Nulbarich ONE MAN TOUR 2018 "ain’t on the map yet" 東京公演初日
Nulbarich | 2018.04.04
2ndアルバム『H.O.T』を携えて現在行われている「Nulbarich ONE MAN TOUR 2018“ain’t on the map yet”」、その東京公演1日目を新木場スタジオコーストで観た。去年あたりからライブの評判を耳にしていたが、自分が実際に観るのはこれが初めて。チケットはこの日も翌日の同会場も完売だったそうで、フロアは動きがとれないほどにギッシリ満杯。その動員力にも驚かされたが、それより何より今まで観てきたどんなものとも異なるライブのあり方と温度感に、自分は戸惑うくらいの不思議な感触をもった。それはまったくもって新しいライブのあり方だったのだ。
まず前提として書いておくと、Nulbarichは2016年に活動をスタートさせたバンド……ではあるが、詞曲を手掛けるヴォーカルJQ以外のメンバーがメディアに出ることはなく、各メンバーの名前や経歴などは明かされていない。メンバーが固定されてもおらず、当初は演奏形態や場所に応じてベストメンバーが揃えられる形だった。よってMVに本人たちが出演することもなく、JQの顔や人物像が表に出るようになったのも楽曲が知られるようになって少し経ってから。ゆえに「謎のバンド」と言われたりしていたわけだが、にも関わらず彼らの音楽はまさに楽曲のよさだけで見る見る広まっていった。アシッドジャズやネオソウルを噛み砕いてポップに鳴らす、技術に裏打ちされた再生力。限りなく洋楽的でありながら、洋楽に馴染みのないリスナーに対しての説得力も同時に持ち合わせたラジオフレンドリーな楽曲構成力。その気持ちよさとかっこよさ。それは時代を確実に射抜いたものだった。
そしてそのように「謎の」などと形容されるバンドは、これまでの歴史上はたいていスタジオミュージシャンの集まりだったりしたわけだが、Nulbarichはライブにも力点を置き、ライブで到達したい場所というものが予めあった。だからフェス出演などを通じてライブバンドとしての力をつけ、昨年9月のジャミロクワイの日本武道館公演(Nulbarichはそのサポートアクトに大抜擢された)では大観衆を前にそのライブ力をしかと見せつけた。あるいは、その武道館のステージから見た景色によって、よりハッキリとライブバンドとしての決意や覚悟を持ち、それが今のあり方に繋がっているとも言えるかもしれない。このスタジオコースト公演の1日目のアンコール時、既にニュースでご存じの通り、JQは「2018年11月2日に武道館に帰ってきます、オレら。ワンマンで帰ってきます!」と宣言。「去年ジャミロクワイのオープニングをやらせてもらったとき、そこにいたお客さんたちに救われた気持ちになった」「そのときに見えた景色が確実にあって、やり遂げないといけないと思った」とも話していたが、つまりそういうこと。現在進行中のツアーはだから、昨年ライブバンドとして覚醒した男たちが今年11月の武道館に照準を合わせながら行なっている、そういう(何より本人たちにとって)重要かつ意義の深いものであるわけだ。
クール&ザ・ギャング「サマー・マッドネス」を想起させるメロウなインストをバンドが演奏するなか、JQが最後にステージに登場してセンターに。「よろしくお願いします。夢に見た景色が見えてます。ありがとうございます。一生懸命ライブをやるので楽しみましょう」。たいていのライブでヴォーカリストは1曲ないし数曲歌ったあとで初めのMCを入れるものだが、彼は初めの曲を歌う前段階でそう丁寧に挨拶。これがまず新鮮だった。ツアーは続いているので曲名は書かないが、真の1曲目がそこからドーンと鮮やかに展開。JQはさらに「思うがままに楽しんで!」「あっという間に(ライブが)終わってしまう気がします」と話しかけながら歌い始め、そしてすぐにあの色気のあるファルセットで観客を魅了した。
ステージにいるのはそんなJQに加えて、ギターがふたり、キーボードがふたり、(曲によって)ベースもふたり、そしてドラムがひとり。普通に考えれば各楽器ひとりずつでも成り立つわけだが、その音の厚みや立体感を実際に前にすると、ひとつの楽器にふたり配するのが必然のように思えてくる。楽器と楽器の折り重なる状態から生まれるグルーブが確かに目に見えるのだ。その演奏力はソウルやファンク系だけでなくフュージョン的な表現も各自が纏っているもので、だからスタジオ音源に封じ込められた曲の形をパーフェクトに再現しながらも、そこにはさらに肉体性が宿っている。スタジオ音源のそれに相当忠実でありながら、各楽曲のエモーショナルな成分がより際立っていく恰好だ。バンドメンバーたちの表情は生き生きとしており、プレイに熱がこもっていることがよくわかる。JQはJQでときどき演奏中のそのメンバーたちに絡みに行ったりもする。決して“ひとりのシンガー・ソングライターとその他の職人ミュージシャンたち”といったクールな関係性なんかじゃなく、この日のライブはJQ含めたこの8人でひとつのバンドなのだということが伝わってくる。一体なのだ。けれどもメンバー紹介は最後までしない。このあり方が新しい。
