新曲も初披露! パスピエ、初の日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブをレポート
パスピエ | 2018.10.17
すっかり薄暮に包まれていた17時半の日比谷野外大音楽堂。既に秋へと突入していることを実感していると、白いスモークがたちこめるステージ上に成田ハネダ(Key)、三澤勝洸(Gt)、露崎義邦(Ba)、サポートメンバーの佐藤謙介(Dr)が登場した。そして、彼らの演奏がスタートしてから暫くすると、ステージの下手側から大胡田なつき(Vo)も現れて一礼。彼女が「素顔」を歌い始めるや否や、瑞々しいムードが会場全体をふわりと優雅に彩った。吹いてくる夕風が肌に心地よく、周囲のビル群の上に広がる深紫色の空が美しい。穏やかな昂揚感を噛み締めさせてくれたこのオープニングは、パスピエにとって初の野外単独公演が、普段のライブとはひと味違うものとなることを早くも予感させてくれた。
2曲目「ヨアケアマエ」を皮切りに、力強い手拍子、軽快なダンスを誘う「贅沢ないいわけ」「永すぎた春」「チャイナタウン」も連発されて、ライブバンドとしてのパスピエの熱量を生々しく体感できる場面が続いた。そして、すっかり陽が落ちたことに、ふと気づいた頃に迎えた最初のインターバル。「1ブロック目にしてこの汗の量(笑)」(大胡田)。「着る服を間違えたよね」(成田)――というやり取りがあったが、メンバーたちも観客もすっかり汗だくとなっていた。「虫の声も聞こえていい感じ。たまには外で開放的なのも良くない? 楽しんでいきましょう!」と大胡田が言って「シネマ」へ突入すると、聴覚はもちろん、視覚も刺激される空間が生み出されていった。背景に置かれているLEDライトの明滅とサウンドが絶妙に一体となっている様が美しい。サイバーな音色とメロディを響き渡らせた「ネオンと虎」や「トロイメライ」では、身体を揺らしながら歌う大胡田の影がステージの壁の表面で揺らめく動きも、最高の演出となっていた。
演奏の合間で無音が訪れると、日比谷公園から聞こえてきた虫の声――秋を感じる自然の音も楽しみながら迎えた中盤戦。季節の移り変わりを静かに歌い上げる「花」に耳を傾けるのは、とても贅沢なひと時であった。続いて、起伏に富んだ展開でワクワクさせてくれた「(dis)communication」。ショルダーキーボードを弾きながらステージ上を動き回って観客を煽った成田が、大喝采を浴びていた「脳内戦争」……多彩なサウンドをじっくりと楽しんだ後、「とおりゃんせ」「蜘蛛の糸」「フィーバー」を全身で体感して、爆発的な盛り上がりへと到達していた観客。激しい手拍子を誘った「マッカメッカ」が幕切れた瞬間、熱い歓声が客席全体から湧き起った。
再び迎えたインターバルで、野外ライブの格別の心地よさについて話し合っていた大胡田と成田。「もうすぐ結成から10年。いろんな場所でやらせてもらったけど、日比谷野外大音楽堂でもできて嬉しいです。虫がすごい鳴いてる。虫は“なんなのー? 音でかいんですけどー”って思ってるかも(笑)」(大胡田)。「『印象H』の“H”は、今回の会場の日比谷野音や服部緑地にも掛っているんですけど、パスピエにとって“印象”は、始まりの言葉。パスピエ自体が印象派の作品だったりもするし、対バンシリーズも『印象A』からスタートして、『印象E』で終わったんだけど、結成10周年に向けてとか、また新しく始めるという意味も込めて、今回『印象H』。素敵な日を迎えられて嬉しいです」(成田)。そして、「東京のみんなのために歌います」という大胡田の言葉を添えて「ON THE AIR」の演奏がスタート。東京で暮らしているたくさんの人々を優しく祝福するようなこの歌は、とても胸に沁みる響きを帯びていた。
