秋に新作のリリースも発表! きのこ帝国10周年記念ツアー東京・新木場STUDIO COAST
きのこ帝国 | 2018.04.21
昨年9月に結成10周年を迎えた、きのこ帝国。全国9箇所を回る10周年記念ツアー「夢みる頃を過ぎても」の折り返し地点となる新木場スタジオコーストで、4人は共に過ごしてきた10年という時間を改めて噛みしめているようだった。
1st EP ロンググッドバイに収録されている「MAKE L」をSEにステージに現れた4人は、2013年に出したファースト・アルバムの表題曲「ユーリカ」からスタート。あーちゃん(Gt)のノイジーなギターと谷口滋昭(Ba・Vo)のどっしりしたベースが早くもサイケデリックな空間を作り出し、彼らの姿が見えないほどのスモークの中で佐藤千亜紀(Vo・G)が澄んだ声で歌いだす。「海と花束」「WHIRLPOOL」と仄暗い幻想感が彼ららしいナンバーが続き、その歌とサウンドに感情が吸い取られていくようだ。青いライトは海のようにも、また夜空のようにも見えて、佐藤が歌う情景を広げていく。あーちゃんが、大きく足を上げて気合いっぱいに曲を締めた。すると西村コン(Dr)のドラムをバックに、靴紐を結び直して佐藤が挨拶した。
「結成10周年ワンマンツアー半ば。東京、一生懸命やりますので最後まで楽しんでください」
言い終わるとドラムの西村に合図をして「クロノスタシス」へ。テンポのいい佐藤の歌が印象的なこの曲を収録した2作目『フェイクワールドワンダーランド』は、CDショップ大賞を受賞した思い出深い作品だ。これがチャンスとなって彼らはメジャーのレーベルと契約することになった。あーちゃんが弾く鍵盤に合わせて佐藤が歌い始めた「猫とアレルギー」、ブルージーな「スカルプチャー」はメジャー初作『猫とアレルギー』からの曲。純粋に音楽を聴いて欲しいという佐藤の切実な思いは、当時から今も変わらず歌から滲み出す。それは彼らがバンドを組んだ時から変わらないはずだ。続けて演奏したインディーズ初期からの曲「退屈しのぎ」には、彼らの原点であるシューゲイザー・スタイルと佐藤が心の中から紡ぎ出す歌がある。やるせない気持ちそのままに揺れる歌は、聴くほどに心を締め付け、曲が進むほどにオーディエンスの拍手が大きくなっていった。
ゆったりとコードを弾く鍵盤に合わせて歌った「ハッカ」が、ここではCDで聴くよりちょっと幸せな曲に聴こえたのは、歌と演奏が届いている手応えを感じていたからだろうか。佐藤がギターを爪弾く「風化する教室」も“深海魚は浅瀬では生きられない”と残酷な現実を歌う曲なのにどこか抜けのいい歌となり、彼らなりの旅立ちの歌「桜が咲く前に」も心残りなく出かけられそうな曲になった。そして「疾走」は4人の一体感がダイレクトに現れた演奏に、《いつかまた会いましょう》と歌う最後の一節を、佐藤は思い切り伸び伸びと歌ってみせた。
ホッと一息、という空気の中で「こんばんは!」と声を出したのは西村。「せっかく10周年だから、佐藤さん以外のメンバーが喋り出す箇所があってもいいんじゃないかと提案したら、じゃあ言い出しっぺがやりなよ」と話すことになったと言い訳するうちに、あーちゃんと佐藤に話の腰を折られたのだが、彼らのインディーズ時代のレーベルUKプロジェクトが毎年イベントをやっているこのスタジオコーストには強い思い入れがあり、そこで10周年のワンマンをやれて感謝しかない、ということだった。そんな流れで佐藤がサラリと「秋にアルバムを出せたらと制作中。それに収録される予定の曲をやります」と新曲の「&」へ。
ドラムとベースの安定したリズムと、2台のギターがカラフルに絡むサウンドは、きのこ帝国の現在形。憎しみと愛情を相対するものではなく「&」と繋ぐ歌も、10年目の彼らならでは。ここでいち早く聴くことができた幸せに酔いしれていると、トイピアノ風の音が響いて「怪獣の腕のなか」。”誰かを拒む鎧”などもう脱ぎ捨てた、と言うように伸び伸びと歌う佐藤の声は優しい。そしてスケール感のあるイントロが新しい扉を開ける「愛のゆくえ」で場内の空気が一転した。彼らにとって大きな転機になったこの曲を、佐藤は慈しむように歌った。オーディエンスは体をゆったりと揺らしながら聴き込んでいる。ノイジーなギターと透明感のある歌声、それを支えるリズム隊という黄金律が最高に美しく響いた瞬間だった。
その空気を受け止めた「夜が明けたら」は一段と佐藤の歌が豊かに感情を表し、終盤ではセリフのように歌詞をつぶやいたかと思うと、大きくシャウトしてバンドとともにドラマチックな曲に聴かせた。さらに「クライベイビー」はスケール感のあるサウンドで包容力のある愛を歌い、今の彼らの大きさを示してみせた。 そして最後の1曲「東京」を演奏する前に、佐藤千亜紀(Vo,G)が言った言葉が、この日の彼らを表していた。
