レビュー
The Wisely Brothers | 2018.02.20
The Wisely Brothersの独特さとして、まず挙げられるのは“素朴”とも言うべきサウンドの質感だろう。楽器編成はギター、ベース、ドラムという極めて“シンプル”なものであり、音源作品でも基本的にその骨組みが活かされている。しかし、“素朴”や“シンプル”が、必ずしも“単純”には繋がらず、驚くほど豊かな世界を生み出すことがあるのが音楽の奥深さであり、それはこのバンドに関してもまさに言える点だ。
彼女たちのメジャーデビューを飾る1stフルアルバム『YAK』の1曲目「グレン」は、爪弾かれるエレキギターの調べから穏やかに始まるが、ドラムとベースが合流した瞬間に一気にドラマチックさを帯びるのが気持ちいい。軽快な疾走感が瑞々しい牧歌性を滲ませる「庭をでて」も、降り注ぐ柔らかな日差しがそのまま音と化したかのような印象的な仕上がりだ。海外の音楽に詳しい人ならば、これらの曲からUSインディーロック的な野趣、ローファイなザラつきを感じ取ったりもするだろうが、そのような香りを含みつつも、親しみやすいキャッチーさへ突き抜けるしなやかさがあるのが、今作の特筆すべき部分だと思う。
各曲が漂わせる空気感が、ライブ中にステージ上で彼女たちが醸し出しているものに限りなく近いのも面白い。演奏しながら何度も笑顔を交わし、互いの音と声を重ね合うことを心から楽しんでいる3人の姿は、いつも観客を劇的なまでにリラックスさせる。音楽性は紛れもなく“ロック”であり、力強いビートや爆音を高鳴らせる瞬間も度々あるのだが、彼女たちが届けてくれる音は、激しく響き渡れば響き渡るほど温かさを帯びていくのが不思議だ。今作のタイトル『YAK』とは“おしゃべりをする”という意味のスラングらしいが、気の合う友だち同士のリラックスしたおしゃべりの輪へと、リスナーをごく自然に招き入れるかのような彼女たちの磁力は、奏でる音楽にかけがえのない色合いを与えている。
「グレン」「庭をでて」「Season」「キキララ」「マリソン」「MOUNTAINS」などは、既にライブでも披露されて観客を大いに魅了している。『YAK』に収録されている他の曲たちも、存在感をどんどん発揮していくだろう。既に確かなオリジナリティを手にしているThe Wisely Brothersの力強い一歩が刻まれている今作は、新鮮な音楽を求めている全ての人に自信を持ってオススメできる1枚だ。
【文:田中大】
<TOUR情報>
1st Full Album「YAK」Release Tour『YAK YAK TOUR』
2018.03.31(土)Live House Pangea(大阪) ※ワンマン
2018.04.01(日)K.Dハポン(名古屋) ※ワンマン
2018.04.07(土)Shibuya WWW X ※ワンマン
リリース情報
YAK
発売日: 2018年02月21日
価格: ¥ 2,593(本体)+税
レーベル: 日本コロムビア
収録曲
1.グレン
2.キキララ
3.庭をでて
4.おいで
5.give me a mileage
6.彼女のこと
7.Season
8.MOUNTAINS
9.The Letter
10.マーメイド
11.マリソン