「等身大」の自分たちで「すきにやる」――変態紳士クラブのライブに惹かれる理由
変態紳士クラブ | 2020.02.05
ラッパーWILYWNKAとレゲエ・ディージェイVIGORMAN。それぞれ名を上げる前から友達同士だった二人が、やはり友達(先輩)のプロデューサー/トラックメーカーGeGと組んだ変態紳士クラブが、2度目となる東京でのワンマンライブを開催した。キャパ2400人の新木場STUDIO COASTを悠々ソールドアウト。観客は大部分が二十歳前後の若者で、男女比は半々だ。
開演時間の18時ちょうどにイントロが流れ、GeGを含むバンドメンバーがステージに上がると、観客がドッと前に押し寄せる。WILYWNKAとVIGORMANの二人が飛び出してくると、歓声は悲鳴に近くなった。1曲目はいきなり新曲「Do It」。ステージを右へ左へと大股に闊歩しながら歌う二人のエネルギーがすごい。WILYWNKAのソロナンバー「Everyday」「CIROC」では大合唱が湧き起こる。バンドはGeGに加えてベース、サックス&フルート(この二人は曲によってキーボードも演奏)にピアノ、ギター二人とドラムの計7人編成。見事な演奏で二人を支えている。
早くも汗だくのWILYWNKAが「どう考えても夏やん?」と振ると、VIGORMANが「夏やんな、みんなの熱気で」と応え、「この人の波を本物の波のようにしますか!」と早くも代表曲のひとつ「WAVY」を繰り出す。さらに「すきにやる」。観客のボルテージは上がる一方で、マイクを向けられたときの元気さにおじさん(僕)は圧倒された。
WILYWNKAが「今はヒップホップもいろんなスタイルがあるけど、今日は特別に本物のラップを持ってきました」とボーストし、ブームバップな「Return Of The Rap」、ファンキーな「2020」とソロ曲を連打して、クラシカルなスタイルの強さを見せつける。お次はVIGORMANの番だ。「変態紳士クラブ一番のミソは、俺ら3人がただの友達っていうことです。俺は、友達は狭く深く付き合うもんやと思ってるんですよ。俺の数少ないホーミーズと作った曲、知ってる人は一緒に歌ってください」と“数少ない”を導入に「A Few」につないだ。うまいMC運びだ。
「俺らはこの最高のバンドメンバーと、アホみたいな顔してアホみたいな曲をアホみたいな顔しながらアホみたいに歌ってます。だからみんな何があっても、このステージを帰る場所のひとつに選んでください」(WILYWNKA)、「俺らいつでも待ってるしな」(VIGORMAN)、「だからみんなの家やと思ってくれ、ここを。そんな曲を歌っていいですか?」(WILYWNKA)と、GeGのソロアルバムから変態紳士クラブ名義の「HOME」で盛り上げる。
VIGORMANが「こん中に10代の人どんくらいいますか?」と問いかけると、多くの観客が手を挙げる(3分の1くらいだろうか)。「10代の人に、俺のアルバムからこんな曲を持ってきた」と、ミラーボールが回る中「Vintage From Teenage」を歌った。素直な言葉とメロディがきっと10代の心に刺さったはずだ。そのまま「俺らと一緒に湾岸をドライブしましょう」(WILYWNKA)と「湾岸TWILIGHT NIGHT」へ。メロウなサウンドを誇る両曲だが、生演奏でさらにグルーヴ感アップ。各人の個性とアンサンブルの一体感を併せ持った、実にいいバンドである。
WILYWNKAが「変態紳士クラブの部員のみなさんに重大発表です」と宣言すると、「俺らが“しゃがめ”言うたらしゃがまなあかんねんで。俺らが“跳べ”言うたら、誰よりも跳ばなあかんねんで」と参加を促した上で、今春に3年ぶりのセカンドEPをリリースすることを発表し、そのタイトル曲「HERO」を初披露。BPM120前後の快適なビートに人懐っこいメロディが乗る、またも愛されそうなナンバーだ。途中、フロア全員のジャンプで会場全体が揺れた。「人いっぱいおるからまわりに気をつけてうまいことしゃがんでな」(WILYWNKA)、「レディファーストでしゃがんでください」(VIGORMAN)の注意喚起もよかった。
WILYWNKAが「俺はセックスよりもお酒よりも変な薬物よりも、マイクを持ってステージでラップするんがいちばん気持ちいいんや!」と沸かせた後、「みんなにひとつだけ言いたい。本当にありがとうございます」とまじめに語り始めると、フロアが静まり返った。「俺、自分のこと大嫌いやったんすよ。でもちょっと好きになりました。なんでかっていうと、みんながこうしてライブに来てくれて、一緒に歌ってくれて、俺らのことをハグしてくれたからです。俺らはどんなつらい日があっても、絶対このステージに立ちます。それはみなさんがいるからです。そんな決意を固めた曲を聴いてください」と切々と語り、ソロ曲の「Mayday」を歌った。死と孤独を見つめたリリックにVIGORMANのコーラスが寄り添い、フロアには温かい空気が立ち込めた。
