Maison book girl 新たな物語の幕開け…?不思議な余韻を残したツアーファイナル
Maison book girl | 2018.07.03
Maison book girlにとって初のホールでのワンマン公演の会場となったのは、神宮球場に程近い閑静なエリアで落ち着いた存在感を放っている日本青年館。鳥のさえずりや雨音が薄っすらと流れている会場内に次々と集まって着席した観客は、早くも異世界に迷い込んだかのような感覚になっていたのだと思う。ライブの開演前といえば、多くの場合、期待に胸を膨らませた人々の話し声がガヤガヤと賑やかに聞こえてくるものだが、とても静かで心地よい緊張感が漂っていたのが独特であった。
ついに迎えた開演。窓ガラスの表面を滴る無数の雨粒の映像がステージの背景に浮かび上がったのを見つめていると、メンバーたちが登場した。上手からゆっくり歩いてきたのは井上唯と和田輪。下手から現れたのはコショージメグミと矢川葵。そして、フラッシュライトが点滅し始めたステージ上で、「レインコートと首の無い鳥」がスタートした。変拍子に合わせて踊りながら歌う4人の背景では、リキッドアートが様々な色彩を浮かべながら渦巻いている。メンバーが身に纏っているレインコートの表面に魔法のように浮かび上がった千鳥格子模様を眺めていると、何処か遠い世界へと連れて行かれるような気持ちになってくる……。観客を一気に幻想的なムードで包んだオープニングであった。
パフォーマンス、映像、ライティングが一体となって、美しい空間を次々と作り上げていったこのライブは、演劇的な要素もかなり含んでいた。水面に広がる波紋、写真を破る両手、ソファ、廃墟、古びた街並み……背景に浮かび上がった様々な映像の前で披露された「bath room」「faithlessness」「townscape」「end of Summer dream」を観ている内に、聴覚や視覚はもちろん、触覚、嗅覚、味覚すらも刺激されるような気がしてきたのは、おそらく私だけではあるまい。開演直後から観客は着席したままだったが、飛び跳ねて踊るのとはまた別の形で興奮を噛み締めている様子が、周囲の空気を通して伝わってきた。
「始まる前に客席からステージを見たんですけど、2階は“落ちちゃうんじゃない?”っていうくらい急なの。怖くないですか?」(コショージ)。「日本青年館でツアーファイナルを迎えられたことを、とても嬉しく思います。ありがとうございます!」(矢川)。初めての会場で、こうしてライブができている喜びをメンバーたちが語り合った和やかなインターバルを挟んで、斬新な刺激に溢れた空間は、さらに広がっていった。
背景に浮かび上がった幾何学模様が催眠術のように恍惚を誘った「sin morning」。曲中に盛り込まれている一瞬の無音が、ホール会場ならではの奥深い静寂を生み出していた「rooms」。飛び交うレーザー光線がドラマチックな世界を作り上げていた「言選り」。目まぐるしくフォーメーションを変化させるダンスが見事だった「十六歳」。切れ味の良いビートがダイナミックに躍動する様が抜群にかっこよかった「lost AGE」……様々な形のワクワクを味わうことができたが、特に圧倒的だったのは「karma」だ。数本のLEDの棒が後方に現れて激しく点滅、レーザー光線の雨が降り注いだステージ上で展開したダンス、歌い上げられたドラマチックな旋律は、思わず叫びたくなるほどの興奮を掻き立ててくれた。この曲を経たことによって、誰も彼もが居ても立ってもいられなくなっていたに違いない。「みんな、立ってください!」というメンバーの声とともに「my cut」へと雪崩れ込むや否や、会場内の空気はまるで夢から覚めたかのように一転。一斉に立ち上がった人々の間から突然湧き起った熱いコール、振り上げられたたくさんの拳を眺めながら、メンバーたちは実に嬉しそうな表情を浮かべていた。
ステージ後方の中央に置かれていたミラーボールが回転。眩しい光の粒子を背後から浴びたことにより、全身のシルエットを神々しく際立たせたメンバーたちの姿が、まるで妖精のようだった「last scene」で本編は終了。観客の手拍子と歓声に応えて行われたアンコールでは、まず「cloudy irony」と「snow irony」が届けられ、会場全体が爽やかな熱気で包まれた。そして、それぞれの言葉で抱えている想いを語ったメンバーたち。
「ライブはみなさんがいるからこそ成り立ちます。曲をいっぱい聴いてくださってると思うんですけど、ブクガを少しでもみなさんの時間に入れてくれてることが本当にありがたいです。これからもよろしくお願いします!」(井上)。
「大きなワンマンをやる度に私は、“次は無理だ。しんどい……”って思うんですよ(笑)。でも、リハーサルをいっぱいやって“わあー!”ってなっても、こうやって本番でみなさんの前に立つと、“楽しい!”っていう気持ちの方がいつも勝つんです。これからもブクガについてきてください」(矢川)。
「ホールコンサートって憧れだったんですよ。ホールでオーケストラを観たことがあるんですけど、つまんないと寝ちゃうじゃないですか(笑)。だけど、最後までみなさんに観ていただけて嬉しいです。ブクガのことを見つけてくださったみなさんのおかげで、私たちはもっと上を目指せます。頑張っていくので、見守っていてください」(和田)。
