MASH A&R 7回目のオーディション、総応募数約1000組の頂点に立ったのはユレニワ!
MASH A&R | 2018.12.17
THE ORAL CIGARETTES、フレデリック、LAMP IN TERREN、パノラマパナマタウン、Saucy Dog、YAJICO GIRLが所属、「NEW ROCK, NEW STANDARD」を掲げてオーディションと育成、そしてデビューからの活動全般をサポートするプロジェクト「MASH A&R」。今年で7度目となるオーディションの決勝となる公開ライヴ審査「MASH FIGHT! Vol.7 FINAL MATCH」が、12月15日(土)に渋谷WWWにて行われた。
全国から約1000組もの応募が殺到する中、4月~9月の半年間にかけて毎月6~8組がマンスリーアーティストとして選出されてきた。その中から月ごとのリスナー投票で1位を獲得したアーティスト、さらにその他のマンスリーアーティスト全体から「MASH SELECT枠」として選ばれたアーティスト達、計12組によって先月11月4日(日)にオーディションの準決勝となるライヴ審査「MASH FIGHT! Vol.7 SEMI FINAL」がTSUTAYA O-nestにて行われ、見事その中を勝ち抜いたOLD BROWN OWL、CLOW、ゲシュタルト乙女、ユレニワ、シルエ、the paddlesの6組が、この日、ファイナリストとして、栄えあるグランプリを懸けて決勝の舞台に立つこととなったのだ。
このオーディションは一般のオーディエンスにも公開されている他、スペシャアプリ、LINE LIVEでも生配信が行われた。MASH A&Rの審査員票に加えて、会場一般審査員票、さらにネットを通したWEB審査員票のすべてを集計することで、最終的な審査結果となる。
持ち時間は1組20分。さあ、果たしてどのバンドが栄えあるグランプリを獲得することになるのだろうか。セミファイナルをさらに超える熱い闘いが繰り広げられた。
決勝のオープニングを飾るのは、岩崎弘(Vo&G)、衣袋航平(G)、三戸部光(B)という24歳のメンバーで構成され、東京を中心に活動中のOLD BROWN OWL。6月度のマンスリーアーティストに選出されたギターロックバンドだ。スーツアップした姿でステージに登り、「今日は1日いい時間にしましょう」と威勢のいい一言で幕を開けると、まずはエモーショナルな歌を中心に添えたロックンロール“一編のレゾンデートル”がスタート。ドラムはサポートメンバーによる演奏だが、ギターソロにもグルーヴにも抜群のキレが漲っていて、20分のステージを楽しもうという気概は十分だ。カポをはめ忘れることから緊張が伝わる瞬間はありつつも、キラキラと明るい照明の下で奏でられる“ゼフィランサス”は一番の盛り上がりをもたらした。キャッチーなメロディと思わず踊り出したくなる軽快なリズムに、会場からも手拍子が上がる。テンポアップする大サビが演出する多幸感は非常に美しく、この曲は間違いなくこれからも輝いていく曲になるだろう。ラストの“風の赴くままに”は、4曲の中でも特にヴォーカルの豊かな響きを感じ取ることができる楽曲で、ギターとベースがセッションのようにぶつかり合う力強い演奏もいい。ロックンロールやブルース、ガレージといったルーツを基調にしながら、型にハマることなくキャッチーで自由にオリジナリティへ昇華していける、バンドの幹をしっかりと感じさせるライヴだった。
