『見放題東京2019』<第1弾レポート>
見放題東京2019 | 2019.03.20
規模や主旨、ラインナップは様々なれど、もはや「定着している」と称せるほど今や色々な街で年間を通してライブハウスサーキットフェスが行われている。とは言え反面、ここにきて淘汰され始めてきたのも事実。現在はしっかりとしたアイデンティティを保持しているフェスだけがコンスタントに続けられているようにも映る。
そんな群雄割拠なサーキットフェスの中、その内容や主旨から主催者の顔が浮かんでくるものもある。「見放題」もその一つだ。大阪アメ村界隈で毎年行われ、今年で11回目を迎えた同フェス。ここ東京でも「見放題東京」として、ここ5年行われている。東京・大阪共々、この「見放題」は主催者の顔が見えるのもその特徴だ。その顔こそ、それらのフェスの実行委員長でありオーガナイザーである「民やん(たみやん)」。この日も新宿歌舞伎町界隈の各ライブハウスでは、その民やんが自信を持って推す、みんなに観てもらいたいアーティストと、民やんに声をかけられたからと、東京・大阪問わず各地からの、今、そしてこれから見ておかなくては/知っておかなくてはならないアーティストたちが集結した。
以下は、そんな『見放題東京2019』にて、新宿ロフト方面周辺のライブハウスに出演した8バンドの己の姿勢やアイデンティティを歌に込めて放ちあった記録だ。
【第1弾レポート取材:本間夕子】
【第2弾レポート取材:池田スカオ和宏】
【尾崎リノ】
アコースティックギター1本と、まだあどけなさを残したエアリーな歌声。たったそれだけを使って彼女が描き出す繊細にして赤裸々な情景にまんまと呑み込まれてしまう。シンガーソングライター、尾崎リノ。音楽活動を始めてまだ1年半足らずの新星を一目見ようと、会場であるミュージックバー・ロックンロール以外は全部嘘に駆けつけたオーディエンスの全員が同じ感覚を味わっていたに違いない。ただギターを弾いて歌うのとは違う、圧倒的な物語性。歌詞に綴られているのはすべて彼女の目に映った、おそらくは半径5メートルにも満たないだろうささやかな世界でありながら、その身も蓋もないリアルが彼女の唇からこぼれ落ちるや、途方もない奥行きを伴って聴き手の深いところに届くのだ。「0.02mm」で歌われた“勝手にあがって と言われて/踏み込んだこの部屋は/明日の朝必ず 後悔する場所になる”の達観とどうしようもないやるせなさ。「自分の好きな人に自分よりもっと好きなものがあるとき、どう思うだろう。そう思って書いた曲」だという「B 部屋」のコミカルさを孕んだ刹那的な幸福感。“落下しそうな夕方”(「映画」)、“僕の気持ちを殺す春”(「春」)など気づけば耳が夢中になって散りばめられたフレーズを拾い集めようとしている。わかりやすい共感が求められるこの時代にあって、徹底して吐き出されるこの私的現実にこそ、実は普遍が宿っているのかもしれない。鮮烈な印象とともにそう強く思わされた30分間だった。
【atelier room】
瑞々しい疾走感と遮二無二な焦燥感。広島県を中心に活動するギターロックバンド、atelier roomのステージから迸るのは青々しくも切実なエモーションだ。見放題東京には昨年以来2度目の参戦、今年はMarbleが会場となった彼ら。MCでは高橋敦哉(Dr)が「今年のほうが人が多くて嬉しい。ありがとうございます!」と喜びを口にしたが、どれだけ多くのオーディエンスを前にしようともひとり一人に真正面から対峙して、むき出しの感情をまっすぐぶつけにかかる果敢な姿勢は揺るぎない。「東京、こんなもんですか! もっと来いよ!」と宇根大貴(Vo&Gt)がフロアを挑発、「あなたの背中を押せる曲を」と言葉を続けてなだれ込んだ「僕らは、」では曲中、「他人事みたいに聴いてるんじゃないっすよ! これはあなたの曲なんで。言いたいこと、言えてますか? 言いたいことは言いたい人に言えるうちに言いましょう。そんな曲です!」と全力で訴えかける場面も。大切な人が言ってくれた言葉を歌にしたという新曲「君に唄う」も披露するなど、とにかく気合いにみなぎっている。彼らにとって東京は特別で大切な場所であること、悔しい想いもたくさんしてきたこと、昨年の“見放題東京2018”ではスカスカのフロアに向かって歌っていたこと、それでも少しずつ強くなっていると思えていること、今日までを振り返り、1年間の成長を叩きつけるがごとく放たれるバンド一丸となったサウンドが観客の心を大きく動かしたのだろう。演奏が加速するにつれてフロアのあちこちで拳が突き上がった。「来年も必ず戻ってきます!」と力強く約束し、「シンビジウム」で一気にラストを駆け抜けた4人。葛藤を吐露し、もがきながらも前進することをやめないatelier roomはきっと来年もその約束を果たすだろう。彼らがさらに大きくなっていくのをただ待っているなんてできない。
