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挫・人間ツアー2017~集まれ!隅っコ!移動型 在宅バンド 猛レース~

挫・人間 | 2017.11.16

 MCの減少やシニカルさ、内輪性からの脱却や飛び道具に頼らない姿勢、はたまたギターの夏目創太のノンメイク等々……。この日の挫・人間のライヴは、どこか「これまでの自身からの脱皮」の意図も内包していたようにも映った。とは言え、それはけっしてこれまでの自分たちを否定し、新しいスタイルへの移行とは多少違った類。言わば、これまでを踏まえつつも、より音楽性や楽曲、そこに込めた真意を前面に出して伝えていく方法論へのシフトを、この日のライヴからは感じた。

 挫・人間がニューアルバム『もょもと』のレコ発ツアーのファイナルを11月10日に東京・渋谷クラブクアトロにて行った。今回のツアーは全国9カ所で敢行。大阪と東京はワンマン形式であった。

 オンタイムになり、場内BGMが止むと、まずは影アナが入る。その声の主は夏目だ。ドラマチックに注意喚起やお願い事項を伝える、夏目。凄くかっこいい声色なのだが、その内容やドラマチックな声描写に会場各所からクスクスと笑い声が漏れる。
影アナが終わるとSEに乗り、下川リヲ(Vo.&G.)、夏目創太(G.)、アベマコト (B.)、サポートドラムの菅大智(電化アベジュリー/ゴールデンシルバーズ)がステージに現れる。まずは4人がステージ中央に縦列し、千手観音のムービングポーズ。終えるとしれっと各人自身の持ち場へと向かう。

 ライヴはタオル大旋回曲「テクノ番長」から始まった。のっけから生まれる一体感。アべもスラップ交えたベースプレイを魅せる。ニューアルバム収録の「よくないんです」に入ると、先程と打って変わりポップさと軽さが場内に呼び込まれ、楽しい雰囲気が辺りに満ちていく。メンバーもステージ上でサイドステップを交えてプレイ。ここでは夏目のギターソロもキラリと光り、サビでは下川がお得意の超高音ボーカルを会場中に響き渡わたらせた。続くニューアルバムからの「おしゃれメロス」では、気づけば下川もいつの間にかジャッケットにサングラスを着用。シティポップさとアーバンディスコ感が場内に拡散されていく。アベ、菅のリズム隊が生み出すグルーヴィさの上、夏目のファンキーなギターカッティングがみなを腰で踊らせる。また、「人類」ではスリリングさが場内に充満。下川が曲中で「バカがいっぱいだ」と嬉しそうに毒づく場面も見られた。

 ここで軽いMCを挟み、「これから渋谷を地獄に落とすゼ!!」と夏目が告げ、「人生地獄絵図」にイン。菅のツーバスが地響きを起こす。パーっとした開放感の表れも独創的な同曲。各人のソロも交えたメンバー紹介も見どころであった。そして、下川もギターを持ち「セルアウト禅問答」に入った際は、情報量の詰まった下川の早口でまくしたてる歌と共に、曲に込められたI Love Youな気持ちが場内に広がっていく。

 お姉口調での各人のMC後は、「私たちも普通の女の子に戻りたい!!」とばかりに、地下アイドル的電波ソング「☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆」へ。楽器を持たず、打ち込みテクノ的BPM高目なサウンドの中、サイリウムとオタ芸で会場も応戦。楽しい空間が作られていく。

 ようやくミディアムテンポの曲が現われたのは、下川のギターと歌い出しから入ったニューアルバム収録の「そばにいられればいいのに」からであった。同曲では彼らのメロディメイカー具合が最も光り、楽しさとスウィング感を会場の隅々にまで届けた「ココ」では、下川/夏目のツインリードも見られた。また、パーっと周りを明るくした「天使と人工衛星」に於いては、彼らの高いプレイヤビリティを堪能。長いアウトロが会場をグイグイと惹き込んでいった。そして、「ゲームボーイズメモリー」では、グルーヴィさが会場を横にノらせ、サビの4つ打ちディスコビートに合わせてフロア両サイド頭上のミラーボールもドリーミーに回転。至福な時を過ごさせてもらった。

