KAKASHI、「心の向かう方へツアー」ツアーファイナル
KAKASHI | 2019.06.11
昨年12月5日にリリースした2ndミニ・アルバム『PASSPORT』をひっさげ、今年1月から全国各地で22公演を行った群馬の4人組、KAKASHIによる「心の向かう方へツアー」が5月22日、渋谷TSUTAYA O-WESTでファイナルを迎えた。
レーベルやマネージメントに所属せずに活動していたメンバー曰く“アマチュア時代”の6年間があるとは言え、UNCROWN RECORDSから全国流通盤をリリースしてから1年半でキャパ600人の渋谷TSUTAYA O-WESTに挑んだことは、バンドにとってなかなかの冒険だったと思うが、この日、ライブを見終わった時に感じたのは、そんな会場選びをはじめ、晴れの舞台のゲストに地元の先輩、LACCO TOWERを招いたことにも、セットリストの作り方にも、曲間のMCで堀越颯太(Vo/Gt)が喋ったことにも、そしてメンバー同士がバチバチと火花を散らす瞬間もあった渾身の演奏にもすべて、ちゃんとした意味があったということだった。
スタンディングの客席をとことん盛り上げ、その熱気を後輩に渡したLACCO TOWERによる、ゲストと言うにはちょっと長い60分の熱演も含め、無駄のない2時間以上のライブが誰かの手によって作り出されたものでは無く、そこにいる全員の熱い思いから生まれていたのが熱い。もちろん、いろいろな形があって然るべきだが、ロック・バンド、特にライブハウスでやっているバンドにこういう熱いライブを求めているのは、筆者だけではないはずだ。
“俺たちの後輩のツアー・ファイナルに来てくれてありがとう! お手を拝借。手を叩け!”と序盤から松川ケイスケ(Vo)が煽りながら、LACCO TOWERがぐいぐいと盛り上げたのは、ゲストとしての役割を全うすることはもちろんだが、“なぜ60分勝負を挑まれているのか?(LACCO TOWERの時間を)削ったら、自分たちがもっとできるのに。アホでしょ?”と笑いながら、それならその勝負、受けて立とうじゃないかという気持ちもあったんじゃないか。
アンセミックな曲だけではなく、自分たちのエグみも存分に見せながら、“音楽性も見ている方向も違うけど、同じ匂いがする。彼らも俺たちも順風満帆にやってきたわけではない。悔しい思いをしながら、その彼らが万感の思いで、ようやく俺たちを呼んでくれた。その彼らが何度も思ったに違いない願いだったはず“と、その万感の思いを代弁するように、そしてエールを送るように演奏した「夜明け前」が観客の胸をぎゅっと掴んだのは、彼らにそういう意図があったのかなかったのか、この日の主役を食った瞬間だったかも!?
