブの後半、ボーカル寺口宣明 (Gt・Vo)の声が出なくなり、お客さんの力を借りながら完走した本編。そして、アンコールでは歌うことのできないまま、メジャーデビューが発表された。それがIvy to Fraudulent Gameの2nd ミニアルバム『継ぐ』リリースツアーのファイナルだった。そこで彼らが見せたものは決して完全燃焼と言えるものではなかったかもしれないが、ステージの上では微塵も無様を晒すことなく、最後までバンドの美学を貫くアイビーはあまりにもかっこよかった。
開演時間から10分ほど過ぎたころ、浮遊感のあるSEが流れるなかで、寺口宣明 (Gt / Vo)、 大島知起(Gt)、カワイリョウタロウ(Ba)、福島由也(Dr)がステージに現れた。そのSEが唐突にかき消されると、ライブのオープニングを飾ったのは2ndミニアルバム『継ぐ』からの「!」(読み:あまだれ)だった。メンバーの背後で激しく明滅するストロボ、寺口が耽美な歌声でなぞる美しいメロディ、抒情的な歌詞と曲の展開にあわせて、次々に表情を変えるリズムとギター&ベースのフレーズ。どこか退廃的な匂いを湛えた鋭くも美しいロックサウンドが恵比寿リキッドルームに独特の世界観を築き上げていった。
ベースのカワイがキーボードを弾き、ドラムの福島はエレドラを叩いて幻想的な景色を描いたスローバラード「夢想家」や、イントロの一発目から激情を叩きつけるようなロックナンバー「Dear Fate,」など、様々な角度からポストロック的なアプローチで構築するアイビーの音楽は、いわゆるノリやすいロックのフォーマットではないかもしれない。だが、誰もが日常的に抱える孤独や焦燥、怒りや混乱をつぶさに汲み取る深淵な音像は唯一無二であり、会場にはそれを静かに享受するとても心地好いムードができあがっていた。一斉に手があがったり、手拍子が湧くような、わかりやすい盛り上がりはないが、聴き手の胸のなかに大きな感動が渦巻いていることは、曲間に湧きあがる惜しげもない拍手が物語っていた。
そんなアイビーの圧倒的なバンドのアイデンティティの一翼を担うのが、ファルセットを駆使した歌声でロックボーカリストとしての色気と風格を持つ寺口の存在感だ。しかし、この日の寺口は序盤から声の調子が良くなかった。それをツアーファイナルへ臨む気迫とフロントマンとしての責任感で押し殺した前半だったが、ライブも終盤に差しかかった「可憐な花」から間髪入れずに続けた「error」にかけてで限界が訪れた。出だしのサビ部分から高音が思うように出なくなり、「ごめん、今日だけ力を貸してください」と悔しそうに言うと、それを補うようにフロアからシンガロングが起こった。それを受けて「情けないけど、俺は幸せ者だわ、ありがとな」と言った寺口は、それでもフロントマンとしての風格を1ミリも失ってはいなかった。
その直後、「正直、こんな状況をすごく申し訳ないと思ってる。自分でも許せないと思うけど、立っているうちは死ぬ気やるつもりです」と口を開いたMCで、寺口は「音楽は勝負だと思ってます」と続けた。そして「音楽は勝負、いまだって勝負、声が出なくなったって負ける気はしねえ」と不敵なセリフを残して「青写真」へつなぐ。時々、言葉にならない叫びを挟みながら、さらに初期曲「アイドル」へと雪崩れ込むと、不甲斐ない自分への悔しさを音楽へとぶつけるように、いっそうステージの熱量は激しさを増していった。
最後のMCで声を嗄らしながら語りかけた寺口の言葉が熱かった。「こんなステージの真ん中で偉そうに歌っているけど、誇れるものなんて何もなかった。全てから逃げてきました」。そうやってギターを掻き鳴らしながら伝えたのは、高校を辞めて、逃げ道として音楽を始めたこと。にも関わらず、19歳のときにそのバンドすら辞めようとしたこと。自分で楽曲を作っていないことにコンプレックスを抱いていたこと。のちにメンバーから「辞めそうなのは誰が見てもわかった」と言われたことを。そして続けた。「俺は福島を天才だと思ってるんだ。そんな奴が“俺が辞めたら音楽を辞める”って言ってくれたんだよ。こんな俺のために。俺は嬉しかったね。音楽をやるしかないと思った。23歳、命をかけて、この音楽に誇りを持ってステージに立っています」と。そして、本編のラストに届けたのはバンドが初めて出した全国流通盤『行間にて』の1曲目に収録された「青二才」だった。
