くるり ライブツアー千秋楽「線」東京公演をレポート
くるり | 2018.04.13
“ますます自由になっていくなぁ...”。この公演を観ている間中、何度もそう思った。そしてそれは、最近のくるりの活動やスタンス、発表される楽曲のフレキシブルさや、そこに潜めたメッセージからも思い当るものがあった。楽曲にしろ、姿勢にしろ、スタンスにしろ、この日のライブ中のプレイやセットリストや、その伝達メゾッド等々、近年のくるりからは、より全体的にそのような「自由に描けばいい」、そんな空気を非常に感じていたのだ。そしてこの日の終演後には、それはかなり確信的な気持ちを伴い、私を包んでいた。
全国14都市を回った『くるりライブツアー 「線」』が3/31のZepp Tokyoで千秋楽を迎えた。今回のツアータイトルは線。なんでも描けるし、どこまででも伸ばしていけそうな雰囲気を擁した、自由でシンプルなタイトルだ。それは、この日のライブも然り。フリーフォームな演奏を交えたり、突如新曲を発表したり、フリースタイルなラップが飛び出したり等々、自由や奔放さを持って、私たちを包んだり、並走させたり、時にはちょっとした鼓舞をし、ライブというキャンバスで、音楽を用い、自由に好きな絵を描いてみせてくれた。
まだ無人のステージバックには最新シングル「その線は水平線」のジャケットの巨大なバックドロップが1枚飾られていた。
SEの中、パープルのバックライトに浮かび上がったステージにメンバーたちのシルエットが一つづつ現われる。「東京のみなさん、こんばんは。くるりです」とボーカルの岸田繁の第一声から「東京レレレのレ」に突入。琉球民謡を基調に各地の民謡性が4ビートの上、泳ぐようにのんびりとたゆたっていく。延々と続くギターソロの上、ベースの佐藤征史を始め、各人がアドリブのようにモチーフを転がし段々と同曲を白熱化させていく。そこから間髪置かず、アーシーで耳馴染のあるギターイントロに。「東京」の登場に会場が湧く。相変わらず聴く者の背筋を正してくれる同曲。とは言え現在の今曲は、そこに安心感と帰着感も纏わせていたりもする。
会場が更なる躍動性を帯びたのは「愛なき世界」からであった。ストレートな8ビートが会場を並走させ、対照的に、続く「飴色の部屋」では、ラストのひとりぼっちでいくのポツンとした感じを醸し出していく。
「ツアーの最終日なので全ての力を出し切っていきたい。今日は色々な曲をやるから」とは岸田。そんな彼がギターをアコギに持ち替え、サポートギタリストの山本幹宗、松本大樹もステージに加わっていく。キーボードの野崎泰弘によるオルガンの音色がノスタルジックさを呼び起こしたロードムービーやバンドワゴン的な雰囲気の「ハイウェイ」。次曲の「ワンダーフォーゲル」では、イントロが鳴り出した瞬間に会場中が驚喜。ライブの色が変わり、場内も華やいでいく。オリジナルよりもアップテンポでアーシー、より力強く、躍動感を得た同曲。ドラムの朝倉真司が叩き出す8ビートも、2番では16ビートへとコンバートし、躍動さを増加させていく。と、同時にファンファンのトランペットも郷愁性と誇らしげを楽曲に付与させていった。また、「Liberty&Gravity」の際には、ファンファンと松本でフレーズのリレーションも見られ、会場も恒例のクラップでリアクション。共創の場面が作られていく。
この日は新曲たちも幾つか披露され、それらが描く線が自由度を更にアップさせていく。まずは「東京オリンピック」(これもまたタイトルに「東京」が...)なるインストナンバーでは、音響やポストロック、プログレや幾何学音楽の類が独特のセンスと共に楽曲として昇華。他にも岸田もアコギに持ち替え、松本、山本の2本のギターのユニゾンも光った、最新7インチ・アナログにのみ収録の「春を待つ」、小気味の良いファンキーで軽快なカッティングにスライドギターも混じらせた「忘れないように」、はたまた「ハイネケン」からは、アーシーで乾いた南部っぽい風も届けてくれた。そして、やや飛ぶが、アンコールでも「ニュース」なる、これも6/8の新曲を披露。山本もマンドリンに持ち替え、同曲が集まった人たちを一緒に振り返ったり、ちょっとセンチメンタルな気分にさせた。
そんな中、この新曲群を演る前の岸田からの興味深いひと言には、どこかそれに思い当る節があった。
「自分も高名なアーティストのライブに行った際、そこで新曲をやられちゃうと、“それよりも代表曲をもっと聞かせてくれ”と思っちゃう。その気持ち良く分かるんです。でも…」との言葉のあと始められた、その新曲たちを前に、そこで彼らが何故、どんなライブでも定番の曲や人気曲、幅広い人が馴染みのある曲をキチンと交えているかが分かった気がした。と同時に、自由度がありながらも、キチンと集まった者が臨んだものも提供し、けして自分本位だけでライブを成り立たせない。そんな彼らのライブスタンスも垣間見れた気がした。