2組目に登場したのは北海道札幌市出身のCLOW。弾き語りの女性シンガーソングライターであり、9月度のMASH SELECT枠としてオーディションを勝ち上がってきた。暗転したステージ上で静かにアコギを爪弾き始め、ライヴ開始。1曲目は“あま宿り”だ。<神様は十代で死んだ 今さら何に縋った>というサビの強烈な歌詞が耳に残るが、それを表現する彼女の歌、とりわけクライマックスに向かって湧き上がっていく、静かなる熱のこもった歌唱が素晴らしい。呟くように歌に入り、最後は血反吐を吐くような生々しさで歌い上げる。消え入るような儚さと、情念や執念といった想いがひとつの容器の中でごちゃごちゃに混ざり込んだようであり、それでいて凛としてステージに立つ姿に会場中が惹き込まれるように釘付けになっていた。続く“おめかし”は繊細なアルペジオとザクザク切り込む力強いストロークのコントラストが光る曲で、“電線と行く”ではループするコード上で艶やかながらひと際張りのある彼女の歌声を堪能することができる。目立ったMCを挟むこともなく、「今日はありがとうございました、CLOWでした」という一言からラストは“僕の歌”へ。暗がりの中で一筋の光を乞うように歌う姿は、もがき、迷いながらも、歌い手として立つ自分自身を鼓舞するようなに歌にも聴こえた。移り変わっていく心の機微を強烈な言葉に託しつつ、己の身体から絞り出せるだけの音域と声量で歌い上げ、ギター1本で出せるありったけのエモーションでもって演奏していく。歌はもちろん、ギターから出る一音一音の強弱も含めて、シンガーソングライターとして強烈な個性を残すパフォーマンスとなった。
続いての登場は、2016年1月にヴォーカルのMikanを中心に結成された、台湾のロックバンド、ゲシュタルト乙女だ。9月度マンスリーアーティストであり、出場者の中で唯一国境を越えてやってきたバンドである。ドラムのChoが怪我のため、今回はサポートメンバーを迎えてのライヴとなったが、素晴らしい演奏を見せてくれた。「台湾から参りました、ゲシュタルト乙女です!」と一言、オルタナ感のある流麗なギターのメロディが印象的な“人生ゲーム”が爆音で鳴り響く。台湾のバンドでありながら歌詞は全編日本語、ブレイクダウンにグルーヴィな間奏が突然現れるという曲構成も面白く、場内からもハンドクラップが巻き起こる。「謝謝」というMikanの挨拶からの「朝6時に日本に着きました。こんなに寒くて台湾とは全然違っていますが、是非皆さんも一緒に楽しんでいきましょう」というMCでは、カタコトながらバンドが今日に懸ける意気込みを力強く語った。“生まれ変わったら”“三色菫”と立て続けに演奏し、儚げで浮遊感のあるヴォーカル、繊細なギターメロディ、グルーヴィなベースと小刻みで変則的なドラムの絡み合いを惜しげなく披露。たとえばフィッシュマンズやthe band apartを想起するような、深い音楽的理解を感じさせるアレンジで、演奏からも一人ひとりのテクニックがよく伝わるが、楽曲全体としては非常にキャッチーに響いてくるのが面白い。オルタナやポストロックなどを昇華しつつ確かなポップネスを響かせることができるのがこのバンドの魅力だろう。ラストはラップ調の歌唱が新鮮な“Dreamaholic”で締め括られ、「ラララ」のシンガロングが会場を温かく包み込んだ。人柄の温かさもポテンシャルの高さも存分に見せ切ったライヴだった。
オーディションも折り返し地点となる4組目。登場したのは5月度MASH SELECT枠として選出されたユレニワである。2016年3月に結成された千葉県出身のロックバンドであり、 メンバーは中村闘志(Vo&G)、種谷佳輝(G&Cho)、宮下レジナルド(B&Cho)、堀内怜樹(Dr&Cho)の4名だ。まず1曲目に披露されたのは“重罪”。ドラムを中心に一音一音がとてもダイナミックで、1曲目から全力で歌い上げているヴォーカルがとてもいい。大サビ前ですべての音が止まり、「予選で僕は勝ちにこだわらないつもりでステージに立ってたけど、絶対に勝ちたいです……!」と並々ならぬ意気込みを放ち、一気に会場の空気を掴み取ると、“Hello Glow”の軽快なテンポと見せ場満載のギターソロでさらに流れに乗る。「愛しくて命を捧げてもまだ足りない、この星すべてを捧げたいくらい愛しいバージンに捧げます」――3曲目はセミファイナルでも鮮烈な印象を残した“バージン輿論”。