ぼくのりりっくのぼうよみ TOUR 2018 Fruits Decaying 東京公演
ぼくのりりっくのぼうよみ | 2018.03.28
今日はぼくのりりっくのぼうよみ、3枚目のアルバム『Fruits Decaying』のリリース・ツアー最終日。平日の夜にも関わらずフロアは満員、ぼくりりが今の音楽シーンでどれだけホットな存在かが一目でわかる。どちらかといえばシリアスでディープな音楽性なのに、華やかな装いの若い女性が大半を占めるのもいい感じだ。19時ちょうど、ステージに現れたぼくりりは、お洒落な黒づくめのジャケットとテーパードパンツ姿。「ぼくりりくーん」と声が飛ぶ中、1曲目はアルバムと同じく軽快なスウィング・ジャズ調の「罠」で明るく幕開け。続いてソウルフルな「shadow」と、生音の強力なグルーヴに乗って歌うぼくりり。ドラムやベースがどれだけ太い音を奏でても、風のようにすり抜けてしまう不思議な浮遊感を持つ声だ。
「六本木盛り上がってますか。ツアー最終日、楽しくやっていけたらと思います。今日は踊れる曲が多いので、そうしてくれれば。でも、どっちでもいいですけどね」
いたずら好きの少年のように、はぐらかしめいた明るい口調のファーストMCに続いては、ぐっとスピードを上げて「Butterfly came to an end」へ。人力で精巧に組み上げたビートと、サビで一気に開けるエレクトロポップとの対比にワクワク。赤と緑のライトが不穏な空気を煽る中、癖のあるファンキーなビートに乗せて言葉を吐き出す「liar」のエモさに驚き、一転してスローでダークなヒップホップ・チューン「在り処」のけだるいラップに引き込まれる。アクションらしきものはほとんどないが、歌ってラップするだけで観客をリードする、ぼくりりのパフォーマンスには特別な吸引力がある。
「楽しみすぎて、話そうと思ったことを全部忘れました(笑)。ツアーも楽しくて、自分は歌うことが好きだと再確認しました」
この曲でぼくりりを知った人も多いと思いますが。そう言って歌った「sub/objective」は、高校に上がる春休み、彼の言葉を借りれば“なんで自分が生きてるのか理由が見つからないと思っていた”時期に書いた曲。思春期特有の透明な悲しみに満ちたリリックを、寄り添うように支えるクールなグルーヴが心地よい。メランコリックなラテン調のアッパーチューン「シャルル」は、ニコ動でダブルミリオンを達成したバルーンの楽曲のカバー。ドラムが素晴らしいテクニックを見せてぐいぐい盛り上げ、場内がヒートアップしてゆく。バンドのアンサンブルは完璧だ。
ここで少し長めの時間を取り、ぼくりりのぼくりりによる、ぼくりりの成り立ちを語るぼくりり。中一、毎日インターネットを眺めていた目と耳に飛び込んできた初音ミク「ワールドイズマイン」の衝撃。素人でも作れる。音楽は自由。そのカルチャーが僕の故郷。そこから年は重ねたけれど「人前で話すのは全然慣れない」と笑わせる。ぼくりりは音楽も言葉も、MCもフリーダムだ。
「朝焼けと熱帯魚」はボサノヴァ風のピアノを中心に、緩急自在の生音グルーヴが楽しめる1曲で、緊張感ある早口ラップだが後味ほっこり。「つきとさなぎ」はさらに緩やかに、パーカッションとDJのスクラッチが絶妙の会話を聴かせるゆったりメロウなR&Bチューン。“その不器用な羽ではばたいて”と、優しい言葉がじわりと沁みる。穏やかに始まった「Be Noble」は、サビで突如ラウドチューンへと姿を変え、フロアから一斉に歓声と手が上がった。約1年前のシングル曲だが、見る者すべての心を焚きつける、ライブチューンとしての存在感の大きさはすでに絶対的だ。
