ハルカトミユキTOUR 2018『解体新章』
ハルカトミユキ | 2018.04.12
『解体新章』とは、まさにタイトル通り。丸裸どころか徐々に解体されていくハルカトミユキの2人が、それらを経て、その向こうにあるに違いない何かを探り、見つけ、手繰り寄せ、新しい自身の糧にしていくことを目的に行われたライブであった。
この日のMt.RAINIER HALLを皮切りに、4月30日の渋谷7th FLOORまで。4都市にて6公演が敢行される当ツアー。今回のライブでは、各公演毎に2人が制作した異なる新曲も披露。最終2公演では、各地で披露してきた新曲たちを総括した2日間も予定されている。
『解体新章』は、ハルカトミユキのみで行うステージなのだが、従来のアコースティックスタイルとはまた違った趣きのライブ。エレキギターもループエフェクターも起用され、いわゆる“従来の楽曲を今の二人が伝えたら…”的な内容で行われた。また、観ている我々も、オーディエンスという立ち位置よりも、立会い人や後見者的な心持ちで、この日のライブを受け止めていった。
みなさんも一度は何かを解体してみたことがあるだろう。その解体の目的は、けっしてバラバラにすることではなく、一度分解し、その成り立ちや仕組みを改めて知り、再生や再蘇生、リフレッシュ、修理など、再度動かし直すことを前提に行われることが多い。かくして、このライブも然り。実際、当ライブは、その流れ出るかもしれない血を見ることも辞せず集った立会い人たちの前で、過去2人の放ってきた歌たちや新曲が、次々とえぐり出され、炙り出され、掘り起こされていった。そしてそこからは、そのバックボーンや通ってきた過程、成長や進化を経ての変化の前史やルーツ、原点や出自さえも感じることが出来、ひいては彼女たちの今後をもっと深く知って行く上でも重要な一夜にもなった。
この日はツアーの初日。東京・渋谷のMt.RAINIER HALLであった。この会場は中型の劇場型のホール。天井も高く座席も映画館などのソファータイプだ。いつもの2人が行っているライブハウスやカフェの雰囲気ともまた違った、向き合いながらも真剣に観入る楽しみ方が似合う会場と言える。実際、この日のステージは、終始緊張感が漂っていた。ピンと張りつめた、ややひんやりとした空気の中、2人はそれぞれ相手方によって一度バラバラにされ、終演時にはまた元通りの姿に甦生されていった。
上手(かみて)には、用意したエレキギターとアコースティックギターと共にハルカ、そして、キーボードラックの前に座る下手(しもて)にはミユキの姿があった。
アコギとピアノの音色をバックに「バッドエンドの続きを」から始まった、この日。バンドが無い分、自分たちの演奏で強弱や静動を駆使し、ドラマティックさが付けられていく。クールさとアンニュイさを同居させ、だけど強さや優しさ、柔らかさを有したハルカの歌声と、優しく柔らかいミユキのコーラス。バッドエンドの続きに待っていてくれるものを信じて、同曲が会場ごと歩き出させる。
「自分自身が解体されるように実験しながら進めていきます。みなさんもこの解体に立ち会って下さい。血が出たりしたらすみません(笑)」とハルカ。その血を浴びることも覚悟の上で場内も並走していく。
そんな中、“血=生きている実感”を痛々しく与えてくれながらも、伝え方で逆に親身に伝わってくる楽曲たちも幾つか歌われた。中にはミユキのリードに合わせて観客も手拍子をし、一緒に歌う。そんなアットホームで暖かな雰囲気で響かせた楽曲もあった。また、痛い歌ながら、より自分自身に向けての歌のように響くのも彼女たちの歌の特徴。「血に染まる曲ばかり」とは、それら「血に関係する歌ゾーン」を歌い切ったハルカの苦笑いと共に出た真意だろう。
この日は事前アナウンス通り新曲も用意された。
「4月より新生活も始まる。私たちの中では比較的明るい曲です」とハルカ。この季節にピッタリのエバーグリーンさもあるクリスピーなギターと歌声。ずっと生活していた部屋を出ていく際の思い返す由無し事と、どこか次への期待への希望を感じさせる曲が歌われる。