自由度といえば、この日は比較的各箇所でのインプロビゼーション性も目立った。松本、山本のギターリレーを始め、松本が前に出てソロを引き倒したり、場内をグイグイと惹き込んでいく場面も印象深かった。
そして、新曲以外にも、この日は珍しい曲もプレイされた。オリエンタルなイントロからの「スラヴ」では、ジャグ、カントリー、牧歌性が入り混じり、後半では岸田がアコギに持ち替えプレイされた「loveless」では、ほのかな愛に場内が包まれていき、ブレイブさとライジング感溢れるファンファンのトランペットもジワジワとした高揚感へと結びつけた。
後半では様々な意味で広がりのある曲たちが続けて現れた。「ばらの花」では会場いっぱいにほのかな幸せを広げ、6/8の「虹」では楽曲の擁するダイナミズムと共に、バックの白色ライトの光量に合わせ生命力が漲っていくのを実感した。そして、本編ラストの「ロックンロール」が豪快に痛快に、美しさを交えて会場内に、また明日への活力を与えてくれた。
アンコールでは、ますます演目の自由度が上っていく。まずはくるりの3人だけが現われ、アコギ、ベース、トランペットのみで「ブレーメン」が。シンプルでネイキッドなアレンジの分、感情移入や丁寧に歌われた感のある同曲。アウトロも作品以上に長くドラマティックであった。で、前出の新曲を挟み、岸田がハンドマイクスタイルで、次曲の「琥珀色の街、上海蟹の朝」に入る。クラブジャズのサウンドに乗せ岸田がラップ。アーバンな同曲にファンファンもアダルティなコーラスを加えていく。そしてラストナンバーとして、集まった者たちのこれからや目指すもの、夢や目標に向けて進む勇気を軽く後押しし、光り輝くものにせんとばかりに、最新シングルの「その線は水平線」が誇らしげに響き、「<自分の水平線=限界>を目指して走れ!!」と歌われているかのような同曲が活力とバイタリティを場内に満たしてくれた。
直線、曲線、放物線、定直線、ラフな線、幾何学な線…。この日、くるりは色々な線を描いて私たちに示してくれた。そして、その並びや内容には、とても自由なアティテュードがあった。
くるりはますます自由になっていく。但しそれは、思いついたことをただ好きなようにやるといったものとは違った類。キチンと目指すところがあり、そこに向かうべく色々な方法論を試してみるといった類のものだ。「線は何だって描ける」「自由に描けばいい」。それはそのまま、この日、集まった人たちの生き方とも重なった。そんな自由さやフレキシブルさを、この日の彼らはライブを通し、改めて我々に思い起こさせてくれたのだった。
【取材・文:池田スカオ和宏】
【撮影:AZUSA TAKADA】
リリース情報
[10,000枚限定シングル]その線は水平線
2018年02月21日
ビクターエンタテインメント
2.ジュビリー from 京都音楽博覧会2017
3.everybody feels the same from 京都音楽博覧会2017
4.特別な日 from 京都音楽博覧会2017
5.京都の大学生 from 京都音楽博覧会2017
6.WORLD’S END SUPERNOVA from 京都音楽博覧会2017
7.奇跡 from 京都音楽博覧会2017
セットリスト
くるりライブツアー 「線」
2018.3.31@Zepp Tokyo
- 1.東京レレレのレ
- 2.東京
- 3.愛なき世界
- 4.飴色の部屋
- 5.ハイウェイ
- 6.ワンダーフォーゲル
- 7.Liberty&Gravity
- 8.東京オリンピック ※仮タイトル
- 9.スラヴ
- 10.春を待つ
- 11.忘れないように ※仮タイトル
- 12.ハイネケン ※仮タイトル
- 13.ばらの花
- 14.loveless
- 15.虹
- 16.ロックンロール 【ENCORE】
- En-1.ブレーメン
- En-2.ニュース ※仮タイトル
- En-3.琥珀色の街、上海蟹の朝
- En-4.その線は水平線
お知らせ
SPACE SHOWER TV Presents SPRING BREEZE 2018
04/15(日)日比谷野外大音楽堂
ARABAKI ROCK FEST. 18
04/29(日)みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく
くるり 純情息子スペシャルイベント
05/02(水)東京・LIQUIDROOM
05/11(金)愛知・名古屋QUATTRO
05/21(月)大阪・梅田QUATTRO
森、道、市場2018
05/13(日)愛知県蒲郡市ラグーナビーチ(大塚海浜緑地)遊園地ラグナシア
京都音楽博覧会2018 IN 梅小路公園
09/23(日)京都・梅小路公園芝生広場
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。