レビュー

吉澤嘉代子 | 2017.10.02

いい曲だなあ、と心から思う。
 吉澤嘉代子の2ndシングル「残ってる」。昨年秋に行われた「吉澤嘉代子とうつくしい人たち」ツアーでこの表題曲を初めて聴いた時も、彼女の歌に吸い込まれるような感覚になったことをよく覚えている。あの時はまだ未発表音源として披露されていたが、今回ついに待望の音源化。2時間の映画を観ているかのような、濃密な4分間が完成した。
 朝帰りをした女の子は、たぶんいろんなことを考えている。幸せな余韻に浸っているかもしれないし、言い訳を考えるのに必死になっているかもしれない。少しだけ後ろめたかったり、ただただ疲れていたり、後悔の念に駆られていたり。夜の魔法が解けかけたワンピースやメイクが寂しくて、自分だけが違う時間を生きてしまっているような感覚に陥るのも、朝帰りの「あるある」だったりするのだろう。
 今回の楽曲「残ってる」は、朝帰りで降り立った駅の改札から物語が始まる。見慣れた街は一夜にして季節を越えていたけれど、“あなた”の名残を感じながら私はこのまま昨日を生きていたい――。季節の中に取り残されてしまった女の子の切ない気持ちを、鮮やかな描写で綴ったバラードだ。詞曲はもちろん吉澤本人。アレンジとプロデュースは彼女がずっと一緒にやってみたいと思っていたというMETAFIVEのゴンドウトモヒコが手掛けている。アコースティックギターを軸とするバンドサウンド、そこに加えたユーフォニアムとフリューゲルホルンの音色が、ポツンとひとり遠くを見つめている主人公を思い起こさせるよう。感情を爆発させながら「いかないで いかないで」と繰り返されるサビのボーカルは怖いほどに美しく、圧倒される。今回は別バージョンとして「残ってる ーピアノと歌?」も収録されているのだが、伊澤一葉(the HIATUS)のピアノとともに歌うこちらのボーカルもまた絶品。呼吸をするように奏でる2人の音と声に注目してほしい。
 そしてもう1曲は、SHISEIDO「インクストローク アイライナー」Web CMのために書き下ろされた「怪盗メタモルフォーゼ -CM Version-」。吉澤嘉代子ならではの目眩くようなキラキラ感をまとったこの曲は、ピアノとクラリネット、フルート、ドラムが妖しくスイングしながら怪盗メタモルフォーゼの物語を盛り上げていくポップなナンバー。2分ほどのCM Versionなので、いつかぜひこのストーリーの続きを描いてほしい!

 なお、初回限定盤は今年5月に国際フォーラム ホールCで行われた「獣ツアー2017」の模様を収めたLIVE DVD付き。ひとつひとつの楽曲の世界観を視覚的にも楽しめる彼女のライブは必見だ。これまでツアーごとに抜粋されたライブ映像を見ることはできたが、ほぼフルサイズで楽しめるのは今回が初めてとなるのでぜひチェックしてみてほしい。

【文:山田邦子】

tag一覧 シングル 女性ボーカル 吉澤嘉代子

リリース情報

残ってる

残ってる

発売日: 2017年10月04日

価格: ¥ 926(本体)+税

レーベル: 日本クラウン

収録曲

1.残ってる
2.残ってる -ピアノと歌-
3.怪盗メタモルフォーゼ -CM Version-

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