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My Hair is Bad初の全国ホールツアー・セミファイナル、ソールドアウトの日本武道館2days、2日目をレポート!

My Hair is Bad | 2018.04.11

 ステージセットどころかバックドロップすらなかった。あるのは、ライヴハウスとほとんど変わらないだろう3人の距離感を保って据えられた楽器や機材、マイクの類いのみ。両サイドにはスクリーンも設けられていたが、壇上だけを見れば、ここが日本武道館だとは思わないかもしれない。それでも、潔いという形容詞も薄っぺらく感じてしまうほどにそっけないステージの佇まいは、むしろ大舞台を相手に剥き出しにされた彼らのただならぬ闘志をビシビシと感じさせて、こちらのテンションをも否応なしに爆アゲしにかかる。きっと駆けつけた1万人も同じ感覚を味わっているに違いない。開場30分にしてすでにぎゅうぎゅう詰め状態となっているオールスタンディングのアリーナ席にも、2階の最後列まで満員御礼のスタンド席にも凄まじい熱気が立ちこめている。

 3rdアルバム『mothers』を携え、昨年12月にスタートしたMy Hair is Bad初の全国ホールツアー“ギャラクシーホームランツアー”が3月30、31日の2日間に渡り、日本武道館でセミファイナルを迎えた。バンドにとってこれまた初となる武道館ワンマン、しかも2day公演が瞬く間にソールドアウトした上に、立ち見席まで追加されるという活況ぶり。メジャーデビューからわずか2年足らずでここまでに至ったことを考えれば、その飛躍的スピード感と、その急流に飲み込まれることなく、むしろタフに乗りこなしてしまえる破格のポテンシャルに舌を巻かずにいられない。しかし、それらも結成からの10年間、ひたすら音楽に自身を捧げ、実直にライヴを重ねてはキャリアを積み上げてきた道のりがあってこそ。筆者が目撃した2日目は、彼らの鍛え抜かれたライヴ度胸とそれを裏付ける筋力、ロックバンドとしての矜持が渾然一体となった、実に熱量の高いステージだった。おそらくマイヘア史上、屈指の一夜となったのではないだろうか。

 場内のデジタル時計が開演時刻の17時を示すのとほぼ同時に、断ち落とされたように空間が闇に包まれる。鳴り渡るThe Bandの「We Can Talk」、いつもの登場SEだ。ひときわ大きくなった歓声の中、寄り合ってグッと拳を突き合わせる3人。「日本武道館最終日、トドメ刺しにきました!」と椎木知仁(Vo・Gt)の高らかな宣言に続いて1曲目「アフターアワー」が迸った。曲中、「ドキドキさせてやる!」「最高の日にしたい、いくぜ武道館!」「気持ちいいなぁ!」などと心の声をだだ漏れさせてはたちまちのうちにオーディエンスを狂騒の渦に巻き込んでいくフロントマン・椎木の勇姿に惚れ惚れとしてしまう。2曲目にして早くも山本大樹(Ba・Cho)が持ち場を離れ、ステージの端近くの観客を煽りにかかった「熱狂を終え」。猛りに猛ったプレイの直後にニヤリと口角を上げる、その笑顔がなんともいい。続く「グッバイ・マイマリー」の疾走感溢れるポップネスと、ゆえにこそ滲み出すどうしようもない空虚感を剛健に支えるのは山田淳(Dr)のドラムだ。一打一打は重量感はずっしりと、しかし軽やかに駆け抜けるビートが客席の熱をどこまでも牽引する。

「すべてが整いましたね。昨日も今日も晴れて、みなさんがこうやって来てくれて、俺らがここに立ってライヴできることが嬉しいです。 あとは俺らに任せてください!」と椎木が頼もしく告げたあと、演奏は「ドラマみたいだ」から「接吻とフレンド」、「最愛の果て」へとくるくる表情を変えながら、着々とマイヘアの深淵へとオーディエンスを誘う。そうして本領発揮の、最初のとば口となったのは「真赤」だった。曲に入る直前、自分の書く歌詞の中の主人公をこの場で生き返らせたい、殺したくない、時間を巻き戻したい、これ以上、かわいそうなことをしたくないから、と語った椎木に静まり返る場内。「大切な曲を歌います」、そうして口にしたタイトルに客席がそっと息を呑む。《ブラジャーのホックを外す時だけ 心の中がわかった気がした》ーー椎木のみぞおちの奥からこぼれ出たようなその一節は、初めて聴いたときとまるで変わらず衝撃的で、ライトに照らされて赤く染まっていく3人のなり振り構わずも凛々しい姿と、素手で心臓を掴まれるような痛み、放たれる生身の体温をとても愛しいと思った。 

