ドレスコーズ、音楽劇のようなツアーファイナル「dresscodes plays the dresscodes」遂に完遂!
ドレスコーズ | 2018.07.03
今ツアーが企画されたときから一貫して内包され続けていただろう目論見、あるいは思惑ーーテーマやコンセプトとはまた意味合いの異なる、言うなれば音楽監督にして首謀者、すなわち志磨遼平の意志や狙いといったものーーを正しく受け取れたのかどうかはわからない。けれどもたしかに“受け取った”という感触が生々しくこの手にはあった。手だけではない。全身の皮膚感覚、目にも耳にも、心にも確実に。6月16日、東京・新木場studio COAST。ワンマンツアーとしては約1年ぶりとなるドレスコーズのツアー“dresscodes plays the dresscodes”、その7本目のライブにしてファイナル公演は、毎公演、音楽と物語の融合により見事な化学反応を起こしてきたこの画期的ツアーの、まさに有終の美を飾るにふさわしいステージだったと思う。
まだ無人の舞台中央にはダイヤル式の電話機とバラの花束を乗せたテーブルがひとつ、その周りを半円状に取り囲むような形で4人分の楽器・機材と椅子が1脚ずつ置かれ、各々スポットライトに照らされて神妙に佇んでいる様子はそれだけで開演前の期待を煽るに充分だ。静かに募る客席の熱。開演時刻を15分ほど過ぎた頃、オーディエンスのさざめきをたっぷりと孕んだ場内が暗転すると、今回のツアーバンドメンバーの堀嵜ヒロキ(Dr)、福島健一(Gt& Sax)、板倉真一(Key& Cho)、有島コレスケ(B& Cho)が登場し、それぞれチューニングを整えたところでやにわに「もりたあと(殺人物語)」のアンサンブルに突入する。渦巻く拍手と歓声の中、剣呑ながらもどこか優雅な旋律に導かれて、いよいよ姿を現わした志磨遼平。その右の人差し指が軽く天に向けられるのと同時に溢れ出した「シネマ・シネマ・シネマ」で一気に物語が動き始めた。歌で演説するかのごとく、オーディエンスをアジテートする志磨の弁士然としたいかがわしさが場内の空気をいっそう濃く熱くする。丈の長いジャケットにワイドパンツと上下を黒で揃えつつラフな雰囲気のスーツスタイルもその印象に一役買っているのだろう。ステージを右に左にと歩いて回り、≪拍手を 拍手を≫と訴えかけるように歌っては喝采を浴びる彼のいきいきとした表情に、今日という日に懸ける想いの強さを感じずにはいられなかった。
音楽と物語の融合と前述した通り、今ツアーにドレスコーズが具現してみせたのはいわゆる“ライブ”とも“コンサート”とも違う。平たく言えば音楽劇に限りなく近い。そして、この日の最後に志磨自身も語っていたが、そのコンセプトの大もとには『三文オペラ』ーードイツの劇作家にして演出家、ベルトルト・ブレヒトと作曲家、クルト・ヴァイルによって生み出され、1928年にドイツで初演されて以降、時代も国境も越えて愛され続けてきた音楽劇ーーがある。今年1月から2月にかけてKAAT神奈川芸術劇場にて上演された『三文オペラ』の音楽監督を志磨遼平が務めたことはすでに広く知られているだろう。それを改めて音源としてレコーディング、この5月にリリースされたのがアルバム『ドレスコーズの《三文オペラ》』であり、劇中およびアルバムの演奏を担っているのが志磨と今ツアーのメンバー、その名も“(dresscodes)Beggars Quintet”だ。ただし、アイデアの大もとは『三文オペラ』にあっても、その再現ではけっしてない。今回のステージは『三文オペラ』の主人公、マック・ザ・ナイフの物語をクルト・ヴァイルのスコアではなく、ドレスコーズと毛皮のマリーズの楽曲によって新たに編み上げるという意欲的な試みで構築されている(『ドレスコーズの《三文オペラ》』からラインナップされたのは「もりたあと(殺人物語)」と「カノン(大砲の歌)」のみ)。つまりオマージュでありながらもオリジナリティを前面に打ち出した、まさしくツアータイトルそのまま“ドレスコーズがドレスコーズを演じる”ステージなのだ。
