米津玄師 菅田将暉との初共演も実現した、ツアーファイナル日本武道館をレポート!
米津玄師 | 2018.01.19
4thアルバム『BOOTLEG』リリース日から始まった『米津玄師 2017 TOUR / Fogbound』の追加公演として行われた日本武道館2Days。その最終日となった1月10日は、米津にとって、そしてこのライブを見た人にとって忘れがたい夜になったに違いない。曲を聴かせるだけでなくメリハリのある流れで曲をさらに大きなアートとして提示する、そんな米津の気概を実現して見せたライブだった。
ツアー・タイトルにもなった「Fogbound」で幕を開け、「米津玄師です、今日はよろしくお願いしまーす」と明るく挨拶をして始めたアッパーな「砂の惑星」の途中で「武道館!」と呼びかけ、「ナンバーナイン」「飛燕」と『BOOTLEG』からの曲でオーディエンスを引き込んでいく。歌い終わりに言う「ありがとう」の一言も、時には声を張り、あるいは囁いて次の曲への流れを作っていったのは、彼がライブを一つのテーマで進めていることを示唆しているようだった。
柔らかな「かいじゅうのマーチ」ではバックの照明が黄昏のように色づき、「アイネクライネ」は緊張感ある歌い出しから感情豊かな歌に聴き入らせた。夜空を目指し昇っていくような「orion」では、スタンディング・エリアになったアリーナから3階まで、みっちり武道館を埋めたオーディエンスのハンドクラップに負けじと、歌うほどに声に力が入って行った。
「ついにこの日がやってまいりました、武道館公演2日目、ツアーラスト。明日なんかどうでもいい、今日この瞬間が人生で一番楽しいっていうぐらいの盛り上がりを体験したいんですよね。ついてきてくれますか!」
こんなMCをする米津が、武道館の広い空間をちょうどよく感じさせているのは驚きだ。力一杯シャウトして始めた「LOSER」では「聴こえてんなら声だしていこうぜ!」と呼びかけるように歌い、途中からはダンサーが登場し、歌う米津も踊り出す。この曲のMVで振り付けをした、米津が師匠と呼ぶ辻本知彦のコンテンポラリーなダンスがステージを引き締め、その空気に満足したように曲終わりで二人が肩を抱き合った。
「ゴーゴー幽霊船」ではオーディエンスの「ゴーゴー!」という掛け声に応えるように天井からテープが降り注ぎ、「爱丽丝」「ドーナツホール」とアッパーな曲で熱気を高めていく。米津の起点とも言えるボカロ・ナンバーは、ライブでも無条件に高揚させるパワーがある。それを受け止めた「ピースサイン」、ギターを弾きながら歌に集中した「Nighthawks」のスケール感は間違いなく今の米津玄師のそれだった。
ステージ前にスクリーンが降り、大樹の周りを様々な生き物が螺旋を描いて上昇していく命を思わせる映像が映し出された「love」、夏の終わりを思わせる虫の音とともに紗幕が上がり穏やかに歌を聴かせた「打上花火」では米津はゆったりと踊って見せ、「Moonlight」では菅原小春とともに独特のエロスを感じさせるダンスを見せた。歌う米津に向き合って立った菅原は、足の位置を変えずにしなやかな動きで曲に呼応する。白いシャツの米津と黒でまとめた菅原の緊張感ある佇まいに釘付けになった。前半のカジュアルな雰囲気と対をなすように、緊張感のあるアート空間を創り出した構成は、米津玄師というアーティストが持つ可能性の大きさを改めて示したと言っていいだろう。
「次で最後の曲です。ツアーFogbound武道館最終日、こんな日だからこそ、スペシャルゲストを読んでおります。菅田将暉くん!」 呼ばれて登場した菅田は、 「今年、人前に出るのは今日が初めて。菅田さんお仕事ですよって来たら武道館」 と空気をほぐす。菅田を迎えて米津は 「彼がいたから、というか彼がいなかったらできなかった曲であって、今回みたいな大きなステージで初めて二人一緒にできるというのは、この日のために作ったんじゃないかと」 と二人で歌った「灰色と青」について話す。そして二人が並んで始まった「灰色と青」は、記憶すべき数分となった。一段を気合を入れて歌い出した米津の隣で、じっと彼の歌を菅田が聴いている。そしてパートが入れ替わり菅田が感情を込めて歌いだすと、米津はギターを弾きながら菅田を見つめている。競い合うように声を出し表情豊かに歌う二人からは、音楽で繋がれた男らしい友情がにじみ出ているように感じた。歌い終わり、ハグし合うとホッとしたように「ありがとうございます、米津玄師でした、菅田将暉でした!」と米津が挨拶をし、二人はステージを降りた。
