BUMP OF CHICKENとファンが作った「魔法みたいな夜」――「BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark」ファイナル
BUMP OF CHICKEN | 2019.11.13
「魔法みたいな夜だった」。アンコールを終えて、さらには突発的になだれこんだダブルアンコールの音楽がすべて鳴り止んだあとにもまたしみじみと繰り返した藤原基央(Vo,Gt)のこの言葉に全面的に同意する。5万人分の心からの歓喜。次から次へと湧き出すとめどない幸福感と、どこまでも膨らんで温かな一体感。ツアー“BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark”がファイナルを迎えたこの日、旅の終着点となった東京ドーム2日目の空間を満たしていたものは、たしかに魔法みたいに途轍もなかった。だが、それはあくまで“魔法みたい”であって、けっして“魔法”ではない。そうした正体のわからないものなど介在し得ないほど、この空間にあったものはシンプルだった。すなわちBUMP OF CHICKENという音楽と、その音楽を愛してやまない想いだけ。それら2つを共通に持った4人と5万人の心の手が必然のごとく繋がり合って、そして生まれた“魔法みたいな夜”。端的に言って素晴らしかった。
手の内を晒すようで少々躊躇してしまうが、ライブ前に筆者がぼんやりと本稿の書き出しにイメージしていたのは“秋晴れの空の下、オーロラを渡る方舟がいよいよ4ヶ月にわたる旅を終える。”とかなんとかいうような、言ってしまえばなんとも作為がかった文章だった。言い訳するなら前回、ツアー初日の埼玉・ライフメットドームのライブレポートを書かせていただいた際に“方舟”になぞらえた描写をしていたこともあって、そこに紐付けられたらなどと小癪な知恵を回してしまったがゆえでもあるのだけれど、そんなちっぽけな作為は彼らの登場と同時に遥か彼方へと吹き飛んでしまった。なぜなら驚いてしまうくらい、4人が4人、自然体だったからだ。もちろん多少の緊張感は伴ってもいただろう。なにせ東京ドームのステージだ、BUMP OF CHICKEN史上、昨日を数えてもまだ3回目なのだから緊張して当然とも言える。だが見る限り、彼らは普段のライブとまるで佇まいを変えていない。客電が落ちてから姿を現すまでの間には、壇上の大スクリーンに、最新アルバム『aurora arc』リリースに先駆けてカナダ・イエローナイフをオーロラの撮影のために訪れたときの映像と、バックステージからステージへと向かう彼らの生中継映像が交互に映し出されてオーディエンスの興奮を煽っていたが、それが頂点に達した瞬間の凄まじい歓声を浴びてもまったくたじろがず、むしろ愉快そうな笑顔を浮かべて「Aurora」の演奏に突入していく4人の、なんと頼もしいことか。肩肘張らず、ありのままでいて十二分な存在感。ただ誠実に全身全霊で放たれる唄の、音楽の純粋な力強さを前にして作為なんぞ歯の立ちようもなく、こちらもただありのまま揺さぶられるのみだ。
来場者全員に配布されたPIXMOBによって時に青く、時に白く、時にカラフルに染め上げられる客席の瞬きや、頭上を淡いベールとなって幾重にも覆うオーロラのごときレーザー光線など、光を用いた演出は東京ドームという空間をいっそう奥行き深いものに感じさせ、スクリーンに次々投影される映像は曲の世界観をより立体的にして、観る者に迫る。一度ならず二度もはじけて注ぐ銀テープの雨、「シリウス」では巨大な火柱が矢継ぎ早に噴き上がり、また、「記念撮影」では演奏とともにこの曲がCMソングとなっている日清食品カップヌードルCMシリーズ「HUNGRY DAYS」とのコラボ映像である最新MVがフルサイズで上映されるなどスペシャルな演出も。そうしたドームらしいスケール感溢れる見せ場は隙なく散りばめられていて、なのに終始、4人の体温が近しく感じられたのも、やはり彼らがライブ中ずっとありのままでい続けてくれたからなのだと思う。例えばメインステージから伸びた花道を楽しげに往復する藤原、増川弘明(Gt)、直井由文(B)のパフォーマンスも然り。それも決められた演出ではなく、ただ近くに行きたいからと率先して何度も行き来しているというのが嬉しい。加えて中盤ではステージを降り、アリーナ席の通路を通って、会場後方に設えられたサブステージに徒歩で移動するという場面も。担当楽器の性質上、動くに動けない升秀夫(Dr)にとってはかけがえのないひとときでもあっただろう。「俺がここに来たぜー!」と肉声でシャウト、オーディエンスを大いに沸かせる升にメンバーも大喜びだ。そこで演奏された「真っ赤な空を見ただろうか」、“そんな心 馬鹿正直に 話せるあなたに会いにきた”と2番の歌詞を替え歌っては両手を大きく広げてみせる藤原がとても印象的だった。
