前へ

次へ

ヤバイTシャツ屋さん Zepp Tokyo ライブレポート

ヤバイTシャツ屋さん | 2019.03.08

 いきなりで恐縮だが、いまだにヤバイTシャツ屋さんを単なるコミックバンドだと見ている人はいないだろうか。まあ確かに彼らは「おもしろ」に命をかけているバンドではある。だがそれはロックと笑いの基本原理をしっかり捉えた上で血を吐くような努力と頭が痛くなるような思考の末に実現しているということ、そしてそれが決して安易な自己満足のためなどではなく、ロックバンドとしてこの時代に居場所を手に入れるための決死のカウンターアタックとして繰り出されているということを、改めて声を大にして言いたい。そしてそんなヤバTの姿勢が、今回のZepp Tokyo 2DAYSを含むツアーではますます研ぎ澄まされているのである。というわけでアルバム『Tank-top Festival in JAPAN』を引っさげての全国ツアー、Zepp Tokyoの2日目である。

 ステージ後方には巨大なタンクトップくんが掲げられ、フロア上空には「フェスティバル」の名にふさわしく万国旗がはためいている。アンプの上には最近タイアップしているSUUMOのキャラクタースーモくんが鎮座。そんな雰囲気でそこはかとなく浮かれ気味の会場にいつものSEが流れ出す。もりもりもとがドカドカとドラムをかき回すと、ヘヴィなギターリフから怒涛のOiコールへ。アルバムのオープニングナンバーでもある「Tank-top Festival 2019」だ。こやまたくや(Vo・G)としばたありぼぼ(Vo・B)のツインボーカルがテンション高くぶち上がる。続けて「KOKYAKU満足度1位」「小ボケにマジレスするボーイ&ガール」とアルバムの曲順どおりの展開で早くもフロアはもみくちゃに。クラウドサーフィンも続出し、湿度&温度は急上昇である。

 それにしても、前々から思っていたのだが、ヤバTのライブは本当に音がいい。ちょっとそのへんの3ピースパンクバンドでは太刀打ちできないほど、低音は重く高音は鋭く、クリアでパンチのある音が鳴る。「Universal Serial Bus」のようなファスト&ショートなメロコアチューンなんか、ドシャメシャで何歌っているか分からなくなりそうなものだが、ヤバTの場合はそこでもしっかり音と声が届く。まあ、届いたところで歌っていることはファイルの拡張子名とUSBが認識されないという文句なのだが、そこが肝心なのだ。ギャグではなくロックとして、音とメロディの快楽をしっかりと届ける、だからこそヤバTは音源よりもライブのほうが輝くのだ。

 同じことはMCにもいえる。追加公演入れてZepp Tokyo 3DAYSをソールドアウトさせている今回のツアー。「武道館できますよ!」というこやまの言葉どおり、動員力だけでいえば武道館は余裕でできそうなヤバTだが、今回のツアーのファイナルは、6月8日のサンリオピューロランド公演である。聞いたことのない舞台設定だ。こやまとしばたはピューロランドの年間パスポートを持っているらしく、サンリオキャラクターの山手線ゲームで年パスを持っていないニワカのもりもとをやり込めようという展開になるも、マイナーキャラの名前を連発するもりもとがじつはサンリオにめっちゃ詳しいということが判明――ダメだ、言葉で書くとちっとも面白くないのだが、現場ではどっかんどっかんウケていた。言いたいのは、ここでもフリとオチという笑いの原理原則をしっかり織り込んだ上でMCが構成されているということだ。彼らのMCのおもしろさとは、フリートークで誰かをイジってガハハというものではなく、ドリフやごっつええ感じレベルの(例が古くてごめん)、徹底的に練られたコントのそれだ。