物語のあらすじはこうだ。稀代の大泥棒にして百万ドルの賞金首、マック・ザ・ナイフが曰く“よその国をかっさらえるチャンス”だと志願兵となって戦場に赴き、死地をくぐり抜けた先で出会った少女、メリー・ルーと恋に落ちる。しかし、その恋も長くは続かず、マックにはさらなる悲劇が待ち受けていたーー文字にすればたった数行だが、本編の全16曲に渡って丁寧に紡がれたドラマはここに書き記した数行を遥かに上回るスケール感と躍動感を放って、観る者を虜にする。曲間の折々に差し挟まれる志磨の口上が、リリース時期も、その曲に臨んだ際の状況やスタンスもまるで異なる楽曲たちを絶妙に繋ぎ、物語をまるで破綻させない。「カノン(大砲の歌)」では銃声が轟く中、バンドメンバーが一斉にヘルメットを着用して戦争の始まりを知らせ、続く「SUPER ENFANT TERRIBLE」ではテーブルの上の花束を手にした志磨が歌詞に合わせてそれをマシンガンに見立てて構えることで戦場でのマックを表現するなど、細やかに行き渡った演出にも目をみはってしまう。「Mary Lou」まではマックの視点だったものが、暗転ののちの「ラストワルツ」でメリー・ルーのそれに切り替わる鮮やかさ。鼻歌を歌いながら唇に紅を差す志磨が闇の中にゆっくりと浮かび上がったときにはもう息を呑まずにはいられなかった。ジャケットを脱いだだけなのに、その姿は可憐かつ妖艶で、壇上を優雅に踊る仕草のひとつ一つはまったくもって女性そのものなのだから、すごい。
その後、「towaie」「さよならベイビー・ブルー」とシームレスに続く楽曲をマック、メリー・ルーと次々に演じ分け、2人の間に立ちこめる不穏をオーディエンスに予感させる。カモメの鳴き声に包まれて受話器を取ったメリー・ルーの場面でまたも暗転、次に明るくなったステージにはアコースティックギターを抱えた志磨が立っていた。バンドとともに演奏したのは「ハートブレイクマン」、しみじみとした叙情とからりと乾いた哀愁が恋の終わりを物語る。バラの花束を引きずりながらステージを彷徨った「恋するロデオ」、さよなら、さよなら! と絶叫に近い嗚咽を合図にスタートした「あん・はっぴいえんど」ではラプソディ風のサウンドに乗って、花びらをむしっては花束をボロボロになるまで振り回す自暴自棄な志磨が可笑しくも切ない。盤石のバンド・アンサンブルに楽曲の世界観とドラマがぴったりと寄り添いながら終焉へと導かれていく物語。「スーパー、スーパーサッド」でついに新たな一歩を踏みだしたのも束の間、おどけたようにピースサインを掲げ、明るく人生を謳歌する「欲望」のラストにマックこと志磨はなんと凶弾に倒れてしまう。
断ち落とされる演奏。撃ったのは直前までサックスを吹き鳴らしていた福島だったが、伏線は「ガンマン、生きて帰れ」にあった。指名手配書をビリビリと破り捨てたマック=志磨は手にしていたピストルを唐突に福島に向かって投げ渡していたのだ。倒れた志磨の足元から指名手配書を拾うと、これ見よがしに客席に示し、去っていく福島。真っ暗になった場内で身じろぎもできないオーディエンス。無音のまま、1分以上が過ぎただろうか。映写機の回るような音に続いて、ほの明るく光の灯ったステージには受話器に向かって囁くように「ダンデライオン」を歌う志磨がいた。これはマックが死に際に見た夢なのかもしれない。≪ずっとずっと ふたりでいよう 大丈夫 大丈夫≫と「欲望」で朗々と歌い上げて撃たれた彼が薄れゆく意識の中、最後に会いたいと願ったのはやはりメリー・ルーだったのではないか。そう解釈すれば、目の前の光景がとても幸せなものにも思える。だが、本当の答えはわからない。
「はーい、どうもありがと!」