【アメノイロ。】
新宿Marbleのステージに続いて登場したのは広島県尾道市を拠点にギターロックを発信するバンド、アメノイロ。だ。ちなみに彼らも“見放題東京”には2年連続の出演となる。一度聴いたら耳を離れない寺見幸輝(Vo&Gt)のクリアなハイトーンボイスと、絶妙に絡む嶋田雅也(Ba&Cho)のコーラス、そして太くタイトにリズムを操る本多隆志(Dr)が根底を支えるバンドアンサンブルはなんとも豊潤でふくよか。「学校帰りや通勤途中とか、みなさんが日々目にしてる景色が本当はこんなに綺麗なんだよって俺らの音楽で感じてほしい。俺らが見てほしい色、景色を本気で伝えにきました」と寺見がきっぱりと宣言した通り、彼らの奏でる音楽には美しい短編小説を読んだあとのような消しがたい余韻が滲む。ヒリヒリとした心の疼きを抱えた歌詞と疾駆感にあふれたサウンドがのっぴきならない「渇き」、“月夜”の透明なイメージが儚さをいっそう印象づけて切実な「月夜に溶ける」。彼らが生活する尾道の叙情満ちた風景も世界観に作用しているのだろうか、彼らの歌と演奏が連れてくる光景は、そのひとつ一つにかき立てられる聴き手側の感情の在りようも含めて実にくっきりと鮮やかなのだ。
「東京はあんまり来る機会がないけど、こうやって少しずつでも距離を縮めていけたら」(嶋田)
「初めて観てくれる人もいると思います。今日の出会いを大事にしたい」(寺見)
ライブの終盤、嶋田と寺見がそれぞれにそう口にしたが、この日この場所で新たな絆はたしかに結ばれたに違いない。ラスト「水彩の日々に」に鳴り渡る満場のクラップにそう確信した。
【postman】
新宿Marbleでのライブもいよいよ折り返しとなる5バンド目、postmanのステージは少々規格外に幕を開けた。なにせリハーサルと本番がほとんど地続きと言おうか、機材の転換が終わっても、その後サウンドチェックを兼ねたリハーサルが終わってもメンバーの誰ひとりとして楽屋に戻ろうとせず、リハの最後に演奏した新曲「GOD」の感想を「今の曲、どうですか?」と早めに駆けつけたオーディエンスに尋ねてみたり(しかもこの曲、本番では演奏されなかった)、ステージの上でメンバー同士でふざけ合ったり。そうして不意にBGMの音量が上がったかと思うや場内が暗転、「お待たせしました、postmanです。どうぞよろしく!」という寺本颯輝(Vo&Gt)の言葉を合図にそのまま演奏になだれ込むという大胆不敵さでフロアをあっという間に熱狂の渦に巻き込んだのだから驚いた。こんなにも肚の据わったバンドだったのか。目をみはったのはそれだけではない。1曲目こそ1stミニアルバム『干天の慈雨』に収録の「光を探している」が飾ったものの、前述の「GOD」も含めて残る楽曲はすべて来たる4月10日にリリースを控えている2作目のミニアルバム『Night bloomer』からという思い切った選曲にも、だ。しかもこの新曲たちがまたどれを取っても実に濃く、これまでの彼らを知る人ならば違うバンドかと勘違いもしかねない、いい意味でのタフネスがアンサンブルに備わった。何より寺本の歌が強い。特有のナイーヴさは今や影を潜め、むしろ逞しいまでに朗々と響く声がオーディエンスを揺らしていく。中でも「夢と夢」に鳴り渡る不屈の希望感、「(A) throb」に脈打つ願いと意志には彼らの新章を予感せずにいられない。
「たくさんの夜を越えて、またライブハウスで会いましょう」
最後にそう告げて颯爽と去ったpostman。6月には新作を携えたツアーで全国を回る。
【the shes gone】