ここまでの3曲を共作したササノマリイを客席に発見し、「ササノさーん」と手を振るぼくりり。人前で話すのは慣れなくても、人前で何でも言える不思議な男。後半は土くさいロックチューン「CITI」、さらにアッパーな「blacksanta pt.1+pt.2」と攻め続け、一転して「For the Babel」を静かに語るアカペラで歌いだしたあと、再び攻撃的エレクトロビートに転じて突っ走る、アップダウンの激しい展開はまるでジェットコースター。「SKY’s the limit」は昨年の資生堂「アネッサ」CMソングに抜擢されたヒット曲だけあって、明るい四つ打ちビートに乗ってフロアの全員がワイパーを繰り返す。この日一番開放的でハッピーな光景の中、ライブは終盤、そろそろクライマックスだ。
「ライブを通じて曲が成長していくのがうれしいです。子育てありがとう(笑)。立派な子になってよかった」
タケウチカズタケ(Key)、脇山広介(Dr)、須藤優(B)、高橋結子(Per)、HIRORON(DJ)。鉄壁のバンドメンバーを誇らしげに紹介したあと、メンバーの華麗なソロをフィーチャーした「playin’」へ。ミラーボール輝く下、アシッドジャズ風の強靭なグルーヴに乗せてスキャットを交えながら歌うぼくりりの声は、ここまで15曲を歌っても変わらずにクールでみずみずしいままだ。そしてラストは「たのしいせいかつ」。アルバム『Fruits Decaying』と同じく、ウッドベースのもの悲しい響きが胸を打つ、深く沈み込むような余韻の残るエンディング。
アンコール。「Noah’s Ark」は神秘的な曲調にプログレ的な演奏を重ねた、壮麗なロックバラードと言うべきか。現代の神話と言える世界観を語るように歌いながら、フロアへ手を伸ばすぼくりりをまばゆい光が包み込む。同様に「Collapse」も壮大な世界観を持つ曲で、序盤のダークなムードから後半は四つ打ちのビートに乗ってどんどん光があふれ出してゆく。音楽的であり演劇的でもある、とても美しいシーン。
「アルバムを作っている時はナードな気分だったけど、ライブをやることでいろんな景色が見れて良かった。音楽って楽しいなと思えるツアーでした」
アルバム全曲を歌ってしまったため、アンコールのラストはこの日二度目の「罠」だった。が、1時間半前に聴いた気迫みなぎる演奏よりも、今度は笑顔で楽しくリラックスモード。メンバーも遊び心いっぱい、キーボードのタケウチは足で鍵盤を弾きまくるなどやりたい放題、まさにハッピーエンド。と思いきや、「バタフライ、もう一回やっていいですか?」というぼくりりのひとことで、メンバーでさえ予期しなかった「Butterfly came to an end」再演が実現。『Fruits Decaying』を象徴するファンク、ハウス、R&B、ヒップホップなど縦横無尽にミクスチャーした未来系ダンスミュージックを軽やかに披露するぼくりりは、大好きなおもちゃを手にした子供のようにはしゃいでいる。
最後に揃って記念撮影、メンバーと手をつないで挨拶。ツアー中に20歳なったばかりの若い笑顔に「かわいいー」と声が飛ぶ。最先端のダンスミュージック、進化するラップ、内省から神話までを描き切る驚異のリリック、そしてアイコンとしてのポップな存在感。すべてをその身に秘めたぼくのりりっくのぼうよみは、これからどこまで大きくなるのか。その未来に限りない希望と、少しの恐ろしささえ感じたライブだった。
【取材・文:宮本英夫】
【撮影:HIROMOTO HIRATA】
リリース情報
Fruits Decaying
2017年11月22日
ビクターエンタテインメント
02. 朝焼けと熱帯魚
03. Butterfly came to an end
04. For the Babel
05. SKY’s the limit
06. playin’
07. つきとさなぎ
08. たのしいせいかつfeaturing SOIL&"PIMP"SESSIONS