なきごと始まりの地・新代田FEVER凱旋。リリースツアーファイナルを徹底レポート!
なきごと | 2019.12.10
それは2018年10月4日のこと。新代田FEVERで行われた自主企画で初ライブの舞台を踏んだなきごとが、およそ1年後に同じ場所へと帰ってきた。よりたくましく、よりエモく、より風格を身にまとって。2019年11月24日、ミニアルバム『夜のつくり方』リリースツアーのファイナル。2マンのお相手は、ふたりが絶大なリスペクトを公言するバンド、SAKANAMONだ。「今までの中で最強の曲を揃えた」というミニアルバムのお披露目と、憧れの先輩との初共演、しかもチケットはソールドアウト。いやが上にもモチベーションが上がる、それはふたりの1年間の成長度を測る特別な一夜だった。
18時ちょうど、先陣を切ってステージに登場したのはSAKANAMON。背後に立つマスコット人形「サカなもん」に見守られながら、「クダラナインサイド」を皮切りにとびきりキャッチーな、しかしユーモアとひねりの効いた、ソリッドなロック・チューンを連続投下。音はめちゃくちゃかっこいいのだが、藤森元生(Vo/Gt)のとぼけたような独特な歌声のおかげでポップにユーモラスに響く、この絶妙な塩梅がSAKANAMONの魅力。代表曲「ミュージックプランクトン」では、イントロのギターリフが似ているなきごと「メトリポリタン」の一節を歌ったあとに曲に入る、うれしいサプライズもあった。
「アイデアル」「UTAGE」など、強力なシーケンスを加えたダンス・チューンでフロアをあたため、「マジックアワー」ではラストの歌詞を《愛してるよなきごと》に替えて歌う。なんて素敵な後輩思い。「SECRET ROCK’N’ROLLER」では、なきごとのファンももれなくコール&レスポンスの渦に巻き込み、「景気のいい未来へ、景気づけに歌います!」と、「箱人間」で締めくくる全10曲の全力疾走。キャリア10年以上、ナンバーワンにならなくてもいい、元々特別なオンリーワンの道を走り続けるバンドらしい、吸引力抜群のライブだ。
そして19時5分、本日の主役・なきごと登場。サポートメンバーを加えた4人がステージ上で気合いを入れ、1曲目に選んだのは『夜のつくり方』と同じく「合鍵」だ。ラウドなリフはよりパワフルに、静かな歌のパートはよりクリアに、ダイナミックな演奏がフロアを揺るがす。調子は良さそうだ。2曲目には早くも「忘却炉」。エモい歌、真っ赤なライト、水上えみり(Vo/Gt)の激しいアクション。間髪入れず、フィードバック・ノイズからの「ユーモラル討論会」では、フロアから手拍子が自然発生。岡田安未(Gt/Cho)の歪み切った轟音ギターと、水上のキュートな声のアンバランスが生み落とす激情ロック。ひとこと、かっこいい。
「昔見た景色とは全然違います。その時も楽しかったけど、今はもっと楽しいです」
1年前は、フロアにテーブルを出しても床が見えるほどの動員だったのが、今日はソールドアウト。「ソールドさせるようになったらまた来ます」という会場との約束を果たしての、いわば凱旋公演だが、浮かれず慌てず、丁寧に感謝を述べる言葉が頼もしい。「過去と今とを比べた曲を」と紹介して「さよならシャンプー」を、そして「1年前にここでやった曲です」と前置きして「ヒロイン」を。切なさをたっぷりはらんだ、力強く前進するミドルテンポのロック・チューン2連発。愛されていたかった――青くストレートな歌詞が胸に刺さる。
MCで、水上がここ新代田FEVERの看板犬・チロルの話をしている。チロルは家では猫と一緒に暮らしているらしい。その流れで《近所の猫はのらりくらりと》と歌い出す、「のらりくらり」は気だるくスローでブルージーに。動物繋がりの「連れ去ってサラブレッド」は、ほんのりダンサブルなビート、光と影が入り混じる魅力的なメロディを持つミドル・チューン。男子ふたりのサポートメンバーは、目立たぬようにはしゃがぬように、バンドを支えるいい演奏をしている。それにしても、弦から火花が散るような岡田の強烈なギターソロのすさまじさ。これほど弾ける女子、ほかにいるだろうか。
続いて、水上がひとりでギターをかき鳴らして口ずさんだのは、なんとSAKANAMON「ミュージックプランクトン」の一節。からの、バンド一丸となって「メトロポリタン」に突入する、これはSAKANAMONの逆カバーへのまさに倍返し。言葉じゃなく音楽で返す、ミュージシャンシップにのっとったやりとりにじんわり胸が熱くなるシーンだ。フロアから一斉に手が上がるのを見て、思わず「この景色、超見たかった!」と水上が叫ぶ。「ミュージックプランクトン」との類似は、レコーディングの時に気付いたらしい。「SAKANAMON大好きなんで許してください」と、あまりにも素直な言葉にみんな笑っている。
そして、「私たちの始まりと言える曲を」――そう言って歌った「癖」から「Oyasumi Tokyo」へ、最高にエモくてドラマチックなスローナンバー2連発。からの、水上のMCのような、セリフのような独り語りを加えた「深夜2時とハイボール」は、間違いなくこの日のハイライトだった。死んでしまいたいと思ったあの日、自分を救う言葉をくれた人。背中を力強く押してくれた人。私も聴いてくれる人の背中を押せる歌を歌い続けたい――スポットライトを浴び、フロアの中に「その人」を探すように、目をしっかり見開いて歌う。演劇的とも言える演出が曲の世界観にぴたりと寄り添う。パフォーマンスの質はすでにライブハウスのスケールを超えている。そして本編ラスト「ドリー」では、今日イチかっこいい岡田の轟音ギターがたっぷり聴けた。ファストもスローも、ラウドも静寂も、どこを切っても血が滲むほどエモーショナル。これがなきごとのライブなのだ。