そして、塩﨑啓示(Ba)が最後にKAKASHIのタオルを高々と掲げながら、KAKASHIポーズ(!?)をキメて、繋げたバトンを受け取ったKAKASHIの演奏は、『PASSPORT』の「信じている」からスタート。しょっぱなから歌い上げる堀越の伸びやかな歌声にひきこまれるようにステージの4人――堀越、齊藤雅弘(Gt)、中屋敷智裕(Ba/Cho)、関佑介 (Dr/Cho)を、じっと見つめていた観客の拳がサビで一斉に上がる。そこから60分たっぷりとバンドは『PASSPORT』の曲を軸に新旧の代表曲はもちろん、レコーディング前の新曲「花火」も含む全15曲を披露した。
肩に力が入りすぎていたのか、序盤はそれぞれの渾身の演奏がj若干空回りしているような印象があったものの、それは万感の思いとともに立つツアー・ファイナルだからこそ。力がはいってもしかたない。いや、むしろ入らなきゃおかしいだろう。この日、堀越が語ったのは、高校3年生の頃の思い出だ。
“実は、とあるバンドのサポートアクトとして、O-WESTのステージに立ったことがあるんです。実はってほどでもないけど(笑)、その経験が、バンド、がんばってもいいと思えるきっかけだった。その時、緊張しながら歌わせてもらったんだけど、それが楽しくて。いつか自分らの力でここに立って、いい景色を見たいと思っていた夢が、あなたのお陰で叶いました”
曲を重ねるごとに噛み合っていった4人の演奏が、“特別なセンスがないと気づいた。だったら作ればいい。照らしてもらえないなら輝けばいい。決意の歌です”(堀越)と、このバンドの歩みを想像させる言葉とともに演奏した「灯京」でがちっと1つになると、ライブの流れが変わり始める。「変わらないもの」から曲を繋げるたび、曲に込めた思いを、堀越が短い言葉で語り始めたことからも、中屋敷が客席に手拍子を求めたことからも、それまでバンドの思いを受け止め、拳を挙げながらぐっと飲み込んでいた観客から歓声が沸いたことからも、そして、フロアから一斉に挙がった無数の拳を見た瞬間、堀越が破顔一笑したことからも、そこにいる全員が緊張から解き放たれたことがわかった。そして、中盤から終盤にかけて、演奏の熱がどんどん上がっていった。
中でも“これが俺たち4人の生き方だ!”と堀越が叫んでから捨て身の演奏で圧倒したパンキッシュな「ドブネズミ」と、そこから“LACCO TOWERにこれまで何度も泣かされ、笑わされながら、夜を越えてきた。そのLACCO TOWERと2マンという形で、ツアー・ファイナルを迎えられてうれしいです。この景色を忘れることも、ここに立てたことを後悔することもありません”(堀越)と繋げた本編最後のバラード「愛しき日々よ」は、まさに圧巻。クライマックスにふさわしい熱演だった。「愛しき日々よ」の渾身の演奏に胸を鷲掴みされたようにじっと聴きいっていた観客の中には、バンドが込めた思いに自らの気持ちを重ねたのか、涙を流している人の姿もあったほど。
そこで、やりきったという手応えがあったのか、“内容もそうだけど、バンドとの繋がりも濃かった”(中屋敷)、“覚悟を持って回った結果、1人ひとりが殻を破った。それがうれしかった”(関)、“楽しかった。それに尽きます、次のアルバムはヤバいの作るんでよろしくお願いします”(齊藤)、そして“メンバーの覚悟を肌で感じる瞬間が数えきれないほどあった。メンバーのことをより一層、好きになったツアーでした”(堀越)と、それぞれにツアーの感想を喋ってからのアンコールでは、「愛していたい」「ドラマチック」の2曲を、本編とは違うリラックスした演奏で披露。「ドラマチック」ではミラーボールが眩い光を放つ中、観客のシンガロングの声が響き渡った。
そして、“両手で来い!”と言った堀越に応えるように観客全員が両手を掲げ、握っていた拳をピースサインに変える。それはバンドと観客が1つになった瞬間だった。ステージの4人はもちろん、この日、ここにいた全員がこの光景を忘れることはないだろう。最後の最後に最高の景色が生まれた――と思いきや、“ひょっとしたら?”という観客の期待に応え、予定外のダブル・アンコールが実現。本当に予定外だったことは、「ドブネズミ」をもう1回演奏したことからも明らかだった。そして、最後はステージに乱入してきたLACCO TOWERの塩﨑、重田雅俊(Dr)、真一ジェット(Key)、細川大介(Gt)とともに賑やかに大団円を迎えたのだった。
正直、演奏は荒削りだったと思う。ここからさらに大きなバンドになるためには、演奏面やアレンジ面に課題が残ったと思うが、それはメンバー自身が一番わかっていることだと思うし、変な話、僕らが彼らに求めているのは、そこじゃない。