激情的な演奏と、マイクに倒れ込みそうなほど全身全霊で歌う中村の姿に、客席でも感情を開放して拳を高く上げる姿が目立つ。非常に衝動的でエネルギッシュなライヴ、けれども演奏にも楽曲にも、その背景に緻密なアプローチと幅広い音楽的素養に基づいた緻密なアプローチと、確かな音楽センスを感じさせるところが素晴らしい。セミファイナル時よりもバンドとしての演奏/表現の強度が明確に高くになっていた。全員が19歳という若さも驚きだが、ティーンエイジャー特有のどうにもならない衝動を迸らせながら、それをしっかり音楽へと昇華していけるテクニックの土台も素晴らしく、またしても強烈な余韻をステージに残すライヴとなった。
続いての登場はシルエ。新潟を中心に東京や名古屋などでもライヴを行っているバンドで、五十嵐一輝(Vo&G)、石口侑弥(G)、高橋圭太(B)、もみきしんのすけ(Dr)の4人からから成る。紹介ムービーからはバンドの仲睦まじさも感じられたが、ひとたび幕が開くと大爆音のギターロックが空気を切り裂いた。冒頭からベースの音が鳴らず、一旦演奏を止めて仕切り直すというハプニングもあったが、五十嵐の持ち前のポジティヴィティと、4人で力を合わせて乗り越えていこうというバンドの団結を見せることで、しっかり会場の空気を掴み直した。2曲目の“ハリ”はガレージ感漂うガシャッとした演奏と、五十嵐のハイトーン・ヴォーカルをしっかり堪能することができる楽曲だ。「歌いたことがたくさんあります。どっかにいる弱虫の救いになれたらいいなと思います。そのマイナスの美学をたくさん歌っていこうと思います」という中盤の印象的なMCには五十嵐が多くの人の前で歌う意味が色濃く滲み出ているようだったし、そこから背中をそっと押すような優しさと感情表現豊かな歌声が詰まった“Rainy day”が会場一帯に響き渡り、美しい景色を作り上げた。ラストナンバーは、今こうして肩を組んでステージに立ち、これからもバンドとして歩んでいく上での大事な指針になっていくであろう楽曲“ヒーロー”であった。瞬間瞬間で感じたことを楽曲に落とし込みながら、それだけでは収まらない熱量をしっかりライヴで発揮してきたバンドなのだろう。4人の生き様がしっかりと伝わってくる濃密な20分間だった。
いよいよオーディションアクトも最終6組目。2014年に大阪・四條畷高校の軽音楽部内で結成され、柄須賀皇司 (Vo&G)、松嶋航大(B)、加賀屋航平(Dr)から成るバンド、the paddlesの登場だ。8月度MASH SELECT枠での選出であり、本日の出演者の中で最もストレートという言葉が似合うギターロックバンドである。Weezer “Pink Triangle”のSEに乗って現れると、「僕らの武器はライヴなんで。誰にも投げられない豪速球投げて帰りたいと帰ります!」という紹介ムービーに込めた言葉通り、3ピース特有の衝動を迸らせたような“幸せ”を爆音で鳴らし、「ラララ」のシンガロングで早くも会場の空気をがっちり掴んだ。夏と青空が似合いそうな疾走感全開の“裸足の季節”、シンプルな言葉で構成された“花”を立て続けに聴いて感じたが、100%を超える力で思いっ切りストレートを投げ、お客さんもそこにありったけの想いをつぎ込んだそれぞれの感情を投げ返す――その全力のキャッチボールこそがthe paddlesのライヴなのだ。「ライヴだけで伝えられることがたくさんあると思ってます。一人ひとりの目を見て最後までしっかり歌い切りたいと思います!」という柄須賀の熱のこもったMCには、そんなバンドの本質がしっかり表れているように思う。「足が痛いです(笑)」というチャーミングな加賀屋のMCでひと笑いを取りつつ、ベースの力強いリフが印象的なラストの“ホーム”に至るまで、装飾なしで心臓の鼓動ひとつで勝負し切ったような、まさにストレート一択と言わんばかりのパフォーマンス。きっと醒めることない胸の奥の想いをどこまでも滾らせながら、まだまだ走り続けてくれるバンドなのだろう。
