レビュー
ヤバイTシャツ屋さん | 2018.12.18
音楽の振れ幅、言葉の切れ味にますます磨きが掛かっている。ネタ切れするどころか、底が見えない音楽性に驚きを禁じ得ない。ヤバイTシャツ屋さんの3rdアルバム『Tank-top Festival in JAPAN』は躊躇なく最高傑作と呼びたくなる仕上がりだ。いや、正確に言うならば、過去2枚のフル・アルバムも傑作だったが、自身の作品を毎回更新するクオリティを提示している。そこが凄い。1stアルバムの方が良かった、2ndアルバムの方が優れていたのに、と言わせない説得力を見せつけているのだから。
「誰でも使える言葉を使って誰にも歌えん歌を歌う」(「サークルバンドに光を」)の歌詞は、かなりマジメに自らの音楽性に斬り込んだ内容であった。それはデビュー時から変わらないヤバTの音楽的アイデンティティとさえ言えるものだ。トリッキーな言葉に逃げず、他人とは違うオリジナリティ溢れる楽曲世界を作り上げる。その意味において、彼らは従来の音楽シーンにいなかったタイプのバンドである。本当に「発明品」みたいな音楽を作っていると僕は思っている。今作を聴いて、その思いはより一層強くなった。お世辞抜きでとんでもなく感動している。
既にライヴで抜群の支持を得ている「KOKYAKU満足度1位」、映画『ニセコイ』主題歌「かわE」など既発5曲を含む全13曲入りの今作は聴き応えが半端じゃない。冒頭を飾る「Tank-top Festival 2019」はこれまでの「Tank top~」シリーズの系譜に位置する曲調。ザラ付いたリフが猛烈にかっこ良く、アウトロにさりげなく用いたアコギもいいフックをなっており、早くライヴで聴いてみたい1曲。「揚げ足取る前に笑いを取れや」と歌詞でチクリと刺す「小ボケにマジレスするボーイ&ガール」は窮屈になっていく社会に対して、笑える心の余裕を持てばそれが平和に繋がるんだ、と聴き手に鋭く問いかけている。また、「君はクプアス」同様に脳内ループ必至の言語センスにシビれる「どすえ~おこしやす京都」も秀逸。リズミックなリフに乗り、ライヴで大合唱を巻き起こしそうな“どすえ☆ボンバー”の妙味溢れるフレーズも最高すぎる。そして、商品名が入った楽曲を作ったところ、許可を取るのに時間を要したために未収録になったことを切なくもシュールに歌い上げた「大人の事情」もツボにハマる。転んでもただでは起きないヤバTの不屈の魂に震えるばかり。さらに「ベストジーニスト賞」に続き、今作で唯一作詞作曲を手がけたしばたありぼぼ(B/Vo)の「秋」は個人的に超スルメ曲。春、夏、冬と比べて、秋はキャラ立ちが弱いという内容なのだが、歌メロの中毒性が恐ろしく高くて、ヤバTの中で新たなポップ領域を開拓したと言っても過言ではない。毒と笑い、換言すればシリアスとユーモアの振れ幅は向上を遂げる演奏力と相まり、どんどんキャパシティを広げている。まさに最高傑作と言いたくなる一枚だ。
【文:荒金良介】
リリース情報
Tank-top Festival in JAPAN
発売日: 2018年12月19日
価格: ¥ 2,580(本体)+税
レーベル: ユニバーサルミュージック
収録曲
・鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック
・KOKYAKU満足度1位
・かわE
ほか全13曲収録