またしても”革新的で革命的。ぼくのりりっくのぼうよみ、10代最後のアルバムについて訊いた

ぼくのりりっくのぼうよみ | 2017.12.11

 11月22日に3rdアルバム『Fruits Decaying』をリリースした、ぼくのりりっくのぼうよみ。10代最後のアルバムとなった本作はアルバムに寄せられた「他の音楽をぶっ殺すぞーという気持ちで」作ったという彼のコメントにもあるように、ミュージシャンとして音楽そのものに真正面から向き合った作品だ。音楽家が自らの芸術に対して真正面から取り組むことの何が特別なのか、と思うリスナーもいるだろうが、そもそもぼくのりりっくのぼうよみは音そのものの愉楽よりも、むしろ意識的に作品性や文脈を重視し、音楽というメディア(媒体)の可能性に挑戦してきたアーティストだ。そんな彼が「いい音楽」という漠としながらも、誰もが追い求める概念に向き合った時に生まれたものーーそれは“またしても”革新的で革命的な傑作だった。唯一にして、ぼくのりりっくのぼうよみの今を紐解く。

EMTG:本作はSOIL & "PIMP" SESSIONSとコラボレーションした「罠」を筆頭として、より肉感的な快楽指数の高い楽曲が並んでいますね。この変化は、意図していたものだったのでしょうか?
ぼくのりりっくのぼうよみ(以下、ぼくりり):音楽を追求するからブラック・ミュージック的なことを意図してやりたいと思ったわけではなくて、SOIL & "PIMP" SESSIONSとコラボしたら自然とこうなるでしょ、という流れで。ジャンル自体には記号的に突っ込んでいった感じがあります。『Noah’s Ark』は非常にコンセプチュアルな作品だったと思うんです。伝えたいメッセージやストーリー、文脈(コンテクスト)があって、音はあくまでも媒介だった。だけど、今回は音楽を主人公にしたかったんです。
EMTG:音楽という媒体自体にはこだわっていなかったですよね。実際、文芸誌でエッセイを発表したり、メディアを立ち上げたりしていて。
ぼくりり:バンドマンがライヴでよく「踊れー!」って言ってた時期が何年か前にあったじゃないですか? あれにちょっと疑問を覚えてたんですよね。身体よりも頭で楽しめる作品を作る方が芸術として価値が高いんじゃないかって思っていて。でも、よく考えてみると自分も好きな音楽を聴いている時には自然と身体が動くし、アーティストとしての自分の魅力は作品性だけじゃなくて、メロディーや音の気持ちよさにも勿論あるわけだし。今作では後者を追求してみようかなって。
EMTG:さっき記号的にジャンルに突っ込んだとおっしゃってましたが、つまり「エロ」というものをマクロで捉えた時に、これが今の最適解だと。表現的には真逆ですが「SKY’s the limit」も、資生堂の「アネッサ」という商品のCMソングとしてピンポイントを狙いにいった感がありますよね。
ぼくりり:うーん……確かに「SKY’s the limit」は他の曲に比べるとキラキラとしたことを歌ってるけど、割と自由にネガティヴなことも書いてますしね。
EMTG:今作の歌詞を読んでいて、閉塞感を強く感じました。「For the Babel」では≪理不尽から逃れられない 現実があった≫とか「つきとさなぎ」には≪繭は繭のまま音もなく消滅≫のような歌詞があって。ある種、20代手前で覚える未来があるようで見えない感覚のようなものが正直に歌われているのかと邪推したのですが、これはご自身の個人的な思いが現れたものなんですか?
ぼくりり:いや、違いますね。自分自身の状況とは異なるところから出てきました。例えば「Butterfly came to an end」は、あるアーティストの言葉が出発点になっていて。その人は「売れたい」とか「ライブをもっと広い会場でやりたい」とか、夢をよく語るんですけど。でも、その夢がサッと叶っちゃったとしたら彼は一体どうするんだろうって思ったんですよね。
EMTG:自分を支える大きなつっかえ棒のようなものが、なくなった時にどうやって生きるのか、ということですよね。
ぼくりり:夢ってすごい過大評価されてると思うんですよね。僕は人生って幸せになるためにあるものだと思っているんですけど。幸福になるために、夢は手っ取り早くて便利な道具なんですよ。夢があると努力するの楽しいし、生きるのが楽しい。叶うと嬉しいし(笑)。でも、今って幸せになることよりも、夢のために生きることが至上命題になりがちだと思っていて。ブラック企業とか今の日本の社会構造にも通じる話かなと思うんですけど。そういう疑問を普遍的に描きたかったんです。
EMTG:面白いですね。話は変わりますが、今回「他の音楽をぶっ殺すぞーという気持ちで」作ったとコメントを書かれていて。これ、びっくりしたんですよ。そういうところとは離れた場所で音楽と向き合っているのが、ぼくりりくんのアーティストとしてのあり方だと思っていたので。
ぼくりり:いや、ぼく、最近、音楽すごい好きなんですよ(笑)。正直、音楽にやる気をなくした時期もあったんですけど。でも、ある時、音楽を作る人間がその本質を捉えられないからってリスナーにダメなものを聴かせちゃいけないな、クソみたいな曲を聴かせるの詐欺だなって思って。今までは「みんな違ってみんないい」というか、多様性に甘えていたところがあったと思うんですよね。でも、いい音楽には価値があるし、広めるべき理由があるなって思えるようになって。「これがイイんですよ!」って言える作品を自分も作ろうと。
EMTG:ポップ・ミュージックの担い手としての使命に目覚めた感もありますよね。でも、ホーンが鳴ってる、ジャズっぽいフレーズが楽曲にあるってだけで「なんか、古臭いな」って敬遠しちゃう人もいるわけで。どこに「いい音楽」の軸を置くのかって難しい問題だと思うんですけど。
