The Wisely Brothers、1stフル・アルバム『YAK』を携え挑んだ「YAK YAK TOUR」ファイナル
The Wisely Brothers | 2018.04.16
以前、知人の日本人バンドが自力でUSツアーを行った際、「向こうの友人宅のリビングでもライブを行って、それは海外ではよくあること」と話してくれたことがあった。話を訊いた当時も想像したであろうが、この日のThe Wisely Brothersのライブを観ている間も幾度か、“シチュエーションや環境、機材は違えど、その際の知人のライブも、こんな雰囲気だったのでは…”との想いを馳せている自分と出会った。
メンバーがファンの有志と共作した装飾品がエントランスの所々に配され、飾られ、我々の入場を歓迎してくれた。入場時の装飾、会話のようなMCとその内容、アンコール前のサプライズ、配曲等々、この日の彼女たちのライブはハンドメイドでホームメイドな、<自宅に招かれている感>が、これまで以上に溢れていた。
The Wisely Brothersが2月発売の1stフルアルバム『YAK』のレコ発ツアーを敢行。そのファイナルが渋谷WWW Xにて行われた。この日のライブは上述『YAK』からの全曲を始め、アンコールも含め彼女たちのライブ最多の全20曲がプレイされた。
場内BGM(The Sea and Cakeを選曲)が鳴り止むと、SEに乗り、真っ暗なステージにメンバーが走り現われる。タオルを掲げ、深くお辞儀をする3人。定位置につきスタンバイを始めるも、その一音が出るまでに少々の間が。見守るような緊張感が漂う中、ボーカル&ギターの真舘晴子のギターの爪弾きとドリーミーな歌い出しが現われる。1曲目は『YAK』収録の「give me a mileage」が飾った。そこに加わっていく至福性のあるベース&コーラスの和久利泉とドラム&コーラスの渡辺朱音による3声のコーラス。合わせてバンドサウンドが重なると、ブワッと一気に生命力が会場全体に満ちていく。そのままノンストップで「メイプルカナダ」にイン。同曲が元々保持していた良い意味での稚拙感を実直な8ビートとフロントピックアップを活かしたくぐもった歪み等のノイジーさがドライブ感を伴って飲み込んでいく。
前半は軽いMCだった。「今日でこのツアーも終わってしまう。最後まで楽しんでいきましょう」と真舘晴子が場内に呼びかける。
歌声のキュートさと彼女たち独特の天空感が味わえた「サウザンド・ビネガー」では、2人のコーラスがドリーミーさを寄与し、ちょっと切ない乙女心を場内に広げていけば、ウィスパーな歌声の「鉄道」、アンニュイな雰囲気を持った16ビートの「グレン」と、比較的短い曲が立て続けに放たれる。また、「彼女のこと」では、ファンキーなカッティングとグルーヴィなベースによる躍動さが場内にパッとした色が呼び込み、「八百屋」では、この曲の特徴とも言える曲途中から16への変貌が、より躍動さを増させ、同時に興奮度を上げていく。
中盤では、「waltz」にて3人の追いかけたコーラスが楽しめ、シューゲイズな「Thursday」では、曲中、相変わらず予告もなく一気にとてつもない高みへと連れていってくれる箇所が想い出深い。また、「おいで」に於いては、真舘のより通る声も楽しむことが出来た。
中盤ブロックでのMCはやや長め。いや、MCと言うよりは3人のお喋りといった趣きの微笑ましい会話が和久利中心に行われる。今秋の映画祭に出展予定の為、現在ビデオを撮り溜めており、その際に客観的にバンド内で色々な改めての発見があったことが実例も交えて告げられ、そこから相撲~モンゴル相撲~次曲「モンゴル」へと繋げるイントロデュース。少し強引なところも、ご愛敬 (笑)。景色感のあるインストナンバーの同曲が3人によるアンサンブルにて、各人に違った景色を思い浮かばせれば、その高揚感を適温に落ち着かせるべく「アニエスベー」へと繋げていく。
後半に向けては、『YAK』からの曲たちが立て続けに鳴らされた。裏打ちのリズムが更なるリラックス感を呼び込み、ノンビリとした揺蕩いを楽しませてくれた「マーメイド」、そして、彼女たちの曲の中では比較的ストレートな「Season」では、合わせてリズムをとっている場内の光景も想い出深い。そんな中、この日のハイライト的に映ったのは「The Letter」の際であった。作品同様ベースとチャーム、その中から同曲が現われると、グングンと場内にマイティさが満ちていく。この曲も一気に天空に引き上げられるのが特徴的。繰り返される♪I Can Feel Something ♪のフレーズと共に、まさに何でも出来ちゃう気概に、この日もさせてもらった。
