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Uru ソールドアウトとなった東京公演、昭和女子大学人見記念講堂ライブレポート

Uru | 2018.03.14

 モノクロのUruに自由に色を塗っていいと言われたら、何色が似合うだろうか。YouTubeにアップした白黒のカバー動画で注目を集め、’16年に有村架純主演の映画『夏美のホタル』の主題歌「星の中の君」でデビュー。昨年12月に1stフルアルバム『モノクローム』を発表した彼女は、3月4日(水)に昭和女子大学人見記念講堂にてワンマンライブ『monochrome~吹き沁む頬に熱いザフサス~』を開催した。会場のロビーには、“ファンから募った“Uruの色”で色付けされた東京公演のロゴが飾られていたが、音を作り出す工場(music factory)をイメージして作られたロゴの大部分を占めていたのは青系の色だった。
 そして、この日のライブは、彼女がライブのために作ったという心音をイメージしたSEに続き、アクアマリンのような青い光で場内が満たされた中で、映画『悪と仮面のルール』の主題歌として書き下ろされたバラード「追憶のふたり」で幕を開けた。幕を開けたと言っても、彼女自身は幾重にも折り重なったドレープの幕の中での歌唱。スポットライトは当たっているが、細かい表情までは伺えない。続く、「The last rain」ではアンバーの小さな丸い光が舞っていた。蛍や灯籠が空に上っていくようにも見えたし、仕事帰りの電車の窓に映る家々の光のようにも見えた。はたまた、温かく懐かしい光に満ちた空間を、自分を乗せた世界が下へ下へと降りていっていると感じた人もいたかもしれない。観客ひとりひとりにとって見え方、聴こえ方、響き方が違っただろう。Uruは何色にでも染まれる、聴き手にとっては自分の心の鏡のような、自身の思い出を投影できる真っ白なスクリーンのようなシンガーなのだ。

 本名、所在地、年齢などが明かされていたない“謎だらけのシンガー”であるUru。ライブでもドレープというヴェールに包まれたままで歌うからこそ、聴き手はそこに自分の姿や感情を自由に重ねることができる。だからと言って、何の喜怒哀楽もない音楽では聴く意味を見出せないため、しっかりした演じ手の説得力やリアリティも必要になってくる。Uruの音楽はその絶妙なバランスの上に成り立っているのだが、ライブでは音源以上に、彼女がどんなことに悲しみ、どんなことで喜びを感じるかなど、彼女の人となりが伝ってきた。神秘的としか表現できないほど独特の響きを持った歌声からは想像もできないような意外な一面も垣間見えた。

 例えば、最初のMCでは、サブタイトル「吹き沁む頬に熱いザフサス」について、アルバムに入っている14曲のタイトルの頭文字をとったモノグラムで、「ザフサスは余った文字で、特に意味はないです」と明かし、観客を笑わせた。さらに、心音に近い音を入れたSEについて、「みなさんにライブが始まる前のドキドキを感じていただきたくて創ったんですけど、それが自分に返ってくるという(笑)。せっせと自分で穴を掘って、自分で入るという、緊張する音楽になりました」と続けた。その後の「音楽を聴くと、昔のこととか、今の自分が考えてることとか、心の奥にずっとしまっていることだったりとかが、もう一度浮かびあがってくるような素直な時間が過ごせると思います。今日はみなさんの心の中のイメージをこのステージに映しながら。ゆっくりと最後まで楽しんでください」という挨拶は、彼女の歌の本質を最も表している言葉だろう。

 紫の雨が降りしきる中で、言えなかった思いを吐露した「ホントは、ね」。満開になった桜の花びらのもとでナチュラルな歌声を響かせたレミオロメン「3月9日」のカバー。そして、陽光が差し込んだスピッツ「ロビンソン」のカバーと歌詞通りに“水色”のドットが弾んだ「Sunny day hometown」では、一転して明るい歌声で、軽やかなハミングを響かせた。ここで、「近所で毎日ジョギングしている高校生を見て、恋をしてるんじゃないかなと思った」という彼女は、「友達の話なんですが」と前置きした上で、「小学生の時にクラスにちびまる子ちゃんの大野くんと杉山くんのような二人組がいて。ある時、こっそりと思いを寄せていた大野くんが転校することになって。ショックだったけど、何もできなくて。今、何をしてるかな~」と思いを巡らせながら、最後に再び「……友人の話なんですけどね」と付け加えて笑いを誘い、UVERworld「THE OVER」からback number「ハッピーエンド」と、いつかの出会いと別れの季節を思い起こさせるカバー曲を続けた。

 「鈍色の日」からイメージを膨らませて書いたという短編の朗読から、生きていく力の弱さと強さを歌った「鈍色の日」と晴れた日の失恋ソング「いい男」の2曲からは、自分が鈍色に陥り、別れに打ちのめされたとしても、夜は朝になり、雨はやがて上がるんだという、彼女の人生観が垣間見えた。そして、最近ハマってるというおせんべいの話や大雪の日の渋滞のエピソードを挟み、松任谷由実「優しさに包まれたなら」のカバーではリコーダーを披露し、「fly」では、ファンに送ってもらったUruの色を使った映像の前で歌い、「みなさんの力のおかげでこうやってステージで歌うことができています」と感謝の気持ちを伝えた。

