ハルカトミユキ「+5th Anniversary SPECIAL」日比谷野外大音楽堂をレポート
ハルカトミユキ | 2017.09.14
ほんの数日前まで、この日の予報は台風であった。それが前日には曇り時々雨に変わり、遂に当日の予想は反転、夕方からは陽が射し始めた。“なんだかハルカトミユキの歌のような天候だな…”などと思いながら会場へと向かう。
耳をふさぎたくなったり、フタをしたくなったり、わざといま気づいたふりをしたくなったりする真実や真理をも、どこか尊いものや慈しむべき言葉として響かせてくれるハルカトミユキの歌…。私にとって彼女たちの楽曲は、そんな生命力とバイタリティを擁した媒介だったりする。それはまさに上述の天候の如し。そしてこの日の彼女たちのライヴは、浄化された後の生命力と希望を、ことのほか強く感じさせてくれるものであった。
一度目はフリーライブ、二度目は47都道府県ツアーの締めくくりとして雨中に、そしてハルカトミユキ3度目の日比谷野外音楽堂でのライヴが、この9月2日に行われた。同日は「+5th Anniversary SPECIAL」とのタイトル通り、彼女たちの5周年記念の一環。今春、無事に終えたツアーとは趣きも変え、今年6月発売のニューアルバム『溜息の断面図』からの曲もふんだんに交え、この5年間の彼女たちと現在、そしてこれからを多分に感じさせてくれた。
まず、開演を待つ私を訝しがらせたのは、ステージ中央付近に配された大きなシェッドランプとシンプルな照明セットであった。通例の野音に見られるトラスを組んだり吊るしたりの照明類はなく、どことなくの丸腰感が漂っていた。
そんな中、ハルカトミユキ、そしてバックバンドのメンバーの野村陽一郎(Gt)、砂山淳一(Ba)、城戸紘志(Dr)が手を挙げながらステージに現われる。ガツンとしたバンドによるデモンストレーションの中、「野音へようこそ!」とハルカ。それを呼び声に空間性と開放感溢れる「世界」が始まる。シューゲイザーサウンドと共に、伸びやかに空に吸い込まれていくかのように広がる同曲が、ここではないどこかへと連れ出してくれる。「まだまだ飛ばしていくけどいいですか!!」のハルカの煽りを経ての「DRAG & HUG」では、さらに高みへと会場を引き上げ、眺めの良い景色へと誘ってくれる。ミユキのふくよかなコーラスも景色を明確にしていく。ライヴは更にグイグイと引き込みにかかる。続く「伝言ゲーム」では、「はたしてお前は大丈夫?」との詰問にも似た言葉たちが眼前に突きつけられ、会場各人が自身へと問いかける。
「今日は5周年のお祭りなので、夏の最高の思い出を作りたい。一緒に楽しい思い出を作りましょう」とハルカ。「ニューアルバムから明るい曲をやります」と入った「インスタントラブ」では、ファンキーなカッティングと4つ打ちディスコなフレンチエレクトロモードなEDMサウンドの上、彼女たちの艶やかな部分も披露。反面、ピリッとした歌詞とのアンバランスさが実に彼女たちらしい。そして、ニューアルバム中でもっともスケール感のあった「Sunny,Cloudy」では、ハルカもアコギを手に、とてつもないダイナミズムを与えてくれる。
照明がシンプルだった理由が、この辺りからより判明し出す。下からの照明に重きを置いた演出とステージバックの巨大なスクリーンに投影された映像たちが曲毎に歌や演奏に加え、楽曲の可視化を手伝っていく。中でも数度現れたステージ上に配された巨大な3基のミラーボールからの光は、まさに空に向けて飛ぶ蛍のような幻想的な至福感を与えてくれた。
中盤には、まるで出自に戻るかのように、ハルカとミユキ、二人だけでのステージも用意されていた。東日本大震災の際、“歌って何なんだろう?”“こんな時に歌で何ができるんだろう?”と自問自答し、その中から見出した“歌いたい、聞きたいが生きる希望なんだ!!”。そんな想いの込もった「絶望ごっこ」(1st EP収録)が歌われ、みながそれに聴き入る。
「このライブが終わるまで夏は終わらないから」とミユキ。二人が結成して初めて作ったという郷愁感溢れる「夏のうた」(1stdemo収録)では、まだ誰もファンがいない頃のライブハウスへと我々を引き戻した。
また、この日は11月公開の映画『ゆらり』の主題歌の書き下ろし新曲「手紙」(11/3配信開始)もいち早く披露された。鍵盤と共に座って手紙を手に読み上げるように歌われた同曲。≪愛とは手紙のようなものですね。受け取るばかりで気がつかずに≫のフレーズも印象的。キュンとする≪お元気ですか≫のフレーズで締められ、リリースが今から待ち遠しくなった。
折り返し地点からは、ニューアルバムからの楽曲が立て続けに放たれる。しかも、どれも作品とは違い完全にバンド仕様。新たな息吹が吹き込まれ、各曲我々を惹き込みにかかる。「わらべうた」もバンドサウンド寄りに変貌。カオスを引き出し、本来のネイキッドな姿を現す。そして、この日のハイライトは「近眼のゾンビ」であった。不穏さたっぷりのスリリングなイントロから入った同曲。ハルカが拡声器で声を粗(あら)ませ歌い、ミユキもキーボードからギターに持ち替えステージを弾きながら徘徊。緊張感と緊縛感は作品の比ではなかった。同曲独特のサイケ感を伴って、ひりひりビリビリとした感覚を伴って我々を興奮させていく。