6組のオーディションアクトが終了し、最終審査を待つ間はゲストアクトのライヴが行われた。2013年の「MASH FIGHT! Vol.2」でのグランプリ・アーティスト、LAMP IN TERRENの登場である。松本大のポリープ切除手術のため活動を一旦休止していた彼らだが、8月の日比谷野音ライヴにて劇的な復活を遂げ、この日はMASHの先輩バンドとして出演。オーディションの緊張感もまだ残っていた中、「固くないですか、ライヴですよ!」という松本の一言と“地球儀”の演奏で、一気に会場はヒートアップしていく。そしてリリースされたばかりの新アルバム『The Nakde Blues』収録の“New Clothes”は、松本の歌声を中心に演奏が徐々に熱を帯びていき、空間に音が満ちていく様が非常に美しい1曲だ。曲がりくねった道を進み、共に苦難を乗り越えながらバンドとしての一体感を増した今の4人が、その輪を外へ外へと広げていき、音楽でお客さんを包み込んでいくかのような丁寧なパフォーマンスが光る。5年前のMASH FIGHT!がスタートになったからこそ、再び新たなスタートラインに立つ今のLAMP IN TERRENにとって、この舞台で披露するライヴはきっと特別なものなのだろう。「ゲストバンドと言えど、オーディションバンド達と変わらず、対バンをしにきました。最後まで楽しんで闘いましょう」というMCは後輩達へのエールであり、何より自分達自身を焚きつけるための言葉だったのだろう。「ここからが再出発。誠心誠意込めて皆さんの何かしらの一歩に繋がるように歌います」と、心の手綱を引き締め直すような言葉とともに、ラストを飾ったのは“BABY STEP”。グランプリ獲得後も自分自身を探しながら、道に迷いながら、それでもこれまで歩んできた確かな5年を信じてステージに立つ今のLAMP IN TERREN。会場の一人ひとりを、そして出演バンドの一人ひとりをじっと見つめるように松本は歌っていたが、“BABY STEP”は誰かの歩みをそっと手助けするだけじゃなく、これからのLAMP IN TERRENの支えにもなり得る大切な1曲となることだろう。音楽と向き合う誠実な姿勢を改めて感じさせてくれるライヴだった。
そして、いよいよ最終審査の発表である。MCの落合健太郎がステージ上にMASH A&R審査員を呼び込み、参加者と出場バンドが固唾を飲んで見守る中、遂に「MASH FIGHT! Vol.7 FINAL MATCH」のグランプリが発表された。獲得したのは、「ユレニワ」!
盛大な拍手に包まれる中、ユレニワの4人のメンバーがステージ上へ。MASH A&Rを代表して鹿野淳よりトロフィーが手渡され、「ヤバイ、最高だという言葉にならない気持ちと、この音楽の奥をもっと解析してみたいという気持ちの両方を強く感じさせてくれました。おめでとう!」という祝福の言葉がバンドに授けられた。バンドを代表して中村が挨拶を行ったが、「真面目なことしか言えないくらい本当に光栄です……!」という嬉しさや照れが入り混じったような一言が飛び出し、あの衝動的なパフォーマンスの裏で、真摯に音楽と向き合い、誠実に活動を重ねてきたことがこの結果に繋がったのだということをしっかり窺い知ることができた。
なお、2019年8月14日(水)に東京・新木場STUDIO COASTにて開催される、MASH A&R主催のライヴイベント「MASHROOM 2019」にユレニワがオープニングアクトとして出演することが決定! 「8月14日まで成長し続けていって、(他のバンドに)匹敵できるようなバンドになりたいです」という一言に期待を込めて、来年の8月14日を楽しみに待つことにしよう。
