椎名慶治、仕込み無しの観客リクエストライブ「FACE TO FACE」で魅せた 新たなライブのカタチ
椎名慶治 | 2017.09.14
今年の椎名慶治はめまぐるしい動きを見せている。春にソロ・ツアー「RABBIT "6" MAN」ツアーをガッツリやってまもなく、JET SET BOYSとしての2ndアルバム『BIRD EYE』をリリース。それを引っさげてのツアーにも臨み、ボーカリストとしての底力を見せつけてきた。そんな彼が、今度はソロとして、新しいライブのカタチを提案すべく東名阪のツアーを敢行。その名もYoshiharu Shiina Requested Songs Live 「FACE TO FACE」。仕込みなしで観客からのリクエストでつないでいくという怖いもの知らずのライブなのである。
実はコレ、作品購入者を対象としたソロ活動5周年イヤースペシャル企画の無料ライブで、コアな観客をなんとか満足させるためにと椎名が自らの発案で取り組んだのがそもそもの発端だった。意外な面白さに味をしめた彼は、今年2月には正面切ってリクエスト・ライブと謳った前哨戦を下北沢440で開催。そこで手応えを再確認し、ファンからの熱い要望にも応えて、ある意味無謀な「FACE TO FACE」のツアーに出たというわけだ。
椎名ソロのオリジナルは60曲ほど。なによりスゴいのは、リクエストされた曲を全部生演奏で届けるというところ。サポート陣にしてみたらたまったものじゃない。というか、フツーはできるものじゃないだろう。が、今回参加した友森昭一(A Guitar)、村原康介(Keyboard)、坂本暁良(Percussion)は、ここ何年か椎名のインストアからバンド・スタイルまで、さまざまな形態のライブを共にしてきている。どんな曲がきても即反応して、その日ならではの味にしちゃえるツワモノどもだ。椎名は強い味方を得たものだ。いや、椎名自身がここ数年の活動で、そういった音の絆をきっちり作ってきたと言うべきだろう。大阪、名古屋は人いきれでムンムンのライブハウスということで、リクエストは挙手制だったが、東京は全員が着席できるMt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE。椎名がどんなふうにハンドリングしていくのか興味津々だった。
メンバーに続いてさりげなく登場した椎名。椅子に腰掛けたのを合図に聴いたことのないクールな曲が始まった。メンバー紹介とともに軽いソロ回しも。予想外の始まりに少し戸惑いを見せる観客だが、そのキレ抜群の歌と演奏に引き込まれていく。歌い終えた椎名は、「よく来たね。リクエスト・ライブだっていうのにいきなり知らない曲だったでしょ?」と、いたずら大成功といった目で観客に語りかけた。
そう、この1曲目は今回のツアーのために作った新曲。つまり「FACE TO FACE」のテーマ曲だ。もうそこからしてスペシャル感満載。続いたのは「可能性は無きにしも非ず」だった。これは、ツアー・グッズを6,000円以上買った方がガチャガチャをやり、当たった3名の方が行使できるリクエスト権のうちの1曲。下北沢440での前哨戦を経て、観客からのリクエストを公平に受け付けるにはどうしたらいいか、さまざまに検討を重ねて編み出したシステムの一環だろう。
「さぁ、ここからはセットリストはございません」と挙手を促す椎名。最初のうちは周りを見ておそるおそる上げるといった人が多かった。そんな中、「はーい」と小さい女の子の声が響く。椎名は「参った!」という様子で、「そんな君を指しちゃうに決まってるじゃないか」と優しい眼差しを向ける。女の子のリクエストは「RABBIT-MAN」。すると椎名はちょっと困った表情で、「あのね、<RABBIT-MAN>は必ずやるからね。システムを言っとくと本編最後の曲です!」と種明かしをし、「ちょっと待っててね」と女の子に了解を得た。なんともアットホーム。
もちろんライブでは披露したことのない曲のリクエストも容赦なく飛び出す。そういうときは、イントロや構成を椎名が口ドラムで伝えてメンバーと軽く打ち合わせ。繰り出されるサウンドは当然CDと同じではなく、メンバーのこの日の解釈と、こう来るならこう行くというお互いの読み合いで出来上がっていく。でも、大事なキメはハズさない。そのスリリングさがたまらないのだ。新鮮な音に刺激されて、椎名の歌もこの日ならではのものになっていく。アップテンポがきたと思えばバラードと、自身が決めるのとは違ういわゆる「流れ」のない順番に、「覚悟が決まんないんだよね」と率直な気持ちを話しつつ取り組む椎名。それがドキュメントを見てるようで楽しいのだ。
「挙手だけだと偏っちゃう」ということで、ボックスに入った客席番号がわかる半券を椎名やメンバーが選ぶという方式も導入された。ふいに当たってしまい、慌てて入り口で渡された全楽曲リストを見て決める人も。もちろん、考えてる間も、椎名は冗談まじりのトークで観客を飽きさせない。面白かったのは、椎名が「バラードが多いけど、大丈夫?」と心配するくらいスローな曲が多く上がったこと。心配は椎名の杞憂で、観客は大歓迎だったはずだ。「バラード嫌い」を自称する椎名は、通常のライブでなかなかバラードを歌ってくれないから、みんなここぞとばかりにリクエストしまくったのだろう。観客が望んで作るセトリは、本人発信のそれとは違うんもんなんだなとあらためて。
