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SHE’S「上手くいかない日も愛おしくなる日が来るはず」――配信ライブで体現したバンドの進化を観た

SHE’S | 2020.07.30

 SHE’Sにとって初めての有料配信ライブ「SHE’S Broadcast Live ~prelude~」は、メンバーのインタビューから始まった(質問は“ライブができない期間に感じたことは?”“いま、配信ライブを見ているお客さんに一言”など)。「こんなに人に会わない、会えないということになって、曲がぜんぜん生まれなかったことにビックリしましたね」(井上竜馬/Vo/Key)、「ライブが生きがいというか、絶対にないとあかんもんやなと改めて感じましたね」(木村雅人/Dr)、「家のなかでもライブハウスのような感覚になれると思うので、楽しんでほしいなと思います」(服部栞汰/Gt)とリアルな思いを一人一人が語るなか、個人的にもっとも心に残ったのは、「このアルバムに僕達も成長させてもらったと思うので、その成長具合を感じてもらえるライブになると思います」(広瀬臣吾/Ba)というコメントだった。“心”というテーマに向き合った楽曲、音楽的な幅を大きく広げたサウンドメイクを両立させたニューアルバム『Tragicomedy』。広瀬の言葉通り、このライブを通してSHE’Sは、アルバムのメッセージ性と音楽性、そして、さらなる進化を遂げたバンドの姿を明確に体現してみせた。

 オープニングナンバーは「Masquerade」。服部のアコースティックギターを軸にしたオーガニックなグルーヴ、アイルランド音楽の風合いを感じさせるストリングスの旋律が広がり、SHE’Sにした描けない音楽世界へとつながる。“本当のあなたを見せてよ”というメッセージを真っ直ぐに伝えようとする井上の表情も印象的だ。

 心地よく鳴り響く頭打ちのビート、「大阪、SHE’Sです! 配信ライブ楽しんでください!」「“prelude”行くぞ!」(井上)という短い挨拶とともに披露された「Over You」で心地よい高揚感を生み出した後は――メンバー全員の楽しそうな笑顔から、ライブができることの喜びが真っ直ぐに伝わってきた――ニューアルバム『Tragicomedy』の楽曲が次々と演奏された。シンセベースを取り入れたダンサブルなサウンドと“許さない”という強い感情を描いた歌が一つになった「Unforgive」、ファルセットを効果的に交えた美しいメロディとともに“人間の裏側に隠された醜さ”をテーマにした歌詞が突き刺さる「Ugly」(ライブ・バージョンでした)。善と悪、裏と表といった言葉では捉えることができない、どこまでも複雑で奥深い人の心に向き合いながら紡がれた歌。そして、ピアノロックバンドというスタイルを軸にしながら、現在進行形のグローバルポップともリンクしたサウンドメイク。この両軸によって成り立っているアルバム『Tragicomedy』の世界観を、4人は、ライブという場所で生々しく表現していた。

 「初めての配信ライブ。画面越しですけど、みなさんと一つになって最高の空間を作ろうと思うので、よろしくお願いします!」(服部)から始まったMCでは、ふだんのライブと同じく、ゆったりとトークが続く。あらかじめ用意していた“歓声”(服部がサンプラーを操作)を使ったり、木村がカメラ目線で笑顔を見せたり、リアルタイムで視聴者から寄せられたコメントを紹介したり。リラックスした雰囲気もまた、SHE’Sのライブの魅力だ。

 切なく、ロマンティックな恋の情景を歌った「White」を挟み、「Letter」へ。鍵盤のイントロが始まった瞬間から大きな感動が広がり、繊細な感情と大きなスケールを同時に感じさせるメロディとともに奏でられる<僕らは大切な人から順番に>というサビによって、リスナー一人一人の心を強く揺さぶる。既にSHE’Sの新たな代表曲として浸透している名曲だが、聴き返すたびに深みを増していく。メンバーの美しいハーモニー、転調によって訪れる解放感とエモーショナルなギターソロなど、ライブにおける聴きどころも満載。すべてのオーディエンスに訴えかけるこの曲は、たとえ距離が離れていたとしても、間違いなく豊かな一体感を作り出していた。