ここでVIGORMANにバトンタッチ。「今のタカの歌、間違いなく等身大やって俺が保証します。俺らの音楽のモットーは等身大。俺らみたいなやつが大人びたこと言ってもみんなには響かへんと思うし、逆に40歳過ぎてるのにギャルとパーティしか歌わない音楽も俺はどうかと思うし。そのときはそのときの等身大があります。今の俺が書ける等身大をみんなに伝えます。15歳ぐらいで書いた、俺の中でいちばん等身大の歌です」と紹介して「大人が言う」。“金に目が眩んだ大人”への違和感と、リスクを恐れず信じる道を突き進む心を歌ったまっすぐな言葉が心に響いた。
いよいよ終盤。WILYWNKAいわく「変態紳士クラブ沖縄支部の支部長」である唾奇がスペシャルゲストとしてステージに上がり、WILYWNKAのソロ曲「Take It Easy feat. 唾奇」を披露。フロアはこの夜いちばんの盛り上がりを見せた。続けてGeG名義の「Merry Go Round feat. 唾奇」。「今日はBASIさんいないけど、みんなで一緒に歌ってくれますか?」というVIGORMANの呼びかけに、観衆は最大限に応えた。
唾奇がステージを後にし、再び変態紳士だけで「オレンジ」。全ヴァース大合唱は他の曲と同じだが、演奏に隙間があるぶんとてもよく聴こえた。「最後はSee youだけじゃ悲しいですよね、タカくん」(VIGORMAN)、「Laterしちゃう?」(WILYWNKA)のかけ合いから、WILYWNKAのソロ曲「See You Later」で本編を締めくくった。
あまり聞いたことがない大音量のアンコールに応え、3人とバンドは再びステージへ。天井から雪のようにシャボン玉が降り注ぐ中、この日MVが公開された新曲「DOWN」を演奏した。冬から春へ、季節の変化に心の移ろいを託したリリカルなラブソング。「俺たちが好きにやってきたことの証がこのステージです。好きにやってへんかったら、今ごろ似合わへんスーツ着て上司に文句言われてたかもせえへん。今日も最後まで好きにやっていいですか?」(WILYWNKA)と語り、「GeGが作った『すきにやる』をGeGがリミックスしました」(VIGORMAN)という「すきにやる 2020」を最後の最後に歌い、WILYWNKAとVIGORMANはぶつかり合うようにハグをした。つくづくすばらしいエネルギーだ。
僕は変態紳士クラブのライブを初めて見たが、アンコールで6月のツアーを発表したときにVIGORMANが「俺らの真骨頂はライブです」と胸を張っていた通り、終始申し分のないステージさばきだった。バンドの演奏、二人の歌とラップと動きは言うまでもなく、ダラダラせず簡潔に切り上げるMCもテンポがよくて、1時間45分が本当にあっという間。そして何より彼らの「等身大」の人柄がチャーミングだった。
大阪人の習い性なのか彼ら自身が照れ屋なのか、最後は必ず茶化して笑いに持っていくけれど、根が実直なのははっきりと伝わってきた。新木場STUDIO COASTを満杯にしたファンたちは、ゴキゲンな楽曲だけでなく彼らのそんなところにも惹かれたのだと思う。帰りの電車で見た女性ファンたちは興奮した表情と口調で感動を共有し合っていた。
【取材・文:高岡洋詞】
【撮影:Kenji.87】
リリース情報
配信「DOWN」
2020年02月02日
TOY’S FACTORY
セットリスト
変態紳士舞踏会 -2222-
2020.2.2@新木場STUDIO COAST
- 1. INTRO
- 2. Do It(新曲)
- 3. Everyday
- 4. CIROC
- 5. WAVY
- 6. すきにやる
- 7. Return Of The Rap
- 8. 2020
- 9. A Few
- 10. HOME
- 11. Vintage From Teenage
- 12. 湾岸TWILIGHT NIGHT
- 13. HERO(新曲)
- 14. Mayday
- 15. 大人が言う
- 16. Take It Easy feat. 唾奇
- 17. Merry Go Round feat. 唾奇
- 18. オレンジ
- 19. See You Later -ENCORE-
- 20. DOWN(新曲)
- 21. すきにやる 202
お知らせ
↓各種ストリーミングサービスはこちら↓
https://tf.lnk.to/down
■ライブ情報
全国TOUR「(仮)変態紳士舞踏会-“HERO” TOUR 2020-」
6/13(土) DRUM LOGOS(福岡)
6/19(金) BOTTOM LINE(名古屋)
6/25(木) Zepp Tokyo(東京)
6/27(土) Zepp Osaka Bayside(大阪)
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。