「裏の裏」と「MATATABISTEP」によって、エネルギッシュなダンス天国と化した日比谷野外大音楽堂。「今日はありがとう! いい日になった? また一緒にライブできるようにイベントを考えたり、曲を作ったり、毎日いろいろ考えながら生きていくので、また必ずお会いしましょう!」、大胡田が観客に呼びかけて雪崩れ込んだ「最終電車」は、発射された銀テープを掲げながら踊っていた観客の姿が壮観だった。そして、メンバー各々のソロプレイも交えながら爆発的な盛り上がりを生んだ「S.S」で本編は終了。手を振りながらステージを後にしたメンバーたちを讃える拍手は、やがてアンコールを求める特大の手拍子と化していった。
お揃いのオリジナルグッズのTシャツに着替えてステージに戻ってきた5人。「いいバンドですよ、パスピエは」、成田がふと口にした言葉が大喝采を浴びていた。そして、メンバーたちは、サポートメンバーの佐藤を改めて観客に紹介。今回のライブに対する想いも各々が語った。「ありがとう! 今日は大成功だと私は思ってる。拍手が鳴りやまないよね。私がいろいろ言うより、この拍手の余韻にみんなで浸ろうよ」(露崎)。「言いたいことは1つだけ。晴れてよかったあ(笑)。俺、雨男なんですよ。パスピエのツアーって大体雨でしょ? 心配してたんだけど、晴れて、最高のライブができて嬉しいです!」(三澤)。「ふと思ったんだけどさ。『印象H』の“H”って、“晴れ”の“H”じゃないの?」と言った成田に対しては、「びっくりしたあ! “ハネダ”の“H”って言い出すのかと」とツッコミを入れた大胡田。「そこまで言ったら殴っていいよ(笑)」という成田の反応が、観客を大爆笑させていた。
和やかなムードとなったMCタイムを経て、アンコールの演奏へ。「テンションが上がってる中、新曲をやってもいいですか?」(成田)。「スーパー未公開の曲だから、耳に焼きつけて帰って」(大胡田)。2人の言葉を添えてスタートした新曲は、シャープなビート、ドラマチックな展開が、観客の熱い手拍子を誘っていた。そして、ピアノのイントロが奏でられている中、「幸せ! 言うことないです。またお会いしましょう!」と大胡田が感無量の気持ちを言葉にしていた「正しいままではいられない」は、夜空に向かってとても爽やかに広がっていった。
「正しいままではいられない」を披露し終えると、ステージから去ったメンバーたち。しかし、鳴り止まない拍手に応えて行われたダブルアンコールで、「ハイパーリアリスト」も届けられた。観客を眺めながらメンバーたちが浮かべている表情が、実に嬉しそう。初の野外単独公演という新鮮な体験を、今後の活動への活力としている彼らの様子が、自ずと伝わってきたラストの1曲であった。
【取材・文:田中 大】
【撮影:Yosuke Torii】
リリース情報
ネオンと虎
2018年04月04日
ATLANTIC JAPAN / WARNER MUSIC JAPAN
2.マッカメッカ
3.Matinee
4.かくれんぼ
5.トビウオ
6.オレンジ
7.恐るべき真実
セットリスト
野音ワンマンライブ “印象H”
201810.06@日比谷野外大音楽堂
- 01.素顔
- 02.ヨアケマエ
- 03.贅沢ないいわけ
- 04.永すぎた春
- 05.チャイナタウン
- 06.シネマ
- 07.ネオンと虎
- 08.トロイメライ
- 09.花
- 10.(dis)communication
- 11.脳内戦争
- 12.とおりゃんせ
- 13.蜘蛛の糸
- 14.フィーバー
- 15.マッカメッカ
- 16.ON THE AIR
- 17.裏の裏
- 18.MATATABISTEP
- 19.最終電車
- 20.S.S 【ENCORE】
- EN 01.新曲
- EN 02.正しいままではいられない
- EN 03.ハイパーリアリスト
お知らせ
術ノ穴 × ヴィレッジヴァンガードpresents 「ササクレフェスティバル2018」
11/17(土)[東京]恵比寿LIQUIDROOM
P.S.P.E限定イベント "azuchi"
12/21(金)[東京]代官山UNIT
12/22(土)[大阪]Music Club JANUS
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。