開催11年目にして過去最高、くるり主催の音楽祭「京都音楽博覧会 2017」
くるり | 2017.10.12
断言してもいい。過去11年間の歴史の中で、今年が最高であったと。《京都音楽博覧会》(音博)は参加者のためのお祭りであると同時に、くるりというバンドのテーゼそのものであるということを、今年ほどフォーカスさせて明示した開催年もない。
11年も休まず継続開催していれば、当然、顔ぶれや方向性にその時々に応じたモードが現れる。それこそが、本来、社会との合わせ鏡であるポピュラー音楽の醍醐味だし、実際に、その年々を象徴するような出演者がこれまでのステージを彩ってきた。それでも思うのは、《音博》は根本が一切ブレていないということ。《音博》というイベントの性格をそのままに、音楽ファンをタコツボ化から解放させるかのようなラインナップを貫いているということだ。
《音博》が開催される場所は、京都駅から徒歩15分程度の町中にある梅小路公園の芝生広場。日時は毎年9月の土日祝日のいずれかの日中12時~19時。フードエリアはチケットがなくても入場可能。そんな、音楽ファンじゃなくても気軽に参加できる、家族連れでも行きたくなる敷居の低さは、一緒に歌える、子供でも体を揺らせて踊りたくなる、真の意味でのポピュラリティを持っている音楽を届けるという一点にちゃんと着地させている。
そういう意味で、今年のメインが“生“歌謡ショーというスタイルだったのは見事に筋が通っている。生の管弦楽団と固定バンドがバックをつとめて歌手がその前で歌う……それは、かつてテレビの歌番組で何度も見かけた光景。今や『紅白歌合戦』でさえもほとんど見られなくなったこのスタイルをあえて導入し、しかもASIAN KUNG-FU GENERATIONのGotchこと後藤正文、ORIGINAL LOVEの田島貴男、UA、布施明、二階堂和美(以上登場順)という、様々な世代、フィールドで活躍する“歌のプロ”をヴォーカリストとして招く。《音博》11年の歴史の中でもここまで明確にコンセプトを立てたのは初めてのことだろう。“歌”への意識的な見直しは、《音博》でのテーマに限らず、日本の音楽シーンの最前線を長く牽引してきているくるりにとっても、大きな主題提起なのかもしれない。しっかりと言葉やその背後にある思いを表現し、伝え、届けられる“うた歌い”が今こそ必要だ、と。
そうした彼らの願い、思惑は、いみじくもこのタイミングで発表されたくるりのニュー・シングル「How Can I Do?」(DVD『くるくる横丁』にCDとして付属されている他、iTunesでも試聴できる)における、岸田繁のヴォーカルの変化にも確実に現れているのだが(それについてはこちら)。それはさておいても、今年の《音博》のラインナップが、歌の在り方に対し独自の哲学を持ち、それをカタチにして提示することができる顔ぶれが揃った事実。イベントをキュレートすることの意味が、これまでにないアングルから11年目でこれほど鮮やかに結実するとは!
正午ちょうどにくるりのメンバーによる恒例の挨拶の後、そこから前半は海外から招聘したアクト3組が中心。出演順に、ディラ・ボン(インドネシア)、トミ・レブレロ(アルゼンチン)、そして、京都音博フィルハーモニー管弦楽団(音博フィル)というスペシャル・オーケストラが登場し、その音博フィルに今回のハウス・バンドのメンバーでもある屋敷豪太らを従えたアレシャンドリ・アンドレス&ハファエル・マルチニ(ブラジル)がそれぞれにパフォーマンスを繰り広げた。インドネシアのインディー・シーンでは様々な音楽性を交配させたハイブリッドな音楽性と、その軽やかな歌声で人気を集めるディラ・ボンは「Bara no Hana」を、2014年、2015年に続いて《音博》3度目の出演になる陽気なバンドネオン奏者のトミ・レブレロは「Bremen」を、音博フィルはNHK-FM「くるり電波」のテーマ曲である「2017年の行進曲」を……と、それぞれがくるりの代表曲や所縁の曲をピックアップ。特にディラ・ボンとトミ・レブレロによるカヴァーは、“いいうた”を広く世代、国籍、フィールドを超えて共有することを貫く《音博》の主題を射抜いていたと言っていい。
海外アクトの中でとりわけ印象的だったのが、ブラジルはミナスからやってきた若きシンガー・ソングライターのアレシャンドリ・アンドレスと、盟友のマルチ・インストゥルメンタリストのハファエル・マルチニ。2013年に日本でもリリースされたアレシャンドリのセカンド・アルバム『Macaxeira Fields』でファンになった筆者のようなファンも多くステージ前につめかけ見守る中、音博フィルを従えた彩りと情緒豊かな演奏が、シャープで現代的でもあるアレシャンドリの歌とメロディを実に芳醇に表現していく。オーケストラル・ポップ、チェンバー・ポップと評されることも少なくないアレシャンドリの立体的な歌世界は、間違いなくこの日のハイライトのひとつだった。
