新旧織り交ぜた選曲で作り上げていった豊かな時間。吉澤嘉代子、「お茶会ツアー」ファイナルをレポート
吉澤嘉代子 | 2017.12.11
「ご主人様、お嬢様、おかえりなさいませ!」
客席後方からメイド姿の吉澤嘉代子、運転手役のkashif (Gt)、執事役の横山裕章(Key)が現れ、まずはステージに3人並んでご挨拶。その後「本日はお茶会ツアー2017、ファイナルへようこそ!今日は楽しい時間を過ごしましょう!それでは、お茶会スタート!」と、吉澤の可愛らしい号令で幕を開けたこの日。ツアーにかける意気込みとしてはこれまで全力投球で世界観を作り上げてきたアルバムのリリースツアーと変わらないのかもしれないが、和やかなムードの中、自由度の高い選曲と心からのおもてなしで私たちゲストを楽しませてくれた。
このツアーは浜松・窓枠からスタートし、通常のライブハウスだけでなく、京都の紫明会館や名古屋の三楽座など、各地の風情ある会場もセレクトされてきた。全国13都市14公演、チケットは全会場SOLD OUT。1曲目の「ものがたりは今日はじまるの」が始まる瞬間、メンバーの方を向いて「1,2,3,4」とカウントした吉澤の小さな声が聞こえた時にハッとしたが、それくらいの距離感で今回はライブを楽しむことが出来るというわけだ。ライブではちょっと久しぶりの「ひゅー」を聴きながら、福岡の住吉能楽殿とか、長崎の香港上海銀行とか、いったいどれだけ幸せな空間になっていたんだろうと思いを巡らせた。
「いつもはMCがない、セリフだけで構成されたライブをやってることが多かったけど、今回はお喋りしながら、皆さんとゲームしたりして楽しくやれたらなと思ってます。いつもセリフを言うことに徹してたけど、喋るってなるとぐちゃぐちゃになっちゃうんですよね。うまく息ができなくなったりするので、今日は落ち着いていきますね(笑)」
吉澤らしいMCに、客席からあたたかい笑いと拍手が起こる。そして、「アルバムのツアーだとそこからの曲がどうしても多くなってしまうけど、今日は今まで書いた曲をいっぱいやりたいと思ってます」と言葉を続けた。3曲目に披露されたのは、彼女がインディーズで初めてリリースしたミニアルバム「魔女図鑑」のオープニングを飾った「未成年の主張」だ。大学生の頃、いろんなことでいっぱいいっぱいになり、もう頑張れないという告白をテーマに曲を書こうと思ったけど、まだデビューもしてないのにそんなことを歌うのもどうかなということで、好きな人に頑張って「好き」という言葉を言うという方向へ転換した曲なのだという。リリースからだいぶ経っても、こういうエピソードとともにまたライブで聴けるのが嬉しい。「地獄タクシー」は楽曲そのものに強烈な世界観があるし、MVでもその後のライブでも、視覚的にものすごいインパクトを残してきた曲だが、この日は運転手役でもあるギターのkashifが「昨日初めて(運転手用の帽子をかぶった自分の)写真を見たら”がきデカ”みたいだった」という自虐的なMCを(笑)。世代的にわかる人も多かったようで客席は爆笑となったが、吉澤が「じゃあ今日は”がきデカ”タクシーで行きますか」と乗っかったものだから、もう主人公の”こまわり君”にしか見えなくなってしまった(笑)。それでも、3人の歌と演奏は最高の形でドライブしていく。「地獄タクシー」、次の運転手が楽しみだ(笑)。
「メタモルフォーゼ嘉代子の、ジェスチャーゲーム大会ー!」
ということで、ここからは各地のご当地キーワードを吉澤のジェスチャーで出題し、お客さんが正解までの時間を地域ごとに競って答えるというコーナーだ。ファイナルの東京公演は渋谷が会場ということで、ギャルっぽい仕草で「SHIBUYA 109」、人ごみを歩いて肩がぶつかる演技で「スクランブル交差点」など、さすがの意思疎通っぷりで回答を促していく(ちなみに1位は長崎と神戸の同率32秒ということだったが、この記録が破られることはなかった(笑))。正解者に手渡されたのは、吉澤嘉代子ファンなら納得のお菓子・ルマンド。大盛況のゲームコーナーを終えて披露されたのは、そのルマンドがMVに出てきた「月曜日戦争」だ。曲の後半では吉澤が手持ちの”ルマンド砲”から客席に向かって銀テープを発射し、客席を盛り上げるという演出も。続く「手品」では、ロープを赤いハンカチーフに変えてみせる手品を披露。ひときわ大きな手拍子とともに演奏された「ユキカ」では、アコギをかき鳴らしながらの激しいアクションで短くなった髪をブンブンと揺らす。体中から「楽しい!」が聞こえてくるようなアップテンポの3曲が続き、これまで以上に生き生きとした笑顔を輝かせていた。
