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KREVA 多彩な要素を詰め込んだ「完全1人ツアー2018」

KREVA | 2019.01.15

 今回のツアーが、いかにものすごいものであったのかを端的に伝えるためには、手始めに『完全1人ツアー 2018』というタイトルの“1人”が何を意味していたのかを説明するのが一番わかりやすいだろう。この“1人”が“ゲストを招かない”という意味も含んでいたのはもちろんだが、“ステージに立つのがKREVAだけ”という意味でもあったのが特筆すべき点だ。「DJとかバンドもいなかったんだ? じゃあ、トラックをスタッフが流してラップをしたのかな?」と思ったあなた。違います! 「じゃあ、自分で再生ボタンを押してラップしたんだね」と思ったあなたも不正解! では、どうしたのか? そこに注目しつつ、このレポートを読んでいただけたらと思う。

「OPENING THEME」が流れ、KREVAがステージに登場。DJ機材を操作しながら「Intro」をプレイしたのに続いて「トリートメントfeat. DABO, CUEZERO」と「神の領域」も披露したのだが……この時点では、どれだけすごいことがステージ上で行われているのか、はっきりと掴めていない観客も当然いただろう。しかし、その後に繰り広げられた使用機材の説明によって状況は一転したはずだ。KREVAは、まず手始めにDJソフトウェア「TRAKTOR」を紹介。続いて、コントローラー、左右2台のターンテーブルを操作すると、流れているサウンドがどのように変化するのかについても丁寧に実演した。そして「これからこれをラップしながらやろうっていうんです!」という宣言と共にスタートした25分間のメドレー。「Change my mind」「Changing Same」「王者の休日」「THE SHOW」「国民的行事」「想い出の向こう側」「これでよければいくらでも」「あえてそこ(攻め込む)」「居場所」「Revolution」……この10曲で共通して描かれていたのは“変わる” “変わらない”というテーマ。離れ業とも言うべき機材操作とラップの併せ技に息を呑みつつ、彼の音楽の根底に脈打っている人生哲学も再確認することができたノンストップメドレーであった。

「全然こんなことやんなくたっていいんだよ。きっちり25分間作った音源を用意して歌えばいいんだから(笑)。だけど、誰が絶対に失敗しないトリプルアクセル観たい? 毎日、何年間も練習してる人が失敗するかもしれないから、成功したら“うわああっ!”ってなるんでしょ?」と観客に問いかけたKREVAは、「ウォーミングアップがてら、ここでビートを組んでみるわ」と言って、作業を行ってから「健康」を披露。続いて「俺の好きは狭い」も届けられた後、突然鳴り響いたチャイムの音。すると“Zepp Tokyoより生中継”という文字がスクリーンに浮かび、“ライブ中継の映像を観ている”という設定の下でKREVAは「基準」を歌い始めた。ラップスキルの高さが凝縮されているこの曲は大いに盛り上がったが、その後のコーナーのための粋な下準備だったとは……。

「今、聴いていただいたのが、KREVAさんが2011年にリリースした「基準」です」――講師に扮した彼が始めたのは、「基準」の高速ラップについて解説する『基準早口完全攻略講座』。基本的にラップは複数の文字のライミング(押韻)の上に成り立っていることを多くの人がご存知だと思うが、「基準」では、その応用編とも言うべきテクニックが発揮されていることが明かされた。示された例をここで具体的に紹介すると非常に長くなるので省くが、完璧には韻を踏んでいないフレーズ同士の共通している母音を強調してラップをすることによって韻を踏んでいるのに等しい響きを生み出す手法=“偉大なるねじふせ”が重要なポイントであることが、とてもよくわかった。この点を踏まえつつ「基準」と向き合うと大変面白いので、興味がある人は音源を聴きながら確かめてみてはいかがだろうか。