休憩を挟んだ後は、岸田繁、佐藤征史、ファンファンという3人がしっかり揃った形でくるりが登場し、代表曲を中心に12曲を演奏。中でも「How Can I Do?」、ジェイアール京都伊勢丹とのコラボ曲「特別な日」という新曲2曲からは、ソングライターの岸田繁とくるりが、今こそ地に足のついたわかりやすくもヒューマンな歌をしっかり届けようとしていることが伝わってきた。とりわけ《音博》では世代を超えたオーディエンスが来場することを視野に入れて選曲しているということもあるだろう。「How Can I Do?」での、言葉を丹念に置きにいくように歌う岸田繁の落ち着いたトーンのヴォーカルにやはり今年の《音博》の全てがあったと思う。
そして後半は“生”歌謡ショー。固定メンバーによるハウス・バンドと音博フィルをバックに5人のヴォーカリストがリレー形式に登場しては持ち歌を3曲ずつ披露していった。ハウス・バンド……と言っても、佐橋佳幸(ギター)、Dr.kyOn(キーボード)、高桑圭(ベース)、屋敷豪太(ドラム)というこれ以上ないと言える豪華な4名。ギタリストとしてだけではなく、これまで数多くのJポップのヒット曲の編曲や演奏を手がけてきた佐橋佳幸と、ボ・ガンボスの元メンバーで現在は多くのサポートの他、玉響楽団の一員としても活動するDr.kyOnは先ごろDarjeeling(ダージリン)というユニットとして新レーベルを立ち上げたばかり。元GREAT3の高桑はCurly Giraffeとして活動している他、いくつものサポート、バック・アップ仕事も多数という人気者。屋敷豪太に至ってはミュート・ビート、MELON、ソウルIIソウル、シンプリー・レッド…という名前を出すまでもなく、ドラマー、プロデューサーとしての優れた仕事は枚挙にいとまがなく、アレシャンドリらこの日の海外アクトたちからも敬礼されるほど……といった具合に、この4名にもっとフォーカスさせてもいいと思えるくらいにスキルも安定感も抜群の演奏で歌い手を支える。
加えて、京都市立芸術大学出身者たちを中心とするオーケストラもいるとあっては、その歌い心地、聴き心地が至福なのも当然。オアシスのリアム・ギャラガーよろしくギターも持たずに後ろで手を組んで「小さなレノン」「迷子犬と雨のビート」などアジカンの曲も披露したGotchは、最初は手持ち無沙汰でバツが悪そうだったものの、ソロ作品の曲「Taxi Driver」で少し落ち着いたのか、次第に歌に集中して届けることに快感を覚えているような印象だったし、近年になってヴォーカリストとしての自覚が高まったというORIGINAL LOVEの田島貴男も「ウイスキーが、お好きでしょ」「プライマル」「接吻」というキラーチューン連発で色気と粋を感じさせる歌の風合いに客を酔わせた。カラフルな衣装で登場したUAは、いつもの慣れたバック・メンバーによるユニークかつ洗練された演奏とは違う、あくまで歌とメロディに寄り添わせた演奏で新作からの曲を聴かせただけでなく、ヒット曲「悲しみジョニー」も熱唱。この日のもうひとつのハイライトと言ってもいい布施明に至っては、「君は薔薇より美しい」「シクラメンのかほり」「My Way」と世代を超えてアピールする選曲でディナー・ショウのごとく華やかで壮大な時間を届けてくれた。そんな布施の後に登場することに申し訳ない気持ちがあったという二階堂和美だが、いざ始まってしまうと真っ白のドレスからエネルギーを放出させんばかりに「いてもたってもいられないわ」でパーティー・ムードを爆発させる。ジブリ・アニメ『かぐや姫の物語』の曲として知られる「いのちの記憶」では場内の子供たちも一緒に歌っていたようだ。
そして、フィナーレはくるりによる「宿はなし」。《音博》ではお馴染みの曲だが、今年4月からNHK京都放送局の平日夕方のニュース番組でこの曲のオーケストラ・ヴァージョンがエンディングで流れている。「京都の大学生」や、今年は披露されなかったが「リバー」など、もともと地元京都を舞台にした曲を多く描いてきたくるりだが、今年の「宿はなし」は、特に、京都の何気ない日常風景の中に、今のくるりがしっかりと根付いていることを改めて伝えてくれるかのような手応えも残してくれた。