フロアの隅から隅までまるで身動きが取れないほどの超満員となった新宿ACB。SEと共に、シズゴことthe shes goneが姿を現わすと、対流していた熱が俄然、ステージへと向かうのが目に見える気がした。兼丸(Vo& Gt)の歌とギターから1曲目「最低だなんて」がスタート、“君”“あなた”と呼び合う2人の残酷なまでにすれ違った恋の終わりを疾走感溢れるバンドサウンドに昇華して、オーディエンスの狂騒を加速させるシズゴ。彼らもまた“見放題東京”には昨年に続いての出演となるが、1月にリリースされたばかりの1stミニアルバム『DAYS』を携えての参戦ともあってか、演奏される楽曲の客席への浸透度がより高くなっているように思える。“僕”ではなく“あいつ”に振り向いた彼女への想いが切ない「緑とレンガ」、雨振りの心を抱えながら“でも逃げないでいるよ”と小さく自分を奮い立たせる「shower」のやさしい音像。兼丸の透き通った声とクリーンな音色でthe shes goneが織り上げるのは、きっとどこにでもあって、でも世界でたったひとつの大切な心模様だ。そしてそれは彼らの目の前にいるひとり一人の“あなた”に手渡すためのもの。この日も兼丸は幾度となく「あなたのために」と口にした。先月、初めてノドを壊し、現在は経過観察中であること、前日に点滴を打ってこのステージに臨んでいると明かし、声が出る喜び、こうしてたくさんの人に出会えた幸せをけっして当たり前ではないのだと、つくづくと噛み締める。マサキ(Gt)、Daishi(Ba)も巻き込んだMCではお茶目な人柄も垣間見せつつ、最後は「想いあい」を真摯に届けて「僕らにとってあなたに寄り添うことがすべて。音楽をやる意味です」ときっぱり締めくくった。来たる4月25日を語呂合わせで“シズゴの日”とし、吉祥寺WARPにて初のワンマンを開催する彼らのさらなる躍進に期待大だ。
【CRAZY VODKA TONIC】
「みなさん、もう少し準備運動に付き合ってもらっていいですか。リハからアゲていきましょう!」
池上優人(Vo)が呼びかけると新宿MARZに集った全員の拳が挙がる。いよいよ佳境を迎えようとしている“見放題東京2019”、CRAZY VODKA TONICのライヴはリハーサルさえ本番のごとく、オーディエンスをも引き込んでいきなり最高潮のグルーヴを生み出した。さらには「ちょっと俺らとみなさんでセッションしませんか?」と客席に手拍子を求めてはクラップが鳴り響く中、「今日は全員で“見放題”を作りますよ。ライブハウスは自由な場所。俺たちが俺たちじゃなくなろうとも、あなた方があなた方じゃなくなろうともすべて大正解です!」と煽り上げ、開演まであと1分を切ったところで一旦楽屋に戻るのも面倒だからと、そのまま1曲目「踊り子は笑う」になだれ込むという力技を発揮。そんなクライマックスからのスタートに場内もますますヒートアップする。激情を孕んだ池上の艶やかに伸びる歌、熱狂に斬り込まんばかりの奥本真光(Gt)のアグレッシブなプレイ。進竜馬(Ba)が巧みに操るスラップと坂本志穂美(Dr)のダイナミックなビートが絡み合えば、もはや興奮はとめどない。文学的な歌詞とドラマティックに構築されたサウンドを身上とするCRAZY VODKA TONIC、ライヴという生の熱と化学変化によってその威力は何倍にも膨らむらしい。結果、5曲をぶっ通しで演奏し、「背景、名前を知らないあなたへ」を残すのみに。自身最大のワンマンライブとなる6月5日の渋谷TSUTAYA O-WEST公演を控え、改めて思うところもあったのだろう。地元である広島県福山市に拠点を置きながらも「この東京という街で闘うと俺たちは決めた」と池上は言った。「クソ遠い距離を超えてでも歌いたい歌がある」とも。ライブハウスであなたと共に生きると誓うこの曲の最後に繰り返される“私と生きて”のフレーズにまんまと心を貫かれた。
【羊文学】
