レビュー
My Hair is Bad | 2017.11.21
My Hair is Badの音楽は、とても正直だ。素っ裸と言ってもいいのかもしれない。「そんなことまで曲にしちゃうの!?」と仰天させられる瞬間が度々ある。しかし、いつの間にやら激しく感情移入して心を震わせている自分に気づくのが不思議で仕方ない。とことん研ぎ澄ました個人的な感情の吐露は普遍的な人間像となり、美しい物語となり、極上のポップスになり得るということなのだろう。彼らの3rdアルバム『mothers』は、そんなことを改めて思わせてくれる作品となっている。
2017年の彼らも、ものすごい本数のライブを重ねてきた。今作は怒涛の日々の合間に制作の準備を進め、一気にレコーディングを行って完成させたという。そんな様子が窺われるサウンドの強度は、とにかく圧倒的なものだ。揺るぎない黄金のアンサンブル、各楽器と歌声の絶妙なコンビネーション、渦巻いている熱気は、汗だくの観客が興奮を露わにしながらひしめき合うライブハウスと完全に地続きと言っていいだろう。そして、このようなサウンドと共に届けてくれる世界は、ハッとさせられる生々しい質感の連続だ。
危険さと滑稽さが入り混じったトーンで未練と恨みを綴った果てに、未来を見据える力強い意思をふと滲ませる「復讐」――今作のオープニングを飾るこの曲を経て、多彩な人生模様が次々浮かび上がる。失いたくない感情を何度も強く握りしめている「熱狂を終え」。心の瘡蓋を何度も剥がしているかのような克明な描写、エモーショナルに高鳴る美メロの融合がスリリングな「運命」。《愛してる》という改まった言葉には馴染まない素朴で確かな幸せを願う男心が伝わってくる「いつか結婚しても」。言葉を溢れ返らせながら少年時代の夏の日々を振り返り、無常の人生の中でも色褪せないはずのものを静かに見つめる「永遠の夏休み」。様々な矛盾がひしめき合いつつも、それぞれに何かが愛しくて、懸命に喜んだり悲しんだりしながら生きている人々が肩を寄せ合う地球を俯瞰で捉え、自分にとって本当に大切なものへと優しい光を投げかける「シャトルに乗って」……などなど。どの曲も、耳を傾けて受け止めるリスナーの胸の奥にあるものと鮮やかに重なり合うに違いない。
このアルバムのリリース後も、My Hair is Badは、全国ツアーを含む精力的なライブ活動を繰り広げていく。『mothers』に収録されている曲の数々は、たくさんの人々の心が一斉に共鳴し合う素敵な空間を、各会場に生み出すだろう。そんなひと時が楽しみになる作品を完成させたこのバンドは、今後も力強く前進を続けるはずだ。
【文:田中 大】
リリース情報
mothers
発売日: 2017年11月22日
価格: ¥ 2,800(本体)+税
レーベル: EMI Records
収録曲
1.復讐
2.熱狂を追え
3.運命
4.関白宣言
5.いつか結婚しても
6.元彼女として
7.僕の事情
8.噂
9.燃える偉人たち
10.こっちみてきいて
11.永遠の夏休み
12.幻
13.シャトルに乗って