 そう、この日のMy Hair is Badはこれまでがそうであったように、徹頭徹尾、生身だった。会場はたしかに日本武道館で、天井近くまで人影のひしめく客席は壮観の一語に尽きたが、彼らはその光景、その状況に真っ正面から対峙して、果敢に、そして心底楽しみながら取っ組み合っていた。バンドのソングライティングを一手に担う椎木が紡ぎ出す楽曲はほとんどが彼の個人的な出来事とそれに付随する感情のドラマで、言ってしまえば些細でちっぽけだ。けれど、そんな些細でちっぽけな破片の数々で人間はできている。だから人はMy Hair is Badの音楽に惹かれずにはいられない、と言い切ってしまうのは少々乱暴で短絡的かもしれないが、でもきっとそういうことなのだと思う。椎木が“この場で生き返らせたい”“殺したくない”のは、彼を彼たらしめる(ひいては人を人たらしめる)そうしたちっぽけな感情の一片一片であり、彼らのちっぽけと誰かのちっぽけが少なくとも1万人分、生々しく共鳴したからの今日ではないか。もちろん昨日だってそうだろう。

「わかんなくなっちゃうんだよ。こんなにみんながおめでとうって気持ちで、ここに集まってくれて、My Hair is Badを観てくれて、愛してくれて。俺は“ありがとう、ありがとう”って言ってバンドをやってきたわけじゃねぇから、こういう“ありがとう”って気持ちのとき“ありがとう”以上の言葉が見つからなくなっちゃうんだ。わかんなくなっちゃうんだよ!」

 中盤戦をアグレッシヴに畳み掛け、改めて「今日は俺らを武道館に連れてきてくれてありがとう」と客席に向けて穏やかに感謝を届けたのも束の間、句読点のすべてが“!”に置き換わる勢いで、捲し立てるように正直な心情を吐露する椎木。「わからなかったけど昨日は“ありがとう”って言ったよ。心から“ありがとう”って思ったから。昨日と同じことをやってもしょうがねぇから、わかんないことをわかんないまま歌っていいですか。わかんないことを言葉で示すよ。リアル歌わしてくれ、よろしく!」と叫ぶや、やにわにギターを?き鳴らし、「フロムナウオン」の前奏、即興の弾き語りになだれ込んだ。“愛ってなんだ?”と声の限りで問いかけ、矢継ぎ早に言葉を連ねてはオーディエンスに迫る。そのままたっぷり5分近くも続いただろうか。

「わかんないんだけどさ、全員にやるよ。My Hair is Badから愛を。「フロムナウオン」!」

 椎木のシャウトをきっかけに弾き語りがバンドサウンドに切り替わる、その瞬間のカタルシスと言ったらなかった。言葉に、音に、とめどなく撃ち抜かれ、ただただ放心するしかないオーディエンス。しかし本当のハイライトはここからだった。愛は欲しくない、好きな人にあげたいだけ、と前置きしつつ「でも俺は愛が歌いたいわけじゃないし、明るい曲でみんなをハッピーにさせたいわけじゃないし、暗い曲でどんよりさせたいわけでもない。命が歌いたい」と力強く言い切った椎木。その意志が「戦争を知らない大人たち」のリリックに上乗せされて、観客のひとり一人に手渡されていく。《Good night…》、ポエトリーリーディングの張りつめたテンションから解かれて朗々と伸びる歌声に応えるかのように、突如、3人の背後に星空が広がった。ひとつ一つはちっぽけな光でも、一斉に瞬けばなんと美しい。

 俄に現われた星空の下で次に奏でられたのは「シャトルに乗って」だ。最新アルバム『mothers』のラストを飾るこの曲のテーマとなっているのは、「戦争を知らない大人たち」と同様、移ろいゆく時(どちらも四季をモチーフにしている)と無常感だが、「戦争~」があくまでその世界の中で生きる一人として紡がれているのに対し、「シャトル~」は世界を外側から見つめる俯瞰の視点で描かれていて、そこには大きな愛情が宿っている。そうした意味ではマイヘアらしくない楽曲と言えるのかもしれないが、つまりはバンドが新たな段階を迎えつつあるということでもあるだろう。この2曲の並びが突出してその印象を際立たせる。思えば星空という演出らしい演出だってこの2曲以外にはついぞなかった。