「前回言うのを忘れたので、今言います。アンコールありがとうございます」
アンコール、水上も岡田も爽やかな笑顔。SAKANAMONの「メトロポリタン」には「本気で泣きました」と、照れくさそうだけど誇らしげな水上。今年1月、レーベル新年会でのSAKANAMONとの初対面の際は、お酒の力を借りて勇気を出して話しかけたらしい。「その時飲んだレモンサワーの味を忘れたくなくて曲にしました」――その新曲の名はずばり「憧れとレモンサワー」。これまでの曲調とは明らかに異なる、明るくポップな広がりを持つギターロック。またひとつ、あなたに救われてしまったなあ。いい歌詞、いいメロディ、リリースが楽しみだ。
全6曲収録のミニアルバム『夜のつくり方』には、実は7曲目のシークレットトラックがあった。アンコールのラストを飾るその曲「B」は、水上いわく「あなたがいなくなったら私は生きていけないという歌」。音源ではピアノバージョンだったが、ライブではしっかりラウドなロックバラードになって、記念すべき一夜を感傷的に締めくくる。バンド一体となった轟音の壁を突き抜けて、透明なのに芯の強い水上の声が届く。唯一無二の、いい声だ。
最後に、SAKANAMONの3人を呼び込み、記念撮影しているふたりはすっかり素の表情だ。フロアに向かい、「こんなにどぎまぎしてる私、新鮮でしょ?」と笑う水上。SAKANAMONをはじめ、多くの対バンとオーディエンスに支えられ、なきごとはこのツアーで確実にひとつ上のステージへと駆け上がった。よりたくましく、よりエモく、より風格を身にまとって。このライブを観て、もう断言してもいいだろう。もうすぐ始まる2020年は、なきごとの年になると。
【撮影:南雲直人】
リリース情報
夜のつくり方
2019年09月18日
[NOiD] / murffin discs
02.メトロポリタン
03.ユーモラル討論会
04.のらりくらり
05.深夜2時とハイボール
06.ドリー
セットリスト
『夜のつくり方』Release Tour 2019
2019.11.24@新代田FEVER
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●SAKANAMON
- 01.クダラナインサイド
- 02.幼気な少女
- 03.アイデアル
- 04.ミュージックプランクトン
- 05.鬼
- 06.YAMINABE
- 07.マジックアワー
- 08.UTAGE
- 09.SECRET ROCK‘N’ROLLER
- 10.箱人間
- 01.合鍵
- 02.忘却炉
- 03.ユーモラル討論会
- 04.さよならシャンプー
- 05.ヒロイン
- 06.のらりくらり
- 07.連れ去ってサラブレッド
- 08.メトロポリタン
- 09.癖
- 10.Oyasumi Tokyo
- 11.深夜2時とハイボール
- 12.ドリー
- 01.憧れとレモンサワー
- 02.B
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●なきごと
お知らせ
●なきごと
なきごと 自主企画「鳴言」 vol.2
2020/01/26(日) 東京 渋谷eggman
※ゲスト後日発表
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ツタロックDIG“LIVE!!”Vol.7
2019/12/11(水) 東京 渋谷TSUTAYA O-nest
w) シロとクロ/とけた電球
COUNTDOWN MOSAiC 2019→2020
2019/12/30(月)東京 下北沢MOSAiC
w) アイラヴミー/イロムク/ete/クジラ夜の街/白いアトリエ/南無阿部陀仏/西片梨帆/レイラ
FEEDWIT presents
『かさはまやらわ2020 東京編』
2020/01/10(金) 東京 下北沢SHELTER
w) FEEDWIT/Mr.ふぉるて
でらロックフェスティバル 前哨戦 “でら前夜祭"
2020/01/31(金) 愛知 名古屋RAD SEVEN
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でらロックフェスティバル2020
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2020/02/01(土) 愛知 名古屋栄・新栄・大須ライブハウス20会場以上
●SAKANAMON
SAKANAMON 全国“着陸”ワンマンツアー
~君の街まで~
2020/03/28(土) 神奈川 横浜B.B.STREET
2020/03/29(日) 静岡 浜松LIVEHOUSE MESCALIN DRIVE
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2020/05/10(日) 新潟 GOLDEN PIGS BLACK
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2020/05/17(日) 福岡 INSA
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