ぼくりり:そうなんですよね。小学校低学年の子にふりがなの振っていない難しい漢字だらけの本を渡して「全部読め」って言ったら酷ですからね。どこに「いい音楽」の軸を置くのかについては、ちょっとまだ悩んでる最中ですね。あと、別に「自分は音楽の未来を背負ってます!」っていう気は、やっぱりないんですよ。事実を列挙して整理すると、いい曲を作って広める必要があるっていう。ダサい曲がはびこっているのはおかしい事だ、いい音楽は聴かれるべきだ、だったら自分が頑張るべきだっていう。僕の意思というよりは、そうして当然って感じですね。
EMTG:その話を聞くと「果物(Fruits)が腐る(Decaying)」というのは極めて意味深だなと思いますが。この作品って最初、タイトルが付いていなかったんですよね?
ぼくりり:そうなんですよ。デザイナーの吉田ユニさんから上がってきたジャケットに触発されたタイトルです。今回ジャケがまじでかっこよすぎる。
EMTG:今回、前作だと「Be Noble」とかで聴けた、16ビートでリリックを突っ込むぼくりりくんのシグネチャー的なラップはあまり披露していないですよね。より、少ない言葉で情景を想像させるリリックを書くようになって。歌の比重も増えましたね。『久しぶりに歌ってみた』CDも付属されてますし。
ぼくりり:歌とラップのバランスみたいなところは意識してました。今回は意識してなるべく歌ってますね。歌詞については、情報量の制御の仕方は進歩したかなって思います。
EMTG:先ほどの「ミュージシャンとして、もっと頑張るぞ」宣言といってもいいであろう発言についてもう少し伺いたいんですけど。背負うつもりはなくても、使命感のようなものは明確に感じてるんですか?
ぼくりり:あるんですけど……やっぱり言い切れないというか。それって自分の課題だと思うんですよね。ぼくはアーティストになりきれないんですよ。状況を俯瞰して、いつも見ちゃうから。そのせいで夢を見せてる、みたいなことができない。まあそれでもいいかと思うんですが
EMTG:本当は作品も自分とはかけ離れたところで聴かれてほしい?
ぼくりり:ぼくのりりっくのぼうよみの成長譚として作品を聴いてもらってもいいんですけど、正直いうと、自分とは違うものとして聴いてほしいって気持ちはありますよね。自分が介在しているとズルな気がするんですよ。裏に引っ込んでそのまま表に出ないで曲を発表した方がいいのかなって思いながらやってます。
EMTG:ぼくりりくんは、最終的には何をして生きてたいんですか? 幸福に生きることってなんだと思いますか?
ぼくりり:何がしたいんですかね……ゲームかなぁ(笑)。一生漫画を読んで暮らせたら楽しいんですけどね。真面目にいうと、一つの未来しか選択できないのは知っているけれど、できることならワガママを言い続けたいですね。「ぼくりりってこういう人間なんです」ってなりたくない。ぼく、自分のことゲーム機みたいだなって思うことあるんですよ。
EMTG:「ゲーム機」っていうのはどういう意味ですか?
ぼくりり:自分はあくまでコントローラーを握っているプレーヤーにすぎないというか。カセットを差し替えれば、スタートのレベルは低いかもしれないけれど、いろんな種類のゲームがプレイできる。自分固有の能力とかアイデンティティっていらないんですよ。その考え方を導入することで、プライドとか自分自身とかにこだわらなくて済むようになるんです。
EMTG:自己同一性って、本来ならば複数あってもいいはずですよね。さっきの話じゃないけれど、夢はあってもいいけれど、なくてもいい。複数のカセットをプレイしたってなんら問題ない。
ぼくりり:そう。ひとつのゲームがうまいからって誇って生きていくのはくだらないなって思うんですよね。ゲームっていうと言い方に語弊があるかもしれないけれど、つまり才能ですよね。幸せに生きるっていうのは、何かひとつのものにこだわることじゃないんですよ、きっと。

【取材・文:小田部 仁】

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リリース情報

Fruits Decaying

Fruits Decaying

2017年11月22日

ビクターエンタテインメント

01. 罠 featuring SOIL&"PIMP"SESSIONS
02. 朝焼けと熱帯魚
03. Butterfly came to an end
04. For the Babel
05. SKY’s the limit
06. playin’
07. つきとさなぎ
08. たのしいせいかつfeaturing SOIL&"PIMP"SESSIONS

お知らせ

■コメント動画



■ライブ情報

ぼくのりりっくのぼうよみ TOUR 2018 Fruits Decaying
2018/02/04(日) Yokohama Bay Hall
2018/02/10(土) 札幌 PENNY LANE24
2018/02/12(祝月) 仙台 Rensa
2018/02/17(土) 名古屋 DIAMOND HALL
2018/02/18(日) なんばHatch
2018/02/21(水) HIROSHIMA CLUB QUATTRO
2018/02/24(土) 福岡:福岡 DRUM LOGOS
2018/02/25(日) 高松 オリーブホール
2018/03/15(木) EX THEATER ROPPONGI

ビクターロック祭り2018
2018/03/18(土) 幕張メッセ国際展示場

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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