曲はほとんど間をあけずに次から次へとどんどん演奏される。JQもまた、曲と曲の間にMCタイムを設けて喋るのではなく、イントロが始まって歌に入る前に演奏に乗せながら喋ることが多い。曲と曲がどんどん繋がって演奏される様はクラブDJ的と言えるし、そこでのJQはラジオDJのようでもある。だからライブ全体が間断なく繋がりながら進んでいくような感じで、例えば普段我々が観ているライブのように、このあたりはノリのいい曲がまとまってあって、このあたりは聴かせるスロー曲がまとまってあって、そこからまた勢いが増していって……といったような明確なドラマ性のようなものがない。そうではなく、延々と続いていくグルーブのなかで徐々にバンドも観る側も体温があがっていく、そういうあり方なのだ。但しリズムの変化だったり、みんなが大好きなグッドメロディの出しどころだったりが実によく計算されているので、ジワジワくるだけじゃなく、パーンと場面が変わる瞬間というのも定期的に訪れる。JQは歌い手でありながら、そういう全体のグルーブや空気感を常にコントールしていて、そういう意味ではコンダクターの役割も担っている。そんなライブのなかでのあり方もまた新しい。
またJQは、例えば「こっから盛り上がっていこうぜぇ!」といったような煽り方をまずしない。言い切り型だったり命令調だったりの言葉を発しないし、煽ることもしない。が、ときどき「めっちゃ楽しい」などとボソッとつぶやいたりはする。そこには照れもあるのだろうが、その柔らかで自然な感じを観客たちは快く受け入れているのだ。ステージの上と下とでいつでも会話ができそうな……つまり予め垣根が取り払われている状態で、それもまた新しい。
僕たちはいろんなロックやソウルやあれやこれやのライブを観てきて、ノセられたり、煽られたりすることに慣れている。それを気持ちいいもの、アガるものとして、これまでいろんなライブを楽しんできた。しかしNulbarichのライブは違う。JQは無理にノセようとしないし、断定的なもの言いで煽ったりもしない。最良の曲を最良の演奏と歌で洗練を含ませながら聴かせ、観客たちはただただその気持ちよさに反応して手をあげたり揺れたりしている、そういうあり方なのだ。だからきっと、洋楽を聴き慣れた人も普段はJ-ポップしか聴かない人も、ソウルやファンクやジャズのグルーブのあり方・ノリ方を知ってる人も知らない人も、躊躇なくその音の円に入っていけて、昂揚感を得ることができるのだろう。理屈はいらない。“オシャレだから好き”でもいいし、“気持ちいいから好き”でもいい。メンバーが決まってなくてもいいし、曲が始まってからMC入れたっていいし、ライブのあり方なんていろいろであっていい。そういう自由さ、そういう開かれ方が、恐らくは結成から2年数か月という早さでの現在の動員にも結びついているのだろうし、だから11月には武道館がやれるのだろう。“ライブはこうあるべき”とか、“ソウルは、ファンクは、ポップはこうあるべき”とか、そんな固定概念にとらわれることのない若い世代や柔軟な感性の人ほどNulbarichのライブを素直に楽しめる。と、それがわかった気がした公演だった。
【取材・文:内本順一】
【撮影:山川 哲矢】
リリース情報
H.O.T
2018年03月07日
ビクターエンタテインメント
2. It’s Who We Are
3. Almost There
4. Zero Gravity
5. Handcuffed
6. In Your Pocket
7. See You Later (Interlude)
8. Supernova
9. ain’t on the map yet
10. Follow Me
11. Spellbound
12. Construction (Interlude)
13. Heart Like a Pool
<BONUS CD>
1. It’s Who We Are
2. Lipstick
3. Everybody knows
4. Spread Butter On My Bread
5. On and On
6. Ordinary
7. NEW ERA
8. Follow Me
お知らせ
Nulbarich ONE MAN TOUR 2018 "ain’t on the map yet" Supported by Corona Extra
04/06(金)広島クラブクアトロ
04/07(土)イムズホール
04/13(金)古屋ダイアモンドホール
04/25(水)Zepp DiverCity Tokyo
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。