 このライブのために制作されたイントロ映像(MVの別バージョン)に導かれた「One」、カントリーのテイストを感じさせる“人生という名の旅ソング”「ミッドナイトワゴン」(モノクロの映像、ハンドマイクでカメラに向かって歌う井上など、配信ライブならではの演出も!)と楽曲を重ねるごとに、アンサンブルの精度が上がる。正確なタイム感とダイナミックなグルーヴを描き出す木村、シンセベースを取り入れ、表現の幅を広げた広瀬、オーセンティックなロックギタリストとしての存在感を示す服部。ソングライターの井上に注目が集まりがちだが、SHE’Sは優れたプレイヤーの集合体であり、アレンジには個々のセンスが存分に活かされている。メジャーデビューから4年が経ち、彼らは今、ようやくそのポテンシャルを開花させようとしているのだと思う。音質の良さも、4人の演奏の素晴らしさをしっかりと引き立てていた。

 そして、この日のライブでもっとも強く感情を揺さぶられたのは、「Be Here」だった。低音の響きを活かしたストリングス、厚みのあるバンドサウンドのなかで映し出されるのは、“辛いときは強くあろうとしないでいい。ただ生きていてほしい”というあまりにも真摯で、あまりにも切実な思いだ。すべての言葉に強い感情を込める井上のボーカル、歌を支えることに心を砕いた演奏。エモーショナルとしか言いようがないパフォーマンスは、画面の向こうのリスナーにも救いに似た気持ちを与えたはず。この圧倒的な誠実さと説得力は今後のSHE’Sの大きな武器になるだろう。

 2度目のMCで再び視聴者のコメントをチェック。「セトリ、神かよ」「キム(木村)、楽しそう」などのコメントを紹介し、4人で楽しそうにトーク。“SHE’Sのライブは初めて”というオーディエンスが多かったのも、配信ライブの成果だろう。

 「楽しい曲をやっていきましょうか。幻のテーマソングを」(井上)という言葉に導かれた「Higher」からライブは後半へ。音源では“全編打ち込み”で制作された「Blowing in the Wind」は生々しいグルーヴが加わり、「Dance With Me」では「画面の前でも声出せる!?」と井上が視聴者を煽る。メンバー4人も心の底から楽しそう。こんなにも解放的なSHE’Sの姿を見たのは、もしかしたら初めてかもしれない。

 ここで井上が改めてリスナーに語り掛ける。
 「コロナの影響がなくなったとしても胸に留めておきたいのは、悲しいこと、むかつくこと、許せない事ばかりに目が行ってしまう人生のなかで、命を棄てずに、喜びに目を向けることだと僕は思います」
 「会うのが難しいとしても、心的距離は縮められる。大事にしたい人に言葉で愛を伝えること、言葉で心を渡していくことをやってみてください。上手くいかない日もあるけど、それさえ愛おしくなる日が来るはず」

 最後に演奏されたのは、アルバムのタイトル曲「Tragicomedy」。人生は悲喜劇。悲しみも喜びも受け入れながら生きていこう――そんなメッセージが広がるなか、ライブはエンディングを迎えた。ニューアルバム『Tragicomedy』の奥深い魅力、アルバム制作のなかで得たSHE’Sの新たなライブ表現を実感できる貴重な機会だったと思う。

【取材・文:森朋之】
【撮影:MASANORI FUJIKAWA】

tag一覧 J-POP 配信ライブ 男性ボーカル SHE’S

リリース情報

Tragicomedy(初回限定盤)

Tragicomedy(初回限定盤)

2020年07月01日

ユニバーサルミュージック

01.Lay Down (Prologue)
02.Unforgive
03.One
04.Masquerade
05.Ugly
06.Higher
07.Your Song
08.Be Here
09.Not Enough
10.Letter
11.Blowing in the Wind
12.Tragicomedy
13.Sleep Well (Epilogue)

セットリスト

SHE’S Broadcast Live ~prelude~
2020.07.28

  1. 01.Masquerade
  2. 02.Over You
  3. 03.Unforgive
  4. 04.Ugly
  5. 05.White
  6. 06.Letter
  7. 07.One
  8. 08.ミッドナイトワゴン
  9. 09.Be Here
  10. 10.Higher
  11. 11.Blowing in the Wind
  12. 12.Dance With Me
  13. 13.Tragicomedy

お知らせ

■ライブ情報

SHE’S Tour 2020 ~Re:reboot~
※解禁済み日程のみ
10/10(土)愛知 名古屋 DIAMOND HALL
11/02(月)北海道 札幌 PENNY LANE24
11/06(金)長野 松本 ALECX
11/15(日)香川 高松festhalle
11/21(土)宮城 仙台 Rensa
11/22(日)新潟 LOTS
11/28(土)福岡 DRUM LOGOS
11/29(日)広島 CLUB QUATTRO
12/05(土)大阪 なんばHatch
詳細はツアー特設サイトをご覧ください
http://she-s.info/shes-Re_reboot/

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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