「クリスマス・イブRap」が披露された後も、興味深いレクチャーが待っていた。19歳の時に人生で初めてローンを組んで買ったのだというサンプラー「AKAI MPC 3000」を観客に紹介したKREVAは、「この中に音が入っているんです」と言って、コントローラーを操作して音を鳴らした。そして披露された「ひかり」の主旨をわかりやすく表現するならば、“デジタル音源の人力演奏”だろうか。複数の機材をコンピュータで制御せず、手で操作して音を鳴らしつつラップする曲となっていた。その次に披露された「百人一瞬」と「存在感」は、このテーマの発展形だったと言っていいだろう。サンプラー「AKAI MPC 4000」を使って3台のシンセサイザーを鳴らすパフォーマンスは、KREVAの言っていた表現を借りるならば、“MPC 4000がバンドマスター、3台のシンセ各々がベース、ピアノ、シンセサイザーの奏者”。つまり、ある種のバンドの生演奏的なことが行われたわけなのだが、デジタルとアナログのアクロバティックな交配とも言うべき試みによって、摩訶不思議な空間が生み出されていた。

 このライブの終盤も、我々の度胆を抜く場面の連続であった。異彩を放ったのは、「Ableton PUSH 2」というコントローラーを駆使したパフォーマンス。この機材のパッドにシンセサイザーの鍵盤的な役割を与えて、“弾き語り”ならぬ“押し語り”で披露した「Tonight」は、大きな拍手喝采を巻き起こしていた。そして、我々が夢見心地のまま“瞬間”“刹那”をテーマにしている「You are the NO.1 feat. BONNIE PINK」「ma ch?rie’」「瞬間speechless」に耳を傾けている内に、いつの間にか本編は佳境へと差し掛かっていた。「楽器を人前で演奏するだけの技量はないんだけど、今回、自分の得意なことでやって、鍵盤をなしにしてみたんです。鍵盤が弾けないのが軽くコンプレックスでもあるんですよね。音楽って鍵盤で弾くっていうイメージがあるじゃないですか。でも、違ったアプローチでも攻められるんですよ。自分の得意な方向からアプローチすることの気づきに今日のライブがなってくれたらいいかなあって思ってます。でも、普通に楽しんでくれればそれでいいんですけどね(笑)」というMCを経て披露された「最終回」と「希望の炎」は、コントローラーを使ってシンセ音源のギターを鳴らしながら歌うパフォーマンスであった。この2曲をライブで聴けたのは久しぶりなので、嬉しかったファンも多いのではないだろうか。

 アンコールを求める手拍子に応えてステージに戻ってきたKREVAは、9分08秒(※KREVAを数字で表記すると908)で曲を作る「9分08秒チャレンジ」で、再び観客を盛り上げた。「Native Instruments MASCHINE MK3」という初心者にもオススメなのだという機材を使ったビートメイクは、彼の音楽制作の工程の概要がシンプルに示されていて、とても興味深かった。そして「最後は何も演奏しないで、マイクロフォンのありがたみを思いっきり受けようかと。今日、みんなの顔を見ながら歌うってことがなかなかできなかったので」と言いつつ披露したラストの曲は「音色」。観客の笑顔を見つめながら歌ったKREVAは、とても満足そうな表情を浮かべていた。

 このライブは、とにかく理屈抜きで楽しかっただけでなく、音楽に対する視点を劇的に広げるためのヒントもたくさん我々に示してくれた。KREVAというアーティストはラップや楽曲制作のスキルが高いだけでなく、多彩な要素をエンタテインメントへと昇華することができる柔軟な発想力の持ち主でもある。今後の彼も前代未聞の刺激をたくさん届けてくれるに違いない。

【撮影:岸田哲平】
【取材・文:田中 大】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル KREVA

リリース情報

存在感

存在感

2018年08月22日

ビクターエンタテインメント

1.INTRO
2.存在感
3.俺の好きは狭い
4.健康
5.百人一瞬

お知らせ

■ライブ情報

完全1人ツアー2018+1
01/28(月)Zepp DiverCity

ビクターロック祭り2019
03/16(土) 幕張メッセ国際展示場 9、10、11ホール

06/30(日)日本武道館

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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