「メンバーからもリクエストもらおうかな」という椎名の気まぐれで急に振られた友森は、譜面を繰りながら「じゃあ、意外と盲点の…」と「call my name」を選んだ。すると村原と坂本がワサワサしだす。自分が持参した譜面にその曲がなかったことに気づいたふたりは、「そうだ!」というようにiPad片手に席を立ち、友森の譜面を激写。坂本は一瞬イヤホンで曲を確認する。でも、もう次の瞬間、ふたりとも「バッチリ」というサインを送っていた。「意外と盲点じゃなくてスーパー盲点だったんだね(笑)」と友森。レア中のレアな曲に心の定まったメンバーを見て、むしろ椎名がいちばん緊張していたかもしれない。ガチの緊張感と、プロとして絶対カッコよくするという気迫とが合体した演奏は、リハーサルで練り上げていく音とはまた違う興奮を誘い、終わった途端会場は大熱狂だった。
みんなに言わせておくばかりでは惜しくなったのか、後半戦では「椎名リクエストも」と自ら「シャクシャク」を選び、「これが俺の曲の作り方だから」と、まるまる1コーラスをまず集中力全開のアカペラで歌った椎名。彼のジャスチャーでの指示を受けて、2コーラス目から寄り添い始めたメンバーの臨機応変さにも感動した。進むにしたがって観客の躊躇はなくなり、バンバン手が挙がるようになる。椎名自身もぶっつけ本番の楽しさにアドレナリンが止まらなくなった様子。そんなこんなで、本編が19曲。アンコールならぬ「ボーナス・タイム」ではさらに5曲と、終わってみれば3時間越えの壮大なライブとなっていた。
「普通のライブと違って間ができる。その間の部分を楽しんでもらえたらいいなと思うんです」と椎名。まさにそこがリクエスト・ライブの醍醐味だろう。椎名とメンバーが音楽と向き合うときにほとばしらせる厳しさと歓びとを、観客も直に向き合って目撃する場。それが椎名の掲げた「FACE TO FACE」なのかもしれない。「つかんだよね。でも、もっとスムーズなやり方があるはず」と、自分の理想はまだ先にあることを椎名は隠さない。試運転を経てこのライブ企画をどう育てていくのか、創意工夫の人である椎名慶治のさらなる手腕に期待したい。
【取材・文:藤井 美保】
【撮影:井上 洋平】
リリース情報
RABBIT “BEST” MAN
2016年11月02日
HWP
02:RABBIT-MAN
03:愛のファイア!(Horn Mix) ※リミックス曲
04:人生スパイス -go for broke-
05:I Love Youのうた
06:言いたくて言えなかった
07:いまさら好きだと伝えちゃダメかな?
08:お節介焼きの天使と悪魔と僕
09:MY LIFE IS MY LIFE
10:駆け出しのヒーロー
11:ヤワじゃないだろう
12:よーいドン
13:取り調べマイセルフ
14:いざ尋常に
15:ゴゾウ☆ロック ※新曲
セットリスト
Yoshiharu Shiina Requested Songs Live「FACE TO FACE」
2017.9.8@Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
- 01.FACE TO FACE
- 02.可能性は無きにしも非ず
- 03.lo0p
- 04.これからも
- 05.人生スパイス -go for broke-
- 06.ハッピーロンリーライフ
- 07.いまさら好きだと伝えちゃダメかな?
- 08.チッ!
- 09.call may name
- 10.コンティニュー?
- 11.ボクのアトラクション
- 12.MY LIFE IS MY LIFE
- 13.komorebi
- 14.フラット♭
- 15.シャクシャク
- 16.カタムスビ -SHIINA Ver.-
- 17.RABBIT-MAN
- 18.悲しきマリオネット
- 19.言いたくて言えなかった
- 20.はないちもんめ
- 21.ヤワじゃないだろう
- 22.愛のファイア!
- 23.ゴゾウ☆ロック
- 24.よーいドン
お知らせ
Yoshiharu Shiina LIVE 2017「Ballade」
11/22(水) 東京・ラドンナ原宿
11/23(木・祝) 東京・ラドンナ原宿
11/25(土) 大阪・Live Restaurant "Flamingo the Arusha"
11/27(月) 愛知・LIVE & DINING Breath
SHINJUKU LOFT presents
「Sunrise of #3」
10/23(月) 新宿LOFT
真空パック vol.12 ~椎名慶治をうけいれて~
12/07(木) 下北沢SHELTER
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。