レビュー
BUMP OF CHICKEN | 2019.07.11
ことアルバムに関してはもとより多作なバンドではないし、結成20年余のキャリアともなればリリースのスパンが数年単位になるというのはそう珍しいことでもないだろう。だが、その数年ぶりのアルバムがほとんど既発曲で編み上げられているとなると、ちょっと話は変わってくる。しかも、それでいて圧倒的に“オリジナルアルバム”としての必然性を宿しているとなれば、なおのこと尋常じゃない。3年5ヵ月ぶりとなるBUMP OF CHICKENのニューアルバム『aurora arc』に触れてまずいちばんに感じたのはその途轍もない“尋常じゃなさ”だった。
なにせ収録されている全14曲中12曲が既発曲であり(「月虹」「新世界」についてはアルバム前の音源リリースはなく、「流れ星の正体」は藤原基央の弾き語りによるリリックビデオの公開のみだが)、さらにその12曲のうち「流れ星の正体」を除いた11曲が映画やドラマの主題歌、TVアニメやCMソング等として起用された、いわば主役級の楽曲揃い。前作『Butterflies』以降の3年5ヵ月間、目的も意図も異なるオファーに応えてこれほどのパワーチューンを次々に生み出し続けたソングライター・藤原基央の図抜けた才とバンドのバイタリティには改めて目をみはるばかりだが、そうした個性豊かな楽曲たちを1枚のアルバムに収めたときに違和感も齟齬もなくそれらが繋がり、見事なまでにダイナミックな物語が立ちのぼってきたという事実に驚愕せざるを得ない。タイアップ曲の制作に臨むにあたってはその作品が描いている世界と自身の内側にあるもの、あるいは自身の表現したいものとが重なり合う部分を探して歌にするのが藤原の過去から一貫したスタイルだというが、だとしても『aurora arc』は白眉だ。最初からこのアルバムにたどり着くための3年5ヵ月だったのではないかと穿ってみたくなるほどに。
キラキラと夜空を駆け上がるようなインストナンバー「aurora arc」で幕開ける物語は、ケルトミュージックを彷彿させて鮮烈な「月虹」で一気に聴き手を引き込む。全編弾き語りで歌い上げられる新曲「ジャングルジム」のアコースティックな肌触り、結成20周年のタイミングに作られた「リボン」にはバンドの軌跡を慈しむように過去の楽曲のフレーズがあちこちに散りばめられている。220というバンド最速のBPMをマークしつつ壮大なスケール感をたたえた「アリア」、一転して“バスが来るまでの間の おまけみたいな時間”に胸によぎったささやかな思慕が深く沁み入る「話がしたいよ」。「望遠のマーチ」のタフな牽引力も、「新世界」の明るい包容力も、すべては『aurora arc』という物語の必然だ。ラストソング「流れ星の正体」の弾き語りからバンドアンサンブルへと大きく開かれゆく流れ、最後のフレーズに託された希望に胸がふるえた。
アルバムタイトルの“aurora arc”とは直訳すれば“オーロラの弧”、気象学では弧状に見えるオーロラをそう呼んだりもするらしい。オーロラは美しく、けれど儚い。掴みどころのない危うさも孕んで、ゆらゆらとひとつの形に定まらない。それって人の心にも似ているような気がする。だからこのアルバムをどう読み解くかも、その人の心次第。でもここに紡がれた物語はきっと一人ひとりの奥深くに揺れるかけがえのないオーロラを、やさしく、力強く、丁寧に抱きしめて、どこまでも高く広いところへ連れて行ってくれるだろう。蛇足ながら“arc”には“物語の横糸”という意味もあるようだ。あなたのオーロラが横糸になることで、この物語は本当の完成を迎えるのかもしれない。
【文:本間夕子】
リリース情報
aurora arc
発売日: 2019年07月10日
価格: ¥ 3,000(本体)+税
レーベル: TOY’S FACTORY
収録曲
01. aurora arc
02. 月虹
03. Aurora
04. 記念撮影
05. ジャングルジム
06. リボン
07. シリウス
08. アリア
09. 話がしたいよ
10. アンサー
11. 望遠のマーチ
12. Spica
13. 新世界
14. 流れ星の正体