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Sano ibuki 一夜限りの「Premium Live “翠玉の街”」――そして次の物語へ

Sano ibuki | 2019.11.21

 シンガーソングライターのSano ibukiが11月8日にSHIBUYA WWWにて、<Sano ibuki Premium Live “翠玉の街”>を開催した。同ライブは11月6日にリリースしたデビューアルバム『STORY TELLER』のCD自体が入場券となるフリーライブで、キャリア初のバンドセットでのステージとなっており、会場にはCDを手にした満員の観客が詰めかけていた。

 開演前のフロアには、ヘンリー・マンシーニによる「ピンクパンサーのテーマ」やジャズピアノのソロ演奏、ワールドミュージックなどが小さなボリュームで流されていた。場内は静かで穏やかな空気と時間が流れ、やがて感覚が研ぎ澄まされていくような感覚に陥った。耳から入ってくる情報に対する集中力が増す一方で、心と体がリラックスしていくのがわかった。そして、フロアの一番後ろの壁にもたれていた筆者の耳に、楽屋袖で気合いを入れる掛け声が聞こえ、オープニングSEと共にSanoとバンドメンバーが登場した。観客がクラップで彼らを迎え入れると、ステージ上のスクリーンに水路が張り巡らせたビル群が浮かび上がり、そのビル群は水晶のクラスターのように母岩の上で柱状化した都市であることがわかる。そして、<翠玉の街>というタイトルが映し出され、この日の物語が始まった。

 第1話はアニメ映画『ぼくらの7日間戦争』の主題歌に起用されることが決定した、アルバムのリード曲ともいえる「決戦前夜」だ。変わりたいのに変われない弱い“僕”が主人公。エレキギターをかき鳴らすSanoが「行こうぜ!」と観客と、おそらく“僕”をも鼓舞しながら、まるで生まれ変わるかのように決戦に立つ覚悟を決めていく“僕”のビルドゥングスロマンが語られる。続く、第2話「スイマー」では歌と映像で無限の海の中をずっと泳ぎ続ける主人公が描かれていたが、この2曲はバンドによる勢いのある演奏を含め、若さが情熱を駆り立てる青春物語のようであった。

 ここでエレキからアコギに持ち替えたSanoは観客に向けて「今日はよろしく。遊ぼうぜ!」と呼びかけ、まさに<遊ぼうよ/この指とまれ>というフレーズから始まる第3話「Kompas」で“あの日”“あの頃”から軽やかに飛び出し、椅子に座って歌い出した第4話「革命的閃光弾」では蒼くダークな光が白の点滅に変わるなか、<あなたに会いたいから生きたい>というまっすぐなメッセージを届け、<あなたに会いたい/ただ会いたい>というフレーズとともにフロアいっぱいに真っ赤な光を破裂させた。独り言を呟くように歌った第5話「滅亡と砂時計」に続き、アカペラで歌い出し、弾き語りとなり、マイクを外して歌うシーンもあった第6話はインディーズ時代の名曲「moonlight」、一気に幻想的な世界へと誘った。

 MCでは「何を喋ろうかいっぱい考えてきたんですけど、どうでもよくなっちゃいました。幸せです。ありがとう」と感謝の言葉だけを伝え、新曲「おまじない」を初披露。スクリーンにはランタンのように夜空に光が上っていく映像が流れるなかで、ひとりぼっちを感じつつも不思議と温かさに包まれるような歌声を響かせた。そして、「残り少ないけど、俺の思いを全部曲の中に込めて、最後、爆発させます!」と叫び、アルバムのオープニングナンバーである第8話「WORLD PARADE」へ。観客のクラップと大合唱が巻き起こったこの曲のテーマは“出会い”の素晴らしさだ。Sanoは<僕らは出会うために/当てのない旅を続けてさ>と呼びかけ、全力で<光の先の/君に会いに行く>と決意を表明した。そして、「よくわかんないけどさ、また会いたいっていうことは確かだからさ、もっと幸せな空間に僕を連れてってくれよ」と語り、早いパッセージの語り口からワルツへと変化する第9話「梟」で<また会おう><また会えるって信じてるよ>と再会の約束をし、翠玉の街での出会いと別れ、生と死を描いた9篇の物語は幕を閉じた。弾き語りライブが朗読劇だとしたら、バンドセットは音楽劇のような広がりを感じさせてくれた。そんな余韻に浸っていると、彼がステージを去った後のスクリーンには分解し、霧散していく翠玉の街が映し出され、2020年2月に東阪で初のワンマンライブ「Sano ibuki live “NOVEL”」が開催することが発表された。

 終演後には、来場者全員にポストカードなどが封入された散文集”Saga”が配られた。そこには、<ひとりぼっちの夜に思う/君と一緒でよかった>という本日初披露された新曲「おまじない」の歌詞の一部や、同楽曲のdemo音源が視聴できるQRコードが封入されており、次作への道標が示されていた。

 翠玉の街=エメラルドシティーがどうなったのかは、NOVEL=小説で語られるのか。物語の続きは次なるライブを楽しみに待ちたい。

【取材・文/永堀アツオ】
【Photo by Takeshi Yao】

tag一覧 Sano ibuki ライブ 男性ボーカル

リリース情報

決戦前夜/おまじない/スピリット<初回仕様>

決戦前夜/おまじない/スピリット<初回仕様>

2019年12月11日

ユニバーサルミュージック

01.決戦前夜
02.おまじない
03.スピリット

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セットリスト

Sano ibuki Premium Live “翠玉の街”
2019.11.8@SHIBUYA WWW

  1. 1.決戦前夜
  2. 2.スイマー
  3. 3.Kompas
  4. 4.革命的閃光弾
  5. 5.滅亡と砂時計
  6. 6.moonlight
  7. 7.おまじない
  8. 8.WORLD PARADE
  9. 9.梟

お知らせ

■ライブ情報

Sano ibuki LIVE “NOVEL”
2020/02/24(月・祝)心斎橋Pangea
2020/02/29(土)神田明神ホール

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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