MASH A&Rの次回のオーディション「MASH FIGHT! Vol.8」は2019年春からの募集を予定。まずはグランプリを獲得したユレニワに心からの祝福を送るととともに、見事に決勝に残った6アーティスト、そして応募をしたすべてのアーティストにとって、このオーディションが飛躍のきっかけとなることを、心から願いたい。
全国から約1000組もの応募が殺到する中、4月~9月の半年間にかけて毎月6~8組がマンスリーアーティストとして選出されてきた。その中から月ごとのリスナー投票で1位を獲得したアーティスト、さらにその他のマンスリーアーティスト全体から「MASH SELECT枠」として選ばれたアーティスト達、計12組によって先月11月4日(日)にオーディションの準決勝となるライヴ審査「MASH FIGHT! Vol.7 SEMI FINAL」がTSUTAYA O-nestにて行われ、見事その中を勝ち抜いたOLD BROWN OWL、CLOW、ゲシュタルト乙女、ユレニワ、シルエ、the paddlesの6組が、この日、ファイナリストとして、栄えあるグランプリを懸けて決勝の舞台に立つこととなったのだ。
このオーディションは一般のオーディエンスにも公開されている他、スペシャアプリ、LINE LIVEでも生配信が行われた。MASH A&Rの審査員票に加えて、会場一般審査員票、さらにネットを通したWEB審査員票のすべてを集計することで、最終的な審査結果となる。
持ち時間は1組20分。さあ、果たしてどのバンドが栄えあるグランプリを獲得することになるのだろうか。セミファイナルをさらに超える熱い闘いが繰り広げられた。
決勝のオープニングを飾るのは、岩崎弘(Vo&G)、衣袋航平(G)、三戸部光(B)という24歳のメンバーで構成され、東京を中心に活動中のOLD BROWN OWL。6月度のマンスリーアーティストに選出されたギターロックバンドだ。スーツアップした姿でステージに登り、「今日は1日いい時間にしましょう」と威勢のいい一言で幕を開けると、まずはエモーショナルな歌を中心に添えたロックンロール“一編のレゾンデートル”がスタート。ドラムはサポートメンバーによる演奏だが、ギターソロにもグルーヴにも抜群のキレが漲っていて、20分のステージを楽しもうという気概は十分だ。カポをはめ忘れることから緊張が伝わる瞬間はありつつも、キラキラと明るい照明の下で奏でられる“ゼフィランサス”は一番の盛り上がりをもたらした。キャッチーなメロディと思わず踊り出したくなる軽快なリズムに、会場からも手拍子が上がる。テンポアップする大サビが演出する多幸感は非常に美しく、この曲は間違いなくこれからも輝いていく曲になるだろう。ラストの“風の赴くままに”は、4曲の中でも特にヴォーカルの豊かな響きを感じ取ることができる楽曲で、ギターとベースがセッションのようにぶつかり合う力強い演奏もいい。ロックンロールやブルース、ガレージといったルーツを基調にしながら、型にハマることなくキャッチーで自由にオリジナリティへ昇華していける、バンドの幹をしっかりと感じさせるライヴだった。
2組目に登場したのは北海道札幌市出身のCLOW。弾き語りの女性シンガーソングライターであり、9月度のMASH SELECT枠としてオーディションを勝ち上がってきた。暗転したステージ上で静かにアコギを爪弾き始め、ライヴ開始。1曲目は“あま宿り”だ。<神様は十代で死んだ 今さら何に縋った>というサビの強烈な歌詞が耳に残るが、それを表現する彼女の歌、とりわけクライマックスに向かって湧き上がっていく、静かなる熱のこもった歌唱が素晴らしい。呟くように歌に入り、最後は血反吐を吐くような生々しさで歌い上げる。消え入るような儚さと、情念や執念といった想いがひとつの容器の中でごちゃごちゃに混ざり込んだようであり、それでいて凛としてステージに立つ姿に会場中が惹き込まれるように釘付けになっていた。