 要するにバッキバキのロックの音の快感と、様式美のような笑いの快感。そのどちらもが、ヤバイTシャツ屋さんのライブの場ではとことん追求されている。だから楽しくないわけがないし、一度体験すればまた来たくなる。ピューロランドみたいなものなのだ。年パスあったら買ってもいい、と思う。この日も、スカパンクを取り入れた「Tank-top of the world」、ミクスチャーヘヴィロックな「リセットマラソン」、かわいいふりして意外に哲学的な「ざつにどうぶつしょうかい」、フロアを覆う大シンガロングが巻き起こったメロディックチューン「無線LANばり便利」など、ロックと名のつく音楽すべてを横断するような勢いで食い散らかしながらそれぞれのツボを的確に押しまくり、MCでは前日に来場したという道重さゆみ(言うまでもなくしばたにとっても「神」である)の好きな曲(「寝んでもいける」)からもりもとの一発キラーギャグ「ご機嫌真っ正面です!」まで一分の隙もないトークを繰り広げてみせた。

 ライブ終盤には「鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック」「ヤバみ」そして前述の「かわE」とキラーチューンを集中砲火。そのままアンコールでもCMでおなじみ「スーモマーチ」で観客全員に「SUUMOで検索!」と叫ばせると、「ウェイウェイ大学生」に「ハッピーウェディング前ソング」、そして「1曲やってない曲がある」と最後に「あつまれ!パーティーピーポー」で大団円。先発完投型の投手が8回になっていきなり150キロ超えのストレートでバッタバタ三振取るようなもので、バッター(オーディエンス)からしたら太刀打ちのしようがない。あるいは、フルコースの最後にカツ丼大盛りと焼肉3人前がどんとテーブルに置かれるような感じ。こいつら俺を殺しにかかってるな、という終盤の怒涛の攻めで、ヤバTの本気度が表れていた。「ちょうどいい感じ」で終わらせるわけにはいかないのだ。なぜなら、手をゆるめれば負けるということを、彼らは知っているからである。

 この日のライブの中盤、こやまはそれまでのMCとは違う温度で「昨日のライブ、すごい悔いが残ったんですよ。でもヤバイTシャツ屋さんって悔しいから続けてきた、悔しいからようやくできてるバンドやから……悔しいときのヤバイTシャツ屋さんってすごいライブをするはずなんですよね」と語った。そう言って鳴らされた「ゆとりロック」。ヤバイTシャツ屋さんのプライドを刻んだ大名曲に、それまでわちゃわちゃ楽しんでいたフロアもじっくりと聴き入る光景が印象的だった。彼らが「悔しい」のは昨日に限ったことではない。たぶん人生のさまざまな場面で味わってきた悔しさが、どこまでもガチでストイックでおもしろくてかっこいい、今のヤバTを作り上げたのだ。Mステに出ているアーティストにもM-1に出ている漫才師にも負けない、最強最高のコミックパンクバンド。ヤバTが突き進む道とはそれだ。「絶対全員楽しませないといけないと思ってます! すごいライブしてすごい楽しんでもらわないとあかんと思ってます!」というこやまの絶叫には彼らの「本気」が滲んでいた。

【取材・文:小川智宏】
【撮影:オイケカオリ】

tag一覧 ライブ ヤバイTシャツ屋さん

リリース情報

Tank-top Festival in JAPAN

Tank-top Festival in JAPAN

2018年12月19日

ユニバーサルミュージック

・鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック
・KOKYAKU満足度1位
・かわE
ほか全13曲収録

お知らせ

■ライブ情報

ヤバイTシャツ屋さん “Tank-top Festival in JAPAN” TOUR 2019
3.9(土)高松festhalle
3.10(日)高知CARAVAN SARY
3.12(火)岡山YEBISU YA PRO
3.13(水)鳥取・米子AZTiC laughs
3.19(火)神戸 太陽と虎
3.21(木・祝)広島BLUE LIVE
3.23(土)鹿児島CAPARVO HALL
3.24(日)熊本B.9 V1
4.7(日)盛岡CLUB CHANGE WAVE
4.8(月)福島・郡山HIPSHOT JAPAN
4.10(水)宇都宮HEAVEN’S ROCK
4.11(木)群馬・高崎club FLEEZ
4.13(土)長野CLUB JUNKBOX
4.15(月)新潟LOTS
4.16(火)金沢EIGHT HALL

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る