DAOKO 初となるバンド編成で臨んだ「enlightening trip 2019」
DAOKO | 2019.09.27
「enlightening」とは、「啓発」を意味する言葉。それは2019年のDAOKOを象徴する、2月の個展、7月の企画ライブでも使われた重要なキーワードだ。約1年7ヶ月振りのツアー「enlightening trip 2019」は、そんな今年の活動の集大成になるだろう。9月13日金曜日、東京・鶯谷、ダンスホール新世紀。社交ダンスの殿堂として知られる、昭和感覚たっぷりのレトロ&ムーディーなハコで、DAOKOはどんなふうに僕らをenlighteningしてくれるのか。午後7時、期待に満ちた幕が上がる。
キーボード、ギター、ベース、ドラム。DAOKOのライブでは初となる、4人編成のバンドが奏でるノイジーな音合わせが頂点に達したところへ、DAOKO登場。オープニングは、昨年の3rdアルバム『私的旅行』の最後を飾った「NICE TRIP」だ。中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)が手掛けた、ドリーミーな浮遊感溢れるダンス・トラックが、力強い生バンドのグルーヴで躍動的に進化している。薄明りの下、白いワンピースを身にまとうDAOKOの、細い指先のアクションが夢のように美しい。
「今日は来てくれてありがとう。みんなで一緒に最後まで楽しみましょうね」
端正な四つ打ちと、消え入りそうなウィスパー・ボイスが魅力だった「さみしいかみさま」も、よりフィジカルなダンス・ロック的にパワー・アップ。エアリー成分はそのままに、ぐっと芯が太くなった歌声が頼もしい。バンドは凄腕揃いだが、特にドラマーの精密かつ豪放なプレーは目を見張るほどで、デビュー初期からの代表曲「ぼく」が、まるで強靭なファンク・ロックに聴こえる。サウンドはヘヴィでクールだが、バンドのムードはとてもハートウォーミング。
SNSシーンで話題のシンガーソングライター・神山羊とタッグを組んだ「涙は雨粒」は、ギタリストが奏でるキレキレのリフが印象的な、ロッキッシュな肌触り。軽やかにステップを踏み、宙へ手を伸ばし、ビートに乗って自由に動くDAOKOの、一挙手一投足に釘付けだ。「BOY」はインディーズ期からの代表曲だが、「こんなエモイ曲だったっけ?」と見間違うほどに、つんのめるようなビート、グルーヴィーなオルガンの音色、一体感あるバンドが素晴らしい。寂しそうな顔をしている主人公のBOYも、この演奏を聴けば顔を上げるんじゃないか?と妄想する。そして6曲目、この日のハイライトの一つと言っていい、「高い壁には幾千のドア」。前半の、執拗にループするメタリックでダークな抑圧感が、サビで一気に開放される時の、クラクラするような恍惚感。原曲のトラックも最高だが、バンド・バージョンは場面転換がより鮮やかだ。突き抜けるハイトーンの、ギリギリの切なさがいい。
今日はインディーズ期の曲をよくやってくれる。「7日間創造」もそうで、暗く沈み込むヒップホップ・ビート、ノイズを散りばめたフリーキーな音色、そして身をよじり、声色を使い、言葉を吐き捨て、フロアを挑発する、DAOKOの鬼気迫るパフォーマンスがなんたって凄い。続く「ゆめうつつ」でも、何かが憑依したかのように、うなるように叫ぶように、圧巻のボイス・パフォーマンスを見せる。このカオス、この吸引力、この説得力。一転して「蝶々になって」は、美しい和風メロディを持つスロー・チューン。傍らのウィンド・チャイムを鳴らしながら、前曲とは180度違う、たおやかで情緒的な歌を聴かせるDAOKO。胡蝶の夢を歌う歌詞、繊細な演奏、儚い歌声、バランスは完璧だ。
キーボード・網守将平、ギター・西田修大、ベース・鈴木正人、ドラム・大井一彌。それぞれの紹介だけで大量の文字数が必要になる、そりゃ凄い演奏なわけだと納得するツワモノたちを紹介し、「この強そうな4人と共にまだまだやっていきます!」と、笑顔のDAOKO。「懐かしい曲を」と前置きして歌った、これもインディーズ期の「Ututu」と「真夏のサイダー」は、ドリーミーでポップな16歳のDAOKOのみずみずしい記憶を壊さず、引き締まったバンド・サウンドとふんわりとしたシンセで優しくコーティング。DAOKOの歌も自然体だ。続く「水星」では、「めくるめくミラーボール乗って」の歌詞に合わせてミラーボールが周り、フロアの全員が手を上げて軽やかにダンシング。もっと輝くところに君を連れていくよ――これはDAOKOとファンとの間に結ばれた、固い約束を歌うラブソング。