続く“おめかし”は繊細なアルペジオとザクザク切り込む力強いストロークのコントラストが光る曲で、“電線と行く”ではループするコード上で艶やかながらひと際張りのある彼女の歌声を堪能することができる。目立ったMCを挟むこともなく、「今日はありがとうございました、CLOWでした」という一言からラストは“僕の歌”へ。暗がりの中で一筋の光を乞うように歌う姿は、もがき、迷いながらも、歌い手として立つ自分自身を鼓舞するようなに歌にも聴こえた。移り変わっていく心の機微を強烈な言葉に託しつつ、己の身体から絞り出せるだけの音域と声量で歌い上げ、ギター1本で出せるありったけのエモーションでもって演奏していく。歌はもちろん、ギターから出る一音一音の強弱も含めて、シンガーソングライターとして強烈な個性を残すパフォーマンスとなった。
続いての登場は、2016年1月にヴォーカルのMikanを中心に結成された、台湾のロックバンド、ゲシュタルト乙女だ。9月度マンスリーアーティストであり、出場者の中で唯一国境を越えてやってきたバンドである。ドラムのChoが怪我のため、今回はサポートメンバーを迎えてのライヴとなったが、素晴らしい演奏を見せてくれた。「台湾から参りました、ゲシュタルト乙女です!」と一言、オルタナ感のある流麗なギターのメロディが印象的な“人生ゲーム”が爆音で鳴り響く。台湾のバンドでありながら歌詞は全編日本語、ブレイクダウンにグルーヴィな間奏が突然現れるという曲構成も面白く、場内からもハンドクラップが巻き起こる。「謝謝」というMikanの挨拶からの「朝6時に日本に着きました。こんなに寒くて台湾とは全然違っていますが、是非皆さんも一緒に楽しんでいきましょう」というMCでは、カタコトながらバンドが今日に懸ける意気込みを力強く語った。“生まれ変わったら”“三色菫”と立て続けに演奏し、儚げで浮遊感のあるヴォーカル、繊細なギターメロディ、グルーヴィなベースと小刻みで変則的なドラムの絡み合いを惜しげなく披露。たとえばフィッシュマンズやthe band apartを想起するような、深い音楽的理解を感じさせるアレンジで、演奏からも一人ひとりのテクニックがよく伝わるが、楽曲全体としては非常にキャッチーに響いてくるのが面白い。オルタナやポストロックなどを昇華しつつ確かなポップネスを響かせることができるのがこのバンドの魅力だろう。ラストはラップ調の歌唱が新鮮な“Dreamaholic”で締め括られ、「ラララ」のシンガロングが会場を温かく包み込んだ。人柄の温かさもポテンシャルの高さも存分に見せ切ったライヴだった。
オーディションも折り返し地点となる4組目。登場したのは5月度MASH SELECT枠として選出されたユレニワである。2016年3月に結成された千葉県出身のロックバンドであり、 メンバーは中村闘志(Vo&G)、種谷佳輝(G&Cho)、宮下レジナルド(B&Cho)、堀内怜樹(Dr&Cho)の4名だ。まず1曲目に披露されたのは“重罪”。ドラムを中心に一音一音がとてもダイナミックで、1曲目から全力で歌い上げているヴォーカルがとてもいい。大サビ前ですべての音が止まり、「予選で僕は勝ちにこだわらないつもりでステージに立ってたけど、絶対に勝ちたいです……!」と並々ならぬ意気込みを放ち、一気に会場の空気を掴み取ると、“Hello Glow”の軽快なテンポと見せ場満載のギターソロでさらに流れに乗る。「愛しくて命を捧げてもまだ足りない、この星すべてを捧げたいくらい愛しいバージンに捧げます」――3曲目はセミファイナルでも鮮烈な印象を残した“バージン輿論”。激情的な演奏と、マイクに倒れ込みそうなほど全身全霊で歌う中村の姿に、客席でも感情を開放して拳を高く上げる姿が目立つ。非常に衝動的でエネルギッシュなライヴ、けれども演奏にも楽曲にも、その背景に緻密なアプローチと幅広い音楽的素養に基づいた緻密なアプローチと、確かな音楽センスを感じさせるところが素晴らしい。セミファイナル時よりもバンドとしての演奏/表現の強度が明確に高くになっていた。全員が19歳という若さも驚きだが、ティーンエイジャー特有のどうにもならない衝動を迸らせながら、それをしっかり音楽へと昇華していけるテクニックの土台も素晴らしく、またしても強烈な余韻をステージに残すライヴとなった。