「スター誕生!カラオケデュエットコーナー!」
次に用意されていたのは、初の試みにしてこのツアーの目玉企画になったカラオケコーナー。じゃんけんで勝ち残ったお客さんが歌いたい曲を、吉澤と一緒にデュエット出来るというものだ。このツアーであらかじめ用意されていたのは食べ物縛りの4曲ーー「ガリ」、「ブルーベリーシガレット」、「アボカド」、「麻婆」だったが、この日はファイナルということで特別に、勝者の女の子がリクエストした「ケケケ」をデュエットすることに。じゃんけんに参加した人の多さにも驚いたし、ステージでちゃんと振り付け込みで歌う彼女の仕上がり具合にも驚いた。そんな彼女と一緒に、会場のみんなも振り付けしながら本当に嬉しそうに歌っている。ステージと客席の境を越えて溢れる”吉澤嘉代子愛”に驚かされっぱなしの光景だった。
ライブは早くも後半戦。「曲を書く時は、物語の主人公をどういう人にするかを考えて書くのが好きなんですけど」と切り出し、学校にも家にも居場所はないけど、楽園へ行けると信じて真夜中に暗号を交わし合う小学生の男の子と女の子描いたという「えらばれし子供たちの密話」を披露。歌の中で誰かの人生をひとときの間体験することで、子供の頃の埋まらなかった気持ちや大人になっても残っている気持ちを守り続けているんだと思うと語っていたが、ステージと客席がひとつになって音楽を楽しんでいた先ほどまでとは違い、この曲、そして次の「泣き虫ジュゴン」を歌う彼女は、紛れもない表現者としてちゃんとスポットライトの中に立っていた。セリフがなくても、設定がなくても、歌の中でたしかに主人公の人生が動いている。夏の終わりを歌った「がらんどう」、そして秋の始まりを歌った「残ってる」で本編は幕を閉じたが、もうその歌の強さにただただ圧倒されるばかり。ステージの上で、どんな名優にも演じることの出来ないドラマが生まれていた。
アンコールではまず、この曲を東京で歌うことを楽しみにしていたという「東京絶景」を吉澤ひとりの弾き語りで。バンドバージョン、曽我部恵一とのコラボレーションも素晴らしかったが、各地をツアーでまわってきた最終日に、彼女があらためてこの東京の空の下でひとり歌ったバージョンは格別だった。「東京はうつくしい 終わりのない欲望 むせるまで笑ったって 跡形もない昨日」。そう歌う彼女の声はとても力強く、前向きで、信じる力が漲っていたように思う。アンコールの最後は、お客さんと一緒になってサビの掛け合いを楽しんだ「綺麗」。お茶会の終幕を惜しむかのように客席を練り歩き、ハイタッチしながら無邪気な笑顔を輝かせている。「終わりたくないね!」吉澤もお客さんも、きっとそんな思いを共有していたはずだ。
ひとつひとつの曲に込めた思いを語りながら、新旧を織り交ぜた選曲で作り上げていった豊かな時間。アコースティック・ツアーともまた違うこのお茶会スタイルが、今後もゆっくり長く続いていくことを願いたい。
【取材・文:山田邦子】
【撮影:田中 一人】
リリース情報
残ってる
2017年10月04日
日本クラウン
2.残ってる -ピアノと歌-
3.怪盗メタモルフォーゼ -CM Version-
セットリスト
お茶会ツアー2017
2017.11.21@渋谷 Pleasure Pleasure
- 1.ものがたりは今日はじまるの
- 2.ひゅー
- 3.未成年の主張
- 4.地獄タクシー
- ジェスチャーゲーム コーナー
- 5.月曜日戦争
- 6.手品
- 7.ユキカ
- 8.リクエストカラオケコーナー
- 9.えらばれし子供たちの密話
- 10.泣き虫ジュゴン
- 11.がらんどう
- 12.残ってる
- EC1.東京絶景
- EC2.綺麗
お知らせ
弓木英梨乃 『弓木流 vol.3』
2018/02/16(金) Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。