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BUMP OF CHICKEN 初のメットライフドーム公演となった全国ツアー「aurora ark」初日

BUMP OF CHICKEN | 2019.07.26

 本物の方舟を見たことも、方舟と呼ばれるものに乗ったこともない。けれどこの日、詰めかけた3万6千人を一人残らず抱きしめたこの空間の光景はたしかにそれを彷彿させた。光も闇もその間に揺らぐグラデーションまでも丁寧に掬い取り、4人の全身全霊を尽くして織り上げられた“オーロラの弧(=aurora arc)”は今、“オーロラの方舟(=aurora ark)”の動力源となって新たな旅へと漕ぎ出したのだ、そんなふうにさえ思える。この日とは7月12日、この空間とは埼玉・メットライフドーム。すなわちBUMP OF CHICKENが3年5ヵ月ぶりのニューアルバム『aurora arc』を携えて全国7都市9会場18公演(なお全会場2days公演となる)を回るツアー“BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark”の、いよいよ迎えた初日のことだ。翌日13日の同会場公演も含めてチケットはソールドアウト、アリーナ席もスタンド席もびっしりと埋め尽くされた場内は開演前から壮観のひと言に尽きた。

 客電が落ちて真っ先に驚かされたのは客席から沸き上がる歓声の凄まじさだ。ビリビリと空気を震わせながらステージ目がけて突進し、同時に会場の屋根を吹き飛ばさん勢いで一気に膨らむ喜びの雄叫び。さすがはドーム、3万6千人の声量は尋常じゃない。振り返れば1年4ヵ月ぶりとなるツアー、アルバムリリースはもちろんのこと、この日がどれだけ待ち望まれてきたことか。メンバーだって想いはきっと同じだろう。四方八方から押し寄せる声のつぶてを真正面から受け止める、凛とした4人の立ち姿に並ならぬ意気をはっきりと感じて頼もしい。ちなみに1年4ヵ月の間には元号も替わったため、この日はツアー初日であるのと同時にBUMP OF CHICKENにとって令和初ライブ。加えてメットライフドームに立つのも初めてなら、『aurora arc』をリリースして初のステージでもある。増川弘明(G.)のMCから引用するなら「4つの“初”」が揃った「“初”づくめ」のライブだ。だが、「初めての場所でも、全然初めてな気がしない。みんなが温かく俺たちを迎えてくれたので、すごく嬉しい気持ちでいつも通り音楽を楽しませてもらってます」と藤原基央(Vo. & G.)が語り、直井由文(B.)も「みんな、あったかすぎる! 初日は緊張でガッタガタなはずだよ? なのにここ、家みたいだもん」と声をはずませる。ドームであっても距離を微塵も感じさせないBUMP OF CHICKENらしい近しさ。外からの風が吹き抜ける半屋外の心地好さも空間をよりいっそうアットホームなものにしているのだろう。

 スタートしたばかりのツアーゆえ、あまり内容の詳細には触れずにおくが、セットリストの主軸を担うのはもちろん『aurora arc』の楽曲たちだ。そこに過去の代表曲も組み込まれ“aurora ark”ならではの世界をダイナミックに彩ってゆく。巨大なLEDスクリーンやレーザー光線を始めとする照明の数々を駆使した壮大かつ緻密な演出も実に見事で、例えば「Aurora」では、増川が奏でる流麗なギターフレーズとそれを追いかける升秀夫(Dr.)の力強いリズムワーク、内省を孕みつつもまっすぐ前を向いた藤原の歌声、メロディに寄り添いアンサンブルを支える直井の実直なベースラインが太く1本に縒り合って全力の肯定感を紡いだ演奏に、同曲のMVを手掛けた林響太朗監督によるオイルアートの映像演出が相乗して、本当にオーロラに包み込まれているかのような昂揚感を覚えた。何より入場時に配布された光るリストバンド・PIXMOBが客席一面に描き出す情景の美しさと言ったらない。楽曲や演奏に合わせてとりどりに色を変える3万6千人分の煌めき。集ったオーディエンスのひとりでも欠けていたら、今見ているこの景色にはならなかっただろう。この景色に裏打ちされているのは“今ここにあなたが必要なんだ”という彼らの真摯なメッセージのように思う。一人ひとりの存在意義を尊重し心から慈しむ、この空間はやはり方舟に違いない。

