LUCKY TAPES 東京ファイナルをレポート
LUCKY TAPES | 2018.11.20
ニューアルバム『dressing』で新しいステージへ踏み出したLUCKY TAPESの、全国12か所13回にわたるリリース・ツアー。メジャー・レーベルへの移籍による注目度の上昇は明らかで、ファイナルの地であるここマイナビBLITZ赤坂のフロアが満員なのは当然として、2階席も立ち見までぎっしり埋まってステージが見えづらいほど。新世代のアーバン・ブラック・ミュージック、ソウルやファンクやR&B、シティ・ポップ・シーンの盛り上がりと、ソングライター・高橋海のプロデュースや楽曲提供での活躍もあいまって、LUCKY TAPESを取り巻く環境は劇的に変わりつつある。発火寸前の期待と緊張と興奮をはらんだこの空気は、たぶん今しか味わえないのだろうと思いながら、開演の時を待つ。
幕開けの1曲は、メジャー・デビューEPのタイトル・チューンにもなった「22」。笑顔でオーディエンスにクラップを求めながら、しなやかに洗練されたディスコ/ソウル・ビートでフロアを徐々にあたためる。バンドは高橋海(Vo&Key)、田口恵人(B)、高橋健介(G)の正式メンバーを中心に、サポートのUKO(Cho)、松下ぱなお(Per)、松浦大樹(Dr)、そして村上大輔(Sax)とチャンケン(Tp)という8人編成で、それぞれが楽器の音色を生かすストイックなプレーをするため、大所帯だが音が軽やかで風通しがいい。メドレーのように「Punch Drunk Love」へとスムーズに繋ぎ、ミラーボールを使った演出もお洒落で華やか。ワクワクする滑り出しだ。
粘っこくファンキーなリズムに、ポップで甘いメロディを乗せた「体温」から、溌溂としたロッキン・ソウル・フレイバーの「NUDE」へ。ギターの健介が「いつも100%で全力出してますけど、今日は200%出します!」と高らかに叫ぶ。LUCK TAPESの曲は、「NUDE」のようにソウルフルに始まったかと思えば中間部で突如としてハードなロック・パートが現れたり、組曲のように展開する曲もあって飽きさせない。「Balance」では、サックスとトランペットの小粋なソロと、パーカッションの展開を経て曲に入るなど、ぐっと引き込むフックの作り方がうまい。ベースの田口が最前線に歩み出ていかしたソロを決めると、ひときわ大きな歓声が湧き上がる。田口はツアー中に体調を崩して休養し、この日が久々の復帰ライブだ。「おかえり」の思いの詰まった拍手と歓声に、LUCKY TAPEのファンのあたたかさがこもっている。
ディストーションを駆使したギターと、力強いホーンが響く「Gossip」は、ロッキンでソウルフルなダンス・チューン。明滅するスポットライトの中で、高橋海のフェミニンなボーカルがふわりと宙に浮かぶ。柔らかく流れる彼の歌声と、しなやかで芯の太いバンド・グルーヴとの不思議なバランスが、LUCKY TAPESの大きな魅力だ。「COS」は韻シストのBASIがラップで参加した曲だが、今日は彼の代わりにMCスパイスことサックス村上が大活躍し、お茶目な味のあるラップにオーディエンスは大喜びだ。
「ミュージック・ビデオが昨日10万回再生を超えました。ということは、全員が歌えると思う。一緒に歌ってもらえますか?」
健介がアルバムのリード・チューン「Lonely Lonely feat.Chara」を紹介する。ソフトなAORタイプの曲調に合わせた全員のコーラスと共に、高橋海がスムーズなラップを聴かせる。原曲ではゲスト・ボーカルのCharaが振りまくコケティッシュな魅力が目立っていたが、ライブ・バージョンで聴く「Lonely Lonely」には、会場が一体となるフレンドリーな魅力がある。