♪喉を枯らしても叫んでいくんだよ あの日と変わらぬ絶望の“望”を♪
その曲の終わりに、まさに声を枯らしながら歌い上げたフレーズは鮮烈だった。最初は優しくファルセットで歌おうとしたが、声が出ず、地声で叫ぶように歌い直したのだ。アイビーの歌詞について何か解釈めいたことを言うのは、蛇足のようで気が引けるが、「青二才」は、10代から20代へと年を重ねていくなかで、絶望の“絶”をできるだけ遠ざけながら、絶望の“望”のほうを求めて歌い続けたいという決意の歌だ。その歌を、そんなふうに満身創痍のなかで歌い切る姿はあまりにもドラマチックだった。「青二才」はこの先も何度も歌い続ける曲だろう。だが、この日の「青二才」を、私は決して忘れないと思う。
そんな状況だったから、本編が終わったあとのアンコールでメンバーは改めてステージに現れたが、演奏をすることはなかった。それでも、このタイミングでIvy to Fraudulent Gameは2017年の冬メジャーデビューすることを発表すると、会場からは悲鳴のような歓声と「おめでとう!」という祝福の声が湧いた。そして「メジャーに行って“変わった”とか言うやつがいるけど、言いたいだけだよね。変わったところで、かっこよければそれでいいと思うんだよね」と、寺口らしい言葉でメジャーへの想いを口にしてステージを後にした。
最後に寺口は「またリベンジします」と言ったが、その必要は感じないライブだったと思う。彼らは自分たちのできる完璧なパフォーマンスで、この日もかっこいいロックバンドであり続けてくれたから。それと同じようにIvy to Fraudulent Gameは、新しいフィールドに移っても、その場所に相応しい“かっこいい”を追求し続けてくれると確信している。
【取材・文:秦 理恵】
【コラム連載】Ivy to Fraudulent Game 寺口 宣明 (Gt&Vo)『瘡蓋(かさぶた)』
リリース情報
継ぐ
2017年03月08日
SPACE SHOWER MUSIC
M2:Dear Fate,
M3:E.G.B.A.
M4:!
M5:揺れる
M6:徒労
M7:夢想家
セットリスト
2nd mini album "継ぐ" release tour "告ぐ"-one man series-
2017.7.9@恵比寿LIQUIDROOM
- 01.揺れる
- 02.!
- 03.夢想家
- 04.+
- 05.trot
- 06.Dear Fate,
- 07.劣等
- 08.E.G.B.A.
- 09.Utopia
- 10.she see sea
- 11.可憐な花
- 12.error
- 13.青写真
- 14.アイドル
- 15.青二才
お知らせ
ワンマンツアー
2017/12/09(土) 札幌COLONY
2017/12/16(土) 仙台MACANA
2017/12/17(日) 新潟RIVERST
2018/01/13(土) 福岡Queblick
2018/01/14(日) 広島CAVE-BE
2018/01/20(土) 高松DIME
2018/01/21(日) 金沢vanvanV4
2018/01/27(土) 梅田CLUB QUATTRO
2018/01/28(日) 名古屋CLUB QUATTRO
2018/02/03(土) 赤坂BLITZ
TREASURE05X 2017
~BLOOMING SENCE~
2017/08/20(日) 名古屋CLUB QUATTRO
Topped! 2017
2017/08/26(土) パルコールつま恋リゾート 特設ステージ
RUSH BALL 2017
2017/08/27(日) 泉大津フェニックス
Getting Better Presents ROCKA
2017/09/07(木) 新宿LOFT
大ナナイトvol.110
2017/09/29(金) HEAVEN’S ROCK 宇都宮 VJ-2
夢チカLIVE VOL.122
2017/09/23(土) KRAPS HALL
FM802 MINAMI WHEEL 2017
2017/10/07(土) - 2017/10/09(月)
大阪・ミナミエリア ライブハウス20ヶ所以上
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