Eve 2019春ツアー~おとぎ~
Eve | 2019.05.07
動画投稿を中心に活動を始め、その柔らかい歌声とおっとりしたキャラクター性が相まって、ファンの心をしっかりと掴んできたシンガーソングライター・Eve。昨年にはワンマン公演として、8月に東名阪ツアー『メリエンダ公演』、11月に新木場STUDIO COASTで『メリエンダ追加公演』を開催。この日を迎えるまでにも、TVアニメ『どろろ』のエンディングテーマに新曲「闇夜」が起用、学校法人・専門学校HALのテレビCMに新曲「レーゾンデートル」が起用、TOKYO FM『SCHOOL OF LOCK!』では、木曜講師として『Eve LOCKS!』と題したレギュラーコーナーを担当することになるなど、Eveは着実にその名を世に広めてきている。今回は2019年2月リリース最新アルバム『おとぎ』を引っ提げ、3月より東名阪を舞台にしたワンマンツアー『2019春ツアー~おとぎ~』の4月29日に開催された、Zepp DiverCity でのファイナル・東京公演のライブをレポート。
まず、印象的だったのは、Eveの登場を待つ間、小さな子(男の子)が、勇猛果敢に何度も「Eveくん!」とEveの名を呼んでいたことだ。10代~20代の女性を中心とした客層から、客層をさらにアウトサイドにも広げているのは、Eveの音楽の深化の代償と言える。
超満員のフロアでは、開演前から後方スクリーンに、Eveのミュージックビデオでお馴染みの“ひとつめ様”などのキャラクターが映画館内で登場する映像が繰り返し映し出されていく。開演ブザーが鳴ると前方の紗幕が落ち、映写機の音と共に、10から数えたカウントダウンが投影され、観客も声を揃える。雨の映像と共に流れたのは、「slumber(instrumental)」。照明の具合で、時折見える真っ白な服を着たEveの姿に観客の歓声が沸く中、「トーキョーゲットー」からライブはスタート。拡声器を片手にステージを自由に歩き回った「デーモンダンストーキョー」のサビでは、紗幕の奥にいるEveが紗幕に大きく投影されたミュージックビデオに登場する女性二人の間に入ることで映像と一体化し、空想的な空間を作り出す。Eveの手拍子から始まった「あの娘シークレット」では、スクリーンに投影されたパステルカラーのミュージックビデオと、紗幕に投影されたミュージックビデオに映る曲名の書体(丸文字の可愛らしい)のリリックが重なり、ポップ感が炸裂。宝箱を開ける時の心の煌めきを連想させる配色とでもいおうか。
ここで一つ、Eveのこれまでのワンマン公演と大きく異なっていたのは、紗幕とスクリーンの映像をシンクロさせることで、Eveを含めた立体的な映像空間が作り上げられていたこと。これまでのワンマン公演でも、映像を使った演出はあったが、今回はより映像にこだわっており、あたかも、Eveがバーチャルな物語(映像)の中に入ってしまったかのように見える構造になっていたのだ。紗幕の上下は頻繁に繰り返され、そのたびにリアルとバーチャルが入れ替わっていく。
紗幕を通さずにEveを見たいという観客の思いが募る中、「アウトサイダー」で紗幕にヒビが入る演出を経て、ようやく紗幕が上がる。観客の手拍子が揃う中で、エレクトリック調サウンドの「やどりぎ」を深みのある歌声で歌い終えると、会場中からEveくんの声が聴きたい!と言わんばかりのEveくんコールが湧き起こる。それでも、Eveは今日初めてのギターを手に取り、Numa(沼能友樹・Gt)らバンドメンバーと共に「迷い子」、現在と過去の自分の気持ちが遭遇する「ホームシック」、ミディアムバラード「sister」、「楓」を披露していく。「迷い子」は2017年12月にリリースした全自作曲のアルバム『文化』から、本格的に作詞・作曲を手掛けるようになったEveだからこそ、言える心境を時間軸に基づき綴っているかのような曲。中でも、過去の楽しかったことに浸りやすい人の性分に抗い、〈歩いてきた足跡はもうないさ〉と前だけを見るフレーズには、Eveの芯の強さすら感じられる。Eveにとっては初となるゲーム(アクションRPG"ドラガリアロスト")提供曲「楓」では、紗幕が落ちるとEveは、投影された泡の立つ水中で歌っていたが、曲の最後にその水中は、額縁に飾られた絵の中の物語だったことを知らされ、ハッとする展開に。
Eveの前に紗幕があることで、観客との間に隔たりができる光景は、動画サイトの画面を通して、リスナーに対して、間接的に音楽を提供してきたEveの活動とどこか通じる部分があるような気がしてならない。何か隔たりがあるとないとでは、気持ちの届け方も、受け取り方も変わってくるものなのだろう。