アンコールでは、再びステージ前に降りたスクリーンに、幼い少女と赤い髪の女性が登場するアニメーションが映され、「ゆめくいしょうじょ」が歌われた。このアニメーションは以前のツアーでも使われた加藤隆によるものだ。スクリーン越しでは見えないが、バンドの演奏がヴィヴィッドに響き、米津の歌も気持ちが入っている。アカペラで歌った《君の悪い夢も 私が全部食べてあげる》というパートは、強く心に訴えた。
「メンバー紹介していいですか」と呼びかけて、須藤優(Ba)、堀正輝(Dr)、中島宏士(Gt)の名を呼び、紹介してこなかった辻本智彦、菅原小春に加え、菅田将暉も改めて紹介し、「この3名にも盛大な拍手をしてあげてください」との声に大きな拍手が送られたことは言うまでもない。そしてTBS金曜ドラマ『アンナチュラル』の主題歌に新曲「Lemon」を提供したことを告げた後で、「もう最後ですよ、なかちゃん」と、幼馴染である中島に語りかけると、中島は「ほんまやな、武道館2日目か。みんな、ありがとうございました!」と応えた。そして米津が話し出す。
「今回のツアー、アルバム『BOOTLEG』発売日の11月1日から始まって22公演。思えば遠くに来たもんだという気持ちですけど、2ヶ月ぐらい、長いことやってたような気もするし、一瞬で終わったような気もする。いろんな人達が来てくれて、今日もいろんな人の顔だとか声だとか、いろんなものが自分の中に沈殿して残ってる感じがあって。それが自分になっていくんだろうなという予感もあって。ありがたいなって、それしかないんだよね、本当にありがたい」
理解してくれる人も理解したい人もいなかったという故郷の徳島から早く離れたかったと率直に語り、それが自分の音楽を作る原動力になったと言う。 「自分が音楽を作るようになって、音楽を通じて今日はみんなが来てくれている、それはみんなの中に少なからず米津玄師の居場所があるということだと思う。それがどれほど美しいことで、こんなに嬉しいことはない。音楽やってきてよかった。これからも、誰も聴いたことがないような。自分にしか作れない音楽を作って、みんなとおしゃべりしたい」
これほど音楽が切実に人をつないでいることを実感している言葉はないだろう。こんな思いを内包しているから彼の楽曲は強い浸透力を持ち、ライブでも圧倒的な説得力を発揮するのだと確信した。そしてなにより、ほとんどライブ経験がないままデビューした彼が、これほど自分の音楽が持つ世界観をライブで表現するようになったことに嬉しい驚きを感じもした。これから彼は、もっと大きな表現者になっていくに違いない。
【取材・文:今井智子】
【撮影:中野敬久】
リリース情報
BOOTLEG
2017年11月01日
Sony Music Records
02.LOSER
03.ピースサイン
04.砂の惑星 ( + 初音ミク )
05.orion
06.かいじゅうのマーチ
07.Moonlight
08.春雷
09.fogbound ( + 池田エライザ)
10.ナンバーナイン
11.表記未対応(正式表記は、Aliceの中国語簡体字表記となります。)
12.Nighthawks
13.打上花火
14.灰色と青 ( + 菅田将暉)
セットリスト
米津玄師 2018 LIVE / Fogbound
2018.1.10@日本武道館
- 01. fogbound
- 02. 砂の惑星
- 03. ナンバーナイン
- 04. 飛燕
- 05. 春雷
- 06. かいじゅうのマーチ
- 07. アイネクライネ
- 08. orion
- 09. LOSER
- 10. ゴーゴー幽霊船
- 11. 爱丽丝
- 12. ドーナツホール
- 13. ピースサイン
- 14. Nighthawks
- 15. love
- 16. 打上花火
- 17. Moonlight
- 18. 灰色と青 【ENCORE】
- 19. ゆめくいしょうじょ
- 20. Neighbourhood
- 21. アンビリーバーズ