荒削りな中に胸に迫るものがあるのは、彼らがこの日、この瞬間の演奏に人生を賭けていると感じられるからだ。うまいバンドなら他にもいくらでもいる。しかし、器用ではないからこそ、精一杯、ステージの上で音楽に取り組んでいる姿に心を動かされ、生きているって、こういうことを言うのだと改めて思わせてくれるバンドは、そんなにいない。
たぶん、彼らのファンの多くが、それを実感したくて、KAKASHIのライブに足を運ぶんじゃないか。そういうバンドに出会えたことが心からうれしいと思えるライブだった。
なお、KAKASHIはこの日、8月17日の「俺達の群馬だっ!!!」と10月26日の「灯火祭2019」という2つのイベントを、地元群馬で開催することを発表した。LACCO TOWERの松川はこの日、MCで“案山子が歩いたら気持ち悪いけど、KAKASHIはここから外(=さらに広い世界)に歩いていく”と冗談を交えながら、KAKASHIに寄せる期待を語ったが、その期待どおりKAKASHIは一歩一歩、確実に前進を続けている。
【撮影:ハライタチ】
【取材・文:山口智男】
リリース情報
PASSPORT
2018年12月05日
UNCROWN RECORDS
2.変わらないもの
3.信じている
4.心向方向
5.コーヒーとオイル
6.旅立つ夜に
7.愛しき日々よ
セットリスト
心の向かう方へツアー
2019.5.22@TSUTAYA O-WEST
- 01.信じている
- 02.失くせないから
- 03.流星の中で
- 04.花火(新曲)
- 05.心向方向
- 06.旅立つ夜に
- 07.灯京
- 08.変わらないもの
- 09.本当の事
- 10.違うんじゃないか
- 11.ドブネズミ
- 12.愛しき日々よ
- 01.愛していたい(新曲)
- 02.ドラマチック
お知らせ
KAKASHI pre.「俺達の群馬だっ!!!」
8/17(土) 群馬高崎club FLEEZ & Asile
KAKASHI pre.「灯火祭2019」
10/26(土) 群馬高崎複数会場
INKYMAP 1st single. "Reminder"
Release TOUR 初日
6/6(木) 東京渋谷TSUTAYA O-Crest
I ROCKS 2019 stand by LACCO TOWER
6/8(土) 群馬音楽センター
Flight Academy 初ライブ
“Here Comes the Sun”
6/14(金) 東京・渋谷club asia
GRIOTTO
6/22(土) 東京・渋谷TSUTAYA O-Crest
FREEDOM NAGOYA 2019
6/23(日) 愛知・名古屋大高緑地特設ステージ
LONELINESS presents ACB HALL
50th ANNIVERSARY "MY HOLY PLACE"
6/26(水) 東京・新宿ACB HALL
Arakezuri「tender」Release 抱残守欠ツアー
ツアーファイナル2MAN LIVE「スリーマン」
6/29(土) 京都二条nano
maebashi DYVER 13th Anniversary
【DYVERthDAY OPENING】
7/1(月) 群馬前橋DYVER
POETASTER "君に話があるんだ"ツアー 初日
7/5(金) 東京渋谷TSUTAYA O-Crest
見放題2019
7/6(土) アメ村界隈20会場
rockin’on presents
JAPAN’S NEXT 渋谷JACK 2019 SUMMER
7/13(土) 東京・渋谷8会場
INKYMAP New Single "Reminder"
Release Reminder Tour 2019
7/15(月) 新潟GOLDEN PIGS BLACK
MURO FESTIVAL 2019
7/21(日) 幕張海浜公園Gブロック特設会場
sing a lot vol.23
7/22(月) 神奈川F.A.D YOKOHAMA
YAMAMUROCK FES. 2019
8/7(水)or8/8(木) 大阪・ESAKAMUSE
くさのねフェス2019
8/31(土) 千葉・佐倉草ぶえの丘
TOKYO CALLING 2019
9/14(土)、15(日)、16(月祝)いずれか1日
14日新宿エリア、15日下北沢エリア、16日渋谷エリア複数会場
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。