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teto 、新代田FEVERで行われた「4 (for) prologue.」 リリース記念無観客有料生配信ライブ

teto | 2020.07.16

 メンバー自身が編集した本とCDのパッケージでリリースされたtetoのニューシングル「4 (for) prologue.」。そのリリースを記念して開催されたのが、このtetoの無観客有料生配信ライブだ。いうまでもないが、tetoといえばライブハウスでお客さんと組んず解れつの魂のやり取りをずっとし続けてきたバンドだし、新型コロナウィルスの影響で残念ながら途中で延期となってしまったが、今年も夏までかけて47都道府県すべてをまわるツアーを敢行中だった。つまり彼らは目の前に「あなた」がいて、そこに向かって全力でぶちかますことを本望として走ってきたバンドなのだ。そんなバンドが、観客のいない状態でライブをやる。もちろん葛藤はあっただろうし、実際にこの日のライブ中のMCでも、それを滲ませる言葉はあった。だが結果として、彼らが画面を通して見せてくれたものは、無観客であり配信だからこそ、彼らの音楽に注がれた純粋なエモーションを、一切のノイズもバイアスもなく伝えていた。

 新代田FEVERのフロアに円を囲むように陣取った4人が、轟音一閃。1曲目はニューシングルからの新曲「invisible」だ。裸電球が点滅を繰り返すなか、山崎陸の切っ先鋭いギターが、佐藤健一郎の唸りを上げるベースが、福田裕介のけたたましいドラムが、そして小池貞利の叫びが炸裂していく。そのまま小池の雄叫びから「拝啓」へ。メンバーのコーラスがエモーションをさらに加速する。画面を突き破ってきそうな迫力と熱量が、感動的なボリュームで迫ってくる。そしてフィードバックノイズを引き裂くようにビートが走る「奴隷の唄」へ。山崎が身体を折るようにしてリフをかき鳴らせば、福田はドラムセットを壊しそうな力強さでシンバルやスネアを乱打。まだたった3曲だが、もしかしたら通常のライブ以上に思いや気合いが乗っているのではないかと思えるような熱演だ。

 ここで「お久しぶりです、tetoです」と小池があいさつ。今年行っていた47都道府県ツアーが新型コロナウィルスの影響で中断してしまったこと、他のアーティストがすぐに配信ライブなどのアクションをしているのを横目に見ながらも「俺らはそういう切り替えができなくて」というなかで自分たちは新曲を作り、本を作り、それを最速で届けるために動いてきたこと。そして、「思った以上に……こんな大変になると思ってなくて。本も作ったし新曲も届けたしってなったら、やったことないけどやってみるかということで」と、この配信ライブに至った理由を語る。おそらく逡巡もあったのだろう。お客さんがいないなかで、何を表現するのか。何を伝えるのか。現場のリアルのなかで放ってきたメッセージは、果たして有効なのか。

 だからこそ、「やってみるか」という言葉の軽さとは裏腹にその演奏と小池が語る言葉には、この「最初で最後かもしれない」配信ライブへの決意がほとばしっていた。「世の中が大変になると、世の中の大変な人を裏切るような小悪党みたいな人が出てくるんですよね」という言葉から鳴らされた「市の商人たち」、「今できるのは種をまくだけです。まいた種に花が咲くのを待ちましょう」と告げて突入した「ねぇねぇデイジー」。どの曲も、まるで今このときのために書かれたかのような圧倒的なリアリティをもって届く。むしろ、メンバーのすぐそばまで迫るカメラやクリアな音によって、その楽曲に込められたエモーションがいっそうヴィヴィッドに輝いて見えるし、相手が見えないからこそ、この日の彼らは「遠くまで届ける」ということに意識的に、丁寧に音を鳴らしていたようにも思う。<8月になれば全て蘇る気がしたんだ>という歌詞が奇妙に今この世界にリンクする「9月になること」から、優しげなメロディが続いていく日常の美しさと得難さを浮かび上がらせる「コーンポタージュ」へ。汗まみれになりながら、揺れ動くピッチとテンポで走る小池の歌声、そして時折目を閉じながら歌う表情がそこに込められた思いを物語る。

 夏の終わりの風をライブハウスのフロアに吹かせた「蜩」をはさみ、アコースティックギターに持ち替えた小池。「ありがとうございました、tetoでした」。そう言って何かを思案するように視線を巡らせる小池。「どのアーティストも、早くみんなに、お客さんの前でライブやりたいっていう気持ちは絶対ありながら、形を変えながらいろんな形で自分たちのお客さんのもとに届けているんでしょう。でもそれはどこも一緒で。プロ野球選手も映画監督も、どこも一緒でしょうし、自分たちがわざわざ言うことでもないんだけども……」。

 形は変わっても、届けることは変わらない。そんな意志を表明したともいえる、照れや嬉しさや愛や、いろんな感情が入り混じって渋滞を起こしているような彼らしい最後の挨拶を経て、演奏されたのは「光るまち」。ライブハウスのことを歌ったこの曲のパフォーマンスは間違いなくこの日のハイライトだった。いつも以上に軽快なアンサンブルの上で、いつもの何倍も切実な歌が響く。<あのライブハウスが無くなっても 僕らが会うことがなくなっても それでも今もこれからもこうして>。いつか再会する日に向けて放たれたような<終電はもう逃そう>という最後のフレーズがいつまでも耳に残るなか、最後の曲「高層ビルと人工衛星」へ。「tetoのクラシックソング」と小池自ら紹介してかき鳴らされたパンクチューンは、すべてを出し切るような鬼気迫るテンションで駆け抜けていった。

 終わってみれば、正味50分弱。もちろんアンコールもなし。いつものライブに比べれば短いし曲数も少ない。だが、tetoの粋を集めたようなセットリストと、圧を高めて遠くへぶっ放すような濃密なパフォーマンスは見応えのあるものだった。そして何より、ライブが終わった瞬間に僕はtetoの音源を聴きたくなったし、それ以上に現場でライブを観たくなった。

【取材・文:小川智宏】
【撮影:カドワキリキ】

tag一覧 配信ライブ 男性ボーカル teto

リリース情報

4 (for) prologue.

4 (for) prologue.

2020年06月10日

UK.PROJECT

01.invisible
02.farewell to past waltz (ラストワルツ DTM Remix)
03.classic (高層ビルと人工衛星 Live Remix)
04.end of aftergrow (蜩 Piano Remix)

セットリスト

「4 (for) prologue.」リリース記念
無観客有料生配信ライブ
2020.07.10@新代田FEVER

  1. 01.invisible
  2. 02.拝啓
  3. 03.奴隷の唄
  4. 04.市の商人たち
  5. 05.ねぇねぇデイジー
  6. 06.9月になること
  7. 07.コーンポタージュ
  8. 08.蜩
  9. 09.光るまち
  10. 10.高層ビルと人工衛星

お知らせ

■配信リンク

4 (for) prologue.
https://teto.lnk.to/4_for_prologue/



■ライブ情報

teto「4 (for) prologue.」リリース記念
無観客有料生配信ライブ


▼2020年7月19日(日) 22:00までアーカイブ配信
※アーカイブは巻き戻し再生/視聴回数制限なしでお楽しみ頂けます。

▼チケット料金:2,000円(税込)

▼チケット発売日:2020年7月19日(日) 20:00まで
※ご利用には「e+(イープラス)」への会員登録が必要となります(入会金・年会費は必要ありません)

▼申し込みURL:https://eplus.jp/st/teto/

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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