かように、今年の《音博》は歌への希求が特に軸になっていたわけだが、もう一つ特筆しておきたいのは、あくまで国内アーティストの場合だが、一定のキャリア、評価、人気、知名度のある音楽家が、アリーナや大きなホールではなく、市井の人々が日常的に暮らす町中でしっかりと歌を披露できる場所を提供しようという意識を強めているのではないかということだ。これまでにも小田和正、矢野顕子、細野晴臣、奥田民生、斉藤和義、Mr.Children、あるいは石川さゆり、八代亜紀といったビッグ・ネームが出演してきた《音博》。そこには、テレビにも出てしまうようなポピュラリティのあるミュージシャンたちだって本来は音楽を純粋に届ける存在であり、身近な存在なのだ、ということを訴えたい思いがあったはずだ。さらには、そこに日本ではまだまだ無名の海外アクトが一緒に出演するということの醍醐味も……。11年目を迎えた《音博》と、キャリア20周年を経過したくるりというバンドが、改めてそうした願いを京都でコツコツと実践していることの豊かさ、勇気を、私たちは今一度考えてみてもいいのではないかと思う。もちろん、その背後にあるのが、くるりのメンバー自身何よりの音楽ファンであり、リスナーであるという邪気のなさであることは言うまでもない。
《音博》の数日後、アレシャンドリ・アンドレスの東京単独公演の会場には、メンバーの中でとりわけアレシャンドリの来日に情熱を持って働きかけたという佐藤征史の姿があった。1曲ごとに惜しみない拍手を送る、そんな淀みのない姿が《音博》の11年を継続させているのである。
【取材・文:岡村詩野】
【撮影:井上嘉和】
セットリスト
京都音楽博覧会2017
2017.09.23@京都・梅小路公園 芝生広場
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■Dhira Bongs
- 01.Ice Cream
- 02.Puncak Pohon Bandung
- 03.Bara no Hana
- 04.Make me Fall in Love ■Tomi Lebrero
- 01.Tucha
- 02.Armadolo
- 03.Matsuo Basho
- 04.Bremen
- 05.Anaguitay
- 06.Yanazus
- 07.seven days
- 08.Michelangelo 70~medley ■京都音博フィルハーモニー管弦楽団
- 01.ホルベルク組曲より「前奏曲」
- 02.2017年の行進曲(NHK-FM くるり電波テーマ曲) ■Alexandre Andr?s & Rafael Martini
- 01.Um som azul
- 02.P?ndulo
- 03.Macaxeira Fields
- 04.Ala P?talo
- 05.Dual ■くるり
- 01.ジュビリー
- 02.コンチネンタル
- 03.Remember me
- 04.ロックンロール・ハネムーン
- 05.everybody feels the same
- 06.特別な日
- 07.琥珀色の街、上海蟹の朝
- 08.京都の大学生
- 09.How Can I Do?
- 10.WORLD’S END SUPERNOVA
- 11.ブレーメン
- 12.奇跡 【京都音博“生”歌謡ショー】
- 01.小さなレノン
- 02.Taxi Driver
- 03.迷子犬と雨のビート ■田島貴男(ORIGINAL LOVE)
- 04.ウイスキーが、お好きでしょ
- 05.プライマル
- 06.接吻 ■UA
- 07.悲しみジョニー
- 08.AUWA
- 09.いとおしくて ■布施 明
- 10.君は薔薇より美しい
- 11.シクラメンのかほり
- 12.My Way ■二階堂和美
- 13.いてもたってもいられないわ
- 14.いのちの記憶
- 15.お別れの時 ■音博フィナーレ
- 16.宿はなし
■Gotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION)
お知らせ
くるり 2018年 春 全国ツアー
02/23(金) Zepp Osaka Bayside
02/24(土) Zepp Osaka Bayside
03/03(土) 札幌ペニーレーン24
03/04(日) 旭川CASINO DRIVE
03/06(火) 青森Quarter
03/08(木) 仙台Rensa
03/10(土) 富山MAIRO
03/11(日) 金沢EIGHT HALL
03/16(金) 鹿児島CAPARVO HALL
03/18(日) 福岡DRUM LOGOS
03/20(火) 愛媛WstudioRED
03/21(水・祝) 香川festhalle
03/23(金) 広島クラブクアトロ
03/24(土) Zepp Nagoya
03/30(金) Zepp Tokyo
03/31(土) Zepp Tokyo
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