粒子の細かいサンドペーパーで胸の奥の柔らかいところをそっと撫でられるような。大きな手のひらに包まれるプリミティヴな安らぎを感じる一方で荒寥とした宇宙空間にぽつんと放り出されてしまってもいるような。そんな微かなざらつきと、不思議な温もりと、あてどない解放感が綯い交ぜになって会場内に充満する。オルタナティヴロックの新鋭として注目を集める3ピースバンド、羊文学が“見放題東京2019”初参加にして新宿MARZのフィナーレを飾った。オープニングナンバーは「ハイウェイ」。浮遊感をたたえて綿々と連なるギターリフと塩塚モエカ(Vo&Gt)の無垢性を秘めた、時に淡くも芯のある歌声、ゆりか(Ba)とフクダヒロア(Dr)がキープする規則正しいリズムの三位一体がオーディエンスをここではないどこかへと運ぶ。車窓を流れる風景を飽かず眺めているようなうららかな昂揚感がいい。曖昧模糊とした未来に怯まず一歩を踏みだそうとする、凛とした覚悟を感じさせる「天気予報」。アンサンブルも歌い方もアグレッシヴに転じた「踊らない」ではタイトルとは裏腹に躍動的にフロアを揺らした。MCでは「“見放題東京”にいつ呼んでもらえるんだろう」と思っていたと塩塚。「やっと呼ばれたよ?」とゆりかが無邪気に喜ぶ。「あっという間に3月になりましたが、春が来ると私たちは2マンツアーをしに行くんです」と4月に大阪と東京で開催する自主企画ツアー“まる・さんかく・しかく”の告知も。だが、ふわふわと愛らしいひとときも演奏が始まれば一変。歪んだハウリングノイズをカンフル剤に「若者たち」を静と動のコントラストで魅せ、ラストの「Step」を爽然と駆け抜けた。
【MINT mate box】
ポップでキュートでキャッチーで、甘酸っぱくてとにかく楽しい! MINT mate boxの終始アッパーなライヴパフォーマンスが、10組のバンドが出演し、熱いステージを繰り広げた新宿club SCIENCEの1日を華やかに締めくくった。
「MINT mate boxです! みなさん、今夜もよろしく!」
登場するなり、mahocato(Vo&Gt)が元気いっぱいに挨拶。1曲目「メイクキュート」のはずんだイントロにたちまち場内にはクラップの嵐が巻き起こる。歌ってはピョンピョンと跳ねるmaho、KJ(Gt)も、やすだちひろ(Ba)もそれぞれに大きく体を揺らしながら気持ちよさそうに弾いているから、つられてこちらも体を動かしたくなってしまう。「ジャンプ、ジャンプしていこう!」と勢いよく突入した「なんでばかりの恋」、まだまだいくぞと意気込みも十分、さらにテンポアップした「ラブラブファイヤー」と演奏を重ねるにつれ、ぐいぐいと牽引力を増すステージ。応えてフロアもいっそうノリ良く、昨年もこの“見放題東京”でハッピーな時間を作り上げた彼女たちだが、ますますパワーアップしたようだ。4月には初のワンマンツアーで全国6都市を回るMINT mate box。先駆けて4月3日に4th E.P.「Highlight」をリリースする。その中から1曲、と披露されたGOING UNDER GROUNDの名曲「トワイライト」のカバーが身に沁みた。2000年代のエモーションが2010年代の終わりにこうして受け継がれ、朗々と響く。その健やかさと頼もしさはきっと音楽の未来そのものだろう。エンディングは「シャッター」。多幸感に包まれて長く充実した1日が終幕した。
セットリスト
見放題東京2019
2019.3.2@東京新宿歌舞伎町界隈13会場
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尾崎リノ
- 1. 天国
- 2. 0.02mm
- 3. B部屋
- 4. 映画
- 5. 春
- 6. 部屋と地球儀
- 1. フラッシュを焚いたら
- 2. 僕らは、
- 3. 君に唄う
- 4. リグレット
- 5. シンビジウム
- 1. 月と三角
- 2. 渇き
- 3. 月夜に溶ける
- 4. 君が消える日の空は
- 5. ランタナ
- 6. 水彩の日々に
- 1. 最低だなんて
- 2. 緑とレンガ
- 3. shower
- 4. 甘い記憶
- 5. 想いあい
- 1. 踊り子は笑う
- 2. 涙の走馬灯
- 3. 盲目のピアニスト
- 4. 夜が呼んでる
- 5. 灯台と水平線
- 6. 拝啓、名前の知らないあなたへ
- 1. ハイウェイ
- 2. 天気予報
- 3. 踊らない
- 4. 若者たち
- 5. Step
- 1. メイクキュート
- 2. なんでばかりの恋
- 3. ラブラブファイヤー
- 4. トワイライト
- 5. カセットテープ
- 6. シャッター
atelier room
アメノイロ。
the shes gone
CRAZY VODKA TONIC
羊文学
MINT mate box