 まだ10代の頃にラブソングを書くという自覚を持って初めて書いたという「最近のこと」や、明るくなった場内で1万人が腕を振り上げ、大合唱した「告白」など『mothers』を携えたツアーではありながら各時代の名曲をも取り揃えた無敵のセットリストで怒涛のごとく疾駆した本編。これもまたいつもと変わらずサービス残業と嘯いてのアンコールは「優しさの行方」でスタート、椎木が「歌える?」と客席に呼びかけると再びのっけから大合唱が起こる。自身の歌に寄り添うオーディエンスの声を一身に浴びながら、たまらず椎木が叫んだ「愛してるってこういうことか!」という言葉。それはアルキメデスの「エウレカ!」にもヘレン・ケラーの「ウォーター!」にも匹敵する発見のひと言ではなかったか。

 オーラスはダブルアンコールに応えての「夏が過ぎてゆく」。もはや言葉はいらないとばかり、音楽だけを叩きつける。最後に山田の放ったスティックがカランと床に転がり、その音が今日を締めくくった。さて、4月4日に地元、上越EARTHにて大団円となった今ツアー、その全箇所ソールドアウトを受けて5月には大阪、東京で追加公演“オーガニックホームランツアー”が、さらに6月にはZeppツアー“セーフティーバントツアー”が開催される。日々最高を更新しながら突き進むMy Hair is Badをぜひ追いかけてほしい。

【取材・文:本間夕子】
【撮影:藤川正典】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル My Hair is Bad

リリース情報

mothers

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2017年11月22日

EMI Records

1.復讐
2.熱狂を追え
3.運命
4.関白宣言
5.いつか結婚しても
6.元彼女として
7.僕の事情
8.噂
9.燃える偉人たち
10.こっちみてきいて
11.永遠の夏休み
12.幻
13.シャトルに乗って

セットリスト

ギャラクシーホームランツアー
2018.03.31@日本武道館

  1. 01.アフターアワー
  2. 02.熱狂を終え
  3. 03.グッバイ・マイマリー
  4. 04.ドラマみたいだ
  5. 05.接吻とフレンド
  6. 06.最愛の果て
  7. 07.真赤
  8. 08.運命
  9. 09.悪い癖
  10. 10.彼氏として
  11. 11.卒業
  12. 12.復讐
  13. 13.クリサンセマム
  14. 14.ディアウェンディ
  15. 15.元彼氏として
  16. 16.燃える偉人たち
  17. 17.フロムナウオン
  18. 18.戦争を知らない大人たち
  19. 19.シャトルに乗って
  20. 20.幻
  21. 21.最近のこと
  22. 22.いつか結婚しても
  23. 23.告白
  24. 24.エゴイスト
  25. 【ENCORE1】
  26. EN 01.優しさの行方
  27. EN 02.月に群雲
  28. 【ENCORE2】
  29. EN 03.夏が過ぎてく

お知らせ

■ライブ情報

My Hair is Bad presents オーガニックホームランツアー
05/06(日)大阪城音楽堂
05/13(日)日比谷野外大音楽堂

My Hair is Bad presents セーフティーバントツアー
06/02(土)Zepp Tokyo
06/09(土)Zepp Sapporo
06/16(土)Zepp Nagoya
06/23(土)Zepp Osaka Bayside



go!go!vanillas presents FOOLs Tour 2018〜音楽馬鹿達と春のナイトピクニック〜
04/22(日)名古屋DIAMOND HALL

ARABAKI ROCK FEST.18
04/29(日)みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく

VIVA LA ROCK 2018
05/04(金)さいたまスーパーアリーナ

39degrees presents “Resolution”Release Tour
05/17(木)上越EARTH

Rainbow’s End 2018
05/19(土)京都市円山公園音楽堂

TOKYO METROPOLITAN ROCK FESTIVAL 2018
05/27(日)新木場若洲公園

OTOSATA ROCK FESTIVAL 2018
06/16(土)長野県茅野市民館
06/17(日)長野県茅野市民館

カローラ福岡 presents NUMBER SHOT 2018
07/21(土)国営 海の中道海浜公園 野外劇場・子供の広場
07/22(日)国営 海の中道海浜公園 野外劇場・子供の広場

MONSTER baSH 2018
08/18(土)国営讃岐まんのう公園
08/19(日)国営讃岐まんのう公園

Sky Jamboree 2018〜one pray in nagasaki〜
08/19(日)長崎市稲佐山公園野外ステージ

未確認フェスティバル
08/26(日)新木場STUDIO COAST

SWEET LOVE SHOWER 2018
08/31(金)山中湖交流プラザ きらら
09/01(土)山中湖交流プラザ きらら
09/02(日)山中湖交流プラザ きらら

山人音楽祭 2018
09/22(土)ヤマダグリーンドーム前橋
09/23(日)ヤマダグリーンドーム前橋

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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