「今日は本当にありがとう。生きてて良かったと思える時間でした。また会いましょう」
次で最後の曲ですというMCに、「もっかい最初から!」「オールナイト!」など、口々に飛ぶ声援に、「いやー、なかなかそういうわけにも」と笑うDAOKO。こんな親密な空気は、これまでのDAOKOのライブにはあまりなかった気がする。ラスト・チューンは、「真夏のサイダー」がDAOKO16歳時のポップ・サイドの代表曲とすれば、こちらはダーク・サイドを代表する「Fog」だった。人間なんて肉の塊。冷徹に醒めきった視線と、内側にくすぶる10代の承認欲求の激しさを、あらいざらいぶちまけた歌詞。何度聴いても凄い歌詞だが、不思議と痛みを感じないのは、攻撃よりも愛しさと共感が勝っているから。人力ドラムン・ベースめいた強烈なフレーズを含む、バンドの演奏も十分に激しいが、後味はポジティブ。渦巻くノイズのカオスの中、痛快なカタルシスを感じるエンディング。
「自分の好きなものを探しながら、今、旅に出ているところです。ここからみなさんと、始めたいと思います」
アンコール。キュートなターコイズブルーに黒の水玉模様のワンピースに着替えたDAOKOが、未来について力強く語ってくれた。6月に個人事務所「てふてふ」を立ち上げたこと。今回のツアー、生バンドで回るのは初めてなこと。声を乗せる楽しさ、音楽になれる楽しさを感じていること。何より、みんなと距離が近いこと。ここから新しい旅を始めよう。三連符の、大人びたジャジィなムードがかっこいい「流星都市」から、本当のラスト・チューン「Cinderella step」を歌い始めた時、声が震えているように聴こえたのは気のせいだろうか。きみと逃避行、行きたいのダンシング。ポジティブな言葉と、ミドル・テンポの明るくはずむメロディが、旅立ちのシーンによく似合う。
バンド・メンバーと手を繋ぎ、万雷の拍手に応えるDAOKOの屈託ない笑顔。DAOKOが僕らをenlighteningしたのは、音楽の楽しさ、挑戦する喜び、そしてここから始まる旅への誘いだ。青の季節を通り抜け、次々と新しい服に着替えながら、進化を続けるDAOKOを追いかける喜びを、あなたにも。DAOKOの最良の時は、これからやって来る。
【取材・文:宮本英夫】
【撮影:馬場真海(Shinkai Baba)】
リリース情報
DAOKO × ドラガリアロスト
2019年10月09日
TOY’S FACTORY
02. 終わらない世界で
03. キボウノヲト
04. ShibuyaK (Instrumental)
05. 流星都市
06. ぼくらのネットワーク / DAOKO × 中田ヤスタカ
07. BANG!
08. Cinderella step
09. もしも僕らがGAMEの主役で (Instrumental)
10. キボウノヲト ~Zodiark Battle Remix~
11. CRASHER
12. ゆめうつつ
13. ShibuyaK (Live Instrumental)
14. おにさんこちら
15. DRIVE
16. 明けたら
17. 24h (feat. 神山羊)
18. ファイアーエムブレムメインテーマ (Ver. Heroes) / DAOKO × スチャダラパー
(C)2017 Nintendo / INTELLIGENT SYSTEMS
セットリスト
DAOKO TOUR
「enlightening trip 2019」
2019.9.13@ダンスホール新世紀
- 1.NICE TRIP
- 2.さみしいかみさま
- 3.ぼく
- 4.涙は雨粒
- 5.BOY
- 6.高い壁には幾千のドア
- 7.7日間創造
- 8.ゆめうつつ
- 9.蝶々になって
- 10.Ututu
- 11.真夏のサイダー
- 12.水星
- 13.Fog 【ENCORE】
- EN1. 流星都市
- EN2. Cinderella step