 後半戦はニューアルバムからの曲たちが連射された。と、その前にはツアーを振り返るMCが配置されており、そこでは、「今回のツアーを経てメンバーのことが改めて好きなことに気づいた」と下川と語り出し、「その際、公衆浴場にて語り合ったこと」「実はバンド結成以前から、同じ稀有なネットコンテンツを見ていて、その辺りから既に接点があったであろうこと」等々、このツアーを経て改めて知ったり、気づいたりしたこと、また、バンド仲間以前にお互い、もっと深い部分での繋がりや趣味が合う面をMCを通し教えてくれた。
そんなネットを通しての趣味や繋がりが、実はこれからの時代の重要なコミュニケーションや出会い、一緒にやっていく際の大切なツールになっていくであろうことを想像させた「チャーハンたべたい」、「明日、俺はAxSxEになる......」では、作品以上の長いイントロが高揚と飢餓を煽り、楽曲の持つ躍動感が会場に一体性を与えた。また、彼ら史上最もドラマティックな曲とも呼べる「クズとリンゴ」では、徐々に転調していく高揚感やドラマティックさに不覚にも感動してしまった(笑)。しかし、やはり最後は楽しく一体感溢れる「絶望シネマで臨死」で大団円。凄くちゃんとした終わり方に、いい意味で感動した。「なんだかすごい夜になったんじゃないかな」とは夏目。その言葉には正攻法ながら会場全体を制覇できた自信が伺えた。

 アンコール。ここからは、かつての彼らが顔を覗かせる。アロハに着替えたステージ上の4人が、ニューアルバム中、飛び道具的な立ち位置であった「Tee-Poφwy」を始める。擬似リゾート気分満天のトラックに、夏目のアジテートと各人のセリフ回しも含め、作品同様の歌のみによるシュールな寸劇が繰り広げられていった。

 これで終わらないとばかりに再び4人がステージに現れる。これまでのMCの少なさを一気に取り戻すかのように、ここからは20分以上に渡る長い長い下川のMCが、最後には感動さも交え伝えられる。ラストは定番の「下川最強伝説」が会場への愛と共に放たれた。気高く誇らしいアンセムのように会場中が天に向かい除霊するかのように同曲を一緒に歌う光景は圧巻。最後は何か憑き物でも落ちたかのようなすっきりとした気持ちにさせてもらった。

 最後に冒頭に記した、どうして自分が今回の脱皮を想起したかについて書こう。それを確信づけたのはライヴの本編終盤であった。通例の彼らなら、その辺りは人気曲や従来の盛り上がり曲のオンパレードでカタルシスまで導くところ。しかし、この日の彼らはあえてそこで新作からの楽曲を連射。逆にそれでもキチンと盛り上がりを作っていく光景を生んでいった。いわずもがな新作『もょもと』は割と正攻法な曲が多い。いわゆる飛び道具や闇雲な勢い、力任せな強引技をあまり用いずに、聴かせ、ノラせ、盛り上げる力を持つ曲が多かった。それらの曲を用入りながらも、キチンとこの日の場内を従来と遜色のない一体感と盛り上げを保ちながらラストまで持っていった面は特筆に値する。今のところ彼らを語る上で、どうしても外せない、「サブカルの申し子」的なワード。それらが使われずとも彼らの音楽が評される。そんな日が来るのも、そう遠くないことをこの日のライヴを観終え確信した。

【取材・文:池田スカオ和宏】
【撮影:高村勇一郎】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 挫・人間

リリース情報

もょもと

もょもと

2017年10月04日

redrec / sputniklab inc.

1. ハッピーバースデー
2. チャーハンたべたい
3. 明日、俺はAxSxEになる......
4. よくないんです
5. eve
6. クズとリンゴ
7. ココ
8. Tee-Poφwy
9. おしゃれメロス
10. 絶望シネマで臨死
11. そばにいられればいいのに

セットリスト

挫・人間ツアー2017~集まれ!隅っコ!移動型 在宅バンド 猛レース~
2017.11.10@渋谷CLUB QUATTRO

  1. 1.テクノ番長
  2. 2.よくないんです
  3. 3.おしゃれメロス
  4. 4.人類
  5. 5.人生地獄絵図
  6. 6.セルアウト禅問答
  7. 7.土曜日の俺はちょっと違う
  8. 8.ハヤオ
  9. 9.☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆
  10. 10.そばにいられればいいのに
  11. 11.ココ
  12. 12.天使と人工衛星
  13. 13.ゲームボーイズメモリー
  14. 14.チャーハンたべたい
  15. 15.明日、俺はAxSxEになる......
  16. 16.クズとリンゴ
  17. 17.絶望シネマで臨死
  18.  Encore
  19. En-1.Tee-Poφwy
  20. En-2.下川最強伝説

お知らせ

■ライブ情報

大島智子 個展『パルコでもロイホでもラブホでもいいよ』
11/18(土) GALLERY X BY PARCO
*下川リヲ 弾き語り

バックドロップシンデレラ サンシャインとウンザウンザを踊るツアー
12/01(金) 神戸 太陽と虎
12/02(土) 京都MOJO

クラブ・ルナティカ プレゼンツ「ジャパン・ツアー 2017」
12/17(日) 下北沢CLUB Que

奇天烈大発火!!-ツーマンスペシャル-
12/27(水) 新宿レッドクロス

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2018/01/08(月祝) 新宿レッドクロス

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2018/01/15(月) 東高円寺U.F.O.CLUB

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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