後半戦はドライヴ感溢れる楽曲が連射された。疾走感たっぷりに駆け抜けていった「振り出しに戻る」、各人のインタープレイが炸裂した「バッドエンドの続きを」、ステージに向けてのコブシをより上げさせた「ニュートンの林檎」、昨年の野音で初披露されて以来となる、野音でしか歌わない「LIFE2」が歌い出されると、スクリーンに映し出される同曲のリリックを一文字も見逃すまいと、歌を聴きながら会場のみながそのリリックを追いかけ、自分のものにしていく。ミディアムでどこか安堵感のあるサウンドに乗り、当たり前だけどとても大切な言葉たちが贈られ、場内各人の心の奥底にまで染み込んでいく。
アンコールではこれまでとこれからの彼女たちの大切な2曲が歌われた。1曲はニューアルバムのラストを飾っていた「種を蒔く人」。同アルバムを結実し、全曲を全てオセロの黒を白に変えるような浄化ナンバーだ。そして、「ここで発表があります」と、改めて上述の映画「ゆらり」主題歌「手紙」のこと。この日よりYouTubeにて、同曲のMVのショートバージョンが公開されること。10月からは2人編成でのアコースティックスタイルの「種編」、2018年1月からはバンドスタイルでの「花編」の全国ツアー「溜息の断面図TOUR 2017-2018 種を蒔く」を行うことを告げ、会場を嬉喜させる。
「今日も小さくても花が咲いたと思う。これからもどこかで一緒に花を咲かせていきたい」ハルカの言葉のあと、この5年間、大切に歌われてきた、既に聴き手の歌とも言える「Vanilla」(1st EP収録)が会場の隅々にまで染み渡らせるかの如く歌われた。
「ハルカトミユキを観に来たってことは、言葉にならないモヤモヤを吐き出しにきたんでしょ!」とライヴの終盤でミユキは会場に向けて煽りも込めて叫んだ。
言葉にならない想い、突きつけて欲しかった言葉、時に厳しく、時に優しく、突き飛ばされたり、胸倉を掴んできたり、かと思えば愛撫してきたり…。明も歌えば、暗も歌う。だからこそ信用の出来る彼女たちの歌…。この日、浴び続けたサウンドとメロディに乗せられた無数の言葉たちが、終演後にはすっかりと自分のものになったかのような気持ちになっていた。と同時に、浄化され、また白く戻れた自分がそこには居た。“これでまた当分は汚れても大丈夫だ…”。そんな明日への活力を得て、私も周りのみんなと同じく、白くなれた嬉しい気持ちと共に会場を後にしたのだった。
【取材・文:池田スカオ和宏】
【撮影:上山陽介】
リリース情報
[配信]手紙
2017年11月03日
SMAR
2.夏のうた(Live at 日比谷野外大音楽堂[2017/09/02])
3.夜明けの月 (Live at AKASAKA BLITZ[2017/02/25])
4.流星(吉田拓郎カバー)
5.Story of my life(ONE DIRECTIONカバー)
セットリスト
HARUKATOMIYUKI
+5th Anniversary SPECIAL
2017.9.2@日比谷野外大音楽堂
- 01.世界
- 02.DRAG & HUG
- 03.伝言ゲーム
- 04.インスタントラブ
- 05.Sunny,Cloudy
- 06.Pain
- 07.ドライアイス
- 08.絶望ごっこ
- 09.夏のうた
- 10.宝物
- 11.手紙
- 12.夜明けの月
- 13.わらべうた
- 14.近眼のゾンビ
- 15.終わりの始まり
- 16.Stand Up, Baby
- 17.振り出しに戻る
- 18.バッドエンドの続きを
- 19.ニュートンの林檎
- 20.LIFE2
- En 01.種を蒔く人
- En 02.Vanilla
お知らせ
溜息の断面図 TOUR 2017-2018
種を蒔く〜種〜
10/20(金) 宮城 LIVE HOUSE enn 3rd
10/22(日) 栃木 悠日カフェ
10/27(金) 福岡 ROOMS
10/28(土) 大阪 南堀江Knave
10/29(日) 京都 SOLE CAFE
11/04(土) 愛知 BL cafe
11/12(日) 東京 渋谷7th FLOOR start 14:30
11/12(日) 東京 渋谷7th FLOOR start 18:30
溜息の断面図 TOUR 2017-2018
種を蒔く〜花〜
[2018]
01/13(土) 梅田Banana Hall
01/14(日) 愛知 APOLLO BASE
01/27(土) 神奈川 BAYSIS
02/02(金) 東京 LIQUIDROOM
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
★オフィシャルHP先行受付中!
≪「花」公演のみの受付となります≫
9/9(土) 12:00 〜 9/18(月・祝) 23:59
http://eplus.jp/hmhanahp/
★詳細は、ハルカトミユキオフィシャルサイトにて
http://harukatomiyuki.net/