「きのこ帝国を、大学1年生の時に結成しました。最初はシゲ(谷口滋昭)とあーちゃんが出会い、友達伝てに私が入り、その後にドラム(西村コン)が入った。サークルじゃなくて、最初から外のライヴハウスでライヴしようって集まりました。最初はライヴのチケットも売れなくて、そこから頑張っていい曲、いいライヴを積み重ねて、徐々にお客さんが増えてCDも出せるようになって、さまざまな人に出会って支えられて、ここまで来たんだなって」
一気に話す佐藤の声は、次第に上ずっていく。
「嫌になることもいい思い出もあって、意味のある10年でした。もちろんメンバー全員のおかげであり、自分たちの音楽を大切に聴いてくれている皆さんのおかげだと心から思います。本当にありがとうございます」
涙をこらえながら言い終えた佐藤と、一緒に頭を下げたメンバーたちに送られた大きな拍手は鳴り止まないかと思われるほどだった。
暖かい空気の中で歌い出した「東京」はフロアも明るく照らされ、東京という街で出会った4人、その4人と出会った人たちがここに集ったこの夜のアンセムになった。佐藤は高ぶる感情を抑えるようにひときわ歌に集中している様子で、そんな彼女の気持ちを汲んでいるのだろう、あーちゃんは全身でギターを弾き、谷口のベースと西村のドラムがダイナミックに曲を広げていく。後奏で佐藤は頭を振りながらギターを弾いて感情を露わにし、大きな声で「ありがとうございました、きのこ帝国でした!」と挨拶してステージを降りた。
アンコールに応えて再登場した佐藤がまず告げたのは秋に新作を出し、リリースツアーを大阪なんばHatchと東京は新木場 STUDIO COASTで行うこと。大きな歓声が起きたのは言うまでもない。さらに佐藤が続けた。 「10周年、自分たちもしんどいときはあったんですけど、辞めることを選ばないでここまでやってこれたことの凄さというものがあると思う。今後もどんなことがあってもやめない選択をして頑張っていきたい。4人で続けていきたいと思っているので、これからも応援宜しくお願いします」
4人で深く頭を下げた後で佐藤が、大人になってあきらめなくちゃならないこともあると言う気持ちを歌にした、と紹介した新曲は「夢みる頃を過ぎても」。どこかフラットで伸びやかな歌と演奏が落ち着きを感じさせ、また彼らが一つ階段を上がったことを実感させる曲だ。そして、次で本当に最後、盛り上がっていきましょうと「国道スロープ」が始まると、フロア上の巨大なミラーボールが輝きだした。佐藤とあーちゃんが前に出てオーディエンスを沸かせ、谷口と西村もパワフルなビートで煽ってくる。大きく揺れるフロアを前に4人は満ち足りた顔をしていた。その顔の輝きは、きのこ帝国の10周年はまだまだ続くと言っているようだった。
【取材・文:今井智子】
【撮影:Viola Kam (V’z Twinkle)】
リリース情報
愛のゆくえ
2016年11月02日
ユニバーサルミュージック
02.LAST DANCE
03.MOON WALK
04.Landscape
05.夏の影
06.雨上がり
07.畦道で
08.死がふたりをわかつまで
09.クライベイビー
セットリスト
きのこ帝国結成10周年ツアー
「夢みる頃を過ぎても」
2018.04.01@新木場STUDIO COAST
- 01.ユーリカ
- 02.海と花束
- 03.WHIRLPOOL
- 04.クロノスタシス
- 05.猫とアレルギー
- 06.スカルプチャー
- 07.退屈しのぎ
- 08.ハッカ
- 09.風化する教室
- 10.桜が咲く前に
- 11.疾走
- 12.&(新曲)
- 13.怪獣の腕のなか
- 14.愛のゆくえ
- 15.夜が明けたら
- 16.クライベイビー
- 17.東京 【ENCORE】
- EN 01. 夢みる頃を過ぎても (新曲)
- EN 02. 国道スロープ
お知らせ
きのこ帝国 10th Anniversary Final
09/20(木)[大阪]なんばHatch
09/23日(日、祝)[東京]新木場STUDIO COAST
rockin’on presents 『 JAPAN JAM 2018 』
05/4日(金、祝)[千葉]千葉市蘇我スポーツ公園
Age Factory presents 『 EGUMI 2018 』
05/18日(金)[東京]東京キネマ倶楽部
HIGUCHIAI presents 『NEW ALBUM PRE-RELEASE PARTY』
05/31日(木)[東京]渋谷 WWW X
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。