レビュー
渋谷すばる | 2019.10.04
今回、レコード会社会議室での爆音先行試聴会に参加。ビートルズ風のイントロダクションからはじまる1曲目「ぼくのうた」は、ソロとしてシンガー・ソングライターをスタートする決意表明となるナンバーだ。書き手の集まる緊張感ある会議室だったが、あたたかみあるサウンドに一気に気持ちをほぐされた。途中ラップ風に“上手い歌は歌えません”、“良い歌は 良い歌ならば 歌えると思っておりました 以前からずっと”と“歌を歌わせて頂けませんか”と、今の気持ちを熱量高く歌い上げていく。
「ぼくのうた」Music Video
アルバムに先駆け先行配信され、度肝を抜かれたハードなロックチューン「ワレワレハニンゲンダ」では、超絶シンプルに自己肯定感溢れるナンバーを解き放つ。なお、本作『二歳』は全曲同じバンドメンバーとともに録音され、その中には一発録りの曲もあるという。
「アナグラ生活」や「来ないで」など80年代~90年代、日本ロックヒストリーからの影響を伺える、歌と言葉を軸にバンドサウンドが自由に飛び交う渋谷すばるによるオリジナリティー。自分をさらけ出し内面と向き合い、本質をあぶり出していく、あけっぴろげに共感度高いメッセージ性。ラブソング「来ないで」における泣きのメロディックなポップセンスがすごいなと思っていたら、この曲ラストにとんでもないオチがあったり……。まぁ、聞いてからのお楽しみだ。
ユニークな言語センスが活かされた歌詞やタイトルたち。「トラブルトラベラ」では、子供の頃に自転車であてもなく旅をしようとした気持ちを“トラブラーだからトラベラー”と表現。ピアノとギター、ハープがむせび泣く、青くせつない汗を感じるロックサウンドを聴かせてくれる。
70年代的フォーキーな「なんにもないな」では、歌詞でジョン・レノン「イマジン」を彷彿とさせるシンプルイズベストな、余計なものを削ぎ落としたメッセージを“でも生きてる ただ生きてる 僕は生きる 君と生きてる”と歌う。
音楽を聴く楽しさ、音楽を演る楽しさ、音の本質と向き合った音楽を歌った曲「爆音」。聴いていると、なんだろう…初期衝動の突き抜け感のブチ抜けっぷりにワクワクしてくるなぁ。
自分の人生を振り返りつつ、様々な思いを言葉にしたかのように聴こえる「ベルトコンベアー」では、ソリッドなビートに切れ味するどい歌声が感情の琴線を刺激する。この曲は、渋谷すばるにしか歌えない、作れない名曲な気がした。
続く「ライオン」では、更に自らの物語の扉を開いていく。“勢い良く飛び出したものの 外は知らない世界”、“行くあてなんてあるはずもなく 急に外した プロテクター 自分で”と憂いある伸びやかな歌声で轟かせる。
終盤、アルバムは「TRAINとRAIN」、「生きる」、「キミ」へと続いていく。渋谷すばるの生き様や人生観、ユーモラスなセンスや親しみある人間性、爆発力あるロックなサウンド、ブルースな世界観を存分に感じられた感情直結な1枚。自分を出し切ったファーストアルバムの完成だ。仕事帰り、疲れたなぁ、人間関係めんどくさいなぁ、なんかうまくいかないなぁ、そんな時に爆音で聴きたいなと思った。臆病や苛立ちや不安や絶望も何もかも抱きしめてくれる、日常生活に寄り添ってくれる音楽だ。
【文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】
リリース情報
二歳
発売日: 2019年10月09日
価格: ¥ 3,000(本体)+税
レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン
収録曲
01.ぼくのうた
02.ワレワレハニンゲンダ
03.アナグラ生活
04.来ないで
05.トラブルトラベラ
06.なんにもないな
07.爆音
08.ベルトコンベアー
09.ライオン
10.TRAINとRAIN
11.生きる
12.キミ