次のタームでの3人のお喋りには印象深いものがあった。ラジオDJが実は3人の会話の独特のタイム感や感覚がTheWiselyBrothersの音楽と近いことを発見。実はそれらが彼女たちの音楽に関与しており、ひいては音楽でも会話していたとの再見に結びついた。そしてそれは、今作『YAK』の制作にも当てはまり、今作も作り方は、メンバー中の1人が発したフレーズを端に、他のメンバーがそこに対話していくように形作られていく楽曲がほとんどだったことが伝えられる。
そこから若干間を置き。自分らしさを出すことが、誰かの自分らしさと出会えることだと気づき、その為にも自分たちがその自分たちらしさをしっかり持って、それを聴いた人が自分らしさというものと出会ってもらいたい。これからも誰かの自分らしさと出会っていきたいし、その為にも、この3人でこれからもやっていく変なことを一緒に楽しんで、その時に感じた気持ちをぶつけ合っていこう!! と締め、ラスト2曲に突入する。そこでは彼女たちの出自的なナンバーと、『YAK』収録のこれからを感じさせる曲の対照的な曲たちが鳴らされた。初期からのナンバー「トビラ」は、まるで3人の出自を改めて掲示するかのように、リリックにもある「自分たちは自由なんだ」が誇示され、華やかで明るいロックンロールな「庭をでて」が一緒に会場をネクストステージへと走り出させた。
アンコールは1曲だけであったが、とても、この先や今後の彼女達を期待させ、その活動に想いを馳せさせるものであった。と、その前にステージに再登場時には、和久利手製のYAKの着ぐるみ一体を3人で着、現われるというサプライズが用意されていた。そして最後は、「何の変哲もない砂漠がこれからも続くと思うので、またどこかで会えたら」(真舘)の言葉と共に、『YAK』収録の「マリソン」をプレイ。ドリーミー性を保持し、淡々としながらも強いエターナル性を擁した同曲と、その延々に続いていきそうなアウトロがこれから先を照らし案内してくれるかのように響いた。
後半に向かうお喋り中、「(前述の)お客さんと共に作った装飾も含め、対話したり、一緒に外に向けて発信していくことに目覚めることの出来たライブであり、ツアーであり、アルバム制作だった。今後もどんどん積極的に発信していきたいし、これまで以上にみなさんと仲良くしていきたいし、一緒に楽しいことをしていきたい」旨が明確にメンバーから伝えられた、この日。これまで以上に、なんだか<自宅に招かれている感>を擁していた理由が、そこで確信に変わった。
彼女たちは今回のような、「自分たちの個性に招き入れるかのような場所=ライブ」をこれからも更に増やしていくことだろう。そこではどんなに規模やキャパシティが大きくなろうが、まるで友人宅のリビングに招かれ、そこでライブを観ているような、身近さや温かさ、対話や共創的な雰囲気が常に溢れているに違いない。手土産は要らない。必要なのは、その気持ちと身体だけ。これからも彼女たち発信の、まるで自身のリビングで行われているかのような、<自宅に招かれている感>溢れるライブは続いていく。
【取材・文:池田スカオ和宏】
【撮影:石戸ひな】
リリース情報
YAK
2018年02月21日
日本コロムビア
2.キキララ
3.庭をでて
4.おいで
5.give me a mileage
6.彼女のこと
7.Season
8.MOUNTAINS
9.The Letter
10.マーメイド
11.マリソン
セットリスト
「YAK YAK TOUR」
2018.4.7@渋谷WWW X
- 1.give me a mileage
- 2.メイプルカナダ
- 3.キキララ
- 4.サウザンド・ビネガー
- 5.鉄道
- 6.グレン
- 7.彼女のこと
- 8.八百屋
- 9.waltz
- 10.Thursday
- 11.おいで
- 12.モンゴル
- 13.アニエスベー
- 14.マーメイド
- 15.MOUNTAINS
- 16.Season
- 17.The Letter
- 18.トビラ
- 19.庭をでて 【Encore】
- En.マリソン
お知らせ
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06/16(土) - 17(日)
TSUTAYA O-EAST / TSUTAYA O-WEST TSUTAYA O-nest / TSUTAYA O-Crest duo MUSIC EXCHANGE / 7th FLOOR / clubasia VUENOS / GLAD / SOUND MUSEUM VISION HARLEM PLUS / LOFT9 shibuya
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。