また、この日は歌のみならず間のトークでも一人ひとりの過去が解体された。まずはミユキ。一般的に能天気な人とのイメージを持たれているらしい彼女だが、小学生の頃に学級委員長をやっており、教員免許も持っている。子供の頃は10何個も習い事に通っていたが、ほとんど途中でリタイヤ。当時習っていたものの中では、唯一ピアノと書道が活かされていると笑って答える。一方、感情が死んでる人と称された過去を持つ(ミユキ弁 : 笑)ハルカだが、子供の頃は元気で明るい子だったと告白される。
後半に向けてハルカもエレキに持ち替える。歌い出しの2人のアカペラから、ハルカの歪ませたギターと歌に、ミユキによる、ふわっとしたストリングスの音色が包み込むように合わさっていくのも特徴だった楽曲では、背徳的な甘露が場内に広がっていった。
ラストに向けては、突きつけられるかのような曲が続けて飛び出していく。ハルカの激しいギターカッティングに合わせ、場内からクラップが起こり、ミユキもシンセ音でそれに応戦。ミユキが片腕をアクティブに上げ会場を煽ると、合わせて会場も盛り上がった曲もあれば、中には久しぶりにライブで披露した曲や、美しさと激しさのコントラストの同居。存在していたであろう存在観が歌われた曲等も披露される。最後はハルカトミユキの2人にとっては欠かせない楽曲で締められた。チェロの音色に鍵盤、歪んだギター。後半に向かって生命力を帯び、どこか朝日を徐々に浴びていくような活力が会場いっぱいに広がっていった。
シチュエーションも関係しているのだろう。従来の参加型とはまた違った雰囲気を有していた当ライブ。逆に客観的、傍観的に観れる分、より身近で傍らにいるように各曲が優しく響いてきたのも印象深い。同じ楽曲でも届け方や伝え方で、また違った印象を与えることにも改めて気づかされた。加えて、いつものバンドスタイルでの「この気持ちよ届け!!」「こんな私を分かって!!」といった心の叫びともまた違い、かといってアコースティックライブのような身近さもない。その間のちょうどいい距離感ならではのライブが体験できた。
機会があれば、是非とも体験していただきたいこのツアーは、4月30日まで続く。各地で、この日以上に解体される日もあるだろう。一度解体され、そこで仕組みを改めて見たり知ったりして、再度甦生して臨むのとでは、またちょっと次からの強靭さも変わってくるに違いない。己を知って、相手を知って、さらに2人についてを更に知れば、次から生まれ出てくる曲たちの大切さや愛しさ、自身で作り出していることに対しての自覚も変わってくるはずだ。
再度解体され、各々そのメカニズムを熟知した上での次のライブは、これまでとはまた違った、一皮剥けた彼女たちと出会えるに違いない。少し気が早いが私は既にその際のステージへと想いを馳せている。
【取材・文:池田スカオ和宏】
【撮影:高田真希子】
リリース情報
[配信]手紙
2017年11月03日
SMAR
2.夏のうた(Live at 日比谷野外大音楽堂[2017/09/02])
3.夜明けの月 (Live at AKASAKA BLITZ[2017/02/25])
4.流星(吉田拓郎カバー)
5.Story of my life(ONE DIRECTIONカバー)
お知らせ
TOUR 2018 『解体新章』
2018/04/20(金)大阪・阿倍野ROCKTOWN
2018/04/22(日)福岡・ROOMS
2018/04/29(日)東京・渋谷7th FLOOR
2018/04/30(月祝)東京・渋谷7th FLOOR
2018 BAND TOUR
2018/09/15(土)東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO
2018/09/17(月祝)栃木・HEAVEN’S ROCK 宇都宮 VJ-2
2018/09/21(金)大阪・umeda TRAD
2018/09/22(土)愛知・ell.FITS ALL
2018/09/24(月祝)福岡・Queblick
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。