これまでも、これからも、BUMP OF CHICKENというバンドはきっと変わらずこうやって音楽を鳴らし続けていくのだろうと実感したのは、同じくサブステージで「リボン」が奏でられたときだ。この曲に入る直前のMCで藤原は「真っ赤な空を見ただろうか」に触れ、10数年前に個人的な想いから生まれた曲が今もこうして聴いてくれる人がいるってすごいことだ、と噛み締めるように言った。その言葉のあとに続いた「リボン」は、彼らの来し方そのものをオーディエンスにも想起させただろう。“赤い星並べてどこまでも行こうぜ”とこれまた替えて歌われた詞がストンと腑に落ちて沁みる。彼らの原点とも呼ぶべき千葉のライブハウス・LOOKのステージとそう大差ないだろう面積のサブステージで向き合い、嬉々として音を重ねる4人の変わらない姿もまた。
そうして後半戦は駆け抜けるように過ぎた。1曲、また1曲と終わるたび、客席からの「ありがとう!」が増えていく。その「ありがとう!」に応えるように音楽が鳴り、さらに応えてオーディエンスの大合唱が響き渡る。セットリストの主軸となった『aurora arc』の楽曲たちと彼らとともに歩んできた大事な曲たちとが手を取り合って、ついに辿り着いたゴール、本編ラストは「流れ星の正体」だ。藤原の柔らかな独唱からバンドサウンドへと移行する情熱的なグラデーション、なんて綺麗なのだろう。曲の終わりに流れ星がひと筋、スクリーンの夜空に流れた。
アンコールは「バイバイ、サンキュー」と「ガラスのブルース」、当初はこの2曲の予定だったのだろうと想像する。メンバーの間では、もしかしたら、という予感はあったかもしれない。升、直井、増川が順にステージを降りたあとひとり残った藤原は冒頭の通り、「魔法みたいな夜だった」とマイクに向かって告げると、一緒にたくさん歌ってくれたオーディエンスに感謝の想いを溢れ出るまま口にした。今日ここで歌ったあなたの唄が時間と距離を飛び越えて未来のあなたを救うだろうこと、もしもその唄の存在を忘れたとしても俺たちが思い出す手伝いをすること、俺の唄、俺たちの音楽はあなたを絶対にひとりにしないこと……。言葉は尽きず、とうとう「こんなにしゃべってるなら、もう1曲くらい歌えばいいのか」とギターを手に取ったのだから場内が狂喜しないわけがない。
「何を歌おう? バンドのカッコいいところ、見せてやろうか」
そう言って「スノースマイル」を爪弾き、歌い出した藤原のもとに再び戻ってきたメンバー。こんなにも温かな「スノースマイル」が聴けようとは思ってもいなかった。魔法になぞらえるのならば、これこそだろう。まさにバンドマジック、いや、バンプマジックか。「俺のバンド、カッコいいだろ?」と誇らしげな藤原、そのまま「もう1曲、いけるんじゃない?」と「花の名」まで披露してしまえるバンドの心意気が最高だ。目の前にいる誰かにただ一心に伝えたい、届けたいと、それだけを原動力にBUMP OF CHICKENは音楽を作り、ステージに立ち続けているバンドなのだと改めて知らされた気がする。
ドームとライブハウスとを行き来しながら全国7都市9会場18公演を回り、のべ35万人を動員した“BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark”。この数字の大きさに呑み込まれることなく、彼らは次へと歩みを進めるだろう。この日の去り際、藤原は「曲を書くよ。オマエに会う口実を作る」と約束した。それが果たされる日はそう遠くないのだろうと確信できる夜でもあった。
【取材・文:本間夕子】
【撮影:太田好治】
リリース情報
aurora arc
2019年07月10日
TOY’S FACTORY
02. 月虹
03. Aurora
04. 記念撮影
05. ジャングルジム
06. リボン
07. シリウス
08. アリア
09. 話がしたいよ
10. アンサー
11. 望遠のマーチ
12. Spica
13. 新世界
14. 流れ星の正体
セットリスト
BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark
2019.11.4@東京ドーム
- 1. aurora arc
- 2. Aurora
- 3. 虹を待つ人
- 4. 天体観測
- 5. シリウス
- 6. 車輪の唄
- 7. Butterfly
- 8. 記念撮影
- 9. 話がしたいよ
- 10. 真っ赤な空を見ただろうか
- 11. リボン
- 12. 望遠のマーチ
- 13. GO
- 14. Spica
- 15. ray
- 16. 新世界
- 17. supernova
- 18. 流れ星の正体 【ENCORE】
- EN1. バイバイ、サンキュー
- EN2. ガラスのブルース
- EN3. スノースマイル
- EN4. 花の名