「私、外を散歩するのが好きなんですけど、歩いているといろんなものが見えてきて。風が強くて倒されてしまった木があって。その木のところに近づいたら、太い幹が折れて、どんなに頭を垂れてしまっていても、枝の先は天を向いてて、すごいなと思って。頑張って生きようとしているんだなって思いました。私も頑張らないとなって。植物から教わることもたくさんあります」と語った後、「私のあまり良くない癖で、何か失敗してしまったり、良くないことがあると、すごく厚い壁を作って、その中で1人で閉じこもってしまうんですけど、そんな時に救われて、頑張ろうと思えた曲があります。私の歌は、大丈夫だよって引っ張っていくような歌じゃないけど、そんな私だからこそ、歌える唄があると思っていて。今日は、その大好きな曲を私になりに歌おうと思います」という言葉の後に歌った小田和正「たしかなこと」のカバーでは、彼女が大好きだという2番の歌詞<自分のことを大切にして/誰かのこと そっと想うみたいに/せつないとき ひとりでいないで/遠く 遠く 離れていかないで>というフレーズを聴き手一人一人の心にそっと置くように丁寧に歌った。

 故郷をテーマにした歌、小学校の思い出、最近の話、自分の性格などなど。歌い、語るにつれて、少しずつUruの匿名性という名のヴェールが剥がれ、生身の女性としての日々の思いがあらわになっていく。「アリアケノツキ」を歌う前には、「私が幼い頃に父が先立ってしまったときの母の日記を曲にしました。『アリアケノツキ』という曲名がカタカナなのは、寂しいとか、なんで?とか、どこにいるの?とか。そういう気持ちを表す言葉が全部カタカナで書かれていたからです。ありがとうと思ったら、ありがとうと言おうと思うし、ごめんねって思ったら、ごめんねって言おうと思うし」と話したところで言葉をつまらせ、「いつも歌う前にこの話をさせてもらってるんですけど……きっとみなさんもわかってることだと思うんですけど、いつもそばにいる大切な人がずっと、ずっと一緒にいられるという保証はどこにもなくて。だからこそ、いまの存在がすごく儚く、そして、尊いものなんだと思います。それに、もう一度、目を向けてもらえたら嬉しいです」と声を震わせながら観客に訴えかけた。
 月が浮かんだスクリーンの前で全身全霊を込めて歌い上げた「今どこにいますか?」というフレーズに涙を誘われた人も多かっただろう。この日、1番の大きな拍手が沸き起こった後に歌われた母へのメッセージソング「娘より」では、ファンが送った家族写真が使われ、場内はハートウォーミングなムードで包まれた。そして、「仙台に行った時に見た短冊に、幼い字で<みんながしあわせに気づきますように>と書いてありました」というエピソードを伝えた「しあわせの詩」、「生まれてくることが奇跡だと感じることができた」というドラマ「コウノドリ」の主題歌「奇蹟」と、幸せとは何か? 命とは何か? という彼女の音楽の根底に流れている命題を投げかけ、本編は締めくくられた。


 アンコールに登場した彼女は満点の星空のもとでアニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の主題歌「フリージア」を力強く歌い上げた。「今までいろんなステージに立ってきたなと思って。まだ小さくて、椅子に座ると足が床にとどかなかったピアノの発表会とか、小さな町の小さな公民館とか、路上とか、お寺の境内とか。いろんなところに立って、音楽を演奏してきた」とこれまでを振り返り、「こんな大きなステージに立つことができて、やっぱりありふれた言葉しか思い浮かばないんですけど、これしかないです。いつも本当にありがとうございます」と深々とお辞儀をした。万雷の拍手を受けた彼女は、「すごく温かくて。幸せだなって思っています。私が幸せだなって思ってるのと同じくらい、みなさんが私の歌を聞いて、ちょっとでも幸せだなとか、こころ穏やかに過ごせるような時間が作れるようなアーティストでなければならないなと思っています」と意気込みを語った。
 そして、「音楽を本気でやろうと決めたのはいいけれど、まだ何もなくて、悶々としてた時期に作った」という「すなお」で高らかな出発の鐘を鳴らすと、静かにドレープの幕が開いた。デビュー前から大切に歌ってきた始まりの曲「星の中の君」では大合唱が起きたが、<星の光が 今君を染める/声にならないほど 今君は綺麗だよ>と繰り返した観客の歌声は、彼女に向けて歌われたものだろう。聴き手の心の中にある風景と目の前に広がる現実の世界を結ぶ彼女の歌声は優しく美しく、全20曲で2時間半のライブを見終えた後は、山の上で綺麗な星空を見たときのような安らぎを感じていた。

【取材・文:永堀アツオ】
【写真:西槇太一】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル Uru

リリース情報

モノクローム

モノクローム

2017年12月20日

Sony Music Associated Records

1.追憶のふたり
2.奇蹟
3.フリージア
4.鈍色の日
5.ホントは、ね
6.しあわせの詩
7.sunny day hometown
8.fly
9.The last rain
10.いい男
11.アリアケノツキ
12.娘より
13.すなお
14.星の中の君

セットリスト

Uru Live「monochrome〜吹き沁む頬に熱いザフサス〜」supported by uP!!!
2018.3.4@昭和女子大学人見記念講堂

  1. 01.追憶のふたり
  2. 02.The last rain
  3. 03.ホントは、ね
  4. 04.3月9日
  5. 05.ロビンソン
  6. 06.Sunny day hometown
  7. 07.THE OVER
  8. 08.ハッピーエンド
  9. 09.鈍色の日
  10. 10.いい男
  11. 11.やさしさに包まれたなら
  12. 12.fly
  13. 13.たしかなこと
  14. 14.アリアケノツキ
  15. 15.娘より
  16. 16.しあわせの詩
  17. 17.奇蹟
  18.  [ENCORE]
  19. 18.フリージア
  20. 19.すなお
  21. 20.星の中の君

お知らせ

■ライブ情報

京都単独公演
8/18(土)・19日(日)
ロームシアター京都サウスホール

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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