「ワンマンライブを初めてやることになった時に何気なくつけた“Solitude HOTEL”っていう意味のよくわからないタイトル(笑)。それが今日で5回目というのが感慨深いです。“5回目だからもうやることないだろ”って思われたかもしれないけど、全然そんなことはなくて。今回もやりたいことがたくさんあって。でも、“この会場では無理です”とかもあるんです。だから、もっと大きいところでやらせてもらえるようになりたいです。そのためにはたくさん努力をしなきゃいけないし、みなさんの応援が大切なので、これからもMaison book girlについてきてください」(コショージ)。
ノスタルジーを誘う柔らかな旋律、ゆっくりと手を振るダンスで穏やかな空間を生み出した「おかえりさよなら」を披露した後、ステージの下手側、上手側、中央で深々とお辞儀をしてステージを後にしたメンバーたちであったが、暫くのインターバルを経て、最新シングル『elude』に収録されているポエトリーリーディングの曲「教室」のトラックが流れ始めた。すると、ノートを手にして詩の朗読をしながら再登場した4人。教室を舞台にして繰り広げられる人間模様、夏が来る直前の空気感をイメージさせる物語を読み終えると、舞台袖へと消えたメンバーたち。これにて終演と思ったのだが……フラッシュライトの点滅と共に、このライブのオープニングを飾った「レインコートと首の無い鳥」が再び届けられた。先程とは異なり、鋭い嘴が突き出ている鳥の頭部のようなお面(近世ヨーロッパで疫病の治療をする際に医師が着用していた防護マスクを彷彿とさせた)を被ってパフォーマンを繰り広げている姿が目を引く。そして、曲は途中で突然ストップしてステージは暗転。明かりが点いた時、メンバーたちの姿はなく、綺麗に揃えて置かれた4組の靴、脱ぎ捨てられた1着のレインコートだけが残されていた。
ステージ上の意味深長な置き土産をぼんやりと眺めながら不思議な余韻を噛み締めていると、スクリーンに浮かび上がった「6F」「2018 Winter」という文字。次のワンマンライブが、今年の冬に行われるということなのだろう。しかし、あのエンディングの意味するものとは何だったのだろうか? 最後の最後まで、我々観客の想像を掻き立てて止まないMaison book girlであった。サウンド、ダンス、視覚効果、ライティング、シアトリカルな演出の数々をダイナミックに融合させたこのグループのライブは、一度体験すると本当に病みつきになる。音楽が好きな人はもちろん、斬新なエンタテインメントを求めている全ての人に自信を持ってお薦めできる存在だ。
【取材・文:田中 大】
【撮影:稲垣 謙一】
【企画:サクライケンタ・suzzken】
【空間演出:huez】
【演出・ステージング:竹森徳芳】
【リキッドライト:ハラタアツシ】
リリース情報
elude
2018年06月20日
ポニーキャニオン
2. おかえりさよなら
3. 教室
4. レインコートと首の無い鳥(inst)
5. おかえりさよなら(inst)
6. 教室(inst)
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セットリスト
Maison book girl tour 2018 final『Solitude HOTEL 5F』 2018.06.23@日本青年館
- 01. レインコートと首の無い鳥
- 02. bath room
- 03. faithlessness
- 04. townscape
- 05. end of Summer dream
- 06. sin morning
- 07. rooms
- 08. 言選り
- 09. 十六歳
- 10. lost AGE
- 11. karma
- 12. my cut
- 13. last scene 【ENCORE】
- EN 01.cloudy irony
- EN 02.snow irony
- EN 03.おかえりさよなら 【W ENCORE】
- EN 04.教室
- EN 05.レインコートと首の無い鳥
お知らせ
アイドル横丁夏まつり!!〜2018〜
07/08(日)横浜赤レンガパーク
井上唯 COOKING PARTY 2018
07/10(火)LOFT9 Shibuya
「NEO Fes!!! presented by Top Yell」 Vol.5
07/16(月祝)TOKYO FM HALL
ピエールフェス THE FINAL
07/18(水)東京都 LIQUIDROOM
加賀温泉郷フェス2018
07/21(土)山代温泉 瑠璃光
lyrical school tour 2018 “WORLD’S END"(前半戦)
07/22(日)新潟GOLDEN PIGS BLACK, 新潟
OTODAMA SEA STUDIO 2018 supported by POCARI SWEAT ~YOU R BEAUTIFUL 2018~
07/27(金)OTODAMA SEA STUDIO
TOKYO IDOL FESTIVAL2018
08/03(金) - 08/05(日)お台場・青海周辺エリア
サマソニ×TIF@幕張IDOL SONIC
08/19(日)千葉・ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ
アーバンギャルド Presents 鬱フェス 2018
09/08(土)渋谷TSUTAYA O-EAST
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。