中盤のハイライトには「JOY」を挙げよう。「今日はケイティ(恵人)に贈るわ」と言った健介の思いやり、息の合ったゴスペル風クワイヤの美しさ、メロウでいながら力強いリズムの迫力。LUCKY TAPESは、心動かす独自のアンサンブルがすでに確立している。ファンキーなアップテンポの「レイディ・ブルース」では、悪ノリした村上やチャンケンがコミカルなダンスで笑いを誘う。ステージ上の親密な空気が、フロアに流れ出して一つになる。
終盤のスパートは「Gravity」から始まった。健介の呼びかけでオーディエンスがスマートフォンのバックライトを高く掲げると、フロアいっぱいに広がる星の海。ミラーボールも加わった幻想的なムードの中で聴く「Gravity」は、どこまでも美しくメロウだ。続く「MOOD」は、イントロダクションの「MOOD Session」と「MOOD」の二部構成によるアレンジで、ミドル・テンポで軽やかでありつつしっかりと前進するリズム、ゴスペルを思わせる高橋海、健介、UKOによる見事なコーラス・ワークが輝く1曲。好きなことばっか、追いかけ回して、死にたい。さらりと歌われるパンチラインが、鋭く心に突き刺さる。LUCKY TAPESの音楽には、聴き心地の軽やかさの内側に、やむにやまれぬ意思がある。そこがいい。
「いろんな困難があっても、低い階段かもしれないけど、上がり続けていられるのは、みんなに支えられているからです。本当にありがとう」
ラスト・チューンは、アルバム『dressing』と同じく「ワンダーランド」だった。高橋海のメロディアスなピアノがリードする、柔らかいミドル・テンポだが、ドラムスが叩き出すマーチングのリズムが力強い。歌詞はとてつもなく切なく儚いのに、まばゆい光溢れるステージを見つめながら聴いていると、心踊る希望の歌のように聴こえてくるから不思議だ。
アンコール。健介のユーモラスな物販紹介コーナーがあったり、コーラスUKOがメンバーにうながされ、自身のアルバム『ONE LOVE』から高橋海プロデュースの「lure」をワンコーラス歌って見せたり。和やかな空気の中で歌われたラスト・チューン「シェリー」は、ライブ中も、そして家に持ち帰ってもあたたかさが持続するような美しいソウル・バラードだった。
すべての曲を終え、挨拶に並ぶ9人を幸せな拍手が包み込む。時代の最先端に切り込む音楽性やカリスマティックなキャラクターとは、少し違うかもしれない。が、この親密な空気と素晴らしいグルーヴ、歌詞ににじみ出るナイーブなたたずまいこそがLUCKY TAPESの魅力。この空気を持ったままどこまで大きくなれるのか、お楽しみの時間はこれからだ。
【取材・文:宮本英夫】
【撮影:Kousuke Ito】
リリース情報
dressing
2018年10月03日
ビクターエンタテインメント
2.Punch Drunk Love
3.COS feat.BASI
4.Balance
5.Gossip
6.Lonely Lonely feat.Chara
7.Gravity
8.Joy
9.MOOD
10.ワンダーランド
セットリスト
“dressing”release tour 2018
2018.11.8@マイナビBLITZ赤坂
- 1.22
- 2.Punch Drunk Love
- 3.体温
- 4.NUDE
- 5.Balance
- 6.Gossip
- 7.COS
- 8.EASY
- 9.Lonely Lonely
- 10.JOY
- 11.レイディ・ブルース
- 12.Gravity
- 13.MOOD Session
- 14.MOOD
- 15.ワンダーランド 【ENCORE】
- EN-1.シェリー
お知らせ
jizue New Album「ROOM」Release Tour
12/07(金)名古屋 CLUB QUATTRO
Japan’s Next
12/09(日)渋谷エリアサーキットイベント
Date fm RADIO GIGA
12/29(土)仙台PIT
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。