レビュー
米津玄師 | 2017.10.31
米津玄師の4作目『BOOTLEG』は、前作『Bremen』以後に発表してきたシングル曲など6曲を含む25ヶ月ぶりの新作だ。シングルとなってきた曲は、ルーブル美術館の公式イメージ・ソング「アンバーナイン」からTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』オープニング・テーマなどタイアップに、DAOKOが歌う映画『打ち上げ花火』主題歌として提供した曲のセルフカバー、最新MVが公開されたばかりの「灰色と青」は俳優の菅田将暉とのコラボレーションと多岐にわたる14曲が収録されている。そうした話題を楽曲が呼び込んだのは、ハチ名義で発表していたボカロ曲に始まり米津玄師としてリリースしてきた楽曲や存在が際立っているからに他ならない。タイアップやコラボで何らかの縛りがあればあるほど、米津玄師というアーティストの存在が大きく浮かび上がってくるのだ。米津玄師としてデビューしてからの4年、目覚ましい速度で作品をリリースしライブで長足の進歩を見せ、確実にリスナーを得てきた彼の現在が、ここに詰まっている。その作品に敢えて”密造”といった意味を持つ言葉を冠したのは、文字通りかつてと同じように自らの手で”密かに作られた”ものであり、だから足元は揺らがないという宣言なのではないだろうか。
新曲は今までの足跡をうっすら残しながら確実に未来を見据えて進んでいる強さ、孤高の響きや包容力がヒリヒリするような緊迫感を持って迫ってくる。既発曲も新曲とともにアルバムの流れに組み込まれるとひとつのパーツとなって新たなイメージを纏う。
軽やかな旅立ちを歌う「飛燕」に始まり、「LOSER」「ピースサイン」と加速して久々のハチ名義曲「砂の惑星( + 初音ミク)」へと進む。7月の国際フォーラムで披露された曲だが、初音ミクを使って畳み掛けるように歌うハチらしい曲は米津の原点を見せると同時に、飛躍的に広がってきた彼のサウンドスケープを示すものになっている。ここで鋭角的な歌から一転、穏やかに歌う「orion」「かいじゅうのマーチ」は彼のもうひとつの顔を見せ、シニカルな歌詞をクールに揺らせる「Moonlight」のグルーヴが新鮮だ。やはり国際フォーラムで演奏した、ダンサブルな「春雷」と幻想的な「fogbound( + 池田エライザ)」は、繋がる気持ちと擦れ違う思いの軋みがコーラスとなって聴こえるような歌詞に引き込まれる。「ナンバーナイン」が描く不確かな未来、その未来で刹那に生きるような遊び心を感じさせる「爱丽丝(読みアリス)」は珍しく友人たちとの共作だ。「nighthawks」の長い夜はいつか見た「打上花火」を呼び覚まし、さらに子供の頃の自分を今の自分と繋ぐ「灰色と青」が作品の着地点となる。何度聴いても鳥肌が立つようなこの曲は、菅田将暉と歌うことが必然としか思えず、この曲のためにこの作品が生まれたと思いたくなる。どれだけ背が伸びても、変わらない何かがあるようにと、米津と菅田の声が心の叫びのように響く一節が、本作を『BOOTLEG』と名付けた切実な思いを表しているようだ。米津玄師というアーティストを信頼する理由は、ここにある。
【文:今井 智子】
リリース情報
BOOTLEG
発売日: 2017年11月01日
価格: ¥ 3,000(本体)+税
レーベル: Sony Music Records
収録曲
01.飛燕
02.LOSER
03.ピースサイン
04.砂の惑星 ( + 初音ミク )
05.orion
06.かいじゅうのマーチ
07.Moonlight
08.春雷
09.fogbound ( + 池田エライザ)
10.ナンバーナイン
11.表記未対応(正式表記は、Aliceの中国語簡体字表記となります。)
12.Nighthawks
13.打上花火
14.灰色と青 ( + 菅田将暉)