メンバーとともにカーテンコールに再び現われた志磨に喝采が注ぐ。やり切った笑顔に、こちらの頬と涙腺も緩もうというものだ。熱量も緊張感もこれほどまでに高いステージにはそうそうお目にかかれないだろう。本当に途轍もないものを目撃してしまった。興奮冷めやらぬ中、スタートしたアンコールでは、志磨がヘッドセットからハンドマイクに持ち替え “ライブ”モードで「Ghost」を披露、その後、『ドレスコーズの《三文オペラ》』にゲストボーカルとして参加している小島麻由美が登場、彼女のオリジナル曲である「おしゃべり!おしゃべり!」、さらに『ドレスコーズの《三文オペラ》』でもデュエットしている「ヒモと娼婦のタンゴ」を披露。「志磨くん、すっごいカッコよかった」と小島が言えば、志磨も「僕、ずっと小島さんの大ファンでしたから、ホントこんな日が来るとは」と喜びを噛み締める一幕も。小島を送り出したあとは「ビューティフル」で多幸感たっぷりに今日、そしてツアーを締めくくった。
【取材・文:本間夕子】
【撮影:森好弘】
リリース情報
ドレスコーズの≪三文オペラ≫
2018年05月09日
キングレコード
02. もりたあと(殺人物語)/The Ballad of Mack the Knife
03. ピーチャム商会社歌/Peachum’s Morning Anthem
04. 性愛行進曲/Instead-Of Song
05. 結婚の歌/Wedding Song
06. 海賊ジェニー/Pirate Jenny
07. カノン/Cannon Song
08. 恋の歌/Love Song
09. バルバラ・ソング/Barbara Song
10. この世は最低(第一幕のフィナーレ)/Life’s a Bitch
11. メロドラマ/Melodrama
12. 娼婦たちのララバイ/The Ballad of Sexual Dependency
13. ヒモと娼婦のタンゴ/Tango-Ballad
14. 資本主義の歌/Ballad of the Easy Life
15. 女はおそろしい/Jealousy Duet
16. あなたには(第二幕のフィナーレ)/What Keeps a Man Alive?
17. ちょっと足りない歌/Useless Song
18. ソロモン・ソング/Solomon Song
19. 運命の罠/Call From the Grave
20. 殺すな/Death Message
21. 終曲(第三幕のフィナーレ)/Finale : The Ridding Messenger
22. りぷらいず(殺人物語)/Reprise
セットリスト
「dresscodes plays the dresscodes」
2018.06.16@東京・新木場studio COAST
- 0.もりたあと
- 1.シネマ・シネマ・シネマ
- 2.どろぼう
- 3.Puritan Dub
- 4.ガンマン、生きて帰れ
- 5.カノン(大砲の歌)
- 6.SUPER ENFANT TERRIBLE
- 7.Mary Lou
- 8.ラストワルツ
- 9.towaie
- 10.さよならベイビー・ブルー
- 11.ハートブレイクマン
- 12.恋するロデオ
- 13.あん・はっぴいえんど
- 14.スーパー、スーパーサッド
- 15.欲望
- 16.ダンデライオン 【ENCORE】
- 17.Ghost
- 18.おしゃべり!おしゃべり! (ゲストボーカル:小島麻由美)
- 19.ヒモと娼婦のタンゴ(ゲストボーカル:小島麻由美)
- 20.ビューティフル
お知らせ
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■ライブ情報
Dreamin’ Night 5
07/02(月)マイナビBLITZ赤坂
Botanical House Vol.3
09/22(土)京都・磔磔
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。