 それにしても、なんという浸透力だろうか。リリースからたった2日しか経っていないというのに『aurora arc』がもうすっかり“みんなのもの”になっている。とはいえ収録曲のほとんどが既発曲であることを鑑みれば、オーディエンスの耳に馴染んでいるのは当然のことかもしれない。むしろ、そうでないほうがおかしいだろうとも思う。それでも“アルバムマジック”と呼びたい力が作品には宿るものだ。1曲1曲、独立した佇まいを持つ楽曲が作品としてひとつのアルバムに収められた途端、思いもよらなかった意味が立ちのぼってきたり、曲同士が結び合って潜在していた物語が浮かび上がってきたり。『aurora arc』はまさしくそうしたアルバムであり、それらがステージでどう表現されるのかを3万6千人が胸をときめかせながら、4人と一緒になってライブを作っていると感じられたのだ。全曲もれなく巻き起こるシンガロングの渦、光を灯して大きく揺れる拳の波、ザンザンと轟いて反響するクラップ。「月虹」のイントロが鳴り渡った瞬間に爆発した歓喜も、「新世界」で軽妙なバンドサウンドとともに“ベイビーアイラブユーだぜ ベイビーアイラブユーだ”と大合唱するこの上ない多幸感も、すべては『aurora arc』に不可欠な要素で、“aurora ark”の推進力だ。

「俺たちの曲がようやく完成したなと今日、心から思いました。本当にありがとう」

 この日の最後、藤原はこれまでをじっくりと噛み締めるようにして今この瞬間の想いをそう口にした。それは感謝の言葉であると同時に、今日というライブをともに作り上げたオーディエンス一人ひとりへの賛辞であり、自分たちの生み落とした作品がしっかり届くものだったと確認できた、安堵に似た想いでもあったように思う。どれほど心を砕いても時間と労力を注ぎ込んでも届かなければ意味がない。自分たちの音楽は届いてこそ、聴かれてこそだ。きっと、そうした覚悟と矜持が彼らにあるからBUMP OF CHICKENの楽曲は色褪せず、幅広い層の心を打ち続けるのだろう。メットライフドームに集まったオーディエンスがそうだったように。

「俺はずっと歌うから、聴いてください。聴かない日があってもいい。でも10年後でも20年後でも君の歴史の中の時々でいいから俺たちの曲に聴くための時間をあげてください。よろしくお願いします」

 まっすぐな藤原の言葉に応えて拍手が鳴り止まない。“BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark”はドームとライブハウスを行き来しながら11月3、4日の東京ドーム公演まで続く。彼らの方舟の辿り着いた先にかかるオーロラの弧をこの目でしかと確かめたい。

【取材・文:本間夕子】
【撮影:古溪一道、富永よしえ】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル BUMP OF CHICKEN

リリース情報

aurora arc

aurora arc

2019年07月10日

TOY’S FACTORY

01. aurora arc
02. 月虹
03. Aurora
04. 記念撮影
05. ジャングルジム
06. リボン
07. シリウス
08. アリア
09. 話がしたいよ
10. アンサー
11. 望遠のマーチ
12. Spica
13. 新世界
14. 流れ星の正体

お知らせ

■ライブ情報

BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark
07/31(水) 宮城県 SENDAI GIGS
08/01(木) 宮城県 SENDAI GIGS
08/20(火) 東京都 新木場STUDIO COAST
08/21(水) 東京都 新木場STUDIO COAST
09/11(水) 大阪府 京セラドーム大阪
09/12(木) 大阪府 京セラドーム大阪
09/21(土) 愛知県 ナゴヤドーム
09/22(日) 愛知県 ナゴヤドーム
10/01(火) 大阪府 Zepp Osaka Bayside
10/02(水) 大阪府 Zepp Osaka Bayside
10/15(火) 北海道 Zepp Sapporo
10/16(水) 北海道 Zepp Sapporo
11/03(日・祝) 東京都 東京ドーム
11/04(月・休) 東京都 東京ドーム

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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