続いての登場はシルエ。新潟を中心に東京や名古屋などでもライヴを行っているバンドで、五十嵐一輝(Vo&G)、石口侑弥(G)、高橋圭太(B)、もみきしんのすけ(Dr)の4人からから成る。紹介ムービーからはバンドの仲睦まじさも感じられたが、ひとたび幕が開くと大爆音のギターロックが空気を切り裂いた。冒頭からベースの音が鳴らず、一旦演奏を止めて仕切り直すというハプニングもあったが、五十嵐の持ち前のポジティヴィティと、4人で力を合わせて乗り越えていこうというバンドの団結を見せることで、しっかり会場の空気を掴み直した。2曲目の“ハリ”はガレージ感漂うガシャッとした演奏と、五十嵐のハイトーン・ヴォーカルをしっかり堪能することができる楽曲だ。「歌いたことがたくさんあります。どっかにいる弱虫の救いになれたらいいなと思います。そのマイナスの美学をたくさん歌っていこうと思います」という中盤の印象的なMCには五十嵐が多くの人の前で歌う意味が色濃く滲み出ているようだったし、そこから背中をそっと押すような優しさと感情表現豊かな歌声が詰まった“Rainy day”が会場一帯に響き渡り、美しい景色を作り上げた。ラストナンバーは、今こうして肩を組んでステージに立ち、これからもバンドとして歩んでいく上での大事な指針になっていくであろう楽曲“ヒーロー”であった。瞬間瞬間で感じたことを楽曲に落とし込みながら、それだけでは収まらない熱量をしっかりライヴで発揮してきたバンドなのだろう。4人の生き様がしっかりと伝わってくる濃密な20分間だった。
いよいよオーディションアクトも最終6組目。2014年に大阪・四條畷高校の軽音楽部内で結成され、柄須賀皇司 (Vo&G)、松嶋航大(B)、加賀屋航平(Dr)から成るバンド、the paddlesの登場だ。8月度MASH SELECT枠での選出であり、本日の出演者の中で最もストレートという言葉が似合うギターロックバンドである。Weezer “Pink Triangle”のSEに乗って現れると、「僕らの武器はライヴなんで。誰にも投げられない豪速球投げて帰りたいと帰ります!」という紹介ムービーに込めた言葉通り、3ピース特有の衝動を迸らせたような“幸せ”を爆音で鳴らし、「ラララ」のシンガロングで早くも会場の空気をがっちり掴んだ。夏と青空が似合いそうな疾走感全開の“裸足の季節”、シンプルな言葉で構成された“花”を立て続けに聴いて感じたが、100%を超える力で思いっ切りストレートを投げ、お客さんもそこにありったけの想いをつぎ込んだそれぞれの感情を投げ返す――その全力のキャッチボールこそがthe paddlesのライヴなのだ。「ライヴだけで伝えられることがたくさんあると思ってます。一人ひとりの目を見て最後までしっかり歌い切りたいと思います!」という柄須賀の熱のこもったMCには、そんなバンドの本質がしっかり表れているように思う。「足が痛いです(笑)」というチャーミングな加賀屋のMCでひと笑いを取りつつ、ベースの力強いリフが印象的なラストの“ホーム”に至るまで、装飾なしで心臓の鼓動ひとつで勝負し切ったような、まさにストレート一択と言わんばかりのパフォーマンス。きっと醒めることない胸の奥の想いをどこまでも滾らせながら、まだまだ走り続けてくれるバンドなのだろう。
