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1月29日、幕張メッセにて開催された『渋谷すばる LIVE TOUR 2020 二歳』レポート!

渋谷すばる | 2020.03.18

 “歌を歌わせて頂けませんか”という歌詞が、こんなに響くとは思わなかった。その声は歌を通り越して、もはや叫び。“懇願する”と辞書で引いたら「渋谷すばるが“歌わせて頂けませんか”と歌うこと」と、出てきてもおかしくないような佇まいだ。これが黄色い声を纏っていた少年なのか。これが30代半ばを過ぎた青年なのか。歌が上手いという認識こそあったが、ここまで威力を持つ人だとは。 1月29日、幕張メッセにて開催された「渋谷すばる LIVE TOUR 2020 二歳」は、渋谷すばるが表現者だということを強く物語ったライブだった。命を削り、作品を生み出し、誰かの心を震わせる。粗削りだが無邪気で誠心誠意な音楽は、彼自身をそのまま表していた。

 開演の時刻になるとフロアは暗転し、青いライトがステージを照らす。クラップと渋谷を呼ぶ声が会場に響いたが、わき目を振ることなく彼はギターを手にした。思いっきりギターを掻き鳴らすと、場の空気を一気に掌握。その瞬間、オーディエンスは悟ったことだろう。目の前に立っているのは、アイドルといったラベリングを剥いだ、生身の渋谷すばるだと。「ぼくのうた」で“歌を歌わせて頂けませんか”と声を張り上げる姿は、さながら駅前にいる弾き語り少年。キラキラよりもギラギラ、オシャレよりも泥臭い。その勢いに促されたのか、かつてペンライトを握っていた手は、拳に形を変え力強く宙に掲げられていた。肩の力を抜き「アナグラ生活」を歌い上げ、「来ないで」では真っすぐな視線で観客を打ち抜く。努力することや真面目でいることが無駄だと感じてしまうこの時代に、こんなにもピュアな人が残っていたのか。ふと周りを見渡すと、何人もの人がタオルで目頭を押さえていた。

 ドラムのフィルインで「トラブルトラベラ」を封切ると、各パートが濃密に絡みあうロックンロールへと導く。ベースやギターがソロをやっている裏で、腕を振り回しステップを刻む渋谷。音を自由に楽しむ様は、生まれたままのようにどこまでも自然体だ。『二歳』のアートワークが真っ裸であることも、おのずと腑に落ちる。「幕張メッセにお集りの人間のみなさん!」と呼びかけ、「ワレワレハニンゲンダ」へ。右足でリズムをとりながら、張りのある声をマイクに落とす姿は紛れもないロックスター。腰をズンと落として奏でられるグラスハープも、フロアの後方まで一直線に叫んだ。

 ここまでノンストップで走ってきたが、セットを変えると丁寧に言葉を届けるゾーンへ突入。渋谷の世界旅行を記録した映像と共に奏でられたのは「なんにもないな」だ。先ほどと一変して歌声はとても優しく、まるで赤ん坊に歌を聴かせる父親のよう。“なんにもない”という言葉を噛みしめながら、丁寧に情景を紡いでいく。セピアから徐々に色を得ていく映像は、“何もないということは、なんにでもなれる”という希望を描いているようだった。
「甘酸っぱい恋の歌をやります」と告げ、導かれたのは「Curry On」だ。歌謡曲のような歌い方とビブラートがかった声質は艶めいて色っぽく、渋谷すばるという表現者の手札の多さに改めて驚かされた。会場限定で披露された新曲は、ピアノの伴奏でしっとりと。教会のように厳かな空気が満ち、会場もスーッと吸い込まれる。“光放つ景色が見たい”と唱える声は清らかで、祈りや願いとして静かに響く。「今後の期待をさせようという目論見のやつです」などMCで話していたが、彼の今後に思いを馳せるには十分すぎる1曲だった。

 メンバー紹介を経て、勢い止まぬ後半へ。そのまま楽曲に繋ぐかと思われたが、幕張メッセに鳴り響いたのはバンドによるセッションである。浮遊感あるキーボードを先頭に、グラスハープ、ギターと次第に音が重ねられていく。テンポやリズムは瞬く間に変わりゆき、バンドや音楽がナマモノだということを物語る。熱気が最高潮に達したことを見計らうと、ギターのハウリングを引きずり「爆音」に結んだ。ダウンピッキングで弾かれる弦はズンズンと腹の底を突き刺し、熱や思いをダイレクトにリスナーへ届ける。ずっと浴びていたらのぼせてしまうほどの音像は、誰にも奪えない感動であり激動であり衝動だ。渋谷は声で、歌で、音で、自分が生きている証を刻んでいた。その後は、言葉が強く響く「ベルトコンベアー」、今を慈しむように歌う「ライオン」、体温を感じるフォークチューンの「TRAINとRAIN」と続く。
ラストを飾ったのは、渋谷の生き様を歌った「生きる」。思いを伝える声は力強く、彼の決意を色濃く描いた。背筋はピッと伸ばされ、視線は会場後方よりさらに遠くへ。“前だけ 前だけ それだけ見て生きていけ”という歌詞が、オーディエンスの背中を押すように、そして渋谷自身を鼓舞するように響いた。アルバムの曲順を最大限に活かしたセットリストを展開し、首尾貫徹して“良い歌”を披露したのだった。

 本編を締めくくったあともクラップは鳴りやまずアンコール。呼び戻された渋谷は会場を端から端まで見渡し、満足げな笑みを浮かべた。深くブレスをとりギターをジャカジャカと響かせ、エネルギッシュに歌われたのは「キミ」。バンドメンバー不在のソロステージにも関わらずパワフルで、舞台の広さを一切感じさせない。最後の最後まで、実直に音楽へ命を落としアンコールを締めくくった。

 アイドル時代、メインボーカルをしていた渋谷のことだ。きっともっと“上手い歌”を歌うこともできるだろう。しかし彼は、“良い歌”を選んだ。命を削って生み出した、生きた証を残す、渋谷すばるにしか歌えない歌。どんな時だって逃げも隠れもしない、赤裸々で生々しい渋谷すばるの人柄が見える歌。だからこそ彼の音楽は美しく、どうしようもなく胸に響くのだ。
MCで渋谷は「この命が終わるまで、ダラダラ歌い続けようと思いますので」と語っていた。ライブを観たオーディエンスのひとりとして、ぜひそんな未来があってほしいと願う。渋谷すばるの歌がある限り、“真っ直ぐであることは美しい”と信じられる気がするのだから。

【取材・文:坂井彩花】
【撮影:タイコウクニヨシ】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 渋谷すばる

リリース情報

二歳

二歳

2019年10月09日

ワーナーミュージック・ジャパン

01.ぼくのうた
02.ワレワレハニンゲンダ
03.アナグラ生活
04.来ないで
05.トラブルトラベラ
06.なんにもないな
07.爆音
08.ベルトコンベアー
09.ライオン
10.TRAINとRAIN
11.生きる
12.キミ

セットリスト

渋谷すばる LIVE TOUR 2020 二歳
2020.01.29@幕張メッセ

  1. 01.ぼくのうた
  2. 02.アナグラ生活
  3. 03.来ないで
  4. 04.トラブルトラベラ
  5. 05.ワレワレワニンゲンダ
  6. 06.なんにもないな
  7. 07.Curry On
  8. 08.(新曲)
  9. 09.爆音
  10. 10.ベルトコンベアー
  11. 11.ライオン
  12. 12.TRAIN と RAIN
  13. 13.生きる
【ENCORE】
  1. EN1.キミ

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