紗幕が上がると、真っ黒な服装に着替えたEveが「ナンセンス文学」を披露。両壁にも現れる大きなEveのシルエットがミステリアスな雰囲気を作り出したままに「ドラマツルギー」へ。心に宿る熱い想いを歌う「アンビバレント」、〈舌が乾くまで話そうぜ〉が切れ味を放つ「ラストダンス」を経ると、皆がまだかまだかと待ち望んでいたであろうこの日、初めてのMCに。「たのしいです。ありがとう。皆も楽しめてますか?楽しい瞬間っていうのはね、あっという間なもので、次で最後の曲になります…」の一言に観客は驚きの声を隠せなかったが、Eveは「最後の曲も皆と一緒に盛り上がっていきたいので、いけますか?僕らまだアンダーグラウンド」と続け、「僕らまだアンダーグラウンド」で本編を締めくくる。
Eveが紗幕および、スクリーンに投影された物語の中に閉じ込められたかのように見えるのは、立体的な映像で物語の深みを視覚に訴える「僕らまだアンダーグラウンド」のミュージックビデオに通じるところがある。アルバム『おとぎ』は物語性があり、収録曲の一曲一曲がリアルでもあるが、バーチャル要素も強い。Eveの理想とする空間を体現したのが、この日のステージングなのかもしれない。
グッズTシャツに着替え、登場したEve。アンコール一曲目の「お気に召すまま」では、観客と気持ちを共有するように手振りを加え、楽しそうにステージを歩く。ギターを抱えながらのMCでは、「本編にMCがなかったから、気付いたら、あっという間に終わりですよ。これからだよね。でも僕は体力がないんだよ(笑)」と心の内を語り、会場中から笑いが起こる。「こんな規模でワンマンをやれるのは初めてのことで、今日のZepp DiverCityは新木場の時より、お客さんの顔の数がある感じがして、夢を見ているような感覚です。でもね、皆がせっかく、色んな所から集まってきてくれたから、こういう日を大事にしてまたひとつひとつ進んでいきたいなと思ってます。今日は本当に来てくれてありがとう。しばらくライブがないから寂しいんですけど、次の令和も、皆さん仲良くしてやってください」そう言うと、ラストは「君に世界」。〈あぁ 物語が終わるの〉〈少し寂しくなるくらいなら このまま続いてほしいかな〉〈今日が最終回だとしたら もう少しで終わりだとしたら〉ライブがあと一曲で終わり、しばらくライブもなく寂しいと話したEveの気持ちを代弁したようなリリックと、Eveが弾く心地よいギターの音色が交わり、心に浸透していく。そして、ラストのサビで、勢いよく頭上から放たれた銀テープが、Eveから観客へのラストのサプライズプレゼントとなった。「dawn」が流れる中、バンドメンバーの紹介を経て、「今日は皆さんと過ごせて本当に楽しかったです。どうもありがとう」と告げるEveが、両手を振りお辞儀をしてからステージを去ると、スクリーンにはエンドロールが流れ、終幕に盛大な拍手と歓声が送られた。
この日のライブは、オープニングからエンディングに至るまでを“映画館”で統一したり、立体的な映像により、バーチャルな物語を与えたりと、これまでのEveのライブの中でも、格段にインパクトがあった。それだけに今後の展開も気になるが、今、確実に言えるのは、Eveはこれからも想像を超えた物語の中で音楽を見せてくれるということ。ライブの余韻が残る今、もうすでに、Eveが始める新たな物語に、期待が膨らんでいる。
【取材・文:小町碧音】
【撮影:山川哲矢】
【撮影:ヤオタケシ】
リリース情報
おとぎ
2019年02月06日
TOY’S FACTORY
02.トーキョーゲットー
03.アウトサイダー
04.迷い子
05.やどりぎ
06.アンビバレント
07.楓
08.ラストダンス
09.僕らまだアンダーグラウンド
10.君に世界
11.dawn
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セットリスト
Eve 2019春ツアー~おとぎ~
2019.4.29@Zepp DiverCity
- OP.slumber(instrumental)
- 01.トーキョーゲットー
- 02.デーモンダンストーキョー
- 03.あの娘シークレット
- 04.アウトサイダー
- 05.やどりぎ
- 06.迷い子
- 07.ホームシック
- 08.sister
- 09.楓
- 10.fanfare(instrumental)
- 11.ナンセンス文学
- 12.ドラマツルギー
- 13.アンビバレント
- 14.ラストダンス
- 15.僕らまだアンダーグラウンド
- 01.お気に召すまま
- 02.君に世界