6組のオーディションアクトが終了し、最終審査を待つ間はゲストアクトのライヴが行われた。2013年の「MASH FIGHT! Vol.2」でのグランプリ・アーティスト、LAMP IN TERRENの登場である。松本大のポリープ切除手術のため活動を一旦休止していた彼らだが、8月の日比谷野音ライヴにて劇的な復活を遂げ、この日はMASHの先輩バンドとして出演。オーディションの緊張感もまだ残っていた中、「固くないですか、ライヴですよ!」という松本の一言と“地球儀”の演奏で、一気に会場はヒートアップしていく。そしてリリースされたばかりの新アルバム『The Nakde Blues』収録の“New Clothes”は、松本の歌声を中心に演奏が徐々に熱を帯びていき、空間に音が満ちていく様が非常に美しい1曲だ。曲がりくねった道を進み、共に苦難を乗り越えながらバンドとしての一体感を増した今の4人が、その輪を外へ外へと広げていき、音楽でお客さんを包み込んでいくかのような丁寧なパフォーマンスが光る。5年前のMASH FIGHT!がスタートになったからこそ、再び新たなスタートラインに立つ今のLAMP IN TERRENにとって、この舞台で披露するライヴはきっと特別なものなのだろう。「ゲストバンドと言えど、オーディションバンド達と変わらず、対バンをしにきました。最後まで楽しんで闘いましょう」というMCは後輩達へのエールであり、何より自分達自身を焚きつけるための言葉だったのだろう。「ここからが再出発。誠心誠意込めて皆さんの何かしらの一歩に繋がるように歌います」と、心の手綱を引き締め直すような言葉とともに、ラストを飾ったのは“BABY STEP”。グランプリ獲得後も自分自身を探しながら、道に迷いながら、それでもこれまで歩んできた確かな5年を信じてステージに立つ今のLAMP IN TERREN。会場の一人ひとりを、そして出演バンドの一人ひとりをじっと見つめるように松本は歌っていたが、“BABY STEP”は誰かの歩みをそっと手助けするだけじゃなく、これからのLAMP IN TERRENの支えにもなり得る大切な1曲となることだろう。音楽と向き合う誠実な姿勢を改めて感じさせてくれるライヴだった。
そして、いよいよ最終審査の発表である。MCの落合健太郎がステージ上にMASH A&R審査員を呼び込み、参加者と出場バンドが固唾を飲んで見守る中、遂に「MASH FIGHT! Vol.7 FINAL MATCH」のグランプリが発表された。獲得したのは、「ユレニワ」!
盛大な拍手に包まれる中、ユレニワの4人のメンバーがステージ上へ。MASH A&Rを代表して鹿野淳よりトロフィーが手渡され、「ヤバイ、最高だという言葉にならない気持ちと、この音楽の奥をもっと解析してみたいという気持ちの両方を強く感じさせてくれました。おめでとう!」という祝福の言葉がバンドに授けられた。バンドを代表して中村が挨拶を行ったが、「真面目なことしか言えないくらい本当に光栄です……!」という嬉しさや照れが入り混じったような一言が飛び出し、あの衝動的なパフォーマンスの裏で、真摯に音楽と向き合い、誠実に活動を重ねてきたことがこの結果に繋がったのだということをしっかり窺い知ることができた。
なお、2019年8月14日(水)に東京・新木場STUDIO COASTにて開催される、MASH A&R主催のライヴイベント「MASHROOM 2019」にユレニワがオープニングアクトとして出演することが決定! 「8月14日まで成長し続けていって、(他のバンドに)匹敵できるようなバンドになりたいです」という一言に期待を込めて、来年の8月14日を楽しみに待つことにしよう。
MASH A&Rの次回のオーディション「MASH FIGHT! Vol.8」は2019年春からの募集を予定。まずはグランプリを獲得したユレニワに心からの祝福を送るととともに、見事に決勝に残った6アーティスト、そして応募をしたすべてのアーティストにとって、このオーディションが飛躍のきっかけとなることを、心から願いたい。
【Photo by 釘野 孝宏】
MASH A&R OLD BROWN OWL CLOW ゲシュタルト乙女 